Episode22/新規異能力者が多発する日(後)
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一階のロビーに並ぶソファーのひとつに、浮世離れ髪色系女子、瑠璃、僕の順で三人並んで座っていた。
単に流れでこうなってしまっただけで特に意味はない。
浮世離れ女子がまずはドサッとソファーに座り、『話し相手になってやれ』と未来さんに命じられた瑠璃が隣に座り、なんとなく瑠璃の隣に僕も腰を下ろしただけだ。
……異能力者保護団体の職員でも準職員でもない僕は、果たしてここに居ていいのだろうか?
「あれ? 豊花はもう帰っていーーいや、えっと、ごめん」瑠璃は悩ましげな顔をする。「やっぱり一緒に、この子の話を聞いてくれない? 私の苦手なタイプの話な気がしてならないのよ。一緒に居てくれると助かる」
瑠璃は『帰宅していい』と言うのをやめたかと思うと、なにか考えるような仕草をして、そう頼んできた。
「話を聞いてくれるだけじゃ意味ないじゃない! わからない!? ここにいるのってバカばかりなの!? 助けてよ! 私を助けてよ!」
ひたすら怒鳴り散らす青髪の浮世離れ系少女に呆れ果てているのか、電話で誰かに何かを伝え終わり受話器を置いても、カウンターからこちらにやってこない。
「あのね、ちょっと落ち着いて私の話を聞いて? 私は貴女の名前も、貴女がどんな理由で此処に来たのかも、いまどんな状況なのかも把握してないの、わかるでしょ?」
青髪少女は未来さんを指差して叫ぶ。
「そこのおばさんに言ったわよ! 私の名前は双葉結愛!」
「おばっ?」
未来さんは青髪少女ーー自称、双葉結愛ーーの発言にピクッと不機嫌そうに反応する。
瑠璃はとにかく双葉を落ち着かせたいのか、イライラが表情から伝わってくるものの、冷静に言って聞かせようとする。
「私には、まだなにがあって、貴女が誰なのか知らないのよ、双葉さん。未来さんに話した事情、私にも話してくれない? そうじゃないとまともな相談に乗ることもできないの、わかる?」
「何度同じ説明させるつもりなの!? 詳しくはあのおばさんから聞いて! とにかく何とかして!」
双葉は先ほど地面に捨てたのと同じ細くしかし固そうな剣を無から創造すると、その剣をぶんぶん縦に振り出し、僕は思わずぎょっとした。
害意は感じられないけど、すぐ隣に座る瑠璃に当たらないかハラハラしてしまう。
未来さんはカウンターから出てくると、苦虫を幾つも噛み潰したような表情を浮かべながら僕たちに歩み寄ってきた。
しかし、双葉の主張には一切歩み寄る気はないとばかりの発言をした。
「葉月。それに杉井も。こいつの話はやっぱり聞かなくていい」
「え?」「はあ!?」
瑠璃と双葉の発声が重なる。
未来さんは理由を説明し始めた。
「こいつ自身は異能力者じゃない。つまりうちらの扱う領分ではないんだ」
「え? でも、現にこの子……双葉結愛さんは無から剣を創造したし、異能力者じゃないんですか?」
僕にも双葉が無から有を創造したのを今しがた目にした。
どこからどう見ても異能力者の類いだ。
いつでも銃刀法違反に当たる武器を、無から生み出せる危険な異能力……ん?
ふと、なにかが頭に引っ掛かる。
そういえば、ありすは異能力者じゃない存在が“Girls children trafficking organization”通称“GCTO”という特殊指定異能力犯罪組織を潰したとか言っていなかったっけ?
つまり、異能力者以外にも異能を使える人間が実在する?
実に非現実的な話だと僕には思えた。
「そいつは異能力者関係に違いないが、異能力者本人ではない。こいつは異能力を扱える人外だ」
「はい!? え、そんな事例、聞いたことないわよ!?」
「ああ、そうだな。だが、そもそも異能力者が現れてからの歴史はまだ短い。異例ばかりだ。それに合点がいった。おそらく、あの緑髪のガキやGCTOを壊滅した和服の童女もおそらく同類だ。純粋な異能力者じゃないから異能力者保護団体に情報が回ってこなかったんだ。そもそも、おまえには見えてるだろ?」
未来さんは顎をくいと動かし瑠璃を指し示す。
見える?
ああ、そういえば、幽体と異霊体を見られるのが第2級異能力特殊捜査官の必須条件だと、たしか美夜さんが言っていた。
つまり、第2級異能力特殊捜査官の瑠璃にはなにかが見えているのか。
「ええ、見えてるわ。このひと……双葉さんには異能力霊体がないのが」
異能力霊体がいないことが見えている?
「こいつから聞き出した連絡先に電話して確かめた。こいつは、異能力者の能力によってつくられた存在だ」
「つくられたんじゃないわよ。最初から居たわ。ええ、最初から在ったのよ、わたしは。双葉結弦が創造したタルパなの! だから私には肉体なんて無かったのにーーどうして異能力があいつなんかに芽生えたのよ!?」
た、タルパ?
また美夜さん的なオカルト用語かな?
「タルパっていったい?」
「タルパーーか」バサッと黒色のローブを翻す巨乳の女性が、用事を終えたのか皆の前に近寄ってきた。「厳密に言えば幻身だが、現代日本のネット社会では、アレンジされてそう呼ばれている。よく知っているじゃないか」
噂をしてもいないのに、オカルト専門家ーー美夜さんが現れた。
心に思っただけでもNGらしい。
あのローブ、羽織ったまま暮らしているんじゃないかと疑いたくなる。
「だ、誰よ、あんた?」
双葉でさえ引き気味になる始末。
見た目の怪しさでは美夜さんが上回るようだ。
「ボクは何美夜。現代に生きる魔術師だ」
「違う。ガミョ、こっちはいいから、おまえはさっさと明日の準備を終わらせろ。いい加減にしないと1班の金沢を呼ぶからな。あいつのこと苦手だろ、おまえ」
ん?
金沢?
か、金沢!?
なぜなにどうして、ここでその名前が?
「豊花? 金沢紅一じゃなくて、金沢叶多のことよ。未来さんが今言っている金沢って人は」
「金沢……叶多?」
え、ああ。
瑠璃が以前、嫌な奴は弟のほうじゃなくて姉のほうだと言っていた気がする。
アイツの姉……どういう性格をしているんだろうか?
「あいつは私も嫌いなのよ、わかる? あの女はね、年下の男を誘惑しまくってる下品な女よ。無駄にツテが広いのも、体を使っているせいでしょうね」
なにそれ、金沢が女になったらどうなるか体現したような存在じゃん……。
姉弟揃ってヤリチンヤリマンって……いやいや下品な言葉使いは口にしないでおこう。
「未来、少しくらい話をさせてくれ。ボクは今、飢えているんだ」
「性欲にか? ならちょうどいい。あいつの弟を呼べば済む話だ。それとも飢餓か? その端にある埃でも食べて我慢しろ」
「違う! ボクはオカルト談義に花を咲かせたいんだ! 誰でもいいから早くこいつを病院に連れて診てもらってくれ!」
「悪いな。私達は三次元で会話をしているんだ。おまえだけ四次元だから言語が合わないんだよ」
「いつ、ボクが、時間を、超越したんだ! 言ってみろ!」
この二人、いつも言い合ってばかりいるな。
未来さんと美夜さんがやたらと威勢よく騒ぎ立てるせいで、双葉は言葉を挟もうにも挟めないでいるらしい。
なんだか『う』だの『あ』だの言いかけてはやめてを繰り返している。
「そこに座りし己をタルパだと言い張る者よ。タルパは他人の目には映らないはずだ。映ると主張するヤツは心霊現象とごちゃ混ぜに語っているだけだ」美夜さんは謎の説明を長々とする。「第一、タルパの源流は究竟次第なんだぞ? 秘密集会タントラの究竟次第。仏の三体のうちの報身を得るための瞑想奥義、通称『五次第』の中で創造する不浄な幻身がタルパという誤称で広まり今では一般化してーー」
「あの、美夜さん?」
瑠璃は美夜さんの肩を叩いた。
「今はオカルト、さすがにやめにしません?」瑠璃はゲンナリとした表情を浮かべながら告げる。「私たち、誰一人ついていけません」
「なんだと? タルパと名乗る奴がそこにいるじゃないか」
「あー、まったく……葉月? 双葉結愛ってガキと、そこの気が触れているカルト。どこかの空き部屋にでも二人きりにして閉じ込めてこい」
未来さんは心底ウンザリといった顔をして、ため息を吐いた。
「い、いやよ! わたしまで、こいつみたいなへんてこな思想に染めるつもりでしょ!?」
「へんてこ、だと? ボクがタルパや人工精霊、イマジナリーフレンドの違いについて教示してやる。嫌とは言わせないぞ?」
「嫌に決まってるじゃなーーい?」
途端、双葉は言葉を止めた。
双葉の視線を追うと、そこには、僕の本来の姿よりもさらに冴えない格好をしているーーいや、正直に言ってしまうと、二十歳ほどの不細工な男が、建物の中へと入ってくる姿が見えた。
「未来さ……あれ?」
あの人は誰なのか訊こうとしたが、未来さんは姿を消していた。
未来さんは、何故かカウンター内の下からひょっこり顔を出した。異能力を使って幼い姿に化けている。
……どうして?
男はカウンターに向かい歩いていく。
その姿を双葉は、ただただ眺める。
「双葉結弦さんですね? お待ちしておりました」
ニコニコと笑顔をつくりながら未来さんは男ーーどうやら双葉結弦という名前らしいーーに声をかけた。
「……ね、ああいう人なのよ、あの班長」
あまりの変わり身の早さに、思わずドン引きしてしまった。
このひとのほうが、よほど異能力の乱用をしていないか?
異能力者保護団体に勤めている人間だけが異能力を自由に使って良いだなんて、なんだかズルい気がする。
そもそも双葉?
双葉結弦と双葉結愛。
明らかに関係のある名だった。
「あ、え、う……あ、はい。そうです」それだけいうと、結弦さんは結愛へと視線を向けた。「ゆ、結愛、その……」
「な……なによ……?」
「本当、ごめん!」結弦さんは、いきなり結愛に向かって頭を下げる。「まさか、まさかタルパが肉体を持つなんて……願望が叶うなんて思わなくって……だから、欲望を、その、抑えきれなかったんだ! 本当に悪かった! 許してくれ!」
「……」
ええ……。
いやいや、タルパがどういった存在なのか今一わからないし、結愛の発言から推察するしかないけど、ようするに欲望を抑えきれなかったから襲いました、すみませんーーって言っているんだよね?
それで許す女性なんて、この世のどこを探したって見つからないんじゃ……。
「もう、二度と、あんな事しない?」
……え?
なんだろうか?
気のせいだろうけど、まるで、二度としないと答えたら許すように聞こえたんだけど。
「うん、もうしない。だから、その、これからも、昔みたいに、仲良くしてほしい」
「……なら、許してあげる。一度だけだからね?」
え、は、えぇええええーッ!?
許すの?
許しちゃうのこの娘!?
あれだけ襲われただの何だの怒り狂っていたのに!
たしかに変なことも口にしていたけど、許すの!?
美夜さんは吃驚して押し黙ってしまった僕に近寄ると、肩に手を乗せた。
「杉井。タルパというのはだな……いや、方向性は違うが、今のタルパを端的に説明するには十分か。タルパはな、イマジナリーフレンドを能動的につくった幽体の存在なんだ」
美夜さんは驚愕している真っ只中の僕に対して、急にタルパの説明をはじめた。
違う、そんなこと何にも気にしちゃいない!
でも、イマジナリーフレンドは、なんだか聞いたことはある。
幼い子供の前に現れる、その子にしか見えない空想上の友達だとか。たしか、そんな感じの……。
「諸説あるが、ボクの持論では、現代の日本に広まっているタルパというのは究竟次第の行程で生み出す不浄な幻身の姿を好みにアレンジして、イマジナリーフレンドと類似する存在として扱い、無学の双入を目指さず瞑想内容を省いたものだ」
「あの、美夜さん。すみません。日本語でもう一度お願いできますか?」
「貴様までボクが四次元から言葉を発してるとでも言うつもりか!?」
しまった。
つい本音が出てしまった。
怒らせてしまった様だ……ていうか、なに?
よく聞き取れなかった。
四次元どころか電波と交信しているんじゃないかと思ってしまう。
「いいこと、結弦? これから、そのキモいところを直していくのよ! 私が愛するひとが、こんなダメ男だなんて情けないもの!」
「努力するよ……ごめん」
「謝らずに行動で示してよ、バカ」
そんな間に、二人は勝手に仲直りしていた。
というかさ?
ダメ男なら愛さなければいいんじゃーーって。
結愛は「私も手伝うから……頑張るのよ、いい?」と言ったあと、結弦を熱く抱き締めた。
も、もう、なんだったの、この二人。
「ねえ、豊花? これも愛っていうものなの?」瑠璃に袖を引っ張られたかと思うと、小声でそんなことを問われた。「なら私、やっぱり愛だとか恋だとか、死ぬまでわからないわ……」
「いや、あのさ? この人たちが特殊なだけだと思うから、大丈夫だと思うよ?」
瑠璃に愛がなんなのか示せと異能力霊体ーーユタカに言われた矢先、こんなわけのわからない歪な愛を見せつけられてしまった。
本末転倒どころの騒ぎじゃない。
むしろ、なおさら瑠璃は、愛を不可思議かつ理解できないものだと思い込んでしまう。
「たしかに、タルパは本人からしてみれば特別な存在だ」美夜さんは聞いてもいないのにつづける。「なにせ、タルパは自分の分身ともいえる。やがて不浄な幻身と同一化を果たし清浄な幻身へと昇華した際、世界には」
「もうおまえは黙ってろやかましい!」未来さんは長々と謎の毒電波を発する美夜さんに対し、女の子キャラの口調をやめて怒鳴った。「いいから、おまえと瑠璃はさっさと双葉結弦を検査しに……行ってね」
途端に口調を変えると、再び未来さんは笑顔をつくり美夜さんと瑠璃にそう命じた。
あれ、僕は?
「いまさっきボクより暇そうにしていた奴がいたぞ? あいつを呼びたまえ。毎日寝てばかりいて頭に来るんだ。河川は正規職員のはずだろ?」
河川……そういえば、ありすには姉がいて、ありすの名字は河川だ。
そのひとは、もしかしなくてもここで働いているのだろう。
なんとなくわかる。今までの流れを踏まえると……。
世間って狭い。
「あいつには学ばせる意味がないだろ? あくまで異能力犯罪に緊急対応するためだけに所属しているんだ。ステージも今や4間近の3だ。眠ってばかりいるのも、強い抗不安薬や抗精神病薬を出しているからに過ぎない。要は、戦闘要員だ」
「別に戦闘要員は警察か代理人にーーっ! いや、なら仕方ない」
「このバカ……」
未来さんはそう言いながら、瑠璃や僕の様子を窺い見てきた。
代理人ーーああ、ありすがそんなことを言っていた。
一部職員以外、異能力犯罪死刑執行代理人の存在は周知されていないって。
そんなに機密な情報なんだろうか?
「なら、あのバカを呼べ。まだ新人だろ、あいつ」
「総谷くんか? バカって……おまえな」
「あいつの目も腐っていただろう!? わたしを年下扱いしたんだからな。22の癖して!」
「結弦、結弦は私のこと、愛してる? 性欲じゃないーーエロスではない意味で」
「うん、もちろんだよ。アガペーもストルゲーもフィリアもエロスも、すべて結愛に向けているよ」
「もう……バカなんだから……」
……この人たちの会話に混ざれる気がしない。
僕は迷った末、瑠璃を見た。
瑠璃も困惑しているらしい。
少し間をおくと、瑠璃は未来さんに近寄った。
「あの、私は双葉結弦という方の検査を美夜さんと一緒にしに行けばいいんですか?」
「ん? ああ、そうだな……悪いが葉月、おまえにも明日出てきてもらうかもしれない。だから今日は、やっぱりもう帰っていい」
「え? 明日?」
「さっき話しただろ? 明日から大忙しだ。調査課第2班は全員揃って周辺地域の探索だ。連絡して来ない異能力者も頻発するだろうからな」
どうして新たな異能力者が頻発する、なんてこのひとにはわかるんだろう?
「ひとまず第2班は私をリーダーとして、私、美夜、加治木さんのAチーム。葉月をリーダーとした、葉月、総谷くん、河川のBチームに分かれて行動する」
「またですか? Bチームのリーダーを美夜さんにして、総谷さんをAチームに入れればいいじゃないですか。私、総谷さんのこと苦手なんですよ……年上の威厳がないというか、馴れ馴れしいというか」
え、あ、まえに言っていた男性二人のうち、一人って、もしかして?
しかも、馴れ馴れしいだって?
ヤバい。
途端にすごい気になってきてしまう。
もしも総谷という人間が、金沢みたいな奴だったらーー考えたくもない!
「危険地域である横浜や三浦の周辺から始め、何美夜は後々川崎も含む全域を回らなければならないんだ。逆に、おまえらBチームは異能力発現リスクが今回は薄い川崎方面を任せる。いろいろあるんだ。頼むから指示に従ってくれ」
「……わかりました」
どうする?
本音を言えば、総谷という人物が気になって仕方がない。
でも、だからといって、ついていくわけにもーーついていく?
「あの、すみません」
「ん?」
未来さんはこちらに顔を向ける。
「僕、その、ここで働きたいと考えていて」嘘だ。瑠璃と一緒にいたいだけだ。「瑠璃の班に同行させてもらい、見学ーーいや、なんでもやります! なにかあっても自己責任です!」なにもできない癖に口は動いてしまう。「お願いします! 憧れなんです!」いつから、憧れになった? 異能力にしか興味がないのに……。
「はあ!? 豊花、あんたなにを言っているのかわかってるの!? 第一、いろいろ手続きだってあるのよ? ダメに決まってるじゃない!」
……わかってるよ。
でも、また、また裕璃の時みたいな、あんな思いはしたくないんだ。
「ーーきょう、遅くまで残れるか?」
「え、ちょっと未来さん!?」
「まあ、待て。一応、準職員になれる要件は満たしているんだ。それに人手が足りない。おまえだって最初うちに入るとき、当時職員だった母親が止めるのを無理やり押しきって入ってきただろう?」
「それは、そうですけど……」
結愛や結弦さんを放置しながら、会話が進んでいく。
ーー杉井豊花、きみは本気を出せば戦力になれる異能力を持っているのだ。葉月瑠璃と恋仲になりたいのであれば、ここは何としてでも押し通すべきだと提案しておくとしよう。ーー
ユタカの声が脳裏に響き渡る。
ああ、わかってる。
ここで瑠璃との関係が途切れる気がしてならない。
きょうがこのまま終われば、僕は一生、瑠璃にとって単なる“妹の友達”のままでしかないだろう。
「杉井、許可しよう。多少の無理は通してやる。だが、何があっても無茶だけはするなよ? あくまで見学として捩じ込むだけだ。異能力者という時点で、第4級異能力特殊捜査官の資格はあるも同然だ。ただし、いろいろと手続きがあるし、夜の九時過ぎまで書類を読んだり書いたりするのは覚悟しておけ」
異能力者というだけで、そんな簡単に認定されるものなのだろうか?
たしかに美夜さんも同じことを言っていたけど……。
犯罪歴の有無と書類と手続きを済ませるだけでなれるのか。
ーー面白くなってきたな、豊花。少しだけアドバイスをしておこう。瑠璃を守りたいと思うなら、きみは戦う術を身に付けるべきだ。今すぐにとは言わないが、河川ありすや葉月瑠衣にでも教えを乞うといい。ーー
……戦う術?
さっき、戦力になるだけの異能力が既にあるとも言っていたけど、それだけじゃ足りない?
いや、そもそも戦うために利用できる異能力なんて僕にあるのか?
「さて。いい加減、そこでイチャイチャしてる二人を美夜は適当な人間捕まえて検査してこい。私は杉井を連れて事務室で書類を書かせる。瑠璃は明日に備えろ」
「備えろって、どうすればいいんですか? それに豊花は……」
「葉月は総谷と河川に自分の指揮下に入れと伝えてこい。用が済んだら今日は休め。明日から忙しないぞ」
それぞれ皆、未来さんの命令にーー納得するか否かは別にしてーー従うのであった。
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