Episode197/神造人型人外兵器ナンバー10の襲撃
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舞香が逃がしたナンバー9は討伐した。ナンバー7も宮田率いるメンバーが倒したはず。かくいう私たちもナンバー5を殺害した。
いくら神造人型人外兵器といえども、外見は普通の人間と同じ……殺すのに躊躇いを感じないほうがおかしいだろう。
学校に行かなくても済むとなると、案外暇だと感じてきてしまう。
かといって、神造人型人外兵器と対決するのはもう懲り懲りだが……。
と、自室でだらだらとしていたら、スマホが鳴り始めた。
噂をすればなんとやらーーという諺は本当なのかも知れないな……とスマホ画面に映る『嵐山沙鳥』の文字を見ながら想像してしまった。
「もしもし? 今度はなに?」
まあ、どうせまたーー。
『神造人型人外兵器が現れました』
ほらやっぱり!
直感の異能力がなくてもこのタイミングなら誰だってわかるだろうよ。
「居場所は?」
『言いにくいのですが、またもや登戸、宿河原周辺の付近です』ここからが今までとは違いますーーと沙鳥はつづけた。『今回の神造人型人外兵器の狙いは市民ではなく、神に対抗することのできる異能力を持つ豊花さんと宮田さんの二名なんです』
へ?
えええ!?
まさかのまさか、私たちが狙い!?
『そこで、神に対抗可能な豊花さんと宮田さんを筆頭に、強力な異能力を担っている瑠奈さんと雪さんで対処してください』
「え? 雪さん?」
雪さんの異能力を見る限り、そこまで驚異的な異能力には思えないんだけど……。
雪を周囲に降らせるーー程度のちからしか、私は目にしたことがない。
瑠奈なら幾度も狂った戦いを見てきたから役に立つかもしれないけど、雪さんは本当に役に立つのだろうか。どうしても疑問を抱いてしまう。
『先手必勝です。宮田さんの人外を察知する能力を以て居場所を割り出し、四人で手早く対処してください。話は以上です』
そう言われたあと、なにかを言い返すまえに通話を切られてしまった。
言われてしまったら仕方ない。私は各部屋に事情を説明しに行くことにした。
月の間をノックすると、すぐに瑠奈が部屋から出てきた。
「聞き耳を立てていたけど、どうやら今度の敵の狙いは豊花と宮田みたいじゃん。そう考えると、ここで待機しておいても向こうからやってくるんじゃない?」
「いや、たしかに狙いは私たちだけど、仮にも神造人型人外兵器の目的は地球人の殲滅なんだ。ほっといたら市民に被害が出かねないよ」
「まあ、うん。そりゃそっか。了解した。ちょっと着替えてくるね」
瑠奈はそう言うや否や、月の間の扉を閉めた。
次は雪の間をノックし、出てきた雪さんに瑠奈に対して伝えた内容と同じことを話した。
「状況はわかりました。私でよければ微力を尽くします。準備ができ次第呼んでください。なるべく迅速に行動を開始したほうがいいでしょう」
雪に説明を終えた私は、最後に風の間にいる宮田の部屋を開けた。
「宮田さん、何度も悪いんだけどーー」
「言われなくてもわかってますよ。また神造人型人外兵器が出現したんでしょう。俺は近場にいる人外を察知する能力を持っていますから」
「うん。ありがとう。頼りにしてるよ」
感謝を告げ、室内から出ようとした瞬間、宮田に肩を掴まれた。
「ど、どうしたの? なにかあった?」
「件の神造人型人外兵器かは判断しかねますが、この風月荘に人外が接近してきます」
「な!?」
このタイミングでの登場ということは、ほぼ間違いなく例の神造人型人外兵器だろう。
先手必勝だなんて言っている場合ではない!
私は急いで各部屋をノックし、風月荘に歩んでくる神造人型人外兵器に対して今すぐ対処できるよう、全員で外に出ることを伝えた。
「えー、面倒くさいなー」「わかりました」「了解しました」
こういうときの返事で、だいたいの性格が表れてしまうなぁ……。
私たちは急いで靴に履き替え、瑠奈、雪、宮田、そして私の四人で建物から飛び出した。
路地裏の通路の真っ正直には、まだ高校生ぐらいの長髪をした可愛らしい容姿をした少女ががひとりーーゆっくりとした足取りで風月荘へと向かってきていたのだ。
「……え? 宮田さん。あれは神造人型人外兵器なの? 私にはそう思えないんだけど」
今までの神造人型人外兵器は皆、男性だった。それに抱くイメージも禍々しい神造人型人外兵器ばかりだった。だから違和感を抱いてしまう。
この者が神造人型人外兵器なのか、困惑してしまっても仕方ないだろう。
「ええ、間違いありません。あいつは神造人型人外兵器です」
「くすくす……よくわかりましたね。お利口さん。偉いですよ~?」
神造人型人外兵器は嘗めたような口調で挑発してくる。
こちらは四人、しかも全員異能持ちだというのに、この余裕。ただ者ではないことが雰囲気から察せられる。
「私は神造人型人外兵器ナンバー10と申します。以後、お見知りおきを。まあーー以後なんてあなた方にはありませんけどね」
「ご託はもうよろしいでしょうか?」雪は既に戦闘状態にスイッチを切り替えているのが表情から窺えた。「絶対零度に埋もれて死してください」
瞬間、ナンバー10の足元から高速で氷が現れるなり、ナンバー10が出られないよう、入口のないかまくらのような物体を無から作り上げてみせたのだ。
地味な異能力だと勘違いしていた自分が嘆かわしい。これなら十二分に戦力になる異能力者じゃないか。
「そろそろ凍え死んでいるのではないでしょうか?」
そう雪が呟いた瞬間、硬い氷で完成されたかまくら状の物質を突き破るように、かぎりなく白色に近い閃光が無数に内部から外部へ貫通して飛んでいった。
やがて、かまくらは崩れると、中からは息切れひとつ起こしていないナンバー10が現れた。
その瞬間、隣に佇んでいた瑠奈が風の刃を幾度も放ちつつ、片手に狂風を集めてナンバー10へと切りかかった。
しかし、ナンバー10は風の刃を避けもせず、腕にまとわりついた狂風も横に長距離のステップをされてしまい、躱されてしまった。
宮田はナンバー10の周囲に味方がいないのを好機と考えたのか、神殺しの銃弾を隙をついてナンバー10に向け発砲した。
だがーーそれすらも予測済みとばかりに、顔とからだを捻り弾丸を意図も容易く避けられてしまう。
「同期たちナンバー2も4も5も7も9もーーこの程度の相手に不覚を取ったのでしょうか? 嘆かわしいことです」
このままではじり貧だ!
なにか策がないか模索する。思考しろ、私!
そこで、ふとある考えが閃いた。
相手は自身に被害が出る攻撃は意図的に避けているが、ダメージが通らない攻撃に対しては避ける素振りも見せない。
それならーー一か八か。利用できるかもしれない。
「雪、御願いがあるんだけど」
「なんでしょうか?」
小声で雪に頼みごとを伝えた。
雪は疑問を抱きながらも、瑠奈、宮田、私、そして自分用にも氷で作られた剣を創造し、仲間に手早く配り終えた。
「そのようなみすぼらしい剣で、私に対抗できるとでも? 舐められたものですね」
まずは宮田がナンバー10に接近。神殺しの弾丸を放ち、それを避けたナンバー10に剣を突き刺そうとする。
しかし、ほんの少し表情を歪めた程度で、致命傷どころか傷ひとつ与えられていない。
ーーだが、それでいい。
宮田がナンバー10に走り出した後方から、瑠奈は氷の剣に風の属性を付与してナンバー10に斬りかかる。しかし、今度は躱すどころか片手で剣を止めた末、パキリと氷の剣を折られてしまった。
「一辺倒な戦いかたで飽き飽きしてきましたね……。そろそろ一人ずつ処罰していくことにしましょうか?」
ナンバー10は見るまでもなく余裕ぶっている。
誰しも自分にはダメージを与えられないと思い違いをしている。
完全に油断しきっているのだ。
ーーだが、それでいい。
むしろ……油断してくれなければ勝機などなかったのだから……。
雪も剣を胴体に当てに行くが、虫を払うような態度で横に投げ飛ばされてしまう。
それを心配に思いつつも、私も氷の剣を構えナンバー10に駆け寄っていく。
「だから、何度も同じ手ばかりで飽きたと言っているでしょう?」
もはやナンバー10の眼中に私はいない。意識してすらしていないだろう。
私はナンバー10の言葉に惑わされず、ナンバー10の肩から腹部にかけて切り裂いた。そうーー切り裂いたのだ。
辺りに多量の血潮が飛び散った。
「なっ!?」
気がついたときにはもう遅い。
私は氷の剣で相手に駆け寄る最中、ナンバー10が余裕を見せるように辺りをちらちら見ている隙に、一瞬で氷の剣を地面に投げ捨て、ユタカに神殺しの剣になってもらったのだ。
ようやく、ナンバー10は他の仲間たちが苦戦した理由が把握できたのだろう。
しかし、時は既に遅い。
と、唐突にナンバー10の全身が白色で発光しはじめた。
切り札だとしたらまずい。当たったら危ない。そう直観が告げてくる。
どうするべきかーーと一瞬躊躇したが、宮田は背後からナンバー10に銃弾を命中させてくれた。
そうしたら、寸刻でナンバー10の神々しい白色のオーラは辺りに霧散した。
その隙を見逃さない。
私はふらふらな足取りになったナンバー10に足を引っ掻けて転ばせ、神殺しの剣の切っ先で心臓を貫いた。
「あ、ああ、あああ……なんて、こと……」
その遺言を最後に、ナンバー10は光の粒子となって大気に散らばりさらさらと消え去った。
「ナンバー7より手強かった気がしますね……」
「強さはナンバーに比例しないのはわかっているけど、やっぱり脅威度はバラバラみたいですね」
普通ならナンバーが高いほうが強いか、低いほうが強いかで判断できるだろうが、今までの経験上、強さは序列に比例しない。
そもそも澄がナンバー1ということから、神が人類を抹消するために作り出した神造人型人外兵器の製造ナンバーというだけのものなのだろう。
「宮田さん、もう回りに人外はいませんよね?」
「ええ、今のところは感じません」
「それじゃ、みんな。ありがとう。それぞれやりたいことの続きをやったり、寝たりしていいよ。風月荘に戻ってつづきをしていていいから」
その言葉に皆は頷き、風月荘にひとり、またひとりと帰っていった。
無論、宮田のおかげで近所に神造人型人外兵器がいないことが判明したことで、私も眠るために自室へ戻ることにしたのであった。




