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前代未聞の異能力者~自ら望んだ女体化だけど、もう無理!~(旧版)  作者: 砂風(すなかぜ)
第七章/杉井豊花【急】
182/264

Episode174/地下の人身売買組織

(281.)

 1月16日水曜日。

 朝食は、もはや当たり前のようにユタカも着席して飯を貪っている。

 無論、昨夜の晩御飯のときも現れてはものだけ食べて幽体に戻ったのである。

 きょうは特になにも起きないでほしいなぁ……そう言いながら朝食を口に運ぶ。


 半グレを倒したり、クロコダイルとかいう危険ドラッグの販売元を処分したり、殺人鬼に狙われて返り討ちにしたり、風紗という女の子の復讐現場にまで足を運んだり、ここ最近はバイオレンスな出来事ばかりが襲いかかってきている気がしてならない。

 まあ、澄がいなくなった穴埋めだから致し方ないのだろうけど。


「もう危ないことはしちゃダメよ?」


 母親は心配そうに私に問うてくる。

 いや、もう十分以上に危険なことしかしていないんだけど……。


 私や瑠衣、柊に瑠奈は言わずもがな、極悪人の討伐に駆り出されているわけだし。碧や三島は覚醒剤の密売を任せているザ・犯罪行為をしてもらっているし……。

 だけど、さすがにそれを母親に言うのは気が引ける。

 いや、言えるわけがないだろう。


「ごちそうさま」


 鞄を手に持ち、椅子から立ち上がった。


「もういいの? きょうは早めに帰ってこれるのよね?」

「……それはわからない。じゃ、行ってきます」

「お母様、おいしかったです。ごちそうさまでした」


 ユタカがお礼を述べるのを横目に、私はそそくさと玄関に向かった。








(282.)

 学校に着き、普段どおりの授業を終えた私のもとに、珍しく沙鳥から連絡が来た。

 なんだろう?

 また仕事の話だろうか?

 私は通話を繋げ、スマホを耳に当てた。


「どうしたの? またなにか仕事?」

『ええ。ただ今回は特殊な場所にある施設を壊滅させ、捕らえられた子どもたちを解放させるという依頼です』

「子どもたちーー人身売買の組織的な?」


 嫌な予感がする。

 今までとは違って、さらに危険が伴うような仕事内容な気がしてならない。


「場所や相手の素性はなんなの?」

『相手は施設の職員全員です。問題なのは施設のある場所なんですよ。地下深くにつくられており、出入り口がどこにもない。相手にひとり、舞香さんと似た力を使える異能力者が存在すると想定できます』


 ええ……舞香と同じ能力……物質の転移だろうか?


「でも、それだと私たちだけじゃ討伐しに行けなくない?」

『そこでです。こちらの戦力が減ると困るので交換という形になりますが、瑠奈さんを一時期こちらに返してもらい、代わりに舞香さんをそちらに行かせます』沙鳥は一息つくとつづけた。『舞香さんの異能力でもって敵のアジトに豊かな生活の面々で突入。子どもを守りながら施設の職員を皆殺しにしてください』

「皆殺しに……?」


 なんだろう?

 次第に私たちの行う仕事が過激になってきている気がする。


『場所は判明済みですから、豊花さんは柊さんや瑠衣さんと合流し、指定した地域で舞香さんを待っていてください。すぐに行かせますので。くれぐれも油断しないようにしてくださいね。地図はメールに添付しておきますから、それで確認をお願いします』


 それだけ言うと、沙鳥は通話を切ってしまった。

 直後にメールが届く。

 ーーここって、我が家の近所じゃないか。

 しかも閑静な住宅街の道路のど真ん中だ。本当にこの地下に、そのような悪どい組織が存在しているというのだろうか?


 ひとまず、柊と瑠衣が帰るまえに駆け足で二人を呼び止めた。

 そして、これから行う仕事内容を説明した。


「はあ? こんな場所の地下にそんな施設があるっていうわけ? 私には考えられないんだけど」

「でも、本当に、人身売買なら、助けなくちゃ」


 二人は愚痴りながらも地図の地点まで着いてきてくれた。


「遅くなってごめんなさい。あなたたちが豊かな生活の面々ね。久しぶり」


 と、現場に到着した数分後に舞香が歩いて向かってきた。


「こいつ誰よ?」

「こいつって……今回相手の施設はかなり深い場所にあるから、舞香の異能力を使わないとたどり着けないんだよ」

「ふーん」


 柊はあまり興味なさそうな返事をする。


「じゃあみんな近寄って。深度とかは香織が調べてくれたから安心して。くれぐれも子どもに手をかけちゃダメよ? 討伐すべきは職員の外道だけだから」それじゃあ、と舞香はつづけた。「いくわよ!」


 瞬間、私たちは地上の光が消え、電球が光る謎の建物に転移していた。

 辺りは薄暗く、幅三メートルほどの細長い廊下が前につづいており、左右にはそれぞれ扉が均等に五つずつ並んでいる。


「ここは通路ってところかしらね。もう少し大きな施設だと思っていたけど、案外狭いのね」


 そのうちの手前の扉が開き、四十代ほどの男性が姿を現した。


「な!? 何者だ!? おい! 侵入者だ! みんな出てこい!」

「仲間を呼んでくれて助かるわね」


 それぞれの扉から成人男性がぞろぞろと10人ほど現れた。

 よくよく見ると、皆手元にはスタンガンやテーザーガン、ナイフ、拳銃まで持ち構えている人間もいる。

 さすがにこの人数差は危ないんじゃないか!?


「まずは一番危険な相手から潰さないといけないわ」と、舞香の姿が一瞬で消えた。「ね!」


 と、まばたきをするあいだに、舞香は拳銃を握っている男の胴体に手を添えた。次の瞬間、その男性は上下まっぷたつに分解され大量に出血しながら地面に崩れ落ちた。


「野郎! てめーらやっちまえ! 八号! リーダーを呼んでこい!」


 八号と呼ばれた男性は急いで奥から二番目の扉を開けて中に入っていった。だれかに焦りながらなにかを伝えている大声が聴こえてくる。

 その間に、ナイフを握る男性とスタンガンを握る奴がこちらに駆け寄ってきた。


 テーザーガンを握る男は瑠衣に向かっていく。


 私はナイフを直観で避け、自身のナイフを逆手に握りしめ心臓に突き刺した。


「ぐぼっ!?」


 ナイフ男は血を吐きながら地面に倒れ込む。

 スタンガンを握る相手も同様に、攻撃を避けてナイフで腕を数回切りつける。


「てめーらいったいなにが目的だーーがばっ!?」


 瑠衣はポケットから細いロープのような物を持ち出し、それをテーザーガンを握る男に当てるように振り回したのだ。

 ロープに当たった箇所から肉片に変わり果て、バラバラ死体が完成した。


 柊は背後で戸惑っている職員に容赦なくナイフで切り刻み、脇の下という急所に突き立て、相手を倒した。

 こちらが危ないと察したのか、先ほど職員が呼びに行った扉に一斉に戻っていく。


 その背後を向けた隙を、私や柊、瑠衣、舞香は見逃さない。

 逃げる相手の背後からナイフを突き刺し、舞香は触れて相手を分解していく。


 最初に出てきた職員の大半は処分できたのであった。


「おい……てめーらがこんな惨状にしやがったのか? ああ!?」


 呼ばれて現れた、おそらくリーダーらしき男が激昂する。


「豊花、柊、瑠衣、下がってて。こいつ相手にはあなたたちじゃ分が悪いもの」


 舞香に言われたとおり、通路の背後に寄る。

 瞬間、舞香は姿を消してリーダーの背後に回った。

 ーー決まった!


 そう思ったのは間違いだった。

 舞香が背後から蹴りを入れようとした瞬間、リーダーは姿を消し、その穿つ蹴りを意図も容易く避けた。


「てめーも俺と同じ異能力者かそうですか。なら遠慮はいらねー。まずはテメーからぶち殺したあと、お仲間さんも地獄に連れてってやるよ!」


 リーダーはナイフを拾い上げると、それが手元から消えた。

 いやーー違う。

 舞香は素早く反応して、左に僅かに歩をずらす。

 すると、消えたはずのナイフが、元々舞香のいた位置に現れ落下した。


 舞香は避けると同時に転移し、リーダーに手を振れようとする。

 しかし、リーダーはそれを避けると、拳を舞香に殴り付けようとした。

 だが、舞香は予測していたかのようにすぐに姿を消し、真横に現れ蹴りを入れた。


「ぐっーー!?」


 横蹴りがクリーンヒットしたのかリーダーは表情を曇らせ、すぐさま転移した。


 次に現れた場所はーー。


「おい、おとなしくしないとコイツらを殺すぞ!」


 背後に下がっていた私たちの下に現れたのだ。

 くそっ!

 身動きができない!


 と思慮していた瞬間に、リーダーの胴体が真っ二つに分裂し、さらに細切れステーキのように肉片が辺りに散らばった。

 現状を把握できずに辺りを確認すると、瑠衣がひっそりとロープを取り出し、それを油断していたリーダーに叩きつけたようだった。


「ふぅ……お手柄だったわ。瑠衣」


 死体まみれの通路を歩き、みんなで手分けして扉をひとつひとつ開けていった。

 私も奥にある扉に手をかけた。

 そこには、目に絶望しか宿していない、まだ12~16歳ほどの男女の子どもが室内に座り込んでいた。


「あ、新しい商品になった子ですか……?」


 女の子が震えた口調で私に問いかける。


「違うよ。きみたちをここから救出するために来たんだよ」

「え? ーーほ、本当ですか!?」

「もちろん。仲間もいるし、ここから脱出できる異能力者も連れてきたから、みんな家に帰れるよ」


 新しい商品て……まあ見た目14歳だし、勘違いされても仕方ないか。


 ある者は歓喜の声を上げ、ある者は涙を流し、ある者はまだ半信半疑で信じていない子など、みなさまざまな反応をした。


「豊花、こっちのほうには二人、三人しかいなかったけど、そっちにはーーああ、たくさんいるみたいね。ここが寮だったのかしら」


 舞香はドアを開けて中身を確かめると、ひとり頷く。


「柊、瑠衣、豊花、あとは子どもの皆、私のからだの一部を触って。みんなこんな地獄から解放して、地上に送り返してあげるから安心して」


 ようやく地獄から解放されるかもしれないーーそう思った子どもたちの瞳には、ようやく希望の光が差し込んだ。


「じゃ、地上に戻ったら各々愛のある我が家で対応するから、豊かな生活は戻ったらきょうの仕事はおしまいね」

「うん、わかったよ」

「こんな施設が日本にあったなんて……吐き気がするわ」

「まだまだ氷山の一角よ。これからもっと豊かな生活には頑張ってもらわないといけないわね」


 子どもたちと私たちは舞香の周りに集まる。





 そして、人身売買として売られるはずだった子どもたちは、自由を手に入れたのであった。

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