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Episode42/夢

(??.)

 ベッドに拘束されながら、私はどこかの通路を運ばれていた。

 ここは、何処だ?

 辺りの風景に見覚えがある。

 白い廊下と壁がつづく、なにかの施設のようなーー。


「やめろ! 離せ、離してくれ!」


 聞き慣れない男性の声が自分の口から勝手に発せられた。


 ーーこれは、夢?


 どこか感じたことのある空気感が漂う通路を、白衣の男性数名に車輪? の付いたベッドで運ばれていく。

 通路には、時折見知らぬ人物が歩いているのが見受けられた。


 やがて、見知らぬ部屋に入れられた。


 室内は簡素な雰囲気の部屋に運ばれた。

 僕を運んできた数名の人間以外、他には誰も見当たらない。

 

 白衣の男はなにかのコードに繋がった針を私の腕に突き刺して固定する。

 なにか点滴を入れるための注射針のような物まで次々に穿刺されていく。


「ふむ、谷口(たにぐち)くん、始めたまえ」


 見覚えのある男性ーーたしか、名前は新田だったと思うーーが、もうひとりの若い男性ーー谷口になにかを命じた。


「はい」


 瞬間ーー。


「あ、ああ、あぁああああッ!?」


 強い電気ショックの様なものが体を刺激し、なにかが体内に流れ込み身体が振動した。

 何度も何度も繰り返される電気ショックにより、身体は次第に衰弱していき無気力になっていく。


 新田と谷口が会話を始める。


「ふむ。“これ”の異能力はなんだったかね?」

「はい。情報によると身体能力の飛躍的な上昇となっています」

「なるほど。可視化できない異能力か。普通じゃ目には見えないはずだ。谷口くん。早速試してみたまえ」

「わかりました」


 新田に言われ、谷口は私に繋がれたコードの先にある何かから伸びる、もうひとつの針を自分自身に突き刺し繋げた。


「さて、異能力を強制的に使わせてみよう」


 再び電気ショックが流れると同時に、意識が朦朧としてきて、痛みや違和感などに教われる。

 と、なぜか異能力が勝手に発動してしまった。

 しかし、自分には異能力が発現しない。


 谷口に視線を向けると、腕を上下に素早く振ったりして、なにかを確認するかのように頷いた。


「成功です」

「まだ成功とまでは言えないだろう。それを繋げていなければ効果は持続しないのだから」


 新田は残念そうに嘆息しながら首を振るう。


「やめて……くれ……俺は……まだ、死にたくない……」


 私の口は勝手に動き、聞き覚えのない男声で新田にやめるよう懇願した。

 しかし……。


「懇願されてやめるとでも思ったのかね? 異能力で罪を犯したことを後悔しつづけるといい。さて、いろいろ試そうじゃないか」


 再び全身に電気が流れ、声にならない悲鳴を上げてしまう。


「身体に衝撃を与え、異能力を無理やり発動させる。それをコードで繋いで別の人間が異能力を使えるようにする。だがまだ未発達だ。最終的には遠隔でも好きなときに異能力者の異能力を他者が扱えるようにしなければならない」

「やめろ……やめろてくれ……」


 掠れた声で幾度も懇願するが、新田たちは、まるで私をモルモットかなにかのように扱い、聞く耳を持たない。


 ーーそして、そのまま数ヶ月の月日が流れた。





 毎日毎日繰り返される拷問紛いな行為。

 既に精神は磨り減っており、ここで死ぬのではないかと思い始めていた。


 ある日は電流を流され、ある日は耐久実験と称して無理やり異能力を使わされた状態で頭をコンクリートで殴り飛ばされ、またある日は、謎の薬剤を投与されたりした。


 もう諦めかけていた頃、偶然、誰一人見張りがいない時間帯を把握できた。

 異能力封じの異能力を浴びたこともあったが、今はその気配を感じない。

 どうやら他に危険性の高い異能力者が入り、そちらにかまけているらしい。


 “私の身体の主”は、そのチャンスを見逃さなかった。


 身体能力を異能力で極端に高め、牢屋のような個室のなか、唯一脱出できそうな窓を拳で殴り砕く。

 すぐに研究所内にサイレンが鳴り響いた。


 身体に繋げられたコードや点滴を急いで外し、二階の割れた窓から外へと飛んだ。


 着地するまでもない。

 この異能力の状態なら傷は負わない。


 私は異能力を使いつづけ、長い橋を渡って本土に逃げることに成功したのであった。





 それから一月くらい時が経過した。

 私はマンションの部屋を借り、そこに籠城していた。


 外に出たら研究所職員に連れ戻されてしまう。

 それだけは絶対に嫌だ。

 あそこは異能力者をモルモットかのように扱う異常な場所だ。

 どうにかほとぼりが冷めるまで籠城していたい。

 ここに居ればひとまず安心だろう。

 

 ーーこのマンション、部屋の構造に見覚えがあるような?


 ああ、窓に外に映る景色を見て察した。

 ここは(豊花)の住んでいるマンションだ。

 しかも、おそらく部屋も近い。


 チャイムの音が鳴る。

 びくりと身体が反応して、焦り背筋が凍る。


 待て、待ってくれ。


 ここに誰かが来ることはないはずーー。


 ーーカチャリ。

 と、鍵の開く音がする。


 慌ててチェーンを掛けに行こうとしたが間に合わなかった。

 玄関が勢いよく開かれる。


 そこにいたのは……ありすだった。


「まったくさー、嫌な仕事をさせてくれるよね?」

「だ、誰だ……」


 勝手に発される僕の声が震えているのがわかる。


「異能力犯罪死刑執行代理人ーーって言えば、私が誰だかわかるかな?」

「あ、ああ……ああああ!」


 私は目を見開き絶望する。


 せっかく抜け出せたのに殺されるだと!?


 異能力犯罪死刑執行代理人の噂は耳にした事がある。




 警察や異能力者保護団体が対象し切れない異能力者へ、あるいは、人手が足りないときに、お上が死刑執行に値するとした対象に送り込まれるーー国家公認の秘匿されている特別の機関。


 窓から逃げようと、振り返りざまに駆け出す。

 しかしーー。


「ーー遅いよ」

「がっ!?」


 背後から脚を踏まれ地に倒れ伏す。


「ーーや、やめろ!」


 近場にあった椅子を掴み、振り回そうとするが、脚の痛みで手許が狂い椅子を壁に投げつけてしまう。

 異能力で強化していたこともあり、隣室への壁に椅子が当たり、激しい音を立てて床に落ちた。


「やめてくれ! やめろ! 助けてくれ!」


 異能力で身体を強化し立ち上がり、一気に窓際まで走ろうとする。


「やれやれ。こんなことに使う奥の手じゃあないんだけどなー」

「な? ーーッ!?」


 背後から凄まじい速度で押し倒された。

 床を這う姿勢になってしまう。

 勢いも増して地に頭が強打する。

 声にならず、くぐもった悲鳴を捻り出す。


 胸が熱い。

 倒されると同時に背中にナイフが刺された?


 ああ……辺りに血が広まっていく。

 やはり、刺された?

 手にあるナイフで容赦なく?


 意識が遠退いていく。

 私は死ぬのか?


 実験動物(モルモット)のような日々からようやく逃げ出し、いずれ、まともな生活に戻れるとばかり思っていたのに?

 ああ、深い深い暗闇に、意識が溶け込んでいく。


 もうなにも考えられない。

 私の人生とは、いったいなんだったのだろうか?


 ああ……。


 …………。

 ……。

 

「ーー大……夫……ですか……」


 壁からノックの音がする。


 “私”は死体となった器から離れた。

 すぐに周囲に感じる異能力者になり得る宿主を探す。


 ーー居た。


 壁一枚隔てた向こう側に、声が聴こえてきたほうに、心に傷を負った異能力適応者が居ることを察する。


 私は壁をすり抜けそちら側に入り込む。


 そこに居たのはーー。


 ーー豊花()


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