Episode229╱人食い家①
(340.)
2月16日、火曜日。
澄が襲撃に来なくなってから長いようで短い月日が過ぎてしまった。
緊張感もそこまで続かないようで、次第にだらけてしまっている。
はたして澄は本当に襲撃に来るのだろうか?
それはともかくとして、それ以前にさらなる悪夢に襲われている。
いつになったら生理に慣れるのだろう。
腹を抱えながら布団にとじ込もっている。
窓辺から見える景色には、小雨がしんしんと降っている。
きょうくらいサボっても大丈夫だろう。
「起きろ豊花!」
と、布団をひっぺがしてきたのは瑠奈だった。
「今日って何の仕事があるんだっけ?」
「巷で噂の人食い家の調査に行くんだよ!」
ひ、人食い家?
名前からして物騒な場所にはなるべく関わりたくないが、命令とあれば行かなくちゃいけないだろう。
歯を磨いて顔を洗い、みんなが集まるマンションへと向かった。
噂の家は郊外から外れた田舎寄りの街に建っている一軒家らしい。
愛のある我が家のマンションに着き、階段を上り玄関を開けると、きょうは舞香、沙鳥、香織、ゆき、瑠奈が待機していた
「コレで今作戦のメンバーは揃ったわねーーまずは、香織?」
「ひゃい!」
香織は相変わらずビクビクしているなぁ……。
「香織さんの仕事は噂の真偽をサーフェイスウェブでもダークウェブでも有用そうな情報を探して私たちに報告するのが仕事です」
舞香の代わりに沙鳥が補足する。
と、ここで疑問が湧いてくる。
「情報もわからないのにどうしてこんな依頼を受ける気になったの?」
「土地の持ち主からの依頼でして、報酬として大金を用意するから何とかしてくれーーと言われました」
「でも、持ち主は住んでいるんでしょ?」
「実は、持ち主はあるものを見てしまったとかで、現在ホテル生活をしているようなのです」
ふーん……って、あるものってなに?
「で、現地捜査にあたるメンバーは、瑠奈さん、豊花さん、ゆきさんのお三方です」
げ、現地捜査!?
「オカルト苦手なんだって! それに澄討伐作戦も立てなきゃいけないし」
第一あるものってなんだ?
幽霊やお化けと表現するよりも、あるものって表現されたほうが不気味さが増す。
「舞香さんは家の外を探索して、異様な物を発見したらすぐ連絡してください」最後に、と沙鳥は付け加える。「私はここにい残りです。皆さんがなにかあったら連絡してください」
仕事な気がしないでもないが……沙鳥は、まあ、リーダーとしての役割とはこういうものだと自分で自分を納得させる。
「本日に限り業務は終了。さあ、行動開始です」
そこは、郊外に建てられた古い民家のような屋敷だった。
辺りは畑などがあり、近場には山がある。
人通りはここに着くまで感じられなかった。地元住民は、ここを“人食い家”と云い恐れて誰も近寄らないのだという。
ーーつまり、今現在ここにいるのは舞香、ゆき、瑠奈、そして私の四人だけとなる。
「どうして人食い家なんて名前を付けられたの?」
まえまえから疑問に抱いていた質問を一番事情に詳しいだろう舞香に訊いてみた。
「入った住民の行方が皆見つからないのよ。だから人食い家。私は家の周りを探索するから、豊花たちは家の中に入ってちょうだい。なにかあったらすぐ連絡を寄越してね」
とだけ言い残すと、庭に生え放題な雑草をどかしながら庭の方へと進んでいく。
「だいたい扉なんて開くのかな?」
私は試しに引き戸になっている玄関に手を置いた。
ぞわっとする空気に一気に雰囲気は暗くなる。
玄関先の廊下には血痕があり、壁には読めない字で血だろうインクでなにやら書かれていた。
これを調査するのか……。
『愛のある我が家』編は幕間にいれようと思っていましたが、物語的に完結後のお話になるので一旦削除して最終章が完結したらオマケで付けようと思います。大変失礼いたしました。




