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Episode217╱不倶戴天の敵

(325.)

 私たちは鏡子の情報を頼りに敵対組織の三人の足取りを追っていた。

 繁華街に出たとき、ついに神無月、風香、みきの姿が視界に映る。


「まずいわね……こんな人通りの多いところじゃ攻撃できない」


 舞香の言うとおりだ。

 こんなところでドンパチを繰り広げたら大騒ぎどころでは済まない。

 ということで、三人が人通りの少ない場所に行くまで追跡をつづけることにした。


 と、人通りがそこそこ減ってきた道に入ったそのとき、三人が急に駆け足になった。

 まずい!

 おそらく追跡していたのがバレたのだ!


 神無月と風香の二人は近場にあった廃ビルの中に入った。

 逃げ場がないのにどうして……かかってこいという挑戦状なのだろうか?

 それに対してみきは人気のない道をひたすら走っていく。


「ゆきはみきを追って! 私たちは私たちで因縁のある二人を倒しに行くから!」 

「わかった」


 ゆきは返事をしながら、駆け足でみきを追いかけはじめる。

 私と舞香はそれぞれターゲットにした人物が入り込んだ廃墟となったビル内へと侵入した。


 辺りを見渡しながら、一階にはいなさそうなので二階へと向かった。

 二階は窓ガラスがすべて吹き抜けになっており、外からはやや強めの風が吹いている。


 そのエリアの中心には、暗闇 黒ーーいや、神無月が両手を広げ佇み待ち構えていた。

 神無月から離れた位置には舞香の宿敵、風香も待っていた。

 誘い込まれたのだろうか?

 だけど、どちらにせよ問題はない。

 私は許せない敵をぶん殴るだけだ!


「よく来たわね? 犯罪者の舞香。私の指導も無意味だったのかしら?」

「風香姉さん……あなたのそれは指導とは呼べない! だいたい貴女たちだって犯罪者じゃない! 同類よ!」


 舞香と風香が言い争う声が聴こえてくる。


「よそ見しててもいいのかな?」

「!?」


 直後、神無月のストレートが腹部を狙う。

 直感で背後に一歩下がり避けると、私はスカートからナイフを取り出し切り裂くように振るう。


「それは危ないね」


 神無月は私と似たような能力。つまり、両者ともに攻撃が入らない!

 神無月と切りあいをしている最中、風香の声が耳に届く。

 

「あら? 私たちは正義なのよ? 神造人型人外兵器を倒す予定だし、あなた方みたいな犯罪にも手を染めていないわよ。落ちたものね、舞香」

「この……!」


 舞香はなぜか手を出さない。

 いや、出せないのだ。

 過去のトラウマが原因で、からだが密かに震えている。


 神無月にナイフの切り突きを避けられ、逆に神無月の拳や蹴りを避けていく。

 永遠に決着がつかないんじゃなかろうか?


「少し、話を聞いてもらおうか」

「なんだと?」


 神無月は姿勢をそのままに言の葉をつづけた。


「我々の目的はね? 神に滅ぼされるかもしれないというのに呑気に暮らしている危機感のない君たちを倒して、神に対抗するための力“神の弾丸”を手にした青年を仲間に入れることなのだよ」

「戯れ事を吐くな! なら私たちの命を狙う必要はないだろう!?」


 神無月は懐かしいなにかを見るように宙に視線をやる。


「私はそうではないのだがね、私は私を教育部併設異能力者研究所から救いだしてくれた仲間に対して恩を感じているんだよ。だからその恩を返すためには、ちからを貸さなければならない」

「それがどうしたら私たちを狙うことに繋がるんだよ!?」

「私の恩人には君たちに怨みを持つ者が多い。それがひとつめの理由だよ」


 言い終えた神無月は再び横蹴りを入れてくる。

 そこに予めナイフを配置して切り裂けるように設置したはずが、神無月は異能力で咄嗟に蹴りをやめると、拳をまっすぐ打ち込んできた。

 数歩バックステップをして、ナイフを逆手に握り直し再び神無月に駆け寄る。

 再び両者ともに致命傷を与えられない戦いが繰り広げられる。

 戦いながら、舞香の様子をチラ見する。


「せっかく暴力で躾をしてあげたのに犯罪者に成り下がってしまって、姉として情けないわ」 

「……それは……姉さんが!」

「あなたの犯罪者仲間を捕らえたら少しは改心するかと思いきや、リベリオンズと殺し屋の力を借りてまで異能力者保護団体に侵入し、そればかりじゃ飽きたらず、止めに行こうとした私を、あなたが雇った殺し屋に殺させるのだもの。心底幻滅したわ」


 舞香にそんな過去があったのか……。

 神無月と当たらない同士の戦いを繰り広げながら、舞香の壮絶な過去にどうしても意識が持っていかれてしまう。


「でも、風香姉さんは死んでいなかったじゃない!」


 舞香は震える拳を握りしめながら追求する。


「ええ、確かに“殺されかけたわ”。詰めの甘い殺し屋だったこと。やはりクズのあなたが雇うような殺し屋ね?」

「この!」


 舞香は弱々しく異能力を使わず風香の顔を殴り付けた。


「あれから誓ったのよ。いずれ、あなたを確実に殺してやるってね。だから舞香、お姉さんのお願いを聞いてちょうだい?」


 舞香は顔を真っ青にしている。

 相当苦しい過去があり、トラウマになっているのだろう。

 異能力を使えば一発で終わらせられるのに、それをしないでいることでそれがわかる。


「風香くんも残酷だね。舞香に植え付けたトラウマがある以上、風香を殺すのなんて無理だと言うのに」神無月は距離を取るとつづけた。「さあ、舞香の自害を見物でもしようじゃないか」

「ああ……あああ!」


 舞香は過去をフラッシュバックしてしまったのか、顔面を真っ青にし、全身をガタガタ揺らし、ついにはスカートの内側からナイフを取り出し、自身に向け始めた。

 トラウマとはこうも恐ろしいものなのか!?

 ……っ!

 私は舞香を止める。だって、悲しむひとがいるじゃないか!


「舞香! 自分を愛してくれている沙鳥や、風香を倒すと期待してくれている仲間を裏切るつもり!? そんな過去の経験何て関係ない。舞香にはもう、沙鳥がいるのだから!」

「何を無駄なことを叫んでいるのかしらね? さあ、舞香。死になさーーえ?」


 気がつくと、舞香の震えは止まっていた。

 ナイフを地面に放り捨て、風香の肩を掴む。


「舞香! あんたまさかーーっ!?」


 次の瞬間、風香の胴体と下半身が分裂した。


「そうよね……今の私には沙鳥がいる。仲間がいる! 過去のトラウマなんて、もう関係ない! さよなら、風香姉さん。貴女に相応しい末路だったわ」


 神無月が驚いた表情を浮かべる。

 舞香もこちらに加勢に来る。

 一気に神無月が劣性になった。

 舞香が転移し神無月の背後に周り、肩に手を振れようとする。


「それはとても危ないな」


 肩の位置をずらして移動し、私に向かってくる。


 ーーそのときだった。


 吹き抜けになった窓からスナイパーライフルらしき狙撃銃が放たれ、危機察知ですら避けられない速度の銃弾に、神無月は避けたつもりが肩に少しかすってしまう。


「三対一はいくら私でも分が悪い。逃げさせてもらうよ」

「待て!」


 神無月を追おうとするが、二階から一階に飛び降り上手く着地し、人混みに上手く紛れて逃げられてしまった。


「私の空間置換でも、あの人混みのなかじゃ迂闊に近寄れないわね……」

「ん?」


 スマホが鳴っていることに気がつき電話に出た。


『至急、鏡子さんのちからを借りて刀子さんに狙撃を依頼しましたが、どうなりましたか?』


 なるほど。あのスナイパーライフルによる狙撃は刀子さんのだったのか。

 あの人、刀もナイフも拳銃も体術も歩法も狙撃もなんでもできるじゃないか。さすがは異能力者でも恐れる殺し屋なだけはある。


「ごめん。せっかく倒せそうだったんだけど、寸でのところで逃げられちゃった……舞香は風香を倒せたんだけどね。不甲斐ないよ」

『そうでしたか……ですが敵対勢力を減らせたのはプラスです。鏡子さんが言うにはゆきさんが苦戦している様子ですので、すぐに援軍に向かってあげてください』

「わかった。すぐに行くよ。地図はスマホに送っておいて」

『はい。それではお気をつけて』


 通話を切り、舞香に事情を説明する。


「ここって、この近場にある人通りの少ない通路にある空き地だわ」

「ってことは場所はわかる?」

「ええ、すぐに向かいましょ」


 私たちは風香の亡骸を放置し、ゆきの居場所へ急いで向かったのであった。






(326.)

 空き地に到着すると、そこでは汗ひとつかいていないみきと、ぜえぜえと苦しそうに息を吐き出しているゆきが向かい合って対峙していた。


「ま……な……ふ……た……」


 相変わらずみきはなにを喋っているのかわからない。

 だけど敵は敵だ!

 いくら身が女児だからって、澄よりは年上だ。全力で行かせてもらう!


「我と契りを結びし火の精霊よ 私にとっての光となる炎よ 我にちからを貸してくれ フレア!」


 詠唱後、フレアが隣に現れる。


「フレア、いくよ? 同一化!」


 私はフレアと同一化すると、身体の周りに火が渦巻く。髪の毛も真っ赤な火のような色に変わっているのが見なくてもわかる。

 舞香はその直前に、みきの近場に転移した。

 みきの腕を掴もうとするが避けられ、負けじと肩を握ろうとするが、あと一歩のところで強烈な蹴りを喰らい、舞香は勢いよく吹き飛ばされた。


「舞香! 大丈夫!?」

「大丈夫だから早くあいつを……ごほっ!」


 骨くらい折れていそうな苦しげな声。

 でも今は舞香を心配している場合ではない!


 私はマナを過去最大に溜めに溜めて、一気に相手に対して火球を放つ。

 しかしみきは火を避けた。が、その隙にゆきの突きが軽く当たる。


「た……ぶ……こ……に……げ……」


 みきは多勢に無勢だと感じたのか、背を向け逃走を図る。

 その背中に対し、ゆきは超速でみきに接近。

 このまえのお返しとばかりに、逃げようとしたみきの背中に強烈な突きを突っ込む。超速での突きは、みきの背中から腹部にかけて穴をポッカリと空けた。

 みきは地肉を流しながら、その場で倒れ込んだ。


「来てくれて、ありがとう。一人じゃ、危なかった」

「なにいってるのよ、仲間なんだから助けに来るに決まってるじゃない」


 舞香は笑顔でそう答える。


 三人共満身創痍になりながらも、一人こそーー神無月こそ逃してしまったが、敵対組織の内、二人は倒せた。

 しかし、たった一人のみきに対してこうまで苦戦するなんて……私は自身の実力不足を強く感じた。それは舞香もゆきも同じように考えているのか、表情は明るくない。


 なにはともあれ仕事は終えた。



 結果を報告するためにも、私たち三人は帰路に着くのであった。

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