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Episode213╱甚大な被害、絶望の傷痕

(318.)

 瑠奈と模擬戦をやることになり、ゆきもみこに指導してしもうことになった。

 先に二人が出ていってしまったため、私たちも急いで風月荘から外に出ようとしたとき、突如として風月荘の廊下に朱音がアリーシャを引き連れ転移してきた。


「アリス! アリス、無事でよかったよぅ!」


 瑠奈はアリーシャにべったりくっつくために胸へと飛び込み頭をすりすり擦り付ける。

 物音や声に反応したのか、瑠奈の部屋を間借りしている沙鳥が廊下に顔を出した。


「どうやら無事だったようですね……安心しました」

「あのですね~、皆さん、私を置いて逃げるなんて酷くないですか~?」

「あ、あはは。悪いとは思っているよ。ごめん」


 アリーシャに文句を言われ、朱音は素直に頭を下げた。

 みんなすっかり忘れてしまっていたのだ、朱音だけの責任ではないだろう。

 

「それより重大かつ悪い知らせがある。なるべくなら舞香や沙鳥、瑠奈に聞いてもらいたいことなんだけど」

「舞香さんは現在不在です。悪い知らせとは? ーーそういうことですか……」


 沙鳥だけ朱音の脳内を読心で読み取り事情を把握したのだろう。

 でも、瑠奈と私にはその悪い報告とはなにかがさっぱりわからない。


「朱音……悪い知らせとは?」


 私に問われ、少し間を空けたあと静かに口を開いた。

 

「実は、愛のある我が家に転移した際、アリーシャを助けたあとにルーナエアウラの様子が気になり見に行くことにしたんだ。争う音が聴こえなかったしね」

「戦いが終わったのなら、ルーナエアウラさんなら朱音さんを探しに行こうとするはずですが、まだあの部屋にいたのですか?」


 沙鳥は素朴な疑問を朱音にぶつけた。


「……あの部屋には確かにルーナエアウラがいた。……無惨に殺害され、上半身と下半身が切断された姿を晒したルーナエアウラの死体だけが残されていた」

「あいつが……負けたの……?」


 予想外に、瑠奈が一番衝撃を受け動揺しているような姿を見せる。

 話を聞くに、朱音はアリーシャと一緒に、死人となったルーナエアウラを埋葬してもらうために転移する際に経由する異世界に寄り道をして、ルーナエアウラの亡骸を向こうに預けてから、愛のある我が家にやってきたらしい。


「ボクがルーナエアウラに協力を要請したばかりに、ルーナエアウラは亡くなったも同然だ……! だからといってボクひとりではなにもできない。ボクは……なんて無力なんだ……」


 ルーナエアウラが死したことで、関係が一番深かった朱音は、悲しみや悔しさから自身を責めはじめる。


「自分が越えるべき存在だって思っていたのに、勝手に逝くなんてずるいよ。なんで先に逝くのさ……」


 普段はルーナエアウラを嫌っているはずの瑠奈が、今回ばかりは酷く落ち込んでいた。


「でも、魔女序列一位のルーナエアウラでも負けた相手に、鍛えたくらいで瑠奈がどうにかできるものなの?」


 私は瑠奈に向かって疑問を口にした。


「……自信があるって言ったら嘘になる。でも、精霊操術の最奥の最奥と言われている秘奥技は、羽咲以外に使える精霊操術師は現存しないんだよ」

「だったらいったいどうするのさ?」


 私の問いかけに返答するかのように、瑠奈は高らかに宣言した。


「私はルーナエアウラを越える精霊操術師になる。真面目に訓練してルーナエアウラでも扱えなかった秘奥技を扱えるようにする。そして私は魔女序列一位に打ち勝つ!」


 瑠奈は真剣な眼差しで決意を固めた。

 と、鏡子は花の間から顔をひょっこり出すと、顔を真っ青にしつつこちらに歩いてきた。


「鏡子さん? いかがなさいました?」

「忙しいところ……すみません……結愛さんの身が安全か……異能力で監視……見ていたのですが……」


 鏡子は自身の見ていた光景を緊張した面持ちで説明をはじめた。


 なにやら鏡子の異能力で結愛と結弦の視点を借りていたらしいが、灰原直人と名乗る異能力者が、結愛と結弦の二名惨殺しに来たらしい。

 その光景を見ていたことで、唯一運良く相手の異能力と見た目は判明した。

 ……それと同時に、結愛という愛のある我が家のメンバーのひとりと、結愛の最愛のパートナーである結弦が殺害されるという、ショッキングな映像を見てしまったと鏡子は落ち込みながら状況説明を報告する。


 私含め、ショックが止まらない一同。


「まさか結愛さんの実家にまで敵対組織が現れるなんて……しくじりました。風月荘に来ていただいたほうが安全だったかもしれません」


 沙鳥は自身の親指を噛み、周りの目を気にせず悔しさを露にする。


「……相手の異能力は判明したんですよね? 今度の敵対組織のメンバーの異能力は何だと仰っていましたか?」

「自分では……不死身だと……申していました」

「不死身!?」


 私は驚きのあまりつい大きな声を出してしまう。


「それ、本当の情報なの?」

「……はい」


 鏡子が見た光景を教えて貰うと、結愛が創造した拳銃七発を食らい、尚且つ一発は頭部に命中した。

 さらに創造した剣で切り裂くが、涼しい顔をして結愛の剣を強奪。その剣で袈裟斬りされたのを見て激昂した結弦がナイフを構えて突進。それに対して、そのナイフを心臓で受け止めたらしい。なのに、出血しながらも飄々とした様子で結弦を倒し、首を切断したのだという。


 今までさまざまな異能力者と対峙してきたが、不死身なんて対処のしようがない異能力者は初めてだ。

 対策の練りようがない筆頭にすら成り得る異様な異能力者だ。


「相手の名前も判明したのですよね? その名前とは?」


 名前が判明するだけでは特になにも利点がないーーとまでは言えないが、やはり私もその不死身の異能力者について詳しく聞いてみたくなる。


「名前は……灰原直人……です。灰色の髪色をした……長身の男でした……」

「自らの口で教えてくださり感謝いたします。相手の異能力、容姿の特徴、名前が判明しただけでも大手がらです」

「ありがとう……ございます……引き続き、本命の仕事を……して参ります」


 とだけ言い残し、鏡子は花の間ーー私の自室に戻っていった。


「さて、対策は私たちのほうでも考えますが、瑠奈さんと豊花さん、ゆきさんとみこさんは、約束通り表で訓練してきてください」

「はいはーい」


 瑠奈の不真面目な返答を最後に、私たちは部屋を後にした。


 ルーナエアウラが殺害され、結愛や結弦も悲惨な死にかたをして逝った。

 いつ敵対組織が来るのかわからないまま待機しているだけでは、これからも死人が増えていくことだろう。

 私は真剣に鍛えると決意を固め、玄関から外に足を踏み出した。

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