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Episode27╱忍び寄る災厄(中)-花に風-

 早朝ともいえる時間帯。路地裏には、三人の者たちが集まり言葉を交わしていた。


「逃がしたのは失敗だったね。あいつ、月が出てない時間帯だと無力だから、追いかけて日差しが出てきたらグサリでやれたのにさ~」


 片方のモミアゲの一部だけ緑色のさらさらした髪質の少女ーー微風瑠奈(そよかぜるな)は、オリーブの葉を咥えている鳥が絵柄になっている、クリーム色のソフトパッケージから煙草を一本取り出し唇に挟み火を点けた。

 見かけはーー極一部の髪色を除きーー清楚な中学生、下手したら小学生にも見える少女が煙草を吸う姿は、同じ喫煙者である微風瑠奈の会話相手の一人ーー清水刀子からしても違和感を覚える光景であった。

 清水刀子は眉を潜める。


「言ってくれるな? そこまで言うのなら、自分ひとりの力で対処すればいい」


 清水刀子は隣に並ぶ男性ーー大空静夜に同意を求めるように文句を口にした。

 大空静夜は苦々しい表情を浮かべる。 


「あれはいきなり光を纏ったかと思えば、そのまま辺りから姿を消した。周辺から気配まで消えていた。追跡は不可能だ」

「まっ、だからこそ刀子や静夜達に頼んだんだけどね。逃げ足だけは早いからさ」微風は煙草の煙を吐き出す。「だから、日の光を浴びている時間帯にあいつを見つけ出して首チョンパしてほしいんだよ」

「そもそも、私らに頼まなくても、仲間の人外に頼めばいいだけだろう。違うか?」


 清水刀子に言われ、微風瑠奈は少し考える仕草をすると口を開く。


(すみ)のこと?」

「ああ、あのガキがいれば一手で終いだろう?」


 清水刀子は青色のソフトパッケージの煙草を取り出し、それを口に咥えながら頷いてみせる。


「それが無理なんだよね。澄はちょうど東北地方へ仕事しに行ってるから居ないんだよ。だから厄介事に対処仕切れてないんだよね。リベリオンズの裏切りだってそう」

「リベリオンズが裏切ることになったのは、ルーナーーあいつが嘘を吐いたからだ。どうにかして微風の命を取りたいみたいだ」


 大空静夜はルーナーー砂月楓菜(さつきかえな)と名乗る黄色がかった銀髪の少女が、真実に虚実を織り混ぜてリベリオンズに情報提供をし、愛のある我が家とリベリオンズがぶつかるように仕向けたのを思い返す。


 大空静夜は嘘だと見抜いていた。愛のある我が家が大空白ーー大空静夜の妹を救助してくれたことを知っていた。

 だが、リベリオンズの構成員の一人である角瀬偉才を大空白から離したかった大空静夜は、この機会に処分できると考え、手を組んでいた相手(リベリオンズ)の誤りを正さなかった。


 血の繋がっている唯一の生き残り、家族である妹が、反国組織の幹部かつ覚醒剤依存症の男と恋仲であることが、大空静夜には認められなかった。

 死んでしまった両親に顔向けできないと考え、白の意見を訊かずに角瀬偉才をこの世から葬ったのである。


「というか、あいつよく本名謳ったな~」

「本名?」

「そ、本名。あいつはルーナ。実は私の本名はアウラだよ」


 微風瑠奈は真の名を二人に告げる。

 が、大空静夜も清水刀子もいまいち理解が及ばないと言いたげに訝しげな表情を浮かべた。


「ま、私も私で探すからさ、二人も探しておいてよ。河川ありすや陽山月光と一緒に。なんなら異能力者保護団体の仕事として捜索してくれてもいいよ?」

「ふざけるな。ありすは今は療養中だ。陽山なぞ碌でもない奴とは組む気もない。それに、たしかに例の事件でお前らと異能力者保護団体はふざけた契約を秘密裏に交わした。だが、表向きにはそんな契約は存在しない」清水刀子は呆れた顔をする。「そもそも私やありすは異能力者保護団体の正式な職員ではなく、あくまで国の特別の機関だ。表向きは繋がっていない。我々の権限で異能力者保護団体自体を動かすなんてできるわけがない」 


 清水刀子は、異能力者保護団体と愛のある我が家で、裏で上層部同士が交わした理不尽な契約内容を想起しながら愚痴る。

 そして、異能力犯罪死刑執行代理人はあくまで国の特別の機関である建前があり、異能力者保護団体を動かす権限がないことをハッキリ伝えた。


 ーー異能力者保護団体は、愛のある我が家の正規構成員を二度と拘束しない。

 ーー異能力者保護団体と愛のある我が家は協力関係にあり、従って、なにか問題が発生した場合、異能力者保護団体側も力を貸して解決に臨む。逆に異能力者保護団体に困難が生じたら、愛のある我が家も手を貸す。

 ーー契約が破棄されたら、異能力者保護団体は裏切ったものとして、異能力者保護団体系列の組織は全て敵対したとして対処する。


「異能力者保護団体、そして教育部併設異能力者研究所を始末するだなんて脅し文句、(あいつ)が愛のある我が家に与してなければ使えないぞ? 愛のある我が家は理解しているのか?」

「わかってるって。澄がいるからこそ出せた提案だし」

「提案……か」


 大空静夜は“提案”ではなく“強要”だろうーーと言い淀み口にするのをやめた。


「わたしも、刀子に勝てるのは澄しかいないって思ってるもん。だからこそ、刀子たちに頼るんじゃん」

「ふざけたことを言うな。おまえは私たちを買い被り過ぎだ。私たち異能力犯罪死刑執行代理人の大半は、異能力など持ち得ていない生身の人間だぞ? 少し下手を打てば、並みの異能力犯罪者にだって殺られてしまうほど矮小な存在だ。今回の件だって、正直なところ荷が重い」


 清水刀子は、自身の存在を超人だと思い違いをしている微風瑠奈に指摘する。

 同時に、異能力犯罪死刑執行代理人に所属している数少ない異能力者も、異能力者の異能力をどうにかする異能力者であって、異能力者ではない“異能の力を操る者”には無力なことも暗に伝えた。


「いやいや。澄を相手にしても、防戦一方なら戦えるでしょ? わたしは澄と戦うなんてハメになったら、クンニしながら命乞いするね」

「そんな事をした瞬間、すぐに肉塊にされるだろ……」


 唐突に発された下品な発言に、大空静夜は静かに突っ込みを入れる。


「ま、わたしはわたしで探すから、二人も情報を集めたりして探すだけ探してみてよ」微風瑠奈は顔に影を差しながら誰にも聴こえないほどの小声で続けた。「ルーナエ・アウラに見つかる前に……」

「どうした?」


 清水刀子は、怪訝な表情を浮かべた微風瑠奈を見逃さず、短く疑問を口にした。


「いや、何でもない。じゃ、頼んだよ」

「やれる範囲内でならやってやる。だが、無理なときは諦めろ。ーーああ、そうだ。それと、好みの女を見つけ次第、すぐに絡みに行くのは直ぐにやめにしろ。このあいだなぞ、ついに異能力者保護団体の調査課に絡んだだろ? 表向きは協力関係じゃない敵対関係なんだ。できる限り異能力者保護団体系列の組織とは接触しないでくれ」

「りょーかいりょーかい、わかってるって。じゃね!」 


 微風瑠奈は吸い終えた煙草を携帯灰皿に捨てると同時に、風を操りマンションの壁に立つように張り付くと、辺りを見渡し始める。


「あいつ、髪色は異なるが、どことなくルーナに似てないか?」


 大空静夜は本人には訊ねられなかった疑問を誰に言うでもなく呟く。


「微風とルーナにどのような関係があるのか知る(よし)もないが、私たちも私たちでやれる範囲のことはやってやろう。それに、おまえの手を負傷させた仇でもあるしな」


 清水刀子はわざとらしく苦笑し、大空静夜に言う。

 大空静夜はばつの悪そうな顔をしながら無言で頷いた。


 二人をよそに、微風瑠奈は少し離れた位置に停車しているワゴン車に目を向ける。


「ヤバいヤバい、あの子超かわいい! 隣にいる子は普通だけど、あの中学生っぽい子はめちゃくちゃ好み! 早く会いにいかなくてはっ!」


 おおはしゃぎする微風瑠奈の声が、清水刀子と大空静夜にまで微かに耳に届く。


「刀子さん……さっきの忠告が早速無意味になってるんじゃないか?」

「知らん。あの色情狂いは放っておけ。ーーとはいえ、一応問題になる前に飼い主に連絡しておいてやろう」


 清水刀子と大空静夜が微風瑠奈から視線を外し、互いに別れて歩き出す。


 微風瑠奈は強風の速度で、目にした白いワゴン車に飛びつくように飛行し近寄っていく。


 そのワゴン車に、二人の女性ーー二十歳ほどの女性と、幼いながらも美貌を兼ね備えている中学一、二年生ほどの外見をした少女ーーが、ちょうど乗ろうとしている最中だった。


 運転席には、若い男性の姿。

 助手席には、高校二年生の少女が既に乗っている。

 後部座席にも、ひとり、二十歳ほどの別の女性が既に座っていた。


 中学生らしき少女は、二十歳ほどの女性を、後ろから押すようなかたちでワゴン車の中に入れている。



 それを邪魔するかのように、微風瑠奈は二人の間へ割り込むように空を駆け急速に接近していった。 



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