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前代未聞の異能力者~自ら望んだ女体化だけど、もう無理!~(旧版)  作者: 砂風(すなかぜ)
第六章/平凡な非日常
165/264

Episode158/豊かな生活②

(226.)

 翌日、朝食を食べたあと碧に連絡してみた。

 昨日の内容を一応話してみるためだ。

 

『どうしたの?』

「あのさ……碧、冗談半分で訊いてほしいんだけど」

『なに?』


 昨日、沙鳥に言われたとおりの内容を説明した。

 覚醒剤の密売と犯罪者の討伐・確保をシノギにする私がリーダーの組織をつくる。そのうち覚醒剤の密売の仕事をしないか……と。

 なるべく捕まる恐れがある仕事だと強く主張した。

 逮捕されでもしたら大事だからだ。


 そして、雇う条件として、自らは覚醒剤を使わないこと。給料は応相談だということも一緒に伝えた。


『それ本当に!? ……瑠奈様は嫌がるだろうけど、やらせてくれるならやりたい! 昔から薬物に関わる仕事をやるのが夢だったから』

「マジか……」


 沙鳥の読みが的中してしまった。

 会ったこともない相手の人相を見抜いている。

 改めて沙鳥を恐ろしく感じてしまった。


「わかった。本当にやるんだね? 捕まったり事件に巻き込まれる危険性もあるんだからね?」

『うん。覚悟はできてる。どうせ、本当なら私はこのまえ死んだはずの命だし。神様が間違えて甦らせちゃっただけなんだよ』

「……」


 必死に助けてくれた瑠奈を、無意識でディスっている気がした。


「それじゃ、来れるときでいいから家に来てほしい。売買のやり方とか暗黙のルールを教えるから」

『じゃあ今から行くよ! もう退院したし、住所教えて』

「今から!? わ、わかった。ええと」


 碧に自宅マンションの住所を伝えた。

 遠くはないし来れない距離ではないだろう。


『じゃあ今から着替えて行くから待っててよ』

「うん。待ってる」


 私は通話を切った。

 まさかこんなに早くから会うことになるなんて、まさかこうも容易く仕事を受けるだなんて……私は想像だにしなかった。

 と、誰からかまた着信があった。

 画面には『柊 ミミ』の文字……。

 まさか……。


「もしもし? どうしたの柊」

『……わかったわ。あんたがリーダーのくそダサイネーミングの組織に入ってあげる。私にはナイフ(これ)しか脳のない人間だもの』


 またもや沙鳥の予感が的中した!

 恐ろしいくらい沙鳥の予想が当たるなぁ……。まあ、柊に関しては実際に会って読心したわけだし、碧ほどの驚きは感じない。


 うーむ……。


『なによ、黙っちゃって。で、私はこれからどうすればいいの?』


 少し考えて、私はあることを行うことにした。


「ちょうど豊かな生活の他のメンバーの碧ってクラスメートが来るんだけどさ、柊もついでに来てくれない?」

『べつに構わないけど、どうしてよ?』

「いや、一度豊かな生活の現在のメンバー全員に集まってもらって、仕事の方針や役割の相談、顔合わせを済ませておこうかなと」

『わかったわ。それじゃ、今から行くから』


 とだけ言うと、柊は通話を切った。

 となるとーーもうひとり呼ぶメンバーが増えた。

 私は瑠衣の番号に繋げる。


『もしも豊花?』

「瑠衣? あのさ、今から家に来れないかな?」

『ん、いいけど、なんで?』

「昨日話した豊かな生活のメンバー、今からみんなで顔合わせと仕事の説明をするからさ」

『わかった。待っててね?』

「うん」


 通話を切り、少し脱力する。

 こんなに連続して電話をしたのは初めてだ。

 電話って妙に緊張するから苦手だったんだけど、それも最近、愛のある我が家に入ってからはそれ以上に緊張する場面に立ち会い過ぎたからか、改善されてきたのを実感した。


 と、そういえば討伐に関しての仕事に対する知識は私にはない。

 イコール説明できないじゃないか!

 せっかく顔合わせしても、顔合わせだけで終わってしまう。

 私に説明できるのは、薬物の密売に関することだけだ!


 私は慌てて沙鳥に電話した。


『本日はお休みですよ。どうなされました?』

「あのさ、今から豊かな生活のみんなで集まるんだけどーーああ、碧と柊が入ってくれるってーーそれでいろいろこれからのことを説明したいんだけど、犯罪者の討伐について詳しく教えてくれない?」

『やはり予想どおり入ってくれましたか。それはよかったです。犯罪者の確保、無理なら殺害に関してですが』


 沙鳥は続けて説明してくれた。

 まず、どこかしらから依頼があるらしい。

 依頼は愛のある我が家に来るため、相手の犯罪者の特徴や能力などの情報を聞き出す。

 報酬の話がついたら、敵対する相手の能力に応じて、澄に任せるか、こちらに仕事を振るか決めるのだと言う。

 相手は犯罪者レベルからたちの悪いヤンキーまでいるらしく、依頼相手と対象のランクに応じて報酬も変わるらしい。

 完全に先払い制。というわけではなく、着手金をもらって、あとは成功報酬になるという。


『豊花さんたちに任せるのは、例えば親族を殺害されたのに証拠不十分で捕まらなかった犯人の殺害や、身代金のかかっている犯罪者の確保、多少厄介な異能力犯罪者の確保または殺害程度ですね』


 話を纏めるとこうなる。

 愛のある我が家に依頼が入る。

 依頼に応じて愛のある我が家か豊かな生活のどちらかに仕事を振る。

 こちらに仕事が来たら位置情報や特徴などを愛のある我が家から送付してもらう。

 そうしたら、対象を確保または殺害するための準備をする。

 現地に向かい仕事を遂行。

 終わったら、殺害の場合は赤羽さん(掃除屋)に連絡し現場から離れる。

 最後に報酬が支払われて終わるわけだ。


「わかった。ありがとう。これから私は愛のある我が家に顔出さなくていいの?」

『いえ、豊花さんのみは愛のある我が家の正規メンバー。毎日ではありませんが、覚醒剤の受け渡しのため、あと定期報告のために、一月に一、二回は顔だししてください』

「うん。それは了解。じゃあ、なにかあったら連絡して」

『そちらこそ。不都合が生じたらすぐ連絡してくださいね、それでは』


 通話を切り、ようやく準備が整った。

 


 少し時間が経過した頃、インターホンが鳴った。

 親が出てくれたのか、「豊花に、会いに、来た」と瑠衣の声が小さく聴こえた。

 部屋から出て、一番最初に来た瑠衣を部屋に向かい入れる。


「豊花の、部屋だ」

「うん。そりゃそうでしょ」


 と、瑠衣は初っぱなからベッドの下や引き出しやら本棚を漁り始めた。


「ちょちょちょなにしてんの!?」

「いや、エロ本、あるのかなって」


 そりゃあるけどさー!

 って、ああ!?


「ロリコーン?」

「やめてー!」


 私は、ロリコン&処女厨御用達の、ロリコンとユニコーン(元祖処女厨)を掛けたタイトルの雑誌ーーロリコーンを瑠衣から奪い取る。

 危ない危ない。表紙が露骨でなくて助かった。


「きょう瑠衣を読んだのは仕事の説明や役割分担、他のメンバーとの顔合わせのためだから! エロ本はたしかにあるけど、探さないでくれ!」

「うー、わかった」


 瑠衣はようやく部屋漁りをやめ、素直にベッドに腰かけた。

 昔の私なら自分の布団に女子が腰かけたらドキドキして仕方なかっただろう。

 だけど女体化したからか、ユタカと融解したからか、そんなふうな気持ちは微塵も湧かなかった。

 ……いや、微塵も湧かないのは嘘だ。性格は正反対でも姿は瑠璃ソックリ。多少は意識してしまうのは仕方ないだろう。


 再びインターホンが鳴ると、「失礼します。豊花さんに会いに伺いました」という声と共に、足音が二人分近寄ってきた。

 部屋から出て、碧と柊に手招きする。


「さっそくだけど、まずは自己紹介から始めようか。お互いのことを知るのは大切だしね」

「仕切るわね~。ま、いいけど」柊は文句を垂れながらカーペットに胡座をかく。「まずは私からね? 私の名前は柊 ミミ。趣味は喧嘩。この組織での役割は犯罪者ーー強い奴相手に挑むことでいいのよね?」

「概ねそうだよ」


 まあ、相手が強いか弱いかは、対峙してみないかぎり完全には把握できないけど。


「次は私? 名前は蒼井 碧。碧って呼んで。市販薬のODから睡眠薬の服用まで、このまえは覚醒剤もやった! このとおり趣味は薬物全般。私は覚醒剤の売買担当でいいんだよね?」

「うん。覚醒剤と睡眠薬ね? 薬物に関しては愛のある我が家から支給されるから、それを工作してーーあとで工作に関しては説明するねーー引く人に販売してもらうから」

「引く人?」

「ああ」その辺りの隠語から説明しないとまずいか。「引く人は覚醒剤を買う人の隠語で、押す人は覚醒剤を売る側。手押しっていうのは現地で手渡し販売をする人のことだよ」

「へ~。なんだかワクワクするね!」


 碧は瞳をキラキラさせながら、本気で高揚している様子だ。

 覚醒剤の密売なんて、一番捕まる可能性が高いのに、どうしてこんなにもやる気に満ち溢れているのだろうか?


「次は、私。葉月瑠衣、柊と同じ、ナイフが得意。異能力で、刃物を鋭くできる。役割も、柊と一緒」

「たどたどしいしゃべり方ねー。もっとしゃきしゃき喋れないわけ?」


 柊が喧嘩腰で瑠衣のしゃべり方に突っ込みを入れる。

 私も最初は気になったけど、瑠衣はわざとじゃないし、いずれ慣れてくる。


「無理」

「あっそ。ま、どーでもいいけど」


 この二人は相性悪そうだな~。一緒の班なのに大丈夫なのだろうか?


「最後に私ね。一応みんなと面識はあるけど一応。名前は杉井豊花。肉体年齢は14歳らしい。異能力で女になっているし、直感で相手の攻撃を危機察知できる。そのおかげで今まで愛のある我が家で生き抜いてこれた」

「空先輩に勝てたのも異能力があったからね!? ずっるい」


 ナイフを持っていながら丸腰の相手に普段から喧嘩を売り歩いている柊だけには言われたくない。

 異能力だって見方を変えれば武器といえる。


「で、担当は一応豊かな生活のリーダーね。だからじゃないけど、普段は討伐班として動く代わりに、密売班の仕事も人手が足りなかったり暇なときは手伝うことにする。それが私の役割」

「豊花が、リーダー。安心、できる」

「あんたがリーダー? 本当に大丈夫なの? 私がリーダーやろっか?」


 各々反応が正反対過ぎる。

 でも沙鳥からのご指名だ。納得してもらうほかない。


「さて、顔合わせも済んだことだし、まずは薬物の密売の説明からするね?」

「うん、わかった!」


 碧はワクワクしているといった表情を隠しもせず私の対角線に正座した。

 私は予め沙鳥からもらっておいたボッキーという名のお菓子を机の上から取ってくる。

 アイロンも用意し、準備は完了だ。


「まず覚醒剤はこのお菓子の中に入れて持ち運んでもらうから」

「え、なんで?」

「職務質問された際に、運がよければ助かるからだよ」


 私はボッキーの箱の下面を、破かないように丁寧に引き剥がしていく。

 その中に、覚醒剤の代用としてなにかないか探し、注射器でいいかとちょうどいいサイズの鉛筆を入れた。


「この中に注文された覚醒剤と注射器を入るよう斜めに入れたら」


 剥がした蓋を閉じてアイロンを上から押し当て滑らせる。

 粘着を溶かし、再度くっつけるためだ。

 始めてやったから、少し違和感のある完成度になってしまった。

 悔しい。が、初回にしては上出来だろう。


「これで工作の工程は完了ね」

「すごい! まさに薬物犯罪の裏側って感じ!」


 いや、すごい楽しそうに言われても……。


「で、注文された場所に向かうんだけど、五分前行動とかはせずに、時間ギリギリに場所に到着するようにして。たちんぼしていたら怪しいから。ま、碧の年齢や姿なら待ち合わせにしか見えないだろうけど一応、ね?」

「わかった!」

「かー、ちまちました犯罪ね。薬物なんてくだらない」

「……薬物がくだらない? 訂正して!」


 柊が今度は碧に当たり散らした。

 こいつ、なんというか、前々から感づいてはいたけどトラブルメーカーってやつだな……。


「喧嘩はやめて! で、料金は0.2gで10000円、0.5gで20000円、1gで30000円、2gからは20000円ずつ足していくこと。例えば3gなら?」

「70000円!」

「正解! 注射器は一本二本サービスで付けて。ただし追加は一本1000円ね」

「ふむふむ」


 碧はメモを取っていく。

 メモを取るのは偉い。仕事の上で重要なことだ。

 ……私はやらず何度後悔したことか。沙鳥に叱られるのも無理はない。


「ケータイは支給されるから、そっちを使ってね。顧客と繋がっているトバシケータイだから」

「うん。あとは?」

「とりあえず以上かな? なるべく人目に付かない場所で取引してね。あと」碧にした徹は二度と踏まない。「未成年らしきひとーー遠目から見て相手が高校生だったら売らずに立ち去ってね」

「どうして?」

「どうしてって……」


 自分がやらかしたことを理解していないのだろうか?


「さて。じゃあ碧はボッキーの箱の溶接の練習してて。次は瑠衣と柊に役割を相談するから」

「役割? 相手を倒せばいいんじゃないの?」

「まあ、そうなんだけど……」


 改めて説明することはないような気もする。

 ただし……。


「柊は無謀な特攻しないこと。これは喧嘩じゃないから本気で命に関わるよ?」

「……わかっているわよ」


 本気で理解できているのか表情からでは読み取れない。

 あとーー。


「柊はありすがいっていたように、まだ実力が精神に追い付いていない。だからーー」瑠衣に顔を向ける。「模擬刀をつかって瑠衣に訓練してもらって」

「はあ!? 私がこいつより弱いって言いたいの!?」

「……」


 私は無言で頷いた。


「瑠衣には異能力がある。ぶつかりあえば柊のナイフだけがスンナリ切れるだろうね。でも、ありすの話じゃ異能力なしの瑠衣よりも弱いと教えてくれた。だからせめて、異能力なしの瑠衣には勝てるようになってもらいたい」

「くっ……わかったわよ! やってやろうじゃない! 異能力ありだとしても私のほうが強いって証明するから!」


 ほら見たことか。また実力が気持ちに追い付いていない。

 このままではありすの言っていたとおり、連れていくだけ足手まといだ。

 瑠衣にしっかり鍛えてもらわないと……。


「瑠衣。柊のことよろしく」

「? つまり、私が、柊の師匠?」

「そうなるね」私は柊に顔を向けた。「異能力なしの瑠衣に勝てるまで柊は瑠衣の弟子だからね?」

「そこまで言う!? わかったわかりましたわかりましたよ! お師匠様、どうか手解きお願いしまーす」

「うん、いいよ」


 嫌味のつもりだろうが、柊よ。瑠衣に嫌みは通じない。


 こうして、初の豊かな生活の顔合わせと役割分担の説明は終わったのであった。




 これから、新たな組織のリーダーとしての仕事がはじまるーー。




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