Episode195/表社会への浸透
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一仕事を終え、私たちは風月荘へと帰還を果たした。
瑠奈は予想以上に疲弊したのか、帰宅そうそう自室に隠って寝ることにしたらしい。
宮田は既に一発しか放てなくなった銃弾に、時間をかけて多量の神の弾丸を製造することに決めたーーと自室に入っていった。
当の私はというと、自室で今までの戦果を整理していた。
忘れやすい自分だと自覚して、古いノートパソコンのメモ帳に、今まで倒してきた神造人型人外兵器の番号をまとめることにした。
神造人型人外兵器ナンバー2
神造人型人外兵器ナンバー4
神造人型人外兵器ナンバー5
神造人型人外兵器ナンバー7
神造人型人外兵器ナンバー9
私が倒しただけでなく、刀子さん率いる宮田さんが倒した敵対者に対しても記入していく。
これらの神造人型人外兵器の特徴を纏めると、ある類似点が嫌でも頭に入ってくる。
まずは、神造人型人外兵器は話が通じない。私たちが人外をひとくくりにしているように、神造人型人外兵器は人間を個人ではなく集団と扱っていて、女子どもに対しても容赦ないことが挙げられる。
また、重要なのは、神造人型人外兵器は異能力者とは異なり、大半の神造人型人外兵器はレーザーもしくはビームのような閃光をーー色彩はそれぞれだがーー主要な武器として用いていることだ。
単純な攻撃では少し溜めるだけで済むが、無差別に攻撃する場合、不特定多数に無差別な殲滅に使用する場合、はたまた強力な閃光を放つには超時間溜めが入ることも理解できていた。
残るメンバーであるナンバー3とナンバー6とナンバー8も、これだけ攻める戦法が同一なのだから、同様の技術だと推測できるだろう。
問題は……ナンバー1と称される澄の存在だ。
正直、今の段階でーーたとえ神殺しの剣を使えたとしてもーー勝てるビジョンがまるで浮かばない。
幸い澄は神の誤算で自我を強く持たせてしまったことから、近日登場ということにはならないだろう。
宮田さんが協力してくれるおかげで、その他のメンバーも同様な力を保持しているだろうが、今回の騒動と同様に、今まで以上に安心感が強まった。
問題といえば、奴らは神出鬼没な点だろう。
いくら私たちが倒していくとはいえ、現場に巻き込まれた被害者の数は相当数に上るだろう。男女成人未成年問わずに虐殺されていった被害者に対しては、顔を上げられない。
そのとき、スマホの着信音が鳴った。
考えごとの真っ只中だというのに……と文句を垂れるわけにはいかない。
仕方なくスマホをスライドして通話に出た。
「はい、もしもし」
『も、ももももしもし』
意外にも電話の主は織川香織だった。
「香織か。何か用?」
『一番人気の動画サイトで愛のある我が家とけけ検索してみてくください……』
「はあ? 動画サイトで愛のある我が家? まあ、わかったけど……」
ダークウェブにしか広まっていなかった愛のある我が家の情報ーーまさか、誰しも視聴できる動画サイトに出てくるわけが……。
そう思いながらも、現在日本で一番人気な動画サイトのページを開き、愛のある我が家と検索欄に入れた。
「!?」
なんとも驚いた。
画面の目に止まったのは、都市伝説を紹介する配信者の動画タイトルに『極悪異能力犯罪組織愛のある我が家とは?』と書かれている。
いてもたってもいられなくなり、私は再生ボタンを押した。
内容を端的に表すと、このような内容だった。
『愛のある我が家は警察や異能力者保護団体ともコネがある現代日本で一番有名な犯罪組織である』
『構成員の名前は、リーダーは嵐山沙鳥、メンバーは青海舞香、現世朱音、二 翠月(故人)、澄(名字不明)、霧城六花、微風瑠奈、杉井豊花、美山鏡子、雪(名字不明)』
『覚醒剤を密売したり、ミカジメ料を搾取したり、闇金で暴利な金額で金貸しをやっていたり、暴力団への献金、気にくわない人の抹消、未成年の売春斡旋など多岐にして渡る』
『警察ともズブズブな関係で、愛のある我が家の犯罪を止めようともしない。こんな悪徳組織が現実にいるだなんて信用できないかもしれませんが、現に愛のある我が家は特殊指定異能力犯罪組織として名義されているんです』
『皆さん、警察は頼りになりません。我々一般市民が平和を守るためにも、手を取り合って組織を解散させましょう!』
という酷い部分ばかりを切り抜きした動画であった。
たしかに間違いじゃない情報も多々見受けられたが、私たちにだって警察が手に余る犯罪者を退治したり、平等な取引をしたりといった、ポジティブな面はすべて省かれているのだ。
『ゆ、ゆゆゆ豊花さんなら大丈夫だと思いますが、バッジを着けている手前、気を気を付けろと皆さんに伝えるように、伝えるように言われ……ま、した』
「教えてくれてありがとう。これからは気を付けていくよ」
そのまま通話を切った。
今まではアンダーグラウンドにしか知らされていなかった愛のある我が家が、ついに表社会にまで進出してしまっている。
その事に、危機を感じずにはいられなかった。




