Episode242/-神の独白-
(??.)
無と呼称するしかない存在。
ボクは、この無ーーいや、無の無の無とさえいえる存在を、仮の呼称として真の神を意味する『真神』と呼ぶことにした。
真神は完全から更なる成長を貪欲に求め、あろうことか完全を不完全にしてしまった。
宇宙という不完全が始まり、それは止まることなく完全に侵食し広がりつづけた。
もはや真神だけでは管理できないまでに膨れ上がった宇宙の管理をする役目として、神は新たな神を次々に創造した。
そして、その宇宙に地球が誕生した。
その星では、今まで他の星では見られなかった生物が誕生した。
その生物は、刻が経つのに比例して増えていき、次々に新たな生物が誕生していき、既存の生物も進化を忘れなかった。
やがて、地球に知性のある生物ーー人が誕生した。
人も他の生物同様、刻を重ねる毎に成長していき、長い刻を経て、ついに人の手で“国という名の人類が集団で住む地域”を、ひとつ、またひとつ、と次々に作り出した。
真神はそれに対して好奇心を抱き、地球のみを担当する役目として、新たに神をーーボクを創造なされた。
しかし、太陽系には既に神が存在している。
その神ーーボクより前に誕生した神なため、ボクは旧神と呼ぶ事にしているーーつまり旧神からしたら、自分が管理している筈の地球を“新神”と云う名のボクに奪われる事になった。
真神は、ボクと旧神が和解するよう促した。
それにより、ボクは新たな神として、地球の管理をする事になった。
だが、人類が地球という名の星を徐々に汚染するようになり、旧神が『地球に人類は不要だから排除せよ』と口出ししてくるようになってしまう。
ボクは自分が管理している地球を何よりも愛している。
その地球の上に芽生えた生命も、また、等しく愛している。
人類も、その芽生えた命に当てはまっていた。
だからこそ、旧神の言うことを受け流し、人類が成長していく様を眺めていることにした。
しかし、人類は核という名の地球そのものを破壊できてしまう兵器を開発してしまう。その事で、ボクの考えに揺らぎが生じた。
更には人類の一部がボクの管理下から飛び出し、旧神の担当する惑星にまで手を伸ばすようになってしまった。
ボクが一番愛してやまないのは地球だ。
そして、同時にボクの手のひらの上にある地球で暮らす人類も愛していた。
けれども、それは前提条件を踏まえたうえでの愛。
地球で生き、地球を害さず、地球を破壊する程の力を持たず、他の星には手を出さないーーその前提条件の上で人類を愛していたのだ。
このままでは、旧神に忠告されたとおりになってしまい、旧神に怒られてしまう。
そう考えたボクは緊急策として、“世界が澄み渡る”の意味を持たせた名を与えた存在ーー澄と名付けた存在を地球上に生み出した。
そしてボクは、全人類を滅ぼそうと思えばいつでも滅ぼせる力を澄に与えた。
加えて、澄自身が500年生きていると自覚するのに必要な記憶を埋め込み、ボクは500年も前から人類という生物に危機感を抱いており予め対策をしているーーと旧神へとアピールして忠告を躱すと同時に、人類が地球を壊すような愚行をしたときに絶滅できるよう対策した。
それからボクは、人類を滅ぼすべきか、否か。そう苦悩する刻を過ごした。
旧神は、元々自分が担当していた地球に住む人類に対して不信感を募らせており、さらには、他の太陽系にまで探査機というふざけた物を送り込み調査という名の手出しをしてくることに怒りを覚え、一刻も早く人類を滅ぼすべしと言う。
真神は、人類に強い好奇心を抱いており、例え地球が塵になる未来があったとしても、人類を滅ぼす必要はない、と。人類が辿り着く結末を見たい、と。人類を今すぐ滅亡させることに対して反対している。
板挟みになったボクは、人間を構成する肉体、幽体、霊体の三つの体に対して、自律した精神を持ち様々な奇跡の力を使える新たな体ーー異霊体を創造した。
一部の悩める人類の体に四つめの体として憑依させ、その力を使えば使うほど、異霊体の人格と異能力を持つ者ーー異能力者の人格が融合していくようにした。
異霊体に例外はなく、どのような性格の異霊体だろうと等しく“地球を守りたい”という感情を無意識に込めている。
異霊体と主人格が融合した者は、漏れなく“地球の危機が訪れたら対処したくなる”、あるいは、“地球を守りたくなる感情が芽生える”ように仕向けた。
手にした異能力は地球を守るために使われる事をボクは期待していた。
しかし、異能力を手にした者は、地球の危機に対して使うのではなく、自分勝手な目的ばかりに使うようになってしまった。
例え異霊体と融合しても、地球の危機が訪れたと感じない限り、今までと何ら変わらず自分の利益の為だけに、もしくは、犯罪の手段として、力を行使する者ばかりになってしまった。
ボクの目論みは外れてしまい、人類の争いが増しただけに終わる。
そんななか、自分に憑依した異霊体と対話を交わす異能力者が現れた。旧神や真神と比べれば劣っているとしても、曲がりなりにも神であるボクが、一切想定していなかった大きなイレギュラーだ。
ボクはその個人に対して好奇心を抱き、その異能力者ーー杉井豊花に接触することにした。
毎回接触するたびに、新神の考え、旧神の考え、真神の考え、それぞれ異なる主張を混ぜて伝えた。
偶然興味を惹かれた杉井豊花という人類と言葉を交わし、やがては他の人類とも対話を交わしていくごとに、ボクが想像していた人類ではなく、本当の人類の真の姿というものを理解していった。
一部の人類との対話の果てに、ボクはあることを決意した。
人類の存亡が正しいのか、人類の滅亡が正しいのか?
ボクを殺すことが可能な武器を作り一部の人間に託し、ボクと人類が争う。
ボクが負ければ、人類の存続が正しい。
ボクが勝てば、人類の滅亡が正しい。
ーーそう決断するに至ったのだ。
愛していたーーいや、今でも愛している人類と、神であるボクが争い、人類の未来を人類自身が決めるように促した。
地球の神であるボクと、ボクが作り出した澄。
ボクと澄、対、人類70億人。
ボクが負けて消滅するか、人類が一人残らず滅亡するか、どちらかに至らない限り決して終わらない戦い。
そして、万が一ボクが敗北して、ボクという地球を管理する神が消滅したとしても、地球の神を引き継いでもらう者は既に候補がいる。
もしもボクが敗北しようと、引き継いだ新たな新神が旧神と真神との仲を取り持つだろう。
だからこそ、ボクは気兼ねなく戦える。
まずは、異霊体と対話ができる唯一の異能力者ーー杉井豊花が所属していて、ボクの生み出した澄も元は所属していた集団、愛のある我が家と戦う。それを皮切りに、地球の歴史上、最も大規模な戦争が始まる。
人類史上初、神対人の戦争だ。
さあ、見せてくれ!
人類を存続させたい者たちの意志の力を!
地球を守る神の力を前に、その偉大なる力を見せてみよ!
ーー新神の独白。




