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Episode210╱起死回生、続く絶望

(316.)

「舞香さん! 舞香さんっ!」


 沙鳥は珍しく涙を流しながら、地を這い息をしていない舞香にすがり付く。


「もう死んでいるんじゃない? 出来の悪い妹には相応しい末路ね?」


 沙鳥は涙を流しながらも、今まで目にしたことのないような憎悪を瞳に宿らせる。


「……面倒くさいわ、恨みとかって。早く皆殺しにして立ち去りましょう。あなたの出番よ、羽咲」


 夜鳥が羽咲に語りかける。


「ふうん、人間風情に命令されるのは癪だけど、たしかに(わたくし)の目的は澄ただひとり。死にそうになりながらも最後の最後で身代わりを立てて逃走した私の悔しさ、早く晴らしたいしね」


 手加減しながらも羽咲を打倒した澄の凄さが改めて理解できた。

 こんな怪物……澄以外には対処できない!

 でも、残念ながらもう澄は味方ではない。

 この怪物と、強力な異能力者たちを私たちだけでどうにかしないといけないのだ。


「終わらせましょう」


 羽咲が宣言すると、室内に氷の粒子を含む空気が充満をはじめた。


「舞香。安心なさい。すぐにお仲間も地獄に送ってあげるから」


 厭らしく嗤いながら、風香は舞香に囁くように言う。


 ……私は無力だ。無力だった。

 自分のこの異能力があれば、大抵の強敵には対抗できると思っていた。

 それが意図も容易く打ち破られてしまった。

 悔しい……悔しい……!


 ーーそのとき。

 フッとした瞬間、室内に唐突に朱音が現れた。

 え?

 朱音の異能力は適切な魔法円を用意して、その内から異世界転移をするというもの。こんな瞬間移動なんてできる異能力ではなかったはずーー。


 そんな朱音の隣には、見慣れた顔の少女ーールーナエアウラさんの姿があった。


「みんな! ボクの近場に寄って! 瑠奈! 死力を尽くして起き上がって! いまみんなを助けられるのは瑠奈とボクだけだ!」

「……っ!」


 ピクリとも動かなかった瑠奈は、ふらふらと立ち上がると自身の頬を殴り渇を入れた。


「はぁはぁ……愛するひとに……呼ばれたら……立たなくっちゃね! ぐっ……」


 ポタポタと血を流したまま、瑠奈は命令を待つ。


 沙鳥は周りに目を巡らせる。

 なにかまだ、起死回生の手筈はあるらしい。

 切り札として朱音を隠していたのだ!


 脳裏に沙鳥の声が響き渡る。


『まだ身動きができる鏡子さん、香織さん、豊花さん、ゆきさんも頑張って立ち上がり瑠奈さんに近寄ってください。朱音さんは舞香さんと私に近寄り異能力で逃走を企ててください。ルーナエアウラさん、あなたは羽咲の足止めを』


 沙鳥に言われたとおり、息も耐え耐えになりながらも皆はそれぞれ行動に移す。


 舞香を再び踏んづけようとする風香を、ルーナエアウラは風弾で吹き飛ばし距離を空けた。その隙に朱音は舞香と沙鳥に近寄る。


 羽咲はこちらに一瞥もくれず、視線の先はルーナエアウラただひとり。


「よくもまあ、序列三位が一位に勝てるなどと思い上がりをしたものですね?」

「どうだかね? 今の私は残念ながら序列一位だよ。あんたと対等の立場だ!」

「ふふっ、あは、あーっはっはっはっ! 笑わせてくれますね? あなたに序列一位とはどのような実力者がなるのか、教えてさしあげますわ」

「上等!」


 朱音が沙鳥と舞香に触れると、風景が歪み、三人の姿がこの場から消えた。

 やはりーー朱音の異能力は進化している。

 どういった進化かは思考と唱えることで普段より推測できた。

 今までは決められた位置からでしか異世界に行けず、決められた位置にしか帰還できなかった。

 だが、異能力が進化したとするならーーその制約が破棄されたのだろう。

 今の朱音は神出鬼没。どこからでも異世界に行け、どこの位置でも好きに指定して異世界から帰還できるようになれたのだろう。


 異世界を経由し別の現実世界の場所を指定して移動すれば、それは転移と変わらない使い道ができる。

 それを使い、どこか死にかけの舞香を助ける位置まで転移したのだろう。


「豊花、ゆき、鏡子、香織……っ! ……わたしのそばに集まって!」


 みな最後の力を振り絞り瑠奈の周囲に集まる。


「面倒くさいひとたち……私から、逃れられると思って?」


 夜鳥がゾッとするような眼光をこちらに向ける。


「みんな、夜鳥と視線を合わせないで! 瑠奈、一気に逃げるよ!」


 先ほどの経験から、夜鳥とは瞳を合わせた時点で敗けが確定する!


「まつりちゃまちゃまが逃がすと思うのぉ~?」


 また見えない拳の連打が背後から来るのを察知する。


「瑠奈! 多少荒くてもいい全速でーー」

「わかってる!」


 辺りに暴風が吹き荒れ、かつてないほどの風速で窓に飛び込むように外へと飛翔した。


 背後から大きな声が響き離れたこちらまで聴こえてくる。


(かぜ)大精霊(だいせいれい)()(まね)く 夜明け(よあけ)()いて 浄化(じょうか)大気(たいき) (かぜ)(すべ)てを()べる(トキ) 世界(セカイ)(みつる) やさしい(ひかり) シルフ!」

「来なさい、フェンリル」

「「同体化!」」


 その声から次第に離れ、やがてなにも聞こえなくなった。


「うっ……」


 瑠奈は空を飛びながらポタポタと止まらない血を腹部から垂れ流している。


「大丈夫!?」

「うん……って言いたいところだけど、もうダメかも……人生最大のピンチ」


 かくいう私も満身創痍だ。頭が正常に働かない。

 いったん着地して休もうと提案し、愛のある我が家から若干離れた公園にみんなで舞い降りた。

 着地した途端、私と瑠奈は疲弊から、香織と鏡子は恐怖からか座り込んでしまう。


「くそ……くそくそくそっ! 最初から沙鳥に協力しておけばよかった!」

「でも、あんな風に仲間を三人も連れて向こうから襲撃に来るなんて予想、できるわけがない。最初からいても全滅していた可能性だって十二分に考えられる。実力が違いすぎる! 最初に考えていた状況と大幅に変わってきているーーつっ!」


 顔はアザまみれだろう。体ももしかしたら数本骨が折れているかもしれない。

 口内を切って溜まった血を地面に吐き飛ばし唇を拭う。


「豊花……ゆきも大丈夫?」

「はい……うん……はぁはぁはぁ」


 ようやく謎の異能力による精神毒性とやらの効果が切れたのだろう。

 ゆきは少しずつ落ち着きを取り戻してきた。


「私たちは……な、ななななにもできなくて……ぐすっ! すみませんでした!」

「私も……震えていることしか……できなかった……」

「鏡子と香織は戦闘向きじゃない。仕方ないよ」


 慰めになっているかはわからないが、一応気遣って声をかけた。

 今の私には、このくらいしかできることがない。


「でも、どうにか逃げ延びたんだ。瑠奈も出血多量で死ぬよ? 早く病院に行ったほうがいーー」


「ーー逃げ延びた? 残念、逃れきれていないよ」


「!?」


 振り向くと、そこには見知らぬ女性二人と、見知った男女の二名がいた。

 見知った二人の内ひとりは、陽山月光。もうひとりはーー月影日氷子……さん!?


「陽山……さんと月影さん! いったい、なにが?」

「……わ。……こ。……わ。……み」

「は?」


 ゆきと同年そうな女児がよくわからない言葉を発する。


「みきはーーわからないの? このひとたちは、わたしたちの、味方だよ? ーーと仰ったのです」


 女児ーーみきという名らしいーーの言葉を、大きい瞳を爛々と輝かせた、お嬢様のような髪型をしている香織と同年代くらいの少女が、通訳をはじめた。


「ああ。あたしの名前は高橋夏姫(たかはしなつき)。そこの香織とは古い友達です」

「え……なな、夏姫ちゃん……なの……?」

「そうだよ。そうですよ。香織ちゃん」


 場のシリアスさに似合わないちぐはぐな会話は今はどうでもいい。

 それより、それよりも!


「月影さん! あなた、異能力者保護団体で働いているんでしょ!? どうして犯罪者の味方をしているんですかーーいや、しているんだよ月影!」

「それは……、あ、あんたには関係ないでしょ!」

「なんだよそれ! 悪は絶対許さないと強い決心を抱いていたあのときの気持ちはどうしたんだよ!?」

「僕のターゲットをあまり責めないでくれないかな? まあ、しぶといから今は別のお気に入りをターゲットにしているのだけどね」


 まずい。

 戦力になりそうなメンバーは皆満身創痍。

 唯一無傷で動けるメンバーは鏡子と香織という戦力にはなり得ない二人のみ!


 陽山月光は単なる殺し屋。しかも実力面ではありすにも劣るだろうと推測できる。

 月影日氷子は異能力者だけど、その異能力は恐れる精神を抑え無謀な勇気を与えるというよくわからない能力だ。

 だから、この二人はまだいい。


 問題は、異能力者かどうかも不確定な、みきという女児と、夏姫という名の少女。

 そして陽山たちは挙動なしで唐突に目の前に現れた。

 つまり、みきか夏姫の異能力は空間転移か人物転移か、とにかく栗落花のような異能力だろう。

 もしも人物に限定された転移なら、戦闘面では役に立たないはず。しかし舞香と同質な異能力なら、下手したら全滅しかねない!


 せめてみきの異能力がなんなのかわかれば、まだ策が立てられるというのにーー。


 私はふらふらになりながらナイフを取り出す。

 ヤバい。先ほどの戦いで全力を出しきったせいで、意識が朦朧としている。目眩も酷い。胃もヤバい。今にも嘔吐しそうな悪心に襲われている。

 でもやらなきゃいけない!


「うおおおおっ!」


 私はまずは倒せそうな陽山に向かって突進した。

 冷静な思考ができていれば、このようなミス、絶対にしなかっただろう。

 私の得意な技は直観を利用したカウンター技。敵の攻撃に合わせてナイフを配置し切り裂くといった手法。

 それを忘れて自ら突進していった私は、当然の如く陽山に容易く横蹴りを食らわされ、そのまま背後に仰向けに倒れてしまった。

 普段なら直観で避けられていたであろう安い攻撃を、あろうことかまともな思考を失っていた私は直観を無視してしまった。

 その結果がこれだ。


 と、ようやく息を整えたゆきに向かってみきが凄まじい速度で駆け寄る。

 それに対抗するためにゆきも手の指をガリッと上に向け、それを相手に突き刺すように刺突した。

 ゆきの手刀とみきの拳がぶつかり合う。


「え……?」


 相討ち。お互いの攻撃がぶつかり合い止まった。

 が、みきは次の行動に移すのがゆきより一歩早かった。

 みきはゆきの腹部に最大限の力を込めたような握りこぶしを当て、腹部にボッカリ“穴を空けた”。


「げふぉっ!?」


 ゆきは血を吐き、腹部から出血死しそうなほどの血肉を辺りに飛び散らせながらそのまま倒されてしまった。


「ゆきっ!? ゆき!!」


 私はふらふらな足取りでゆきに歩み寄る。


 ーーダメだ。ダメだっ!

 もう既に虫の息。口からはともかく内臓も貫かれてしまい出血が広まり止まることを知らない。

 これでは、これでは助かるわけがない……!


「おまえら、くっ……なにがしたいんだよアア!?」


 瑠奈が血をポタポタ流しながらも怒りを露にして叫び飛ばす。

 その返答を、夏姫が答えようと口を開いた。


「愛のある我が家の殲滅。そして愛のある我が家より強いあたしたちが世界を支配し、あなたのみすぼらしい風月荘にいる神の弾丸を仲間に引き入れ、神造人型人外兵器に対抗することにするんですよ」

「ふざけるな……がふっ……はぁはぁ、急に現れて意味不明なことばかり口にしてるんじゃない!」


 私は精一杯の悪態をつく。

 もうダメだ。心身共に気力が薄れていく。


 ーーそこに、上空からあいつが現れた。


「みこ……ちゃん!?」

「ちょっとぅ、澄さんを助ける前に死なれたら困りますよぅ」

「なんです……その子は?」

「神造人型人外兵器ナンバー3、みこって呼んでくださーー」


 みこが話している最中にも関わらず、みきがみこの腹部に拳を突き入れた。

 しかし……。


「だからぁ……脆弱なカスみたいな人類の攻撃なんて、私には効きませんよぅ」


 みこは手のひらに閃光を集め、それをみきに叩きつけた。

 それだけでみきは吹き飛ばされ、数回バウンドしながら最後は砂煙を上げながら滑るように地面に倒れていった。


「想定外の邪魔が入った。まあ何人かは死ぬでしょうし、今回は退散いたします」

「ちょっ、待ちやがれっ! くぅ!」


 痛みに耐えつつ夏姫に向かって飛ぼうとした瑠奈だったが、目の前にいる敵対組織のメンバー全員がぼやけ、すぐにこの場から消えていった。


 ーーそんなことよりゆきだ!


 ゆきの元にみんなで集まる。

 もう既に亡くなっていてもおかしくはない。

 息もしていない。

 なのにーー不自然に心臓の音は続いていた。


 この異能力はーー?


 背後を振り返ると、そこには死にそうだった様態の舞香や、傷まみれの沙鳥が平然と歩いてきていた。すぐ隣には朱音もいる。

 離れた位置からは一度お会いしたことのある三日月さんがこちらをジッと一時も目を離さず見つめていた。


 三日月さんの異能力は、目視で視線から放たれる見えない糸を繋げた相手の心臓が狙われないかぎり、魂を永遠に定着させるというもの。

 そして、さらに見逃していたが、側には煌季さんもいた。


「煌季さん、ゆきさん、瑠奈さん、豊花さんの順に傷を回帰させてください。三日月さんはくれぐれも皆から目を離さないように」

「はいはい。人使いが荒いわね~。いきなり朱音さんが来て慌てて助けを呼ぶんだもの。びっくりしちゃったわ」

「……」


 三日月さんもコクリと頷く。


 そうか。

 思考ーー。

 朱音は今や神出鬼没。異世界を通じて現世に帰る際に行き場所を指定できるようになっていることだろう。

 そして、おそらくまずは煌季さんと三日月さんの下に向かい、舞香と沙鳥を治療後、再び今度は舞香か朱音ーーおそらく全快した舞香の力で手当たり次第に近場を転移し、今の私たちの居場所を見つけたのだろう。

 いざというときのために、三日月さんと煌季さんを連れてーー。


「香織の用意してくれていたGPSがなければゆきはダメだったでしょうね……」

「……不甲斐ありません。リーダーである私が、もっと早めにまつりたちの情報を探っていたなら、こんな悲惨なことにはならなかったでしょうに」


 煌季さんと三日月さんは皆の治療をつづける。

 やがて自分の番が回ってきて、傷が回復ーーいや回帰していく。


「……陽山月光と月影日氷子さんが敵対側に付いていたよ」


 傷が治った瑠奈が沙鳥に告げる。


「心中を隙を見つつ覗いていたので、多少は相手の素性がわかります。そして、まだまだメンバーはいますよ」


 あんなに凶悪なメンバーばかりに、いくら奇襲とはいえ壊滅状態にさせられたというのに……まだメンバーがいる……?


「ところであなた、どなたでしょうか?」

「あ、はじめまして。この方たちを助けた神造人型人外兵器ナンバー3です。脆弱なゴミといっても過言ではない人類を助けたのですから感謝くらいはしてほしいですよぅ」

「……瑠奈さん、豊花さん。私に隠れてなにをしていたのでしょうか? そこら辺、じっくりお話を聞かせていただけませんか? いえ、心を読んでもよろしいのですが」

「あ、あはは……わかった。とりあえず、ここにいたらまた、いつアイツらが攻めてくるかわからないから、一端安心できそうな場所ーー風月荘に着いてから説明するよ」


 こうして、大敗を喫した我々は、ひとまず避難するため風月荘へと向かうことにしたのであった。

 これでは、しばらく愛のある我が家には行けないだろう。


 神造人型人外兵器の討伐だけに夢中になっていたら、突如わけのわからない相手に文字通り襲われ大敗した。


「まつりぃ……舞香さんを傷物にし、私の殺すべき相手を横から奪い、挙げ句の果てにはどこから繋がったのか強力な味方を付けて襲撃してきて……楽には殺さねぇぞ……」


 沙鳥の瞳に、かつてないほどの憎悪の焔が燃えているのだった。







(??.)

「ふふふ、所詮口だけでしたね? 魔女序列一位さん?」


 羽咲は血まみれで倒れているルーナエアウラを蹴り飛ばした。


「は、ははは……元魔女序列一位ともあろう方が、単なる異能力者に付き従うなんて……落ちたものね?」

「私は澄とやらに復讐できればそれでいいだけ。だから味方のフリだってするわ。さてと」同体化はお互い解けた状態で、羽咲は氷の剣を創造した。「さようなら、一位さん?」


 それを背中の右から左へと薙いだ。

 見事に胴体と下半身が真っ二つに綺麗に切断された。


「あ……あんたは……必ず……倒す…………」


 死の間際、ルーナエアウラは最後の力を振り絞り遺言を残す。


「誰が私を倒すですって?」

「…………る……な……が………………」


 それを最後にルーナエアウラは事切れた。


「雑魚の相手はつまらないですわねぇ」

「見下す癖は直しなさい……あなたの性格……鬱陶しいわ」


 夜鳥は真顔のまま、表情ひとつ変えずにそう言い切る。


「私を舐めておりまして? あなたごとき、小指一本で殺せますわよ?」

「舐めてなんていないわ。やりあえばそうなるでしょうね……さあ」夜鳥はまつりと風香、羽咲に顔を向ける。「帰りましょう……」


 その言葉に従い、リーダーであるまつりを筆頭にぞろぞろと愛のある我が家を後にした。


 部屋に残されたのは、上半身と下半身が切断された、偉大なる風の精霊操術師ルーナエアウラの亡骸のみーー。

 沙鳥たちにとって唯一救いだったのは、上階で寝ているアリーシャ・アリシュエールについては知らなかったことくらいだろう。

 アリーシャはなにも知らず、自室でただただ寝ているだけで済んだのだ。






(??.)

「あなたはいったいなんなんですか!?」


 風月荘の廊下、髪型がボサボサの青年と雪が向かい合っていた。

 雪の言葉は焦りにまみれていた。

 それもそうだ。

 異能力の氷の剣で切りかかろうとしたら、同じ氷の刀を創造しつばぜり合いに。

 力負けしてピンチの雪の足元から土が盛り上がりバランスを崩したところに、今度は腕に風の竜巻を溜めて切断を付与したもので四肢を切り裂かれてしまった。

 痛みでふらふらしている腹部に拳を突かれた瞬間、爆発音が耳をつんざき、熱が腹部に伝わり、爆発で廊下の奥に飛ばされてしまったのだ。


 助けを呼ぼうにも、今はちょうど宮田は外出中。神造人型人外兵器ナンバー3もこの人物が来る直前にどこかへと出掛けてしまっていた。


 つまり、いま戦えるのは雪ひとり。

 しかし、実力差は言うまでもない。


「きみは美しい氷の使い手だね? 残念ながら僕はひとつの属性を異能力で発現しなかったんだよ。だからこのように」


 下から上空に水が無から湧き出ると、それが氷に固まり、風刃がガリガリガリガリと切り裂き形を整え、鋭利な刃に変形させた。その背後に火の爆発を起こす。

 衝撃によって凄まじい速度で雪の体を貫通した。

 氷の盾で防ぐこともままならずにーー。


「弱い弱ーい沢山の属性を器用に使うことしかできないんだ。きみが羨ましいよ」

「はっ……はっ…………は………………」


 意識を失ったのを確認した男ーー(みたび)不知火は、風月荘を後にするのであった。



 豊花たちが風月荘に着いたのは、この出来事から三十分は経ったあとなのだったーー。

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