Episode201/神造人型人外兵器(前)
(303.)
今まで打倒してきた神造人型人外兵器のナンバーを用紙に書き込みをさていた。
神造人型人外兵器ナンバー2
神造人型人外兵器ナンバー4
神造人型人外兵器ナンバー5
神造人型人外兵器ナンバー7
神造人型人外兵器ナンバー9
神造人型人外兵器ナンバー10
これらを踏まえると、残りの神造人型人外兵器はナンバー1ーーである澄を除くと、ナンバー3とナンバー6、それにナンバー8の三人となる。
こう考えてみると、すべてがすべて私が対処してきたわけじゃないが、残りは三人しかいないとなると、澄との最終決戦がすぐそこまで近づいていることになる。
次第に緊張してきてしまう。
神造人型人外兵器と対峙した際は、毎度ながら仲間たちとのちからを借りてギリギリで倒してきたのだ。
もしも相手が満身していなかったら?
神殺しの剣や神殺しの銃弾も効かない相手だったら?
そう考えていると、考え事をしている最中も集中できない。
必ずしも次の相手が今までの神造人型人外兵器同様油断しているとは限らないのだ。
油断を見せてくれなければ、満身していない相手であれば、正直、私や瑠奈、雪、さらには宮田の神殺しの弾丸などでは心細い。
神は本気でこの世界をリセットするつもりだというのが、今までの会話で察してしまう。
逆にいえば、わざわざ神殺しの剣や神殺しの弾丸を異能力者として発現させた意味もわからない。
本気で世界を滅ぼすつもりなら、わざわざ不利になる能力を与えるのだろうか?
そこがいまいち理解が及ばない。
と、花の間が三回ノックされた。
暗雲垂れ込める気分のまま、私は渋々扉を開けた。
扉の前には、相変わらず瑠奈が佇んでいた。
「リモートをつかって会議だってさ。はぁ、面倒くさい」
「あはは……わかったよ。このノートPCで起動できたら参加するよ」
瑠奈はそう言い残し、風の間をノックした。
数秒遅れで宮田が室内から出てきた。
瑠奈は先ほどと同じ内容を宮田に伝え、幸い宮田は最新スペックのパソコンを購入していたせいもあり、ひとつ返事で頷きを返答とした。
同様の内容も雪に伝えた。
雪も仕事ならと渋々パソコンを起動した。
「あまり機械には疎くて……瑠奈さん。やり方を教えてください」
雪に言われ、仕方ないなぁという雰囲気を醸し出しながらも最低限リモートができるようにセットアップしてあげていた。
やはり瑠奈ーー微風瑠奈さんは遠慮という言葉が辞書にはないらしい。
なぜなら雪の太ももを無造作に隣から弄っているからだ。
「さて、自室に戻ってリモート通信をして、これからの対策を考えよっか」
瑠奈はあまり気落ちしておらず、すぐに機材をセットしPCを起動した。あらかじめ入っていた不特定多数のソフトからすぐにリモートへと繋げた。
私も見よう見まねで瑠奈を観察し、同様にリモートワークのような画面が繋がった。
雪に至っては、同じような質問を繰り返し、瑠奈がイライラしはじめている。
「まあまあ。雪さんーー雪はパソコンには疎いから許してあげて」
「なんでこんなに簡単なことができないのかなぁ」
そんな瑠奈の愚痴で雪が可哀想だと感じたのか、宮田が一から設定を定め、リモートの画面にまで持っていってくれた。
「ありがとうございます」
「いえ……」
画面には既に、嵐山沙鳥、青海舞香の二名の顔がこちらに映る。
『愛のある我が家の稼業もありますから、今回はリーダーである私と、元リーダーの舞香さんの二人で会議をはじめます』
「は、はあ……」
『早速本題に移りますね。そこから一時間も経たないうちに、神造人型人外兵器ナンバー8が現れました。豊花さん、瑠奈さん、雪さん、それに加えて宮田さんも同行して、秋葉原に出没した神造人型人外兵器ナンバー8を処分していただきたく思います』
「……」
既に予想はできていた。
定期的に神造人型人外兵器というものは現れる。神出鬼没でどこに現れるのかは未知数。だが、だがしかし、私の聖地でもある秋葉原での狼藉は、決して許されることではない。
『受けていただけますよね。とはいえ訊く意味はありません。あなた方は神造人型人外兵器を打倒するために集められた精鋭部隊なのですから』
「納得はできない。腑に落ちない。でも、やるしかないんでしょ?」
『それでこそ豊かな生活のリーダーです。場所は秋葉原を右往左往していますので、詳細な地図は送れませんがーー』沙鳥は言の葉をつづけた。『豊花さんの直感や思考の異能力を用いてだいたいの居場所を探し、宮田さんの能力で一般市民を巻き込まないように人外だと確信できたのを筆頭に、神造人型人外兵器ナンバー8を殺処分してください。それでは、よろしくおねがいします』
沙鳥はそれだけ言い残すとリモート映像はプツリと切れた。
「悪いんだけど、瑠奈、雪、宮田、私の四人で、秋葉原で滞在している神造人型人外兵器ナンバー8を討伐しに行くことになった。みんな、力を貸してくれ」
「へいへい。豊花ちゃんの頼みじゃ断れないなぁ」
「豊花さんと共闘して悪を倒す。まるでファンタジー小説のような展開ですね」
「まあ、これが本業なうえに給料を貰っているから行くわけにはいかないか」
概ねみなは賛同してくれた。
意外だ。雪や宮田は同意してくれるとは直観で把握していたけど、気分屋の瑠奈までスンナリ付き合ってくれるみたいで助かった。
「真っ昼間なのか夜中なのかはわからないけど、善は急げって諺もあることだし、みんな着替えて。今から秋葉原に足を運ぶよ」
そう伝え、私も自室の新しく購入したクローゼットから、なるべく厚着を着こんでいくことにした。
……これMサイズだよな?
だというのにブカブカだ。袖から指先がチラチラ見えていて、まるでもなにも萌え袖になってしまっている。
しかし、背に腹は変えられない。
第一、この衣服が一番保温効果が高いんだーーとテレビショッピングでも絶賛されていた。
唯一の欠点は、Sサイズではなく欲張ってMサイズにしてしまったことくらいだろう。
男の萌え袖はいない。なんともいえない複雑な気持ちになってしまう。
ーーいや、今の豊花は正真正銘の美少女だ。たまには媚びる服装もいいのではないか?ーー
他人事だと思って~好き放題言いやがる。肉体化したとき覚えておくんだな!
ーー性的な苛めはむしろウェルカムだ。こんなにも身近にいて、生身の肉体を顕現できるようになった今こそ、私がいろいろとレクチャーしてやってもいいぞ?ーー
性的に苛めるつもりなんてないから……冗談だよ冗談。
ユタカと下らない雑談を交わしたまま時が経ち、瑠奈や三島は外出のために普段着にものの足らずで気着替えていた。私も負けじと衣服を選び、相変わらず寒いのに耐えられず、まず最初に黒のタイツを履いて、冬服に着替えを終えた。
雪は着替えを必要としないのか、日替わりで模様が変わる和服を着ている。
「さ、秋葉原にレッツゴー!」
瑠奈のテンションとは真逆で、私は緊張しっぱなしだった。
辺りをチラ見すると、雪と宮田は冷静さを保っているかと思えば、固い表情を見やる。やはり、二人とも修羅場を潜り抜けてきたとしても、緊張しているのだろう。
無理もない。特に雪は大技を放ったのはに、神造人型人外兵器にはまるで効果が得られず、挙げ句の果てには瑠奈に容易く看破されてしまったのだ。
自信を失うのも無理はない。申し訳なさそうな表情をしてしまっている。
やがて雑談を交わしながら登戸駅に着いた。
「少し時間がかかるけど、これが最短ルートだから」
と、瑠奈に唆されて急行にみんなで乗り込んだ。
新宿についてからは、私の頭では記憶できないほどのホームがあり少々パニクってしまった。
しかし瑠奈と宮田さんは慣れているのか、迷わず電子マネーを改札にタッチして駅構内に入っていく。
残高が気にはなったが、スイカにはきちんとチャージしていたことに安堵し、スムーズに皆は改札口内に歩を進めた。
ここからが長かった。
秋葉原はそこまで遠くなかったと思っていたけど、せっかち気味な私には座席に座っているだけでもソワソワしてしまう。
「今回は前回の反省を踏まえ、念を込めた弾丸を六発は入っていますので。このまえみたくギリギリの戦いになることはないでしょう」
「フレンドリーファイアは絶対にしないでね? 私の風の風壁も、豊花の神殺しの剣でも、宮田の銃弾でも風壁を貫通する可能性があるから。もし失敗したら許さないからね。肝に命じておきな」
誰でもミスはするっていうのに、相も変わらず瑠奈は宮田に対してだけ冷たい。まあ……瑠奈は昔から女尊男卑を目指しているから無理もない。
「わかってますよ……ペチャパイ女」
「なんだとー!?」
下らない雑談で喧嘩ムードが漂ってきてしまった。
「今から神造人型人外兵器ナンバー8の討伐でしょ? 仲間内で喧嘩してどうするの?」
「……」
「まあ、杉井の言うとおりだ。悪いな、ついムカついて真実を話してしまった」
「それならよろしい! ……真実だとぉ!?」
「まあまあ、まあまあまあ」
さらに油に火を注ぐ発言を、雪はボソリと呟いたのを私は見逃したかった。
「大丈夫です。胸が虚空に近い瑠奈さんはまだ食べ盛り。今から成長していきますわ」
「わたしはもう27歳だ!」
この発言には、私以外の二人は目を丸くして驚いた。
と、電車の中では、この後も永遠と小学生の低学年レベルの罵詈雑言が繰り広げられたのを聞いているうちに、電車は秋葉原に到着した。
(304.)
寒い気温は変わらないが、太陽が曇り空から顔を出し、幾分太陽光が当たるぶん暖かい空気も体感できた。
「で? 神造人型人外兵器ナンバー8はどこにいるのさ?」
瑠奈が素朴な疑問を口にする。
とはいえ、秋葉原は通称オタクと電化製品の町。探すのに苦労しそうだ。
「……」
「宮田さん?」
「…………少し待ってくれ。相手の居場所を見つけ出す」
宮田さんは聴覚、嗅覚、味覚、触感を犠牲にしながら集中して、神造人型人外兵器ナンバー8の探索をはじめたのだ。
……私の直観で敵対組織を見つけ出すのも可能だが、人外に対する生まれついた探索能力のほうが、私の曖昧な探索より数倍便利だろう。
やがて、宮田さんは立ち上がった。
「まずいところにたたずんでいる気配を察知できました」
場所はラジオ会館の屋根の上。市民はともかく、それどころか従業員もほとんど入れない建物の屋上、そこで佇んでいるのを宮田さんは察知した。
「今のところ被害は出ていないようですが、このまま放置していたらどのような大惨事になるかもわからない。早急に倒さなければなりませんね」
といっても、このバカデカイ建物の屋上に向かうほど、爆発力のある精霊操術は私には扱えない。
宮田は神造人型人外兵器察知と神の弾丸を持っているが、射程距離が届かない絶妙な位置に陣取っている。
「この距離では神殺しの銃弾は射程距離の範囲外だ。これでは射撃がつかえません……」
無論、私にもあの高さまで飛ぶレベルの精霊操術は扱えない。
「はいはい。わたしの出番でしょ? みんな側から離れないように」
瑠奈はボソボソと詠唱すると、私、瑠奈、三島、雪の四人はジェットコースターのような浮遊に集まり、一瞬で神造人型人外兵器ナンバー8の前まで辿り着いた。
ラジオ会館の屋上には、鳥の糞らしきものが散乱していた。
その少し奥に、ふわふわとした癖っ毛の少女が待ち構えるように、来るのが分かっていたかのように、早速構えを取る。
「あなた方が仲間を殺害してきた罪人でしょうか?」
「で? そっちから喧嘩を売ってきたから買っただけのことなんだけど」
瑠奈は威勢よく啖呵を切る。
「本当なら夕方になってからコンクリートを血の海に変えて差し上げようと考えていたと言うのに……嘆かわしいです」ですがーーと神造人型人外兵器ナンバー8はつづけた。「あなた方は大勢の同士を殺害した。それは万死に値する外道な行いです。よって、僭越ながら私が相手になってさしあげましょう」
「よく言うよ! ナンバー8だかなんだか知らないけど、あんたの仲間は理不尽に人を次々と亡きものとしてきたことには変わらない!」
「あなた方は家に忍び込む害虫を自分勝手に生命を殺しているではないですか」
瑠奈は頭に青筋を浮かべながら、『人間と害虫を同列に扱うな!』と激昂した。
「私にとって、人間とは私から見れば皆等しく害虫と遜色ありません」
さてーーと呟きながら、神造人型人外兵器は戦闘を開始するために構えを取った。
手元には短いダガーが握られており、やる気満々だという威圧感がこちらにも伝わってくる。
瑠奈と私はそれとほぼ同時に詠唱を吟うように述べはじめた。
「我と契りを結びし火の精霊よ 私にとっての光となる炎よ 我にちからを貸してくれ フレア!」
同時に瑠奈も詠唱をはじめていた。
「微風瑠奈の名に於いて 風の精霊を喚起する 契約に従がい 今 此処に現界せよ シルフィード!」
寸刻、地面に魔法円が瑠奈と私の足下に数秒だけ出現した。
強い風が吹き、吹き止んだ。
それぞれ私の隣には相棒とも呼べる可愛らしいフレアという火の下級精霊が発現した。
横を見やると、シルフィードも瑠奈の真横に現れていた。瞬きをする一瞬のうちに、現れたのだ。
「豊花、行くよ?」
「わかってる! 手加減している余裕なんてないんだ!」
やがて、その言葉を同時に口にした。
すると、シルフィードと同一化した力により、より神々しい明るい緑の粒子が瑠奈の回りをふわふわと舞い始めた。
同時に、私の身体中には、自身だけはまったく熱く感じられない炎の鎧が身を包む。
「え? 豊花、もう同体化だけじゃなくて、中程度の精霊操術を操れるようになったの?」
「中級魔法?」
「厳密には違うけど、まあ、そんなもんかな?」
「その程度の力量で、神造人型人外兵器を打倒できるとでも?」
「その上から目線! 風刃でバラバラにしてやる!」
瑠奈は凄まじいスピードで地面スレスレを滑空しながら、神造人型人外兵器ナンバー8の股から切り上げ肩まで切り裂いた。
他の神造人型人外兵器より防御面は弱いのだろうか?
乱戦となっており、なおかつ瑠奈の脅しの経験から、混戦状態では迂闊に発砲できなくなってしまっていた。
「氷の世界で永遠に眠りなさい!」
雪は地面から無数の氷で作られた剣を辺りに無造作に投げ捨てた。
「なんだい? 降参するなら死ぬだけで許してあげるよ」
「これは降参の合図じゃない!」まだ昨日の雪が地面に残っている。その雪の中に氷の剣を無造作にばら蒔いたのだ。
最初は嘲笑っていた神造人型人外兵器ナンバー8も、相手の目的に勘づき、臨戦態勢になる。
しかし、気づくのが遅いーーそう言いたいかのように、雪に埋もれていたり、地面に落ちている氷の刃が、四方八方から縦横無尽に氷の剣が神造人型人外兵器目指して、四方八方から刃が凄まじい飛翔速度で、神造人型人外兵器の肉体が四方八方から無尽蔵に氷の剣が神造人型人外兵器ナンバー8の四肢や腕、身体、腹部に突き刺さった。
耐えきれず神造人型人外兵器ナンバー8は血ヘドを口から吐き出した。
「このクソアマがぁああーー!?」
氷の剣に夢中になっている隙を突いて、私は一気に接近し、手のひらにマナを集めて爆発させた。
すぐさま距離を取る。
「あのさ、神造人型人外兵器ナンバー8だっけ? もしかして神造人型人外兵器の中でも最弱、もしくは失敗作なんじゃないの?」
瑠奈が挑発をする。
「他の神造人型人外兵器はわたしの操霊術師何て役に立たなかった。でもあんたには致命傷とは言えないけど、バッサリダメージを与えられるもん。それに豊花の爆撃もまともに喰らっていた。やっぱり、あんたは神造人型人外兵器の中で一番の最弱じゃんか」
瑠奈が辛辣なチクチクした言葉を吐き続ける。
でも、それには同感だ。
今まで対峙してきた神造人型人外兵器は皆それぞれ強い能力を持ち得ているうえ、神殺しの剣か神殺しの弾丸以外はかすり傷程度にしかダメージを与えられなかった。
「ぐっ……たしかに私は落ちこぼれだ。名ばかりの神造人型人外兵器だ。だからなんなんだ!」神造人型人外兵器ナンバー8は激昂した。「この程度の実力でも、おまえたち全員を肉塊にしてやる!」
そう宣言した瞬間、神造人型人外兵器なら誰しもつかえるだろう赤黒い閃光を両手で集めている。
「私の奥義は、街全体を滅ぼすほどの威力のある神様から授かった最終奥義! 見ていろ? 今からこの町は一瞬で消え去るんだからな! ふふふふ、あーっはっはっはーー!?」
いきなり、神造人型人外兵器の胸元に風穴が空いた。
「な、なに?」
辺りを見渡してすぐに気づいた。
宮田が貴重な弾丸を、ここぞとばかりに発砲したのだった。
神造人型人外兵器ナンバー8は情けなく地面に倒れ伏せた。
「なめるなよ……私が死んだとしても、私たちの仲間がすぐに集まり、カエシに行くからな……」
「何度もこういう戦いは潜り抜けている。例え、万が一に起き上がってもまた、杉井や瑠奈、雪さん辺りが一瞬で葬り去るだろう」
「くそ、くそくそくそ! 奥の手を使うしかない!」
次の瞬間、神造人型人外兵器ナンバー8に傷ついていた筈の神造人型人外兵器ナンバー8は、常人の10倍の速度で身体が治癒し始めていた。
「ーー杉井さん、とどめをお願いします」
私はユタカを創造した神殺しの剣を、神造人型人外兵器の心臓めがけて剣を心臓に突き立てた。
「ま、まさか……私が……死ぬ……?」
ーーそれが神造人型人外兵器ナンバー8の最後の遺言となり、見事神造人型人外兵器ナンバー8を打倒することに成功したのだった。




