Episode224╱No.6vs愛のある我が家vs残党
(334.)
夜鳥の死亡を確認したあと、私たちは赤羽さんに連絡を入れて一度帰宅することにした。
「うーぐるぐるする……」
瑠奈が流血している腹を抱え足を引き摺るように歩く。冗談ではなさそうなので肩を貸してあげる。
「瑠奈、もう少しで着くから」
「ありがと……すんすん……いい匂いがするねぇ……」
相変わらず瑠奈は瑠奈だった。
部屋の前まで辿り着くと、朱音が鍵穴を探し鍵を差し込む。
玄関を開けると、心配そうな顔をして私たちを出迎える沙鳥がいた。
「瑠奈さん!? 舞香さん、今すぐ煌季さんに連絡を」
「わかったわ」
舞香は沙鳥に言われスマホに耳を当てる。
「どうして傷ついたなら連絡してくれないんですか? 煌季さんの連絡先を知らなくても私たちに伝えるなどあったでしょう?」
「はは……勝利の余韻に浸りたくてね……みんなの仇……討ったよ」
「もう……」
珍しく沙鳥が瑠奈を心配している。
瑠奈はふらふらとアリーシャが寝ている元へ歩いていき、そのまま屈んでアリーシャに口づけをしようとした。
「ふふ……お姫様、あなたの騎士は頑張りました。死ぬならあなたの前で」
しかし、アリーシャはそれを手で制する。
「いい加減にしなさいーー」アリーシャは目を覚ますなり、瑠奈に言った。「貴女は上司である沙鳥に死ぬなと命じられた。使命を全うせよ」
「アリス……?」
「です。死穢を振り払い生還するまでご褒美はお預けです」
「……はい、お姫様。わかりました。その命、全う致します」
瑠奈はしゅんとなり、その場に座り込んだ。
珍しいやり取りだ。アリーシャがお姫様然とした対応も珍しいが、それを受けて丁寧な対応をする瑠奈はもっと珍しい。
影武者……というより偽物でも、こうした対応はできるのか。
そりゃそうか。一時期、ルーナエアウラさんに成り代わっていた時期もあるのだ。
成り代わり……?
「ねえ? ルーナエアウラさんがいなくなったのは悲しいけど、これを機にルーナエアウラに成り代わって向こうで活動しやすくなるんじゃない?」
「……たしかにそうだね。ボクも今同じことを考えていたところだ」
朱音が同意する。
「……断る。わたしはアリシュエールに仕える気なんてさらさらない。アリスだけの騎士なんだ。ついでに朱音の恋人。あと碧の彼女」
欲張りセットな女の子たち。アリーシャか朱音、碧のいずれかが嫉妬して他の子との関係を切ってと言い出したらどうなるんだろう?
まあ、碧は気にしないから付き合ってられているんだろうし、まだ貞操は無事だろうから大丈夫だろうけど。朱音からは瑠奈を性的に見ているわけではないし大丈夫だろうけど。
つまりアリーシャか?
アリーシャが一番なのか?
というか、朱音の貞操は大丈夫なのか?
アリーシャはもうアウトだろうけど。
チラッと朱音を見る。
「なんだい?」
「いや……その……朱音の貞操はまだ無事なのかなって」
言っている意味が伝わらなかったのか、しばらく朱音は首をかしげる。
と、少し考えて言っている意味が伝わったのか、瑠奈をチラッと見ると顔をボッと紅く染めそっぽを向いた。
ああ、これはダメそうだな……。
私は瑠璃のために貞操はしっかりしよう。うん。
沙鳥がスマホに耳を当てると、「煌季さんが到着したようなので迎えに出ます」と玄関を開けた。
そこには……。
「ははははは! こんなところに隠れていたのか! 探したぞ!」
煌季さんを人質にしているオレンジの長髪をした花飾りが目立つ少女が立っていた。
「貴女はーー!?」
沙鳥はバッと後退する。
「No.6……」
みこが呟く。
No.6?
つまりコイツが神造人型人外兵器No.6!?
「よおNo.3、なんでテメーが人間と仲良くしてるのかなぁ?」
「うるさいですよぅ。たしかにこんな脆弱な人間風情のゴミカスと一緒にいたくはないのです」
「ならとっととそいつらぶち殺して帰るぞ」
なんて乱暴な口調だ。見た目に合わない。背丈も私くらいしかないのに。
No.6は片手を上に翳す。するとオレンジ色の閃光が周りから集まってくる。しかし、みこはその手に向けて紅い閃光を放った。オレンジ色の閃光は狙いがぶれて天井を貫通した。
「テメー、なんのつもりだ、ああ?」
「このゴミカスたちは澄さんが大切にしているゴミカス、ただのゴミカスではないんです!」
くそ!
瑠奈が瀕死だって言うのに、なんてタイミングが悪いやつだ!
「それに……そこの瑠奈と豊花とかいう人間は認めてもいいです」
「はん。神造人型人外兵器で一番の役立たずだったテメーが調子に乗ってんじゃねぇぞ?」
「昔話を現代でされても……日本昔話ですかぁ? ぷーくすくす。神造人型人外兵器で一番雑魚だったあなたがなにをほざいたところで」
「オレは澄なんてどーでもいーんだよ。ただ、地球を汚染する人間風情が許せねーだけだ!」
と、No.6の頭がいきなりガクンと左右に揺れる。
なにかの衝撃が右から現れたのだ。
その隙にユタカが自然と神殺しの剣になる。私はそれを手に構える。
宮田さんが弾を拳銃に込め始める。
「あれ? 効いていない?」
この声は……!
敵対組織、佐田修二の声が聴こえる。
「待て。あれは愛のある我が家のメンバーではないよ」
神無月の声も聴こえる。
「チッ。挟み撃ちかよ。オレも舐められたもんだぜ!」
見えないーー。
閃光を溜めてから放つ速度が今までの神造人型人外兵器と桁違いだ。
「佐田くん!? 灰原!」
外から悲鳴が聴こえる。
「めんどくせーなぁ!」
No.6を中心に周囲上下左右360度にオレンジ色の閃光が放たれた。
家屋に貫通し、家がぐらつく。
幸い、私たちの前にみこが立ち塞がり、閃光を広げてシールドみたくしたため私たちは無傷だ。
宮田さんが拳銃を構えると、「チッ」と舌打ちし背後に大きく下がり煌季さんを手放す。その煌季さんに対して閃光を放つ。
「ぐぅっ!」
煌季さんの右腕が消し飛んだ。
だが、そこは煌季さん。即死しなければ問題ない。
すぐに腕の再生を始めた。
宮田さんと私は急いで外に飛び出す。それに仲間もつづく。
外に出ると、そこにはギリギリ危険察知の異能力で避けたらしき神無月と、心臓が穿たれて亡くなっている佐田、上半身が消し炭になりどこかへ消えている灰原と思わしき奴の姿もあった。
サラサラと辺りから粉が集まると、灰原が再生を始める。
そうか。灰原の異能力はたしか不死身!
「なんだなんだよなんですかぁ? その女といいそこの男といい、不死身のオンパレードってか? くだらねぇな、ああくだらねぇ」
「くだらないのはどっちですかぁ? 相変わらず速さしか取り柄のない神造人型人外兵器ですねぇ」
みこがNo.6の前に立ち塞がる。
「これは……どうやら来るタイミングをミスってしまったようだね、灰原くん」
灰原のからだが完全に復活する。
「ええ。まさか私たちの襲撃のタイミングに合わせて神造人型人外兵器が現れるとは……」
話を盗み聞きするにこうだ。
私たちを襲撃しようとしたところ玄関先にちょうど煌季さんと一緒にいた女の子が見えた。そこで先手必勝だと思い佐田修二の異能力を消す異能力で対象に指定して拳銃を放った。が……それは神造人型人外兵器だったと。
敵ながらタイミングの悪い奴ら……。
しかしーーどうやってあんな奴に近づいて剣を当てるか。宮田さんの拳銃に対する反応を見るに、既に手の内はバレている。つまり、油断してくれる相手ではない。
「黒河くん。てっきりやられたと思っていたら、きみはきみでいったいなにをしているのかね?」
神無月は、倒壊寸前の家からケホケホ咳き込みながら出てきた都に問う。
「悪いっすけど、どうやら私は愛のある我が家の仲間入りを果たしたみたいっす」
「きみはそれでいいのかね?」
「女臭い場所っすけど」都が両手に拳銃を出現させて神無月に向ける。「羽咲が死んだ今のこの状況、一番助かりそうなのはこっちなんすよ。悪いっすね?」
「裏切りらしい」
灰原が呆れたように頭を振る。
「テメーら……さっきからオレを無視してんじゃねーぞ!」
No.6が私たちから目を離して神無月に閃光を放つ。神無月は体勢を変えてそれを難なく避けた。
その隙に宮田さんが拳銃でNo.6に発砲する。
頬をかすり、少しだけ出血した。
「チッ。まずはテメーらからお陀仏にしねーとなぁ」
みこが前に躍り出る。
「貴女の相手は私なのですぅ」
みこが閃光を手に溜めるとグッと握り締めるように拳を作った。
「悪いっすけど、私の裏切りの事実を無くすため死んでくださいっす!」
都は拳銃を乱発しながら神無月に向かって駆けた。
「瑠奈、傷口を見せなさい」
「うう……」
解放され手が再生した煌季さんは瑠奈へと近寄る。
朱音がなにかを舞香に耳打ちする。すると舞香は朱音の肩を掴んでなにかの準備をする。
私はどうすればいい?
どっちの相手をするべきだ?
ーーいや、決まっている。
まずはNo.6を、みこに参戦してNo.6を討つことが最重要事項!
「ひひ! 強く出たなNo.3……テメーから殺してやるよ」
「速さしか取り柄のない雑魚がなにか言ってますよぅ。あなたの神造人型人外兵器内でのニックネーム知ってますぅ? 短距離走選手ですよ!」
みこが一気に距離を詰める。
No.6は怒りと笑いを含んだ表情でそれを待ち構える。
(335.)
バンバンと狙いの定まらない発砲音がつづく。
相変わらず都にエイム力は皆無。
「いくわよ、朱音? 生きて帰っていらっしゃい」
「わかってるよ。あいつは不死身以外に取り柄はない。つまりーーどうとでもできる!」
朱音の返事に頷くと、舞香は口を大きく開けた。
「都! いったん撃つのストップ!!」
「はい?」
驚いて発砲音が止む。瞬間、舞香は朱音を連れて転移する。
朱音と舞香は灰原の背後に現れた。舞香は灰原の腕を掴み、朱音は灰原に抱きついた。
「私は不死身だと言っているだろう? バラバラにされても死なないよ?」
「ええ。私じゃあなたに勝てないわ。だからーー朱音、後は頼んだわよ」
「ああ。生き地獄に招待するよ」
「……!? 待て! 灰原逃げろ!」
「遅い!」
寸刻、朱音と灰原の姿が消えた。
「貴様ぁぁ!」
神無月がナイフを取り出し舞香に狙いをつける。
舞香はそれを軽く避けると蹴りを穿つ。
それを神無月はギリギリ避けると、再びナイフを振る。
舞香は転移し距離を置いた。
「ちぃ! すまない灰原くん、佐田くん。ここは逃してもらうよ……」
神無月が逃げようとしたとき、急に視界が歪んだかのように神無月は倒れた。
「なん……だ……これは……!?」
神無月の視線の先に、手を神無月に向けて伸ばした瑠奈がいた。
「あんな男に抱きついた朱音も許せないけど、そうしないと勝利できない異能力者を連れてきたおまえも許さない」
「な、なにを……したぁー……!?」
「窒素濃度を上げただけだよ。おまえの周りの大気の」
瑠奈は煌季に治してもらう最中、成り行きを見ていた。
そこでひそかに詠唱し、風界を使ったのだ。
「いかに危機察知ができようと、どんな手を使おうとも、避けることができない攻撃には意味がないーー。まつりが豊花にやったのと同じ手法をやっただけだ」
「くっ……そっ…………」
「悪いっすね!」
都の銃弾が神無月を貫く。
数秒後、ついに神無月の息は途絶えた。
と、朱音が異世界から戻ってきた。
灰原の姿はそこにはない。
「朱音ぇ! あんなバッチい物に抱きつかなくてもいいじゃんいいじゃん!」
瑠奈はすかさず朱音の衣服をはたき抱きついた。
「ごめんよ」
「灰原は?」
「アリシュエール王国の遥か北上にある、極寒の無人島に置いてきたよ。あそこはモンスターもたくさん生息するから、素手の灰原は食われては再生を永遠と繰り返すだろうね。老衰するまで。さて」朱音は瑠奈を離すとみことNo.6が殴りあう姿に視線を移す。「あっちには手が出せない。近づいた瞬間殺されるだろうし、万が一異世界に移せても異世界で暴れられてしまう。宇宙に連れていき自滅しても、アイツなら宇宙でもしぶとく生き残りそうだ」
「ええ、あとはみこや豊花たちの活躍を待ちましょう。舞香さんは香織さんや鏡子さんを連れて避難しておいてください」
(336.)
みこが閃光を込めた拳をNo.6に振り抜く。それをNo.6は間一髪かわし、みこの腹部に見えない速度で閃光を放つ。みこに直撃するがかすり傷程度しか付かず、気にせず再度掌底突きを叩きつけようとする。それをギリギリ当たらない位置まで下がり、No.6は閃光を扇状に広げる。みこに一部を除き命中するが、閃光は貫かない。息を吐き再度拳に閃光を溜めて右フック、左フック、アッパー。それを避け、避け、頭を傾け避けるとNo.6は閃光をフラッシュライトのように一気に弾かせる。が、みこに当たる部分だけ光が広がらずにからだで受け止める。衣服が消滅し、みこは色気のない白色の下着姿になってしまう。また、ブラジャーはしていなかったのか、胸が露になる。が、みこは気にせず拳を振る。それをNo.6はなんとか避けた。
「あ、相変わらずちょこまか避けるしか脳がない雑魚ですねぇ?」
「はんっ! 大振りの攻撃ばかりの能無しが! テメーなんてオレの攻撃を一撃も避けていねぇ!」
「あははははは! 避ける価値がないから受けてやってるんですよぅ! みこの攻撃一発でも当たれば命が危ない癖に生意気ですぅ!」
「当たらなきゃ意味ねーんだよポンコツ!」
超近距離で殴りあいをしているせいで、迂闊に手出しできない。
「宮田さんと豊花さん」アリーシャがこちらに歩み寄る。「このままでは永遠と続きそうですー。私がやるので、みこさんが倒し切れなかった場合は二人がとどめを刺してほしいですー」
「へ?」
アリーシャは私の返事を待つ前に小さな口で詠うように詠唱を口ずさむ。
「素敵な夢を 始めよう 永久に終わらぬ幻が いま開始の音を奏でるーードリーミー」
スライム状の物体が辺りに散らばり現れた。
「ドリーミー、不埒な狼藉を働く蛮勇に残酷な夢を与えましょうーー同一化」
スライムがアリーシャの体に纏い付き肉体を覆うと、そのスライムから紫がかった銀髪に髪色が変わったアリーシャが飛び出した。
なんだろうーーアリーシャが同一化する姿自体初めて見たけど、ふにゃふにゃと頼りなかった少女の姿が、きらびやかなお姫様然としている高貴なお姿に変貌していた。
「珍しく本気ですーーばあ」
アリーシャが間抜けな声を出した瞬間ーー。
「なんだテメー、急に離れやがって! 痛みでも覚えたか!」
No.6が急にみこから視線を離し、なにもない方向に閃光を放つ。
「相変わらず避けねーな! 余裕ぶりやがって!」
「はあ? なにしてるんですかぁ?」
みこがそっぽに体を向けている真横からNo.6の腹部に向かって掌底を叩きつけた。
「ぐぼぅ!? な、な、なんでいきなり!? その距離からどうやって!」
No.6の腹部にポッカリと穴が空いた。
だが、まだNo.6は立っている。
その頭をみこが掴むと、閃光を手のひらから爆裂させた。
砂ぼこりのように紅い光の粒子がサラサラと崩れ視界が開けると、No.6の頭がなくなっていた。
そのまま倒れ、サラサラとNo.6が空気に消えていく。
「ああ……勿体ない」
瑠奈がなぜか悲しんでいた。
勿体ない?
たしかに美少女だったけど……勿体ない?
「なんかしましたよねぇ? アイツがせめぎあってる最中に目を逸らすとは考えられませんよぅ」
「はい。なんかしたんです~」
アリーシャとみこって、口調が似ているなぁ……。
瑠奈がアリーシャの肩を掴む。
「アリス! その姿のまま、一回、一回だけ!」
「……」
「おねがい! 一回でいいから、いや、先っぽ、先っぽだけ!」
「……同一化、解除」
アリーシャからスライムが辺りに飛び散り、元の姿に戻った。
「ああぁ……ぁぅ……」
「瑠奈には見た目に惑わされてほしくないです。私が可愛くなかったら好きじゃないんですか~?」
「うぐっ、いや~その、そんなわけ……あは、あはは……」
そんなわけあるだろうが。
「さて、No.6を倒した今、残るのは……澄さんだけです」
沙鳥は歩み寄りながら言ってくる。
そういえば……と神無月に目をやると死体に変わっていた。
……神無月……私が倒したかったけど、仕方ないか。
灰原も姿を消していた。
今ここにいるのは、私を入れて、沙鳥、瑠奈、都、朱音、アリーシャ、みこ、宮田さん、煌季さん、ゆきの10人だ。
香織と鏡子は舞香が連れて少し離れた位置に避難しているらしい。
「とりあえず、もはや敵対勢力は刀子さんらに任せた陽山月光と月影日氷子の二人と、あとは転移能力の高橋夏姫のみ。私たちの敵ではありません。みんなで愛のある我が家と風月荘に戻り復旧作業に入りましょう」
沙鳥に言われ、私とみこと宮田さんに加えて都も風月荘を使うことになるらしく、そこに戻ることにした。
……血の染みとか綺麗にしなければいけないなぁ。
気が向いた方は本作の登場人物が登場する・世界観が同じ他の拙作の『幽霊の幽』『雑貨屋店主の裏商売』『百合海岸』もぜひご一読ください。
また、本作完結後の愛のある我が家のメンバーひとりひとりをテーマに書く予定の作品を、現在本作完結後に外伝として繋げるか、別作として『愛のある我が家』というタイトルで書くか迷い中です。そちらも投稿しはじめたらよろしくお願いいたします。




