Episode205/神造人型人外兵器(後)
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私たちは旅館を後にして、それぞれの住み処に帰ることにした。
とはいえ、電車が走っていない時間帯のため、瑠奈の操霊術師のちからを借りて、まずは川崎まで飛行した。川崎に到着するとみんなで一旦着地し、まずは舞香と沙鳥、鏡子、香織、ゆきを愛のある我が家のアジトまで届けた。
別れを告げた私たちは再び飛翔する。その中には約束どおり裕璃の姿も含まれていた。二日間我が家で暮らすと約束したからである。
瑠奈は人気の少ない自宅の近場で止まると、みんな揃って地面にゆっくりと降り立った。
「あとどれだけ神造人型人外兵器を倒さなきゃいけないのさ? そろそろいい加減辛くなってくるよ。神出鬼没だし」
瑠奈が風月荘の玄関をガラガラ引きながら、愚痴るように文句を垂れる。
たしかに、瑠奈の言うとおり神造人型人外兵器は異能力者の数倍以上に厄介な存在だ。しかも、いつどこで現れるのか、どのような特性があるのかなどもバラバラだ。
なおかつ、一部を除いた大抵の神造人型人外兵器には通常の武器が通用しない。
そのせいで、毎回命がけで戦う苦労を強いられている。
しかし、神造人型人外兵器は全部で十人と神は言っていた気がする。
今まで私たちが討伐したり、刀子さん率いる宮田さんが討伐した神造人型人外兵器の数を数えてみると、半数以上は既に倒した計算になる。
神造人型人外兵器ナンバー2、神造人型人外兵器ナンバー4、神造人型人外兵器ナンバー5、神造人型人外兵器ナンバー7、神造人型人外兵器ナンバー8、神造人型人外兵器ナンバー9、神造人型人外兵器ナンバー10を引くと、残りの神造人型人外兵器の残りは、ナンバー1とナンバー3とナンバー6の三体だけである。
さらにいえば、ナンバー1は実質澄であるため、残りの神造人型人外兵器は二人のみと考えていいだろう。
「でも、不思議です。日本だけを狙っているとしても、大半の神造人型人外兵器は私たちの下に現れます。たしかに他所に行く神造人型人外兵器も多少はいましたが、大半は私たちを狙ってきています」
雪の言うとおり、半数以上は私たちの近所ばかりに現れて交戦することになる。
もしかしたら、神すらも貫く剣や、神すらも撃ち殺す銃弾を扱える私や宮田さんを真っ先に狙いに来ているのかもしれない。
「さっきから言っている神造人型人外兵器ってなんなの? 異能力者の進化した存在?」
裕璃は不思議そうな表情を浮かべながら訊いてくる。
そういえばそうか。
裕璃は普段は異世界にいるからテレビやニュースなどで情報を得ることができないのだ。
「うーん、それを説明するには、まずは神という存在から説明を始めなくちゃいけないから、結構長話になるよ? それでも聞きたい?」
風月荘の中に入り、それぞれの部屋に戻りつつ裕璃に問いかけた。
「わからないままだとモヤモヤするから、教えてくれるなら知りたいかな、なんて。私も積もる話もあるし、長くてもいいから、まずはそれについて教えてくれないかな?」
花の間に入り、座布団を用意してそこに座ってもらう。
「わかった。なるべく端的に説明するよう努力するよ」
こうして、私は裕璃に対して最近になって現れた神造人型人外兵器についての解説をはじめることにした。
まずは神という存在が実在すること。そして神は世界を滅ぼすことを決意したということ。そして仲間のひとりーー澄は神造人型人外兵器の第一号としてつくられた存在だったと明かされ、神の軍門にくだったこと。しかし強く作りすぎてしまったせいで、現在神から洗脳されているだろうという予想。
そこから神は、澄を含めた神造人型人外兵器を十体完成させた。その段階で、まずは日本の人類から滅ぼすことを決めたのだろう。
次第に、一般市民が惨殺されて被害者がたくさん出始め、ついには国家もその存在を認めてニュースで流れるまでに至ったこと。
これらについてをわかりやすく、なおかつ短く説明し終えた。
「私たちは犯罪組織だけど、神造人型人外兵器に対抗できる存在は私たち以外にいない。だから、国や警察、マスコミとも手を組んで協力することになったんだ」
「……なんていうか、ひどい事態になっているんだね」話を聞き終わった裕璃は、神妙そうな顔つきをした。「こんな大変な事態になっているのに、私なんかが異世界でのうのうと暮らしていてもいいのかな?」
「それは心配しないでいいよ。私としても異世界にいてくれたほうが安心できるし。何より、悪いことを言うけどさ、裕璃の異能力じゃ神造人型人外兵器にはほとんど対抗できない」
「……」
「もちろん、裕璃だけじゃない。瑠奈や雪、ゆきのちからをもってしても、単独では通用しないんだ。沙鳥の読心や舞香の限定的な転移、鏡子の視界盗撮は通用するけど、物理的な攻撃は、私の」私はユタカを呼び出し剣になってもらった。「この神から与えられた神殺しの剣か、宮田さんの神殺しの弾丸以外はほとんど通じないんだ」
「そうなんだ? ……あとさ、気になることがひとつだけ、今の話のなかにあるんだけど、訊いてもいいかな?」
「ん? べつに、なんでも訊いてよ」
裕璃は少し考えるそぶりを見せたかと思うと、口を開けた。
「神様は世界を滅ぼそうとしているんだよね?」
「うん。最初の目的は違ったみたいだけど、なにかにあきれて最終的には世界を終わらせることに決めたらしい」
「なら、ならどうして……」
ーー神は自らを殺すことのできる剣を、わざわざ豊花に託したの?
裕璃は、私も以前に抱いた疑問を口にしたのだった。
たしかに、なぜわざわざ自分が不利になる武器を私などに託したのだろうか。
それだけは、いくら考えても答えが出てこない。
宮田さんにしてもそうだ。
どうしてわざわざ自分を撃ち抜くことが可能な武器を宮田さんに与えたのだろうか?
「私は会ったことないけど、もしかして、神様は誰かに止めてもらいたいのかもしれないね……意識的にしても、無意識にしても」
あれだけ一般市民を殺戮する神造人型人外兵器を作り出しているのだ。
そんなわけない。
そんなはず、あるわけがない。
そんなこと、あるはずはない。
だけど……。
完全に否定することが、今の私にはできなかった。




