Episode215╱襲撃、未知数の敵
(322.)
「作戦のつづきです」
沙鳥は月の間を間借りして、集まったメンバー全員ーー私、瑠奈、舞香、鏡子、香織、ゆき、朱音、アリーシャ、みこに視線を巡らせる。
雪と結愛が欠けてしまったことにより、今の愛のある我が家のメンバーはこれだけだ。そこを穴埋めするかのようにアリーシャとみこが肩を並べている。
「現在判明している敵対組織の人員の名と異能力は以下のとおりです」
沙鳥はたくさんの敵対組織のメンバーの名前を書いていく。
名前の隣に、判明している異能力も記載してあった。
・まつりーー見えない拳で遠距離から相手を殴る異能力。
・羽咲ーー氷を操りなんでもできる敵対組織の最大の戦力。精霊操術師。
・夜鳥ーー目を見た相手に精神毒性とやらを与え窒息させたりできる。
・青海風香ーー今の段階では不明だが異能力者ではないかもしれない。
・陽山月光ーー快楽殺人を嗜む殺し屋。
・月影日氷子ーーなぜか敵対組織の味方に付いている異能力者。
・みきーーゆきと同格かそれ以上の怪力を扱う異能力者。
・高橋夏姫ーー周りを巻き込み転移する異能力者。
・灰原直人ーー噂によると不死身らしい。
・名称不明ーー能力は不明だが強力な異能力者の雪を殺害した人物。
「現在判明している敵対組織の相手は10名です。それに対して、愛のある我が家のメンバーはみこさんとアリーシャさんを入れたとしても10人です。さらにこちらには戦いに参加できない異能力者もいます」
香織と鏡子、朱音は申し訳なさそうに地面に顔を向けた。
「神無月も入れたら11人にならない?」
「すっかり忘れていました……だとすると全部で11人……せめて宮田さんが帰ってきてくれていたら戦力が増えるのですが、現在私用で遠方に出掛けています」
「こういうときにいないなんて、本当に役に立たないやつ」
瑠奈がぐずぐず愚痴る。
「ですが私たちは精霊操術師である羽咲を倒すことはできません。ですから、羽咲さんと戦ってもらうのは瑠奈さんーー」
「ちょっと待ってよ! このあいだ大敗したのを覚えていないの!? わたしはまだ羽咲に対抗する技を習得していない!」
沙鳥は見透かしたように指を振り、「あなたひとりで戦えとは仰っていません」とつづけた。
「どういうこと?」
「強敵には強敵を。瑠奈さんはみこさんと共闘して戦ってもらいます」
「はあ? こいつとツーマンセルを組めだって!?」
「なにか不服でしょうか?」
「不服以外なにもないよ」
瑠奈は自身に散々舐めた態度を取ってきたみこと力を合わせることがそうまで嫌なようだ。
「嫌ならみこがひとりでたおしてあげてもいいですよぅ?」
みこは相変わらず甘ったれた口調で提案する。
「羽咲を甘く見ない方がいいです。みこさん、あなたひとりで行ったら十中八九負けますよ」
「なんでですぅ~」
「羽咲は一度、あなたの親愛する澄さんと戦い、互角の戦いを繰り広げていたほどの実力者です」
「澄さん……が……?」
みこは予想以上に衝撃を受けたのか、困惑した表情を浮かべる。
「瑠奈さんは羽咲と対峙するまえに、必ず羽咲に対抗できるとされる最奥の技術を扱えるようにしておいてください」沙鳥は一拍置く。「最強の奥義を身につけた瑠奈さんと、元より強力なみこさんの二人がかりで挑めば、まだ勝算があるはずです」
沙鳥にそう言われて、瑠奈は苦悩する様子をしながらも、今のままでは絶対に勝てないと悟ったのか、仕方なく頷く。
みこは「足だけは引っ張らないでくださいよぅ?」と挑発しながらも同意した。
これで羽咲に対抗する術は整った。
「次は陽山月光や月影日氷子などの敵ですが、この方たちは殺し屋三人組に任せましょう」
「それがいいわね……少しお願いがあるんだけど」
舞香は珍しくしおらしく沙鳥にお願いだと口にした。
誰か特定の相手を倒したいのだろうか?
「なんでしょうか?」
「私はトラウマを乗り越えたい。だから、青海風香は私に殺させて」
舞香の瞳には並々ならぬ覚悟が宿っていた。
沙鳥はため息をつくと、「まあ、私も因縁の相手を殺害する予定ですし……」と独り言を溢したあとに口を開いた。
「いいでしょう。青海風香の討伐は舞香さんに一任します」
「ありがとう……これで、長年苦しめられてきた雪辱を果たせるわ」
どのようなトラウマがあったのかは知らないが、舞香を見ると憎悪がこちらまで伝わってくるようなオーラを発していた。
「さて、ゆきさんはみこさんに鍛えられたことですし、貴女の相手はみきです。くれぐれも油断せずに取りかかってください」
「うん、わかった」
ゆきは素直に頷いた。
前回あっという間にやられてしまったことが悔しくて仕方ないのだろう。
「灰原直人への対抗策は今のところありませんが、教育部併設異能力研究所から森山? さんでしたか。異能力を無効にする彼のちからを借りることができれば、厄介な相手ではなくなる。それを前提として灰原直人の件は一旦置いておきましょう」
沙鳥は話し終えると、書き出した敵対組織のメンバーを見つめ、誰を誰に担当してもらうのか熟考しているのだろう。
あれ?
ふと気づいたけど、私の役割がまだ決められていなくない?
そう考えていたのが読心されたのか、沙鳥はついに私の名前を挙げた。
「豊花さんには少々荷が重いかもしれませんが、襲撃してきたうちのひとりの夜鳥と、雪さんを殺害した犯人を見つけ次第、倒していただきたいのです」
「二人も!? だいたいどうやって居場所を見つけるのさ?」
「頼れる仲間がいるじゃないですか。香織さんと鏡子さんという」
香織は少々照れながら頭を掻く。
そんななか、まだなにも役割を与えられていない鏡子が手を挙げた。
「私は……いったい……どうすればいいのです……か?」
「鏡子さんは豊花さんがひとりで対応できない状況に陥ったときに異能力を用いて豊花さんの居場所を特定し、救助に行ってください」
「で……でも、私なんかが言っても……足手まといにしかなりません……」
そんな落ち込む鏡子の肩を、ポンッーーっとやさしく叩く。
「貴女には戦う力があります。以前の旅館で発揮できた力です。それで豊花さんをサポートしてあげてください」
鏡子は自信がないようだが、沙鳥に見つめられつづけ、ついには根気に負けて弱々しく頷いて見せた。
最後に残るのは、まつりひとり。私でも歯が立たなかった相性最悪の相手だ。
皆は既に役割を与えられた。
いったい、誰がまつりを担当するというのだろう?
「朱音さんは鏡子さんや香織さんの側にいて、ピンチに陥っている判断したら、すぐに二人を異世界を経由し転移して逃げてください」
「うん。わかったよ。任せてくれ」
朱音は戦闘向きではない。だからまつりの相手になることはないだろう。
だったらなおさら、まつりは誰が倒しに行くんだ?
「最後のまつりですが……私自ら相手になります」
「ちょっと沙鳥!? あなた正気なの!?」
舞香が驚くのも無理はない。
愛のある我が家メンバーで最弱を争うくらい貧弱な腕力しかなく、戦闘面で役に立つ異能力も持ち得ていない。
どうやって戦うというのだ。
「ご安心ください。きちんと大海組組員に護衛をお願いしています」
「でも……」
沙鳥はグイッと顔を近づける。
「私の因縁の相手なんだ。私が報復しなくてどうする」
沙鳥は本気だ。
その鋭い目付き、真面目な表情、本気なのが伝わってくる雰囲気を感じとり、沙鳥は冗談でもなんでもなく、本気でまつりを殺害するつもりだというのがひしひしと伝わってくる。
皆もそれで沙鳥の本気が伝わったのか、それ以降反論する者はいなかった。
と、唐突に玄関からガラガラと開く音がした。
誰か……刀子さん辺りでも来たのかなと自室の扉を開けようとしたとき、嫌な予感がした。
いつまでも扉を開けない私に痺れを切らしたのか、大家である瑠奈が扉を開け、その勢いで私まで廊下に押し出されてしまった。
ーーそこにいたのは、見知らぬ男女三人の姿。
直観が告げる。こいつらはヤバい……と。
「みんな急いで廊下に出て! 敵襲かもしれない!」
確証はないが、私の直感はそうだと告げてくる。
私の声に誘われて、寝ているアリーシャを除いた私、沙鳥、瑠奈、舞香、鏡子、香織、ゆき、朱音、みこが廊下に続々と集まってくる。
「おまえらいったいなんだよ?」
瑠奈がピリピリした口調で問いただす。
「そうやな~。名のならないのは失礼だったかもしれんなぁ黒河」
「今から死ぬ奴に名乗る必要性が感じられないんすけど」
黒河と呼ばれたセミロングの髪型の18歳前後の女が男に返事する。
「こいつ性格悪くてよう困るわ。すんまへんなぁ。あ、俺の名前は歌月十夜。で、この性格悪い女は黒河 都って言うねん」歌月は嗤う。「あの世でもワイらの名前広めといてくれや~」
お世辞にもイケメンとは言えない髭面の長身の男ーー歌月はふざけたことを宣う。
「それにしても、例え仮のアジトだとはいえ、こうもぼろっちい場所を拠点にしているなぞ、なんてみすぼらしいんだ」まだ名乗っていない男はせきばらいをする。「本当にまつりが言うような強い異能力者の集まりなのか?」
いま、なんて言った?
こいつら、まつりと言わなかったか。
……つまり。
もしかしてもなにも、こいつらはまつりの仲間だ!
「滅茶苦茶言いやがって! 死んでから後悔するなよ!」
「瑠奈! 迂闊に相手に近寄ってはいけません!」
沙鳥の忠告に耳を貸さず瑠奈は激昂して相手に駆け寄る。
それはまずい!
まだ三人がどのような異能力を持っているかも判明していないんだ!
と、突進してくる瑠奈の前方の床に、離れた位置から歌月は人差し指で丸を描いた。
瞬間、床に赤い丸い円が現れ、瑠奈がそこを通り過ぎようと円に入った寸刻、まるで瑠奈だけの時が止められたかのようにそこで静止した。
「な、なにをしやがった……くそ野郎が!」
声だけしか出せず、瑠奈は身動きひとつできない。
「しょうがないですねぇ。みこがたおしてあげるですぅ」
みこは閃光を片手に集め、相手に強力な掌底を喰らわせるように歌月に突撃する。
「きみは厄介だけどさ~」歌月は片手で自身の前方にまたもや人差し指で円を描く。「相性が悪くて残念だったねー惜しい!」
いつ床に現れたのか、瑠奈の円とは違う円が地面に増えており、片足を踏み入れてしまったみこは片足だけ動けなくなってしまう。
「転移してあいつに近づき、まずはリーダーと思わしきあいつを倒すから、みんなそれまであいつの気を引いてて」
舞香は小声で、まだ前に出ていない豊花とゆきに小声で告げた。
しかしーー。
「異能力が使えない!?」
「俺の名前は佐田修二。悪いが俺は地獄耳なんだ。しかしひとりしか封じられないのが欠点でな。だから、一番厄介そうなきみの“異能力を封じさせてもらった”よ。すまないね」
「異能力を封じる……異能力者!?」
今までだって異能力封じの異能力者は何度でも見てきた。
だけど、どうしてこのタイミングなんだ!?
瑠奈は身動きできないし、みこも片足が動かせず得意の超接近からの閃光を付与した掌底が使えない。
舞香は相手の異能力により異能力が発動できなくなってしまっている。
アリーシャは寝てしまっている。
いまここで戦えるのは私とゆきしかいない!
「香織と沙鳥はアリーシャを叩き起こして廊下に連れてきて!」
「わわ、わかりました!」「すぐ起こしてきますのでお待ちを」
香織と沙鳥は頷くなり、アリーシャを叩き起こしに行った。
「鏡子、頼む。旅館のときにやった異能力、いまここでもう一度相手につかってくれ!」
「あのときの異能力……? ーーっ使えるかわかりませんが、全力を尽くしてやってみます!」
「鏡子と叫んだら発動してくれ!」
鏡子は相手三人全員を睨むように視線を向けた。
「作戦会議はおしまい? なら、私から愛のある我が家へプレゼントっす! 楽しんでくださいっすよー!」
黒河の両手に突如拳銃が出現した。
それを私や舞香、ゆきに向ける。
やがて両手に持った拳銃で狙いも定めずとにかく銃を打ちまくりはじめた。
辺りの壁や床に当たり、跳弾が跳ね返りランダムな場所に銃弾が当たっていく。
射撃の腕はないらしい。が、それでも稀に、身動きできない瑠奈の肩を掠めたり、舞香の右腕に命中したりする。
私だけは直観と唱え、今のところ一発も当たらずに済んでいる。
一発、二発、三発……七発、八発……当に装填数の数はとっくに越えているはずなのに、発砲は止まらない。
「期待してた? 残念でした~! 私の異能力でつくった銃は無限に弾丸が増えるんすよ? このままじゃジリ貧で死んじゃうっすよ? いま、どんな気持ちっすか?」
ようやく香織と沙鳥がアリーシャを連れてきた。
「どんな気持ちかだって? 最高の気分だよーー鏡子!」
「はい!」
瞬間、相手三人は困惑しはじめる。三人の視界には、無関係な人物の映像が皆それぞれ視界に流れているのだろう。
「みんな! 今のうちに瑠奈とみこの側に寄って!」
「豊花さんの指示に従ってください」
沙鳥は私の策を読心で理解したのだろう。
皆は私の指示に従い、混乱しているものの適当に銃を発砲している黒河を無視し、アリーシャ含め全員瑠奈とみこの周りに集まった。
「朱音!」
「わかってるよ!」
風景がぼやける。
そして、すぐに私たちの姿はその場から消える。
朱音の異能力により、一旦異世界に逃避したのである。
久しぶりに異世界に来た私たちは、これからどうするべきなのだろうか?
「相手のメンバーが10人……いえ11人だけだと見くびっていた私の責です。まさか、まさかまだあんなにもまつりに仲間がいるだなんて……」
沙鳥は悔しそうに地面を殴る。
最近あった出来事を踏まえるに、本当に勝てるのか疑問に思えてくる。
実力も、人員も、こちらは負けているのだ。
「……作戦は先ほど立てた計画のまま遂行します。策は変えません。ですが、まだまだ相手の情報が足りないのがネックです。まずは情報戦で勝たなければ……」
沙鳥の言うとおり、こちらは相手のメンバー人数すら把握していないのだ。
ーーまつりへの復讐を誓う沙鳥を見て、仲間を傷つけられる姿を見て……私はぜったいまつりを主犯格とする敵対組織を打倒することを改めて強く決意したのであった。




