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Episode135/日常?(11)

(192.)

 本日の朝、12月22日火曜日。寒気を押し退け洗面台にたどり着く。もちろん鏡子の手首を掴まえてだ。いつもどおり顔を洗い歯を磨く。

 隣には連れてきた鏡子も同じように洗顔している。

 もうこの流れには慣れてきた。

 生理も痛くて痛くて仕方ないが、もう慣れるしかないと我慢する。


 既に瑠璃と瑠衣は洗顔を終え、勝手にキッチンを使い料理を始めている。

 美味しそうな匂いが鼻腔を擽る。


 食卓には、私含めーー瑠璃、瑠衣、ありすが待っていた。

 みんなで椅子に座る。

 なぜか瑠奈まできた。

 瑠奈は昨日の話どおりならここにいられないんじゃ……。


「い、いただきます」


 差し出されたトーストやヨーグルト、サラダを口に運んでいく。

 トーストにマーガリンを塗り伸ばし、一口、二口と食べていく。


 これが瑠璃の手料理!

 瑠衣のでもあるのか。案外普通そうな見た目をしている。


「きょうから瑠奈とはお別れね」

「へいへい、私は人殺しに行きますよーだ」

「人殺して……あんたねぇ」


 瑠璃はちらほらこちらの顔を窺う。

 それに対して、殺人なんて愛のある我が家では普通だと伝えるため、迷いなく頷いてみせた。


 情報が集まるまではとはいいつつも、普段となんら代わり映えのしない朝。本当にこれから異能力の世界を打倒し得るのだろうか?


 いい加減寒くなってくる。気分的にも体温的にも。

 だいたい、もう何日、何ヵ月、我が家のベッドで眠っていないんだろう。

 ここではいまいち熟睡ができないんだけどなぁ……。


「豊花の口には合わなかったの?」


 瑠璃が心配そうに私を見る。


「いやいや、考え事してただけであって。うん、いつもどおりおいしいよ。ありがとう」


 それを聴いて、少し、ほんの少しだけ、瑠璃は嬉しそうな表情を浮かべた。すぐに戻ったけれども……。


「きょうの登校組は、豊花、瑠衣、瑠璃、ありすの四人ね。で、ありすは連絡係。用件ができたら登校組から離脱して任務につく、間違っていない?」

「そのとおりだよ。はぁ、あのクソ姉貴。殺すまえに裏切った理由を聞き出してやる」


 コーヒーを飲んでいたマグカップを強めにテーブルに叩き落とすように置いた。


「いいじゃんいいじゃん。私は最初からこの鳥籠の中だよ? 香織に頑張ってもらっているから、素性が明かされたら瞬殺してくる。で、アリーシャや碧ちゃん、朱音とイチャイチャするんだ」

「本当にあんたって相変わらずよね……」


 瑠璃から突っ込みが入る。

 登校組が手薄になる。

 だが、ある意味これは釣りだ。

 人数が減ったら敵対者も姿を見せやすくなるんじゃないかという、挑戦。

 危険な挑戦だ。


 どうして相手が私を狙っているのかは判明した。

 それは単なる神の戯れ言だ。

 でも、それを利用できるかもしれない。


 私たちは建物の外へと並んで出た。瑠奈は空を飛ぶと、『またあとでね!』と言い残し、空中から探索を始めてしまった。

 ありすは普段どおり辺りを警戒しているが、いつも異常に警戒している感がある。


 私はというと、ただただ普通に暮らしているだけだ。

 細道をとおり、上空で工事をやっている下にある道をぞろぞろと歩く。

 


 ーー嫌な予感がした。



 周りを見渡すと、ちょうどマスクをしている風邪気味な方が多く存在している。


「ありすはともかく、瑠衣と私と豊花って、割かし初期メンバーよね」

 

 ふと思い出した瞬間、機材が斜めになりーー鉄パイプや工事用の部品が真下に墜落した。辺りに進入不可のテープを貼り忘れている!

 私は慌てて瑠璃の手を引っ張り、無理やり背後に押し倒した。

 ありすや瑠衣も不審に思い手足を止める。


「豊花?」

「ちょっと待ってーーほら」


 一気に脚立がひっくり返るかと思えば、鉄パイプや重い機材などが目の前に大量に落下してきたのだ。

 ガシャンガシャンと響く音を叩き上げながら、地面に傷がつくほどの惨状ができあがった。


 マスク、鉄パイプ、機材、瑠璃が潰される!


 未来予知の記憶を頼りに、怪我しない位置まで三人を誘導した。


「すみません! いきなりガタガタしはじめて、本来はこんなことには!」

「言い訳がましい! すみません、今からこちら直しますので、直す前にお通りください。道の端なら通りますから」


 上司らしきひとが細くなった道を提示した。


「いえ……」


 これが文月の異能力だったら、悪いのはこのおじさんたちではない。敵対組織、異能力の世界に他ならない。


 脇道を通ると、ついに大通りに面した。

 瑠璃はーー?


「ーーよく、あんなことが起こるってわかったわね?」 


 無傷ーーよかった。未来を予知とかよくわからないけど、この子を助けられて……。

 って、ありすは?


「ありすはどこ行ったの? 下敷き?」

「いや、なんか真犯人の居場所がだいたい特定できたからやってくるって言っていたわよ?」

「真、犯人?」


 瑠衣はわからないなりに首を傾げて思考する。

 つまり、文月がいるであろう位置を特定して急いで向かったのだろう。

 見つかるといいのだけどーーでも、あの事故は故意にターゲットが狙われて使われたとしか思えない。


 まえに見た“夢?” はこれを予測していたのだろうか?


 自身の力に違和感を抱く。


 男女入れ替わり自由。


 能力は思考・直感・感覚・感情の強化。



 ーー本当にこれだけなのか?



ーーだから言っているであろう? 豊花のそれは、もはや直感のさきを行っているとな。ーー


 真の力……愛のある我が家で最も稀少存在……とてもじゃないけど、そんな自覚は持てない。


「あいつは放っておいて、役割どおり学校に行きましょ」


 瑠璃に促されて、ありすはありすで心配だが、とりあえず自分の役割を真っ当することにした。

  







(193.)

 教室はいつもの喧騒で賑わっており騒がしい。

 でも今は、むしろこういった日常側の風景に一安心してしまう。


「あ。あの」


 蒼井 碧ーー碧に声をかけられた。


「なに?」

「きょうは瑠奈様いらっしゃらないんですか?」

「ごめん、多分こない……」

「そーですか……はぁ、すみません」


 碧ちゃんはガッカリした表情で、ミンティアみたいな菓子を取りだし、口に数粒入れてガリガリしている。

 私の直感が、それがミント味の菓子ではないことを告げてきた。


「あのさ」碧の席に近寄り、机に手を置いた。「それ薬でしょ?」


 碧の手が止まり、顔を右往左往させたあと、静かにうなずいた。


「友達いないのと、瑠奈様が来ない悲しみを、抗不安薬で静めているだけです」

「じゃあわざわざ菓子の中に?」

「サイズがちょうどいいんですよ。エチゾラムをすべてこの中にいれています」

「エチゾラム? とにかく、用量以上は飲まないほうがいいよ」

「はい……」


 トボトボした表情で、彼女はミンティアをしまった。

 かと思いきや、今度は勢いよく咳止め錠を飲みはじめた。

 既に瓶の半分は飲んでしまっているだろう。


「だからやめなって!」

「豊花さんに言われる筋合いはありません! 今度瑠奈さんにメチルフェニデート売ってくれないか頼んでみます。あのひと、売人なんですよね?」


 ダメだこりゃ。

 咳止めや安定剤から入った人間は、さらに強い薬に魅せられる。

 メチルフェニデートは覚醒剤の弱いバージョンの薬だ。

 そのうち合法では我慢できなくなり覚醒剤に走る。


 以前、舞香さんから『覚醒剤にはまる人たちのいくつかのルート』を教えてもらったけど、そのうちのひとつに当てはまっている。


 一、弱い薬物から始め刺激や興味本意から上を目指し、いずれは違法に手を伸ばす。

 ニ、仲間からの誘いに断られずやってしまい依存していくパターン。


 碧の場合は一に当てはまる。

 私は自分の席に座る。


「おいおいおい豊花ちゃん。蒼井は本当に大丈夫か?」

「このままだと危ないんだけど、知人(舞香)いわく本人がやめようとしないかぎりやめられないんだって」


 とか言いながら、私には未だに覚醒剤を打った感触が残っている。

 覚醒剤のアンプルは一回3mgさらに筋肉注射。乱用者は100mgを静脈内注射で使うから、量的にも吸収率的にも大差がある。

 しかし、未だにちょくちょくやってみたいという思考が晴れないのである。

 だからこそ、碧の薬物依存も並大抵ではやめさせられないことを理解している。


「はいはーい、みんな席につきましょーねー」


 雪見先生の言葉により、みんな着席したり咳止めの瓶をしまったり、椅子を正したりして前を向いた。



 こうして、歪な日常生活と、真っ当な日常生活を交互に繰り返すのであった。



誤字多すぎぃ!

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