Episode223╱風vs氷(後)
(333.)
室内には羽咲と瑠奈、みこ、朱音、倒れたまま動かない夜鳥、そして私の六人がいる。
いくら広い部屋だからといって、五人もいると手狭に感じてしまう。
「さあ、氷の世界に包まれて亡くなりなさい」
空気の気温が一瞬で下がり、室内にはきらきら光る小さな小さな氷の結晶がちらちらと漂いはじめる。
しかし瑠奈も負けじと、空中に散布してある氷の結晶を風の刃ーー鎌鼬で次々と切り裂き破壊していく。
「みこも手伝うのです~」
みこは言うより早く羽咲に猛スピードで駆け寄る。
しかし羽咲は動じない。
みこは拳に閃光を集め、羽咲の腹部に目一杯の力で突いた。
「つっ!?」
悲鳴を溢したのは羽咲ではなくみこだった。
みこの拳が腹部に当たる直前、羽咲を守るように薄い氷の膜が現れたのだ。それにより拳を氷に強打したことにより、逆にみこのほうにダメージが入ってしまった。
羽咲は再び氷柱を十本程度床から無造作に創造した。
瑠奈はその隙に羽咲本体に対して風の刃を当てようとする。
しかし、瑠奈の狙いは何故か逸れてしまい、生まれたばかりの氷柱のほうに風の刃は命中する。氷柱は破壊され地面にガラガラと崩れる。
こうしているうちにも、私と朱音はなにもできていない。
それが歯がゆくて仕方ない。
「そろそろ本気を出しましょうか?」
羽咲はまだ全力を出していない。
どうにか手立てはないのか……?
みこが羽咲から距離を取り、手のひらを上に翳す。そこに周囲から見えないなにかが集まり、やがてそれが赤色の閃光の塊だと理解できた。
「今の羽咲は同体化したことで、氷界は使えない状態にある。逆にわたしは同体化しない変わりに風界を維持できる! 地球上すべての大気はわたしの手のひらにある!」
瑠奈は羽咲に対して何度も何度も何度でも風刃を放ちつつ、無造作に羽咲の周辺に鎌鼬を発現させ、風刃を避けた先に鎌鼬があることで左右を塞ぎ、風刃から避けられないようにするためである。
しかし、辺りに散布した鎌鼬も、本体を狙っていたはずの風刃も、すべてがすべて羽咲が創造した氷柱に命中してしまい、本人は至って無傷だ。
そして、みこは閃光が溜まり次第、羽咲に対して一斉に閃光を放つ。
しかし、まるで最初から氷柱を狙っていたかのように、無造作に放たれた閃光はすべて氷柱に当たってしまう。
「つまらないですわね、ええ本当につまらないです」
羽咲は氷で剣を創造して、その氷の剣を手に取った。
「せめてもの慈悲ですわ。私自ら引導を渡してあげましょう」
羽咲は、閃光や風の炸裂を一切無視してこちらに向かって歩きはじめる。
その足取りは、まずは瑠奈に向かっている。
「やれるものならやってみな! わたしには物理攻撃なんて効かないから!」
瑠奈も風の剣を創造して迎撃に備える。
瑠奈の目の前に来た羽咲に向かって、瑠奈は風の剣を薙ぐ。
しかし、カキンと弾かれてしまう。氷の壁があるかぎり羽咲に攻撃は届かない。
「あなたと同じように物理的な攻撃なんてまるで無意味ですわ。ええ無意味ですわ」
ついに羽咲は瑠奈の腹部に氷の剣を刺した。
「ぐぼぇ!?」
瑠奈は吐血し、地面に倒れ伏せてしまった。
それ以降動いておらず、生きているのか不安になってくる。
ーー待てよ?
物理攻撃が効かない?
……ユタカ? 神殺しの剣に変態してくれないかな?
ーー私も同じ考えをしていた。相手は余裕ぶっている。チャンスは一度きりだぞ?ーー
私はユタカに神殺しの剣に変身してもらい、剣を両手で構えた。
「あらあら、そんなちゃちな攻撃で私を倒せるとでも?」
「やってみなくちゃわからないだろ!」
みこが閃光を羽咲に放つ。羽咲は無傷だろうけど、閃光のおかげで視界が遮られた。今の瞬間がチャンスだ!
私は初撃で決めるために、弱点である心臓を神殺しの剣で穿つ。
結果はーー。
「な!? ごぼっ!?」
見事に命中した。
物理攻撃も精霊操術も効かないなら、最終手段はこれしかない。
「なんなのよ……その剣は……」
「神をも貫く神殺しの剣だ。いくら最強の精霊操術師だと言え、神すら貫く剣には勝てない」
「……そんな……ばか……な…………」
想像よりも呆気なく勝敗は決してしまった。
相手が油断しきっていたのが勝因だろう。
「結局、豊花に助けられちゃったね……やっぱりわたしひとりじゃ無理だったんだ」
血塗れでふらふら立ち上がってきた瑠奈は、悔しそうに言葉を吐き捨てる。
「でも、もしも羽咲が全力を出していたら倒せなかったよ」
今回の羽咲は完全に舐めくさっていて、手を抜いておちょくるように戦っていた。
それが痛いほどわかる。
澄と羽咲の戦いのときみたく、激しい攻防は繰り広げられなかったから……。
「まあ、ボクの出番がなくてよかったよ。もし危なくなったら羽咲を捕まえて異世界の宇宙に転移して、自分共々宇宙の藻屑になる予定だったしね」
朱音はなんて恐ろしいことを言い出すんだ……。
こうして、予想していたよりも呆気なく、羽咲との決着はついたのであった。




