Episode139/ひとときの休憩
(196.)
「豊花さん、瑠璃さん、瑠衣さん、ありすさんはきょう休んでいて大丈夫です」
と、会議が終わり次第沙鳥にそう命じられた。
「え?」
意外すぎる提案に、思わず立ち止まってしまう。
「瑠璃さんや瑠衣さんは事故に巻き込まれそうになって疲弊しているでしょうし、豊花さんは事件のど真ん中に立たされ精神が不安定です。ありすさんも水無月の討伐に失敗して疲労している様子ですから」
「私はまだ戦えるよ。こんなことで休んでちゃ殺し屋の名が廃るって」
「念のためです。きょうはB班ーー私と舞香さん、瑠奈さん、ゆきさんに任せて養生なさってください。念のため自室で横になっていてはいかがでしょうか?」
瑠衣と瑠璃は素直に頷き、文句はありそうにない。
私自身、生理のピークは迎えたものの、まだまだ痛みと股の水気は残っていて、アグレッシブに動くのは控えておきたい。だから素直にありがたく受け取っておく。
ーー本当にそれだけか?ーー
……違うよ、違うんだよ。わかっている。わかっているよ!
あんな空気が漂う教室に、どんな顔で登校すればいいっていうんだよ!
養生……したところで、明後日にはそのときがやってくる。
この世に生理以上に悩む事柄なんてない。そう思っていたのに……どうすれば……。
「私は煌季に治してもらえればすぐ戦力になるけど?」
ありすは沙鳥に提案する。
しかし……。
「勿論、身体面はみな治療します。が、精神面です。河川百合に対しての感情が渦巻いています。それを抑制してきてください」
「お見通しってわけね。まったく、侮れないなぁ」
ありすは煌季に歩み寄る。そのまま至るところに出来たかすり傷を煌季に差し出した。煌季はそれに手を翳して治療を開始する。
「豊花さん」
「え、あ、はい……」
沙鳥に急に名を呼ばれた。
なんだろう?
「豊花さんは学校でいろいろ言われるかもしれませんが、それの対策を練っていてください」
「は、はい……」
対策を練る?
どうやって皆に説明すればいいと言うんだ?
なにひとつ思い浮かばない……。
「おそらく相手方も二度目は学校は襲わないでしょう」沙鳥は瑠奈をチラリと見やる。「B班からも監視をつけます。瑠奈さんのB班の役割は、学校がある時間帯は学校周辺を見守ることです」ああ、と沙鳥は付け足した。「瑠奈さんは休憩時間は中に入ってもいいらしいですね。そこはご自由にどうぞ」
「マジで?マ・ジ・で!? 碧ちゃん会いたいな~薬やめててくれてるかな~わたしの愛で!」
瑠奈ははしゃいで喜んでいるが、うん、残念ながら蒼井 碧は薬物にベタぼれのまんまだよ……。
暗雲垂れ込める私の心情とは裏腹に、瑠奈はルンルン気分で施設の奥へと入っていった。
どうやら瑠奈はアリーシャに会いにいくみたいだ。
沙鳥たちはさっそく、鏡子と香織の情報集めを協力をする。地図を用意してまるやばつをつけていっている。
「豊花さんは休んで心情整理してくださっていてよろしいですよ」
と言われてもなぁ……。
三日月と煌季は優雅にコーヒーを飲みながら、ありすたちの怪我を治していっている。
と、煌季がこちらを向いた。
ああ、このかすり傷か……。
私は私の腕についたかすり傷を差し出した。
煌季がそれを治そうとしたさい訊いてみる。
「あの……男体化は直せないんでしょうか?」
「男体化に戻れたら治せるだろうけど、戻せる?」
しかし、男体化と唱えても元に戻る気配はまるでない。
やはりガッカリしてしまう。
これで完全に女の子になってしまったんだと……理不尽さにイライラしてくる。
……絶対に奴等を許せない。
あいつらがやらかしたことは殺人だ。罪もない一般人を巻き込んだテロ行為だ。
普通なら死んだら復讐できない。
ーーでも私にはこのからだがある。
ぜったい、いつか、いくら男性のからだに未練がなくたって、復讐してやる!
私は胸に強くそう刻んだ。




