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前代未聞の異能力者~自ら望んだ女体化だけど、もう無理!~(旧版)  作者: 砂風(すなかぜ)
第七章/杉井豊花【急】
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Episode186/ドラゴンメンバー

(276.)

 一、二、三……三十人はいる野郎が集まった河川敷の前に私は立っていた。

 真冬の夜は寒い。そこに押し黙った厳つい男どもが集まっている。ドラゴンとメンバーが合体して出来た暴走族ドラゴンメンバーの人員大集合である。

 尊敬の眼差しや性的な眼差しで皆に見られると、あまりない経験だからか無駄に緊張してしまう。


「み、みなさんのおかげで両親の仇を討つことができました。それにいろいろと細かいことを頼んでしまいすみません。ありがとうございました。これからもよろしくお願いします」


 私が言い終えると、ドラゴンメンバーの各々は歓声をあげた。


「姉御の役に立ててうれしいっすよ!」

「これからも俺らの姉御でいてください」


 それぞれに声をかけられる。

 そんななか、新規にドラゴンメンバーに加入した見ない顔の青年が舌打ちした。


「みんなこんなガキを姉御姉御だって……どうかしてますよ総長? 総長までガキにぺこぺこしちゃって……この族に入ったの間違いだったか?」

「うるさいぞ佐藤。おまえは姉御の凄さを見たことないからへらへらしていられるが、姉御はたったひとりで俺らの集まりをぼこぼこにした凄い方なんだぞ?」

「嘘言わないでください。なんなら今俺が勝てば総長の座を譲ってもらえますか? まぐれですよ。こんなガキ、片手で殴り飛ばせます」


 14歳の女の子に対して殴り飛ばせるやなんやら物騒な……。

 だいたい、別に私が皆に姉御と呼ばせているわけじゃない。勝手に呼んでいるだけだ。


「お? いいね。姉御、こいつを叩きのめして教育してやってください」


 総長と呼ばれた男は、明らかに苛立ちを交えた表情を浮かべながら私に頼んできた。

 味方同士戦ってなにがあるんだ……。


「顔面殴られても警察に泣きつかないんだったらいいっすよ? おらガキ、やるぞ」

「ええ……まあ警察に言っても意味ないから言わないけど……いいの?」

「いいのじゃねぇ。とことん気に食わねぇ女だな」


 佐藤と呼ばれた男が私の目の前に立つ。


「やってみろよ佐藤。本気出しても大変だぞ?」

「総長は黙っててください。おらガキ、俺からいってもいいのかよ?」

「はぁ……いつでもお好きにどうぞ」


 こうして下らない身内同士の争いがはじまってしまった。

 佐藤は再度舌打ちすると、まずは拳を前に突きだしてきた。

 おっそ……。

 今まで戦ってきた異能力者や凶悪犯罪者たちと比べると、明らかに喧嘩慣れしていないへなちょこパンチだ。

 私はそれを軽々と避ける。


「このっ」


 佐藤は苛立ちを隠しきれず、唾を吐き前のめりになりながら拳や蹴りを放ってくる。

 背後にのけ反り、右に一歩動き、背後にバックステップ。一、二、三回目の拳を避けるや否や、上からその手を真下に叩き、前にスッと前進した。

 すぐさま両足の間に真下から蹴りを穿つ。

 ガツッと鈍い音がすると、「ぐぅ!?」と佐藤は踞った。

 その真上から頭部に向かって、蹴りあげた足を叩き下ろす。

 ドスッと命中すると、佐藤は顔面を地面に激突させた。


「ほらみろ。佐藤、てめー倒すどころか指一本触れられてねーじゃねーか」

「ぐっ……股間は卑怯だろっ……ぐぅ……」

「す、すみません」


 もともと男性だった私には、股を蹴られる痛みが容易に想像できる。

 でも仕方ない。私には生身の腕力がない。ナイフがデフォルトなのだ。

 しかし怪我を負わせるわけにもいかないからナイフなんて使えない。しかし大の男に14歳のか弱い少女の拳なんて効くわけがない。

 ならどうするか?

 弱点である目や首、股間や脛に狙いを定めるしかない。

 目は最悪失明する恐れがある。だから今回は痛みで動きを封じるため、さらに短時間で終わるように股を狙わせてもらった。


「姉御に謝らせてんじゃねーぞてめぇ。だいたい鉄パイプ持った俺らを倒したんだぜ? おまえひとりに勝てるかよ、笑えるぜ」

「……っ」


 悔しいのか、佐藤は唇を噛み締める。


「姉御、お忙しいなか、本日は集会に参加していただいてありがとうございます」

「そんな……私は両親の仇を取ってくれたあなた方に感謝してるんです。でも、恨まれるかもしれないに、よく密告してくれましたね?」

「姉御の家族が大変な目に遭ってるのにイモ引く奴なんかドラゴンメンバーには存在しません。なあ、おまえら?」

「うす、姉御の不幸は俺らの不幸」

「本当なら俺らで殴り殺してやりたかったんすけどね。ポリ公が邪魔しやがって……」

「いやいや。殺人を犯す必要なんでないです。本当にありがとうございました」

「へへっ」


 メンバーは照れ隠しのように鼻を弄る。


「それに忙しくもないです。学校は退学したので。これからは愛のある我が家の仕事中心で生きていくつもりです」

「姉御、いつでも一声かけてくれればうちらは何でも手伝いますので、ぜひ気軽に声をかけてほしいです」

「いや……やってる仕事内容が覚醒剤の密売と犯罪者の討伐だから、危険な事には巻き込めないよ」

「うわ……いかついことしてるんすね」


 いかついのは君たちのほうなんだけど……。


 と、佐藤が起き上がりながらアッパーを放ってきた。

 私はあらかじめわかっていたかのように、それを容易く避けた。


「なんだと!?」

「てめーいい加減にしねーと締めるぞああ!?」


 総長がキレて佐藤の襟首を掴み上げる。


「だ、だって……悔しくないんすか? 中坊に負けて悔しくないんすか? 俺はやられっぱなしは趣味じゃありません。こんなガキにへこへこするなんていやっす」

「姉御は中坊じゃねー高校生だ! 年齢や見た目を気にしやがって……マジで教育が必要なようだな!?」

「……」


 総長は乱暴に佐藤から手を放した。


「まあまあ……私が気にくわないなら謝ります。ごめんなさい」

「ちっ……そうやっていい子ちゃんぶるところがなおさら気に入らねー。総長こそ、見た目に騙されてますよ。美少女だからいいんすか? はっ、ロリコンっすね」

「てめーっ!」

「落ち着いてください」


 べつに私はどう思われようがどうでもいい。

 それよりも仲間内で無駄に争わないでほしい。


 と、そのときーー。

 河川敷にぞろぞろと見知らぬ人たちが集まり私たちを囲んできた。


「なんだテメーら?」

「おたくらドラゴンメンバーとかいう族っしょ? きょう集会があるって聞いたから、湘南からわざわざ遠路はるばる足を運んできてやったよ」

「湘南? てめーら悪食(あくじき)の奴らか」


 囲んできた男たちは、皆それぞれ武器を手にしていた。

 鉄パイプはもちろん、角材やメリケンサック、サバイバルナイフまで構えているやつもいる。


「そうそう。てめーらが橘のこと犯罪組織にチクッたせいで、仲間が二人しょっぴかれたわ。てなわけで、まあ、恨み晴らしに来たっつーわけよ!」


 リーダーと思わしき奴はいきなり鉄パイプで殴りかかってきた。

 私と総長は避けるが、佐藤は間に合わず頭に激突した。


「がぁああ!」


 佐藤は額から血を流しながら踞る。


 ……相手は敵だ。

 手加減する必要はない。


 右から角材が襲いかかってくる。


「そっちのボスの彼女か? 可哀想に。俺が彼女にしてやるぜおら!」


 あえて前に進むことでそれを避け、スムーズにナイフを取り出す。

 素早く殴りかかってきた男の腕を切りつけた。


「なっ!?」


 私は身軽な足取りで方向転換し、向こうのリーダーらしき野郎の腕を切り裂いた。


「でめー!?」

「よくも総長を!」

「女だからって許さねぇ!」


 まとめて殴りかかってくる。

 器用に当たらない位置に体を捻ると、回転するように総員切りつけた。


「おまえら姉御につづけー!」


 ついに乱闘騒ぎがはじまる。

 そんななか、私は淡々と敵のメンツをひとりずつ切っていく。

 こいつら、話を聞くかぎり、両親を殺した橘とかいう犯人の仲間だな?

 なら、許さない。


 小走りでかけながら次々とナイフで切っていく。

 私を狙う攻撃を避けて反撃、なにもしていない奴の足を切りつけ、他の仲間と戦っている奴の腕も切り裂く。

 怒りで冷静になる不思議な感覚を抱きながら、次から次へとナイフを振るう。

 ナイフで切られた相手がひとりずつ踞っていく。


「な、なぁ!? なんだこの女ぁ!?」

「やるなら来いよ? おまえらは敵の仲間だ。切り裂いてやる」

「ひぃいい!」


 ゾッとするような表情を浮かべたかと思えば、ひとり、二人と悪食の面々は情けなく背後を向き駆けていく。


 やがて、先程までの静寂な河川敷を取り戻した。

 殺してはいない……はずだ。

 感情と唱えていないのにも関わらず怒りが爆発しそうだ。


「佐藤さん、大丈夫ですか?」

「……謝るよ」


 佐藤は頭を抱えながら気変わりしたようすで謝罪の言葉を口にした。


「……姉御、俺らもヒヤッとしましたよ。表情が真顔で怖かったっす」

「いやぁ、姉御怒らせたらダメっすね」

「あ……変なとこ見せてしまいすみません」


 ドラゴンメンバーが周りにいるにも関わらず、怒りからか普段討伐の仕事をするときのように振る舞ってしまった。


「てめーら、そろそろ解散すっか。姉御、また来てくださいね?」

「う、うん……」

「ぜったいっすよ」


 あまり関わりたくないが、頼まれてしまっては申し訳ない。

 それに空先輩が言うには、口にはしないがファンとやらもいるみたいだし……学校もやめたのだからたまにならいいかな?


 こうして暴走族と親交を深め、私は帰路に着くのであった。

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