Episode203/慰安旅行③
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各地を観光してまわったあと、本日泊まる予定の旅館に辿り着いた。
外観からは結構立派な旅館だということがわかる。
「煙草が吸える場所はないんかい!」
と、瑠奈だけは激昂していた。
チェックインを済ませたあと、室内に案内される。
内装は綺麗に掃除がかけられた様子じゃないか。
取り敢えず案内され自室に辿り着く。
一人部屋かと思いきや、隣に瑠奈がぐーすか寝ているのを見つけた。
どうやら一人ひとり一部屋だと思っていたが、予算を控えるためにこの旅館にしたのだろう。
すると、部屋の扉を開けて年配の女性が入ってきた。中居さんというかんじなのだろうか?
「お食事を先にとりますか? それともお風呂に入ってからにしましょうか?」
「うーん、どちらかといえば食事ですね」
「では、ただいま準備して参りますので、ゆるりとお休みしてください」
ありがたいことに、布団は倉庫には入っておらず、きちんと壁際に布団がふたつ並んでいた。
といっても、眠くなる気配がしない。
しばらく目をつぶって布団で横になり休むことにした。
と、時計を見ると、もう食事をテーブルに並べられていた。
「ゆっくりしていってくださいね」
女性は襖を閉めてどこかへ消えさった。
蟹とか天ぷらなどのおいしい食材をバクバクと食べ終わったときには、もう既に寝てしまいそうになっていた。
舞香や沙鳥に温泉にそろそろ入らないかと提案することにした。
沙鳥たちの部屋に入り提言した。
「そうね。食事も終ったし、巷で話題の露天風呂に入りましょ?」
舞香も私と同じ意見で安心した。
「舞香さんと豊花さんの提案に賛同します」
沙鳥もこちらに賛成してくれた。なんだかうれしい。
「わたしたちと女子更衣室に入るチャンスだと思わないん?」
いつの間にか着いてきていた瑠奈が吹き出しそうな言葉を吐いた。
「いや、いやいや、たしかにいまは女の子だけど……」
「なんーだ残念。でも今の見た目で男性浴場に入ったら恥女まっしぐらだよ?」
ぷりぷりしながらも、いよいよ、女子更衣室に入ることになった。
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緊張しながら衣服を脱いでいく。
最近、姉に強要されてブラを必ず付けろと言われたため、小さめのブラをなるべく違和感を与えないような柄をお願いしたのだ。
スカートを履いていた。
ブラのホックを外して脱ぎ、いよいよパンツだ。周りになるべく見られないようにこそこそ脱ぎ捨て、裸となった地肌をタオルで巻くことにした。
そこにーー。
「相変わらず貧相な貧乳を隠す必要なんてあるのかなー?」
と言いつつも、瑠奈だって幼児体型なうえに無乳。ひとのことばかり言うのなら、瑠奈が巻いているタオルはなんだ!?
……そう思っていたが、タオルが……瑠奈のレンタルしたタオルが見当たらなかった。期待は意図も容易く破られた。
目前には生まれたばかりの肌を晒す瑠奈がいた。
目の前に無い乳から細い足、さらには股の恥部まで無防備にさらけ出し仁王立ちをしていた。
「私たちも準備できたわよー」や「……私も大丈夫」
と、舞香と鏡子は裸になっていた。しかし瑠奈とは違い、大切なところはきちんとタオルをつかって隠している。
うーむ、瑠奈にも見習って欲しい。
遅れて香織や裕璃もゆきも雪も裸になり着替えを終えていた。
「わたしが一番!」
と、瑠奈は全速力で浴場に向かいながらかけ湯を浴びたかと思うと、シャワーで髪の毛と体を素早く丁寧に洗い続けている。
私たちも負けてはいられないと、私を筆頭に、舞香、沙鳥、香織、ゆき、雪、裕璃の順で浴場に入り身体を洗い始めた。
私はまず石鹸で隈無く石鹸を全身に身に付けたあと、髪の毛ーー頭上にシャンプーを付けた。
そのまま頭上から洗い流せば、付着している体の石鹸が流水で流れ落ちていく。それでも落としきれない部分は念入りにジャワーを浴びた。
皆それぞれ洗いかたはあるけど、だいたい私と同タイミングで身体を洗い終えた。
「瑠奈、せっかくだから露天風呂に入ろう」
「えー、まあいっか」
私に唆され、瑠奈は風呂から出した。
愛のある我が家メンバーで露天風呂にぞろぞろと入っていった。
「寒い!」「寒い……です」「たしかに寒い」「寒いのは苦手なんだ」
と、皆それぞれの反応を見たあと露天風呂に入った。
きょうはあまり人がいないのか、半分貸し切り状態になってしまった。
「ひゃほーい! わたしが一番!」
と、瑠奈ははしゃいで露天風呂に飛び込んだ。
「熱いけど、外気温が寒いから超きもちいいよ!」
瑠奈の言うことを信じて露天風呂に入り座った。
たしかに熱いけど、耐えられない熱さではない。それに心地よい冷たい風が吹いてなかなかの気持ち良さだ。
「舞香、沙鳥、ゆき、香織、雪、鏡子、裕璃、意外ときもちいいよ」
瑠奈ではなく私のほうが信頼できるのか、沙鳥の読心術で判明したのかはわからないが、みんな恐る恐る露天風呂に入る。
「熱い……けどきもちいい!」
裕璃は風呂の良さがわかったようだ。
それに続いて、舞香、沙鳥、香織、ゆき、雪、鏡子も次々に入ってくる。
最初こそ熱さでびっくりしたであろうものの、涼しい空気でバランスがどれ、皆それぞれマッタリとしはじめた。
しばらく堪能したのち、そろそろ夕飯……というより夜食になってしまうことに気づいた。
「わかった。じゃあそろそろ上がろうか」
私の進言により、みんなぞろぞろ露天風呂からあがっていく。
……なんて目の毒なんだ。
私が元は男だったってこと、しらないわけじゃないよね?
でも……記念にみんなの裸を目に焼き付けといてやろう。とか邪な感情ばかりではダメだダメだ。あまり見えないように視線を右往左往する。
ーー最後に出てきたのは瑠奈だった。
相も変わらず上も下も隠していない全裸状態の仁王立ち。いくら女の子しかいないからって、そこまでするのか?
やがて、皆は着替えると自室に戻って、遅めの夕食を済ませた。
「では、また明日、よろしくお願いいたしますね」
「もちろんでございます」
やがて、皆は電気を消し、各自自室に戻っていった。
そして、悪夢に魘されながらも、そのまま私は深い眠りへと落ちていった。
ーー翌日に訪れる災厄の事態に、旅館や仲間が最悪な状況に遭うとも露知らずに……。




