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Episode220╱黒河 都

(330.)

 目の前にいる血塗れの衣服を着たセミロングの髪の少女が、パチッとまぶたを開き意識を取り戻す。


「あれ……私は死んだはずっす……傷がない……?」


 少女ーー黒河(くろかわ) (みやこ)は自身のからだを見て呟く。

 だが、すぐに目の前に敵である私たちがいるのに気づくと、ハッとしたようにまつりのほうに目をやった。

 そこには亡骸となった仲間の姿。


「私になにをしたんすか?」

「煌季さんに回復してもらいました。運良くまだ虫の息だったので、煌季さんに貴女だけ助けてもらったのです」


 沙鳥は返答する。

 この場には私を含め舞香と朱音、煌季さん、沙鳥、宮田さん、そして上半身を上げて沙鳥を睨む黒河の七人が揃っていた。

 あのあとすぐに朱音のスマホに連絡が来たのだ。

 煌季さんを連れてきてほしいーーと。そしてもしも言われたことを守らず着いてきているメンバーがいるなら、既に用件は済んだので一緒にこちらに来てくださいーーと言われたらしい。

 着いてきていることがバレていたのか、たまたまなのかはわからないが、朱音は一旦煌季さんを連れてくると、そのまま私たちを連れて大通りまで降りてきたのだ。


「礼は言わないっすよ?」

「ええ。貴女を生かしておいた理由は、貴女の仲間の居場所を吐かせるためですから」

「!?」


 黒河は焦った表情を浮かべ「拷問されても言わないっす!」と拒絶した。

 しかし相性が悪い。

 沙鳥には拷問など不要なのだ。

 沙鳥に質問された答えを少しでも脳裏に描いてしまったらしく、沙鳥は「ありがとうございます。わかりました」と頷いた。


「どうやら一ヶ所に纏まっているわけではないようです」

「だから居場所がなかなか把握できなかったのか……」


 黒河は沙鳥の異能力を思い出したのか、しまったと舌打ちする。


「細かい住居は?」

「……くそっ! 想像しないっす!」

「貴女は無意識の恐ろしさを理解していないようですね? 人間の意識とは無意識に支配されています。条件反射で命を守ろうとするのも、倒れた際両手を地に着くのも、考えたくないのに考えてしまうのも、それらは無意識に抵抗する術を生物は持たないからです」まあ、と沙鳥は続けた。「美夜さんなどの魔術師は意識によって意志を操る術を磨いていますから、人類が皆無意識に支配されているとは言えませんが、それでも極僅かな者たちのみです」


 美夜さん、自称が現代の魔術師と言うだけの技術はあったのか……。

 たしかに、沙鳥の言うとおりひとは、ひとに限らないが、無意識に支配されているといっても過言ではない。


ーー私が昔、豊花の思考に入り込んだのは無意識領域から下る思考の産物だ。いまは神のちからによって私にも肉体があるためわざわざ無意識を操作する必要はないが。ーー


 なるほど。ああやって思考が途切れていた理由は、ユタカが無意識を操り言語を発していたからか。


「……そうですか。残念です」沙鳥はしばらくすると頭を振る。「どうやら自身以外の住居は仲間にも教えあっていないようですね。連絡のやり取りで集合したりしているみたいです。それでも数名の住居はわかりました。羽咲と夜鳥は現在同居しているようですね。場所もこの近場です。月影と陽山も同居しているのはわかるのですが、場所まではわからないと」


 それじゃあ実質、こちらから攻め込むのは無理だ。

 夜鳥はともかく羽咲までいるとなると、瑠奈が鍛えて帰還するまで待つしかない。それはいったい何時になるのかがわからない。

 でも月影さんと陽山が同居しているのは前々から薄々わかっていた。

 以前に出会ったときも二人セットでいたし……敵にまわるとは思っていなかったけど。


「それで、貴女には二つの選択肢があります。私たちの陣営に本心から下ると約束するか、この場で自害するか」

「私がおまえたちを全滅させてもいいんすよ?」

「私だけならともかく、舞香さんや豊花さんもいるのにまとめて殺せますか? 貴女は本心から死にたくないと思っている。それに貴女は恨み妬みによる敵対意識が薄い。どうしますか?」

「……」


 黒河は考えるように頭を抱える。

 二つの選択肢を与えられているようで、実際にはもはや選択権など黒河には存在しないのだ。

 死という避けられない未来を選び無謀な特攻をするか、本心から裏切らないと約束して仲間になり生を選ぶか。

 そして沙鳥は既に黒河が死にたくないという本心を読心している。

 選択肢はあってないようなものだ。

 一見相手に自由を与えているようで、本当は自由などない。


 昔、鏡子も似たように敵対組織から仲間になった。今じゃ仲間意識は人一倍強くなっているように思える。


「貴女は運がいいです。女性であり異能力者であること、お金で入ったから仲間意識が薄いこと。これらで愛のある我が家に入れる可能性があるのですから」


 たしかに、宮田さんは男性がゆえに正式には愛のある我が家ではない。


「……羽咲はどうするんすか? 私の給料は?」

「羽咲は無論倒しますし、都さんの給料もきちんと支払います」

「わかったっす。仲間になるっすよ……」


 黒河は諦めたようでおもむろに頷いた。

 沙鳥は心中を読んでいる。少なくともいまこの瞬間、黒河ーーいや都は、裏切らないでこちらの軍門に下ると本心から発言したのを把握したのだろう。


「では、帰りましょうか」


 こうして、まつりと歌月十夜は死に、都が新たに仲間に入ることになった。


「さて。ボクはそろそろ瑠奈の様子を一度見に行くことにするよ。いくら草原だからといって、なにも食べない寝ないでいることはできないからね。向こうの通貨は渡してあるけど、十分とはいえないし」

「わかりました。あまり負担は受けたくないとのことですし、私たちは歩いて帰りましょう」

「ありがとう、そうしてくれると助かるよ。それに……いざというとき瑠奈をこっちに連れてこないと、ボクは自滅技を使えないからね……」


 朱音は沙鳥の返事を聞くと、気になることを言い残し、すっと姿を消した。

 じ、自滅技?


「豊花さん、朱音さんの異能力は進化しました。それにより、相手を捕まえ数秒捉えていられれば自分ごと敵を殺す技がつかえるのです」

「……は、はあ」

「まあ、マナの補填ができなくなりますし、仲間である朱音さんを死なせるような技、ぜったいに使わせませんが……」


 よくわからないが、神風特攻のような必殺技があるのだろう。

 こうして、私たちは黒河 都を連れアジトへ帰宅したのであった。

 

 


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