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前代未聞の異能力者~自ら望んだ女体化だけど、もう無理!~(旧版)  作者: 砂風(すなかぜ)
第七章/杉井豊花【急】
193/264

Episode185/二代目風月荘

(275.)

 瑠璃にも宮下にも相談せずに、私は真っ昼間の学校へ退学届を受け取りに行きすぐに記入した。

 事情を雪見先生に説明し、これ以上学校にはいられないと退学届を渡した。先生は『あらー、残念ねー』と言ってはいたが、学校側としてもたびたび問題を起こす生徒にはやめてもらったほうがありがたいのか、わりかしすんなり自主退学できた。


 そのまま誰にも告げずに学校から出る。

 外では朱音が待っていてくれた。

 裕希姉は物件を借りに行くとかで私たちとは別行動だ。


「きみの新しい家まで行こうか。瑠奈もそこにいると思う」

「うん」


 道を歩いて駅を目指す。


「今までの物件とは違って愛のある我が家から離れている登戸だけど、間取りは風月荘とほとんど変わらないし、駅から近い場所が見つかったんだ。豊花は花の間を使うとして、生き残っていた雪さんは雪の間、瑠奈は月の間をつかっている。それ以外は空き部屋だ」

「え? ああ、生き残っていたんだ……」


 あの被害で二人とも新たな仲間は亡くなったと思っていたけれど、どうやらひとりは無事だったらしい。


「なんて言ったかな? たしかーーそう。ドラゴンメンバーに感謝を伝えておいたほうがいいよ」

「え? なんであの暴走族に……」


 というか朱音、いつ知り合ったんだ?


「たまたまドラゴンメンバーのメンバーの知り合いが犯人だったらしくて、愛のある我が家について調べて密告してくれたんだよ」

「本当? ……今度集会に参加しようかな?」

「今夜集会があるらしいし、登戸駅の近くみたいだからちょうどいいじゃないか」

「なら行くことにするよ」


 詳しい時間帯や場所を朱音に訊き、多摩川の河川敷で九時から集会が行われることを聞き出した。

 なにかとお世話になっているし、きちんと感謝を伝えよう。


 駅に着くと立川行きの電車に乗り、会話が途切れたまま登戸を目指す。

 そういえば、朱音とは一対一で会話をしたことがあまりない。

 少し気まずさを覚えむずむずする。


「その……新しいアパート? の名前はなんていうの?」

「名前は忘れたけど、便宜上、みんな風月荘って呼んでるよ」

「ふーん……」


 そこから新たなる人生が始まるのだ。

 学生という青春を手放した私には、どんな人生が待ち受けているのだろう。


「学生をやめたのだし、愛のある我が家で正式に働くと思っていいんだよね?」

「うん……まだこんな犯罪で生計を立てていいのか、将来は大丈夫なのか不安はあるけど」ふと、気になっていたことを訊くことにした。「朱音はどうして愛のある我が家に入ったの?」

「ボク? ボクは舞香からスカウトされたんだ。異世界に自由に行き来できる異能力なんて、普通のやり方なら何の役にも立たない。そこに舞香が異世界で覚醒剤を密造すればバレにくいから協力してほしいと言ってきてね。最初こそ覚醒剤なんて犯罪だと思っていたけれど、いろいろ考えた結果、異能力を最大限役に立てるにはそれしかないと思ったんだ」

「なるほど……」


 すべては舞香からはじまったんだな……。

 元々リーダーは舞香だったという。

 舞香が沙鳥を助けて二人で行動するようになり、澄を仲間に引き入れ、澄がゆきを助けてメンバーに加え、舞香が朱音を勧誘し、朱音の異能力によって生み出された瑠奈が異世界からやってきて加わった。翠月ってひとはいつの段階で入ったのかはわからないけど、まあ、十中八九舞香が勧誘したのだろう。

 この段階で、舞香、沙鳥、澄、ゆき、朱音、瑠奈、翠月の七人だ。


 ここに私が入ることになり、成り行き上、裕璃もメンバーに加わった。

 それから敵対組織に翠月が殺された。

 そのあとわけありで結愛が加入して九人。

 さらに鏡子をスカウトして、香織も愛のある我が家を探りメンバーになった。この段階でもう十一人。

 そこに今回、雪さんーー六花(ゆき)と名前が被るけどーーが入って総勢十二人にもなった。


 それに、愛のある我が家だけではない。

 私が管理する直属のメンツも四人いる。覚醒剤班二人ーー碧と三島ーーと、討伐班の瑠衣、柊、そして私。


 電車が登戸に到着した。

 電車から降り、階段を登り改札から出た。

 場所を知らないため、朱音に先導されながら階段を降りる。


「愛のある我が家のアジトは大丈夫なの?」

「大丈夫ではないけど、工事のひとを呼んで修復中さ。幸い顧客のデータが書かれた資料や一番重要な情報が入ってるパソコンは無事だったから、壊れていない部屋に移動して利用してるよ」

「そっか……」


 少しホッとした。

 唐突な人災に見舞われても沙鳥は冷静に対応しているのだ。

 その冷静さで瑠奈と喧嘩しそうになったら引いてほしいんだけど……。


「そういえば沙鳥ってさ、普段丁寧語だけどキレると口調が乱暴になるよね。瑠奈と言い合いになったときヒヤヒヤしたよ」

「あはは。沙鳥は普段おとなしい分、キレたときはギャップからか恐くなるよ。しかもどこに怒るポイントがあるかわかりにくいし。舞香を崇拝しているから、舞香に関わる問題が発生すると我を忘れるみたいだね」


 狭い路地に入っていく。相変わらずの寒さに凍えながら朱音に着いて歩く。


「朱音ってさ、瑠奈が彼女だって言ってたけど、瑠奈ってアリーシャさんや碧にも浮気してるし節操ないじゃん? あれって朱音は気にならないの?」

「うーん……そもそも一方的に好かれてるだけだし、ボクからは恋心とかないんだよ。恋愛感情がないから嫉妬心や怒りは感じないかなぁ」


 おお……生々しい。

 最近好意も向けられているし、私も瑠璃とーー。

 そこまで考え頭を振る。

 いかんいかん。何でも性行為と繋げて考えるのはいけない。瑠璃は結婚するまで性的な行為はしないとすら発言したことがある古く奥ゆかしい考えを持つ女の子なんだ。もしかしたら自慰もしたことないかもしれない。

 瑠衣は……多分しているだろうなぁ。ありすのことを妄想しながらやっていそう。


 そんなことを考えているうちに二代目風月荘と思わしき建物の前に辿り着いた。

 鍵も差さずに玄関扉を開いた。

 ーー内装は初代風月荘と瓜二つだ。

 玄関から入って手前に、トイレと風呂場に繋がる扉が別れてある。

 小さな下駄箱があり、そこに靴を入れて靴下になる。


 二階に繋がる階段を無視して廊下を歩く。

 それぞれ部屋が六つあり、奥から左右に『月の間』『花の間』『風の間』『雪の間』『火の間』『水の間』と標識に書かれてあり並んでいる。

 と、ちょうど月の間が開き瑠奈が部屋から出てきた。


「わっ、朱音ー!」


 瑠奈は一瞬驚いた反応をすると、朱音に向かって抱きついた。


「瑠奈は相変わらずだね……大家なんだからしっかりしてほしいんだけど……」

「しっかりしてるよ~」


 瑠奈は片足を朱音の股に滑り混ませると、膝で朱音の股をくねくね弄りはじめる。

 朱音は若干頬を赤らめながら、『やめてくれよ』と瑠奈の肩を掴み距離を置いた。


「豊花もきょうから一緒の屋根の下に住む同居人として」


 ぬるっと両足の間に右足を滑り込ませすりすりしてくる。

 ちょっ……妙な気持ちよさを覚えながら朱音を真似て瑠奈を押し距離を離す。

 ……なんだ今の気持ちよさ……このからだになって数ヶ月が経つけど、久しぶりに性的快感を味わってしまった。瑠奈なんかに……見た目はたしかにかわいいけど中身は最低のサイコレズに、快感をわからされてしまった。

 なんともいえない悔しさに奥歯を噛む。

 それと同時に、そうか、やさしく周囲から弄るようにまさぐるのが自慰のコツかーーなんて思ってしまった。

 ぐぬぬ……でも数ヶ月性的に満足できていないんだ。そういうことを考えてしまっても致し方ないだろう?

 なあ?


「感じた? わたしが忘れられなくなるほど病みつきになるテクニックでイカせてあげよっか?」

「それはいいから……部屋に入って夜までボーッとしてるよ。朱音はどうするの?」

「わたしの部屋でアへ顔」

「はしない。ボクは愛のある我が家に帰るから。なにかあったら瑠奈か豊花が本部に連絡を入れてよ。雪はまだ入って間もないから右も左もわからないと思う」

「りょーかい」


 朱音は言い残すと、風月荘を後にした。

 瑠奈と二人きりになるのはいろいろな意味で危ないと考え、雪の間に挨拶しにいくことにした。

 瑠奈がにじり寄ってくるのを無視して雪の間をノックする。

 数秒待つと扉が開いた。


「はい」


 黒髪の大和撫子のようで、柔和な雰囲気を放つ和風美人がそこにはいた。


「あの、きょうから風月荘のお世話になる杉井豊花です。よろしくお願いします」

「まあ、あなたが数々の事件を解決した愛のある我が家での戦力の要と言われている先輩さんですね? 噂はかねてより瑠奈さんから耳にしています」


 おいぃ?

 瑠奈は印象操作でもしたいのだろうか?


「いえいえ……私なんかより舞香や瑠奈のほうがよほど戦闘に適しています。私なんて女体化の異能力と、少し他人より勘がいいだけの存在ですよ」

「ご謙遜を……よろしくお願いいたします。杉井豊花さん。(わたくし)も一応戦力として加入した異能力者です。氷や雪を自在に操る異能力を持っています」

「なるほど……」


 やはり愛のある我が家は異能力者もしくは異能の力を持つ者しか入れないらしい。その下部組織である豊かな生活とかはそのかぎりではないけども。

 舞香は空間置換の概念干渉系の異能力。

 沙鳥は読心・送心の精神干渉系の異能力者。

 ゆきは吸血により肉体を極限強化する身体干渉の異能力がある。

 瑠奈は風の精霊操術師。

 朱音は異世界を創造し干渉できるという存在干渉に類される異能力。

 裕璃は切断を操る異能力を持つ。

 結愛は結弦の異能力から誕生した剣と盾を無から創造できる異能がある。

 私には女体化という身体干渉の異能力と、思考・感情・直観・感覚を唱えることで強化できるという精神干渉の二重(デュアル)の異能力がある。

 鏡子は触れた相手、または触れた相手が触れた相手の視界をまとめて盗み見ることができる異能力者。

 香織は五感の感覚どれかひとつを強化できるという身体干渉の異能力者。

 そして、雪さんーー雪は氷や雪といった物質を操る異能力者だ。

 さまざまな系統の異能力者の展覧会だ。


 後半に加入したメンバーの異能力ほど強力には思えないようになっていくのが気になる。

 香織なんて異能力の内容を耳にしたことがあるだけで、実際に使用する姿は見たことがないくらいだ。まあ、香織は情報収集といった探偵めいた特技から採用されているんだし、最悪異能力なんてなくてもメンバーにはなれるだろうけど……だがしかし、実際の規則として愛のある我が家は異能力を持つ者以外は受け入れないとしている。


「それではーー共にお仕事を遂行する際は、どうかお手柔らかにお願いします」


 雪は扉を閉めた。


「雪ってああ見えて未解決の連続殺人の犯人なんだよね」

「ええ!?」


 本日一番の衝撃を受けた。


「ど、どういうこと?」

「なんかお姉さんの彼氏が悪人だったらしくて、友人を呼んで雪さんのお姉さんを集団レイプされたらしいんだ。で、お姉さんは妊娠して気にやんで自殺したと」


 お、重い……想像とは違った内容の過去話だった。


「異能力が開花した雪は、お姉さんをレイプした犯人たちをひとりずつ居場所を特定して異能力で創造した氷柱で心臓を穿ち殺害していったんだって。警察は凶器が見つからずに犯人が特定できないままなんだ~。で、その犯人を捕まえる際に報酬を対価にうちでーーまあ香織が手伝った。そこから繋がりを持つことになったんだよね。で、犯人をひとり残らず処分したあと、自殺するからとお礼を言いに来たところをさとりんがスカウトしたんだ」

「はえ~……いろいろな経緯があるもんなんだなぁ」


 姉が被害に遭い自殺を契機に異能力が発現したと。


ーーおそらく姉の自殺を機に心に隙間ができ、そこに異能力霊体が入り込み異能力を発現したのだろう。異能力者は誰しも心に傷を負った者たちだ。ーー


 それは以前にもユタカから聴いたから理解できる。

 つまり、愛のある我が家のメンバーは大半、心に傷があるといえる。

 舞香だけはどういう経緯があったかあまり聞いた覚えがないが、記憶を継ぎ接ぎに繋げていくと、姉妹である風香さんとやらに原因があるのだろう。


「ちょっと夜に出かける用事があるから、部屋で昼寝でもしてるよ」

「えー。わたしの『超気持ちいいよぅ』とよがりたくなる指テク味わいたくないの?」

「味わいたくない。部屋に来ないでよ?」


 私は瑠奈の戯れ言を聞き流して、花の間の玄関を開けた。

 中に入ると、少々手狭な一室が視界に広がる。

 家具として冷蔵庫とちゃぶ台、その上にノートパソコン、部屋の隅に新品の布団はあるが、それ以外の日用品はなにもない。

 寒いのにエアコンすらない。廊下は暖かかったからエアコンは外にあるのだろう。

 私は部屋の隅から布団を手に取り、畳の上に広げた。

 そこに寝転がってまぶたを閉じた。

 未だに地に足がついておらずふわふわした感覚を抱きながら、現実問題を考えはじめる。


 これからは勉強を気にせず、愛のある我が家の仕事一筋でいくのだ。

 思えば私のせいでだんだん周りが不幸になっていくんだよな……。

 裕璃は私が無視したのを気にやんで異能力者となり殺人を犯した。

 宮下が異能力の世界に襲われたこともある。

 雪見先生も私のせいで怪我してしまった。

 碧は覚醒剤の快感を知ってしまった。

 なにより母さんと父さんは私のせいで殺された。姉である裕希姉も誘拐されたことがある。私を呼ぶために……。

 瑠衣はメンバーにしてしまいこれからも迷惑をかけるだろう。

 その姉妹である瑠璃は納得していない。妹が身の危険に曝されることになる。

 柊は向こうから入ったとはいえ、殺人に加担することになっている。


 もう、これ以上大切な人たちをーー私の身の回りの人たちをむやみに巻き込みたくはない。


 そんなこんなを考えながら、私はいつの間にか眠りの世界に落ちていった。

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