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episode226╱珍しい捨て猫

(338.)

 空はもう夕焼け模様だ。久しぶりに風月荘に帰還を果たしたのである。

 外見的には汚れていないが、中身は値ら肉の染みが散乱しているうえ、臭いも結構キツイ。


「さ、さっさとゴミの片付けしなきゃ」と瑠奈は一ミリも気にせず雑巾で床を磨いている。


 幸い、汚れているのは廊下なので助かる。

 瑠奈に習って洗剤で擦り付けた。


「あーあ。ダメダメ。こっちの血も落とす水タオル使いなよ」

「え、あ、うん」


 瑠奈の指示通り、まずは廊下を綺麗になるまで吹き続ける。

 壁の染みもついでに擦りピカピカに掃除しはじめた。


 なかなか染みは落ちてはくれないが、瑠奈曰く「このくらいかな~妥協点としては」と呟き「豊花は花の間、わたしは月の間、宮田は風の間。雪の間は不在だから火の間をつかってね? ……聞いている? 都」

「え、あ、はい。もちろんっすよ」


 一瞬逡巡した気がするが、気にせいだろう」


「各々の準備、訓練や対抗策を練るようにしておいてね。解散!」

「あのぅ……」


 そういえば、みこはこちら側についてきてくれているのだ。


「忘れてた忘れてた。みこは水の間ね」

「りょーかいしてあげますよぅ」


 みこはそれだけ残すと水の間に入っていった。


「今日からは鋭気を養って、いついかなるときに来るかわからない澄に対抗できるよう、各々訓練してといて? おっけい?」

「わかりましたっすよ。じゃあ早速風呂入りますんで」


 都は元男性だと未だに実感できていないのか、そのまま裸になりタオルを手に持ちよく洗浄に向かった。


「このままじゃメンタルがギリギリ持てないよ」

「大丈夫大丈夫! わたしは風界を覚えたし、舞香の転移能力は強い、沙鳥の読心は使えるし、みこだって怪力の神造人型人外兵器。勝てる確率は1%未満だけど、私たちならできるって!」


 うーん。瑠奈はよくハッタリとか話を盛るせいで、いまいち信用できないんだよ……って、成功率1%!?

 さらに体が震える。少し前までは味方だったというのに……。


「ちょっと風に当たってくるね」


 瑠奈は緊張している素振りを見せないけど、よくよく観察してみると手のひらな小刻みに震えているのをわかってしまった。


「大丈夫ですよ。こちらには神を抉る弾丸がありますし、豊花さんに神殺しの剣を持っているじゃないですか」


 宮田さんがフォローを入れてくれる。


「当たらなければ意味ないじゃん……わたしのも近接攻撃だから近寄らせてくれるのかすらわからない」

「当てられなければ、ではなく必ず当てるんです」


 宮田さんは強気だ。もう少し自分にも自信がほしい。


「もしも殺す気なら、私はあなたがたとは絶交ですよ?」


 まえまえから言っていたが、みこの依頼は澄を倒さずいかしておくことだという。


 しかし、しかし澄相手に全力を出せないと思うと、勝率は皆無に等しい。

 とはいえ、全員で力を合わせて立ち向かうのは無謀でしかない。全滅して終わりだろう。


 そんな相手を殺さず生かさずなど、格下の相手にしか通用しない。

 澄相手に効く異能力者は他にもいるのだろうか?

 と、なにを考えたのか瑠奈はベランダから外へと出ていった。

 まあ、いつもの奇行だろう。ほっとけばいい。

 しばらくボーッとしていると、扉が空いて瑠奈が現れた。

 ……その両手に抱えているやたらと大きなサイズの猫を運んできて……。


「このタイミングでねこ!?」

「だってリビングから外を眺めていたら、男女が捨てていったもん。悲しいじゃん……」


 それにしても、猫にしてはビッグサイズだ。

 メインクーンという猫なのだろうか?


『にゃ~』


 と見た目のサイズと似合っていない甘ったるい鳴き声を上げる。

 メインクーンなんておそらく野良にはいない。多分、捨てねこなのだろう。


「ただでさえ、花の間、雪の間、風の間、水の間、火の間ひとつずつ六畳間に猫はキツイっすよ」

「大丈夫! 短い廊下もあるし、首輪も着けていないうえ、バカップルが捨てたところを目撃して助けてあげようと思ったんだよね」


 なんたる安直な思い付きで行動するよね……。 

 猫に視線を向けると、猫はふいっと背後に振り向いた。

 この猫公こやつめ……。


「さて、どこの部屋を使おうかな~」

「瑠奈さんの部屋でよくないですか?」


 宮田さんが真っ当な問いをかける。


「わたしの部屋汚いから無理」

「床には一部生ゴミがあり、百合物のAVや女性主人公のギャルゲが散乱していたりーーとてもしゃないけど巨大猫の足の踏み場もないんだよ」

「…………じゃあ雪の間が不在なんでそこでよくないですか?」

「ひとりにするとか可哀想だよ!?」


 宮田さんは絶句してしまう。

 こうなれば、腹を括るしかないとなったのだろう。


「どうしても捨てたくないんですね?」


 こうして、宮田さんの自室が猫に侵略されるハメになったのであった。

 メインクーンが思いの外重くてなかなか運べずにいる。と、瑠奈が来て「仕方ないなぁ」と軽々しく瑠奈はメインクーンを抱えあげて、風の間に届け中に放流した。


「風のちからを使わなくてもあんなに筋力があるんですね。見た目華奢な女の子なのに」

「華奢な見た目……ああン!? ……まあいいか」


 ふと、猫に役立ちそうな物は皆無なことに気づいた。


「あの、猫砂やドライフードやブラシなんかは?」

「無論、自給自足。ま、せいぜい猫と戯れるんだよ。猫ちゃんの自室は風の間だけど、みんな自室に連れていって遊んでいいからね。廊下の移動も自由!」


 それだけ言い残すと、瑠奈が月の間に向かって扉を閉めたのを耳で察知する。

 だいたい、猫を育てたことなぞ一度もないのに、いったいなにをどうしろと?


 その晩、都が危惧していたような事態は怒らず、普通に猫と仲良く戯れているいるのが花の間まで聴こえてきたのであった。

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