Episode241/役割分担
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親戚の……祖母の実家から帰宅した私と沙鳥は、愛のある我が家の皆が集まる部屋に入る。
そこには、舞香、瑠奈、六花、朱音、香織、鏡子、黒河さんと宮田さん、 煌季さんーー愛のある我が家プラス仲間が勢揃いしていた。
今回の相手はいくら刀子さんが強かろうが、単なる殺し屋である刀子さん含め、ありすや静夜もいたら邪魔なだけだと判断したのだろう。ここにはいない。
「おかえり、沙鳥」
「舞香さん……」
なぜか舞香を見るなり、沙鳥は瞳を潤ませる。
「どうして……どうしてやらなかったのでしょうか?」
会話から察する。
要するに、舞香はやらなかったのだ。
ーー覚醒剤を。
死ぬかもしれない。いや、地球が終演を迎えるかもしれないという状況なのに、舞香はあれほど縛られていた覚醒剤に手を出さなかったのだ。
「あのね……世界が終わるかもしれないってときに、あんな物をやっていたら勝てるものも勝てなくなるでしょ?」
「舞香さん……変わりましたね」
沙鳥は舞香に抱擁する。
舞香はそれをやさしく抱き止める。
「そんなことよりさ? 決戦は六日後じゃん。作戦とかどうするのさ? 言っとくけど、わたしたちの戦力じゃすみに勝てるビジョンなんて浮かんで来ないんだけど?」
瑠奈はもっともなことを口にする。
「た、たしか、あ、愛のある我が家のメンバー全員で『澄』と唱えることが条件でしたよね?」
香織は仲間から聞いたのか言う。
「……私たちは……戦力にならない……と思う……」
鏡子は自信なさげに呟く。
それはそうだ。
愛のある我が家は現状、特殊指定異能力犯罪組織で最も極悪と恐れられてはいるものの、メンバーにはそれぞれ役割がある。
鏡子は探索型、戦闘にも使えなくないが、澄相手には通用する可能性は限りなく低い。
香織は論外だ。たしかに異能力者ではあるものの、その能力は五感の強化という戦闘には役に立たない能力。情報収集役だ。
沙鳥も戦闘には役に立たないが、今回の作戦では必要だろう。なんせ、状況に応じて仲間にテレパシーを送信するという役割がある。
他は言わずもがな。
私は神殺しの剣、不完全ながらの未来視、フレアによる火の精霊操術。戦闘には特化しているし、澄を、いやーー神を殺すためには最重要のひとり。
舞香や瑠奈は暴力担当。どこまで通用するかはわからないが、戦力にはちがいない。
宮田さんも私と同様、対神に特化した異能力を所持している。
煌季さんは殺害されないかぎり味方を即座に癒すちからを所持している。
「そこなのですが、先日、豊花さんと作戦を立てました。私たちの真の敵は澄さんではありません」
「どういうこと?」
瑠奈は当然の疑問を沙鳥に投げ掛ける。
「澄さんの武力を踏まえるに、私たちが束になって攻めたとしても、五秒持たずに敗北してしまうでしょう」
「たしかに」
瑠奈は少し考えるそぶりをして返事した。
「つまり、澄さんと神が同時に現れると仮定して、澄さんと戦うそぶりを見せながら神が無防備になるのを見計らい、隙を見せたら宮田さんは発砲を、豊花さんは神殺しの剣を投擲してください」
「ちょっと待って。投げても私の速度じゃ完全に避けられちゃうか防がれるよ」
以前から疑問を抱いていた問いを沙鳥に投げ掛ける。
「豊花さんは剣を出して相手に投げる姿勢をするだけで構いません」もちろん神相手に、と沙鳥は付け足す。「剣の柄底からゆきさんの怪力で飛ばすか、瑠奈さんの風魔法で速度を上げるんです。または舞香さんが豊花さんが出した剣を掴み神のからだに転移させる感じになるでしょう」
なるほど、それなら私が非力でも凄まじい速度になるだろう。
「つまり、澄と戦いつつ、ゆきか瑠奈か私のうち残った人員が豊花のそばにいて協力する感じね」
舞香が要約する。
澄と戦いつつというのが多少無茶だが、最初から神狙いじゃ向こうも感づいて姿を隠してしまう可能性が高いのも理解できる。
「そういう感じになります。幸いまだ時間はありますし、豊花さんは豊かな生活のメンバーや瑠璃さんに報告したりしてください。決して助けに手を出してこないように」
「わかった」
「瑠奈さんもアリーシャさんに……可能なら協力を取り次いでください。効果はないかもしれませんが、同一化とやらをしたあとの技ならあるいはーー」
「了解」
沙鳥は話したいことは話し終えたのか、あとは特になにかを言うでもなく黙り、舞香に寄りかかった。舞香もそれを支える。
いよいよ最終決戦が始まるのだ。
「いつまでもだらだらしていても意味はありません。明後日の昼12時に決めましょう。負けることだけ考えても意味はありませんからね。香織さんや鏡子さんは唱えた瞬間、澄さんの攻撃範囲から早急に離れてください」
「……はい」「わわわわかりました」
二人は同時に答えた。
「それでは明日、また集合です。明後日には嫌が応にも結果が出ます。なので、明日は最後に愛のある我が家のメンバーで親睦を深めましょう」
全員が頷き、集まっていたみんなはそれぞれバラバラに動き出す。
私も大事な話を瑠璃や瑠衣にするため、建物から一旦出ることにした。




