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Episode45/準備(後)

(73.)

 数日、穏やかな生活を送っていた。といっても、瑠璃には内緒でありすに稽古をつけてもらったり、自主的な訓練もしていた。逃げるハメになったときの逃げ足の早さは役立つかもしれない。

 そうして時間が経ったのち、沙鳥さんから連絡を受けた。

 ちょうど今は瑠衣と図書室の手伝いをしていたところだったため、端に隠れて通話した。


『豊花さん。裕璃さんを助けるための方針が決まりました。ですから、一度愛のある我が家に来てくださいますか?』


 願ってもない誘い。

 未だに緊張してたり心に迷いが生じたりしたけど、瑠璃には内緒のままーー感付かれているかもしれないけどーーにしたり、瑠衣には単純に説明しないまま覚悟を決めていた。


「わかりました。すぐ行きます」 


 通話を切り瑠衣を呼びに出す。


「ごめん、急用ができたからちょっと帰らせてもらうよ」

「え……最近、あまり、構ってくれないね?」

「う……ごめん、でもどうしても外せない用事なんだ。だから先輩にもよろしく言っといて!」


 僕は瑠衣に返事しないまま図書室を出て廊下を駆け足ぎみに歩く。

 ありすとの訓練や自主練習を繰り返してきた。でも、未だにありすに勝てたことはないし、僕になにができるかも不安だ。

 しかし、ある意味自分のせいでああなった裕璃を放ってはおけない!


ーーああ。ああいった実験を異能力者で繰り返す外道の集まりの施設だ。私も微力ながら援護しよう。なに、燐光や蛍光が放たれたら気づけるからな。ーー


 それなら心強い。

 いつにも増して怒り浸透な様子のユタカ。やはり、あの外道極まりない実験は止めたいのだろう。

 こうして、僕は愛のある我が家のいつもの部屋に訪ねたのであった。




(74.)

 愛のある我が家に到着すると、見慣れない人も含め、結構な人数が揃っていた。

 まず、沙鳥さんをはじめに、舞香さん、瑠奈、見知らぬギャルっぽい女性、裕璃の父である赤羽さん、朱音さんが揃っていた。


 ソファーはすでに埋め尽くされており、沙鳥さん、舞香さん、瑠奈、赤羽さんが座っている。朱音さんは部屋の壁に肩を預け休んでおり、瑠奈はその隣にいる。朱音さんとは仲直りできたのか、二人して仲良さげに見える。


「豊花さん? 私達愛のある我が家のメンバーは全員さんを付けなくて構いませんよ?」沙鳥さんーーいや、沙鳥は心を読みながら言う。「沙鳥、舞香、瑠奈、朱音、翠月、今ここにはいない澄さんもゆきさんもさん付けしなくて構いません」

「いや、でも……」


 沙鳥さんだってさん付けしているじゃないか。


「私はこれがデフォルトですからお構い無く。ならせめて心のなかではさん付けする必要はありません。皆さん、私を除けば読心などできませんからね」

「は、はい……とりあえずわかりました」


 心のなかだけでもさん付けはやめておくことにした。まあ、愛のある我が家メンバー以外には慣れずさん付けしてしまうかもしれないけど。


「わー、なにこの子メチャ可愛くね? なになに? 売春倶楽部で働く系?」


 ギャルがいきなり語りかけてきた。


「な……違います! なんですかこの方! 僕は男です。今は……女の子ですが」

「ああ、彼女はうちのシノギのひとつを担う翠月さんです。彼女には作戦開始時に異能力を使ってもらい門前までは付き合ってもらいますからね」


 なんの異能力かは、とりあえず訊かないでおこう。


「そんなことより早く始めようぜ? 兄貴の舎弟までツテ使って情報集めたんだからよ」


 赤羽さんは頭を掻きながら会話を遮る。


「そうしましょう。では、一から説明しましょう」


 沙鳥は作戦内容を語りはじめた。

 赤羽さんのアニキの舎弟から情報のツテにツテを利用して、現在裕璃の囚われている場所は、新田が裕璃に装置を繋いでいる研究室だと判明したらしい。


「異能力者の異能力を無くす向こうの手段は、おそらく神奈川県にはあの少年のひとりのみ」


 どうやらあの少年は、普段は危険な異能力を持つ異能力者を監視カメラから認識して捉えることにより、危険指定を受けた異能力者の異能力を使えなくしているという。

 つまり、監視カメラにせよ、肉眼にせよ、目で見ないと異能力を封じることができないという。


「そこで、まずは前回みたく少年を内部から外部に引き出します」ただし、と沙鳥はつづけた。「前回の敗因を踏まえ、おそらく相手は瑠奈さんがいるかぎり少年を出さず内部に閉じ込めるでしょう」

「それじゃどうやって出すんですか?」


 沙鳥は翠月と舞香、そして僕をそれぞれ指差す。


「翠月さんの一日限度時間制限ありの普段は使えない透明化能力を使って船に乗り込みます」

「船?」


 船なんてあったのだろうか?


「現在三崎大橋は修繕のために使えないんです。ですから……いいえ、変えましょう」瑠奈をチラリと見て考えを改めたのか言葉を変えた。「私含めて全員まとめて正面まで瑠奈さんに運んでもらい、翠月さんの力が消えるまえに異能力者だけ姿を現して少年を出すのを誘導してください」


 どうやら、翠月の力で透明と化した全員で教育部併設異能力者研究所の正面に突入して、異能力を消す力を持つ異能力者を誘き出す。そこで相手が少年と共に出てきたところで全員の透明化を防ぎ、瑠奈の魔法を発動する。拳銃を瑠奈の力で弾き飛ばし少年を無力化したら内部までの道を明ける。


「で、力が尽きた翠月さんは外部で隠れていてください。瑠奈さんも魔力が薄れたら逃げるようにしてくださいね」


 内部に潜入可能なのは僕と舞香、赤羽さんのみということになる。


「ああ、そこは心配なさらずに。ゆきさんが帰ってきますからね」


 ゆきって言うと、たしかまえに腹部に素手で穴を空けていた恐怖幼女だ。それなら心強い気がする。


「そうして研究施設内部を探索します。急いでください。目星は研究施設内部の地図を裏から取りましたから、実験できそうな部屋は四つです。素早く四ヶ所に向かい裕璃さんを救出したのち、全員脱出してください」


 さすがに今回は建物内部ということで連絡手段に異能力は使えないらしく、無線機を使用すると無線機を手渡された。


「ひとつめの場所にゆきさんと赤羽さん、二ヶ所目の場所には舞香さん。三ヶ所目には瑠奈さん。四ヶ所目には豊花さん……ですが、本当に大丈夫でしょうか? もしも犯罪者側に回るのが怖ければ、今ならまだ退けます。囚われるかもしれませんし、異能力者保護団体では二度と働けなくなりますよ?」


 迷いが生じる。

 でも、もう決めたんだ。

 助け出すーーと。


「敵の戦力は拳銃などを持つ職員や戦闘要因。武器を持たない研究所職員は敵にもなりませんから無視で大丈夫です。私達の一番の脅威になるのは、おそらく異能力消しの少年、また武器持ち、そして……刀子さんや真中さん、ありすさんの動向にも注意を払う必要があります」


 やはり刀子さんの行動は不穏らしい。遭遇しても、2体1なら戦っても構わないが、一対一ならやはり逃走したほうが無難らしい。


「あくまで完全対立するわけではないので、敵は殺さず傷つける程度で抑えてくださいね。特に瑠奈さん……」

「え? わたし?」


 瑠奈が意外そうな目をする。

 いやいや。いやいやいや。


「あなたの魔法はめちゃくちゃです。少しまえに街をぐちゃぐちゃにしたのを忘れたのですか?」

「あれは悪かったって。許して許して沙鳥summer」

「……で、次は全員逃走したあとのことです」


 あと?

 助け出せればそれに越したことはないんじゃ……。


「豊花さんには愛のある我が家に入団していただきます」

「へ? ええ!?」


 いやいやいや。そこまでの覚悟は決めていないんだけど?


「正式に愛のある我が家に入団してもらい、それを異能力者保護団体に認めてもらえば、異能力者保護団体を脱退するのは避けられなくても、今までみたく平穏な日常生活が送れますよ」

「……」


 いや、今になって迷う必要はないだろう。

 でも、愛のある我が家と同盟を組んでいるなら、僕たちも攻撃されないんじゃ……?


「それはあくまで互いに危害を加えないのが条件です。だから今回も相手は殺さず傷つけるに止めておくんですよ」で、と沙鳥はつづける。「残念ながら、裕璃さんはもう普通の生活には戻れません」

「な、なんで!?」


 それがしたくて助け出すんじゃないのかよ!?


「私達が覚醒剤を密造している場所ーー朱音さんが異能力で作り上げた異世界で暫く過ごしてもらいます。死刑並の殺人を学校で起こし、施設に捕まり拷問紛いの実験を行い、異能力者保護団体をコケにする。それでも今までどおりになるとは本人も思っていないでしょう」


 でも……異世界か。どんなところなんだろう?


「安心してくれよ。ぼくのつくった異世界は平和とは言い難いけど、助け出されて殺人鬼扱いされたままで過ごすよりはよほどいいよ」


 朱音にそう言われて少しだけホッとする。

 でも、本人はそれを受け入れられるだろうか?

 それが僕には気がかりだった。


「では、明日の日曜日、朝九時に三崎口に集合。バスに乗って三崎大橋まで向かいましょう。では、ミーティングは終了です」


 まだまだ、いろいろな不安がある。でも、僕は決めた。


 べつに恋愛感情とかではない。友人として、彼女を助け出すと。地獄のような現状から解放してあげると!


 ……瑠璃、ごめん。なにも言わずに敵対側に回っちゃって。謝っても許してくれないかもしれない。けど、もう僕は決めたんだ。ごめん、瑠璃。


 僕は心の中で瑠璃に謝罪した。



【おまけ/いつの日かーー将棋】

 瑠奈と舞香はテーブルを挟み込んで将棋を打っていた。


「王手」


 舞香が王手を指す。


「ぐぬぬ……なら」瑠奈は王手とした駒を真逆に向けた。「裏切り!」

「は?」


 いつからそこにいたのか、沙鳥がテーブルの上の将棋駒をごちゃ混ぜにかき混ぜた。


「ちょいちょいさとりん、なにするのさ!?」

「卑怯な手で舞香さんが不利になるのはいただけません。これは」将棋盤を指す。「局地的ハリケーンです」


 その後、三人で些細ないざこざがあったのは、誰も知るよしもない。

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