Episode133/日常?(10)
(190.)
そして授業が終わり、みんなを待ってそのまま大所帯で帰宅路。
珍しく大所帯ーー私、瑠璃、瑠衣、瑠奈、ありす、宮下、碧、さらになんと三葉まで加わり帰宅がはじまったのだ。
「こうやって歩いていると、俺のハーレムみたいに錯覚してくるわ」
宮下は鼻を高めて気分よさそうな顔をする。
冬を知らせる冷たい空気が、風となり皆に吹き当たる。
冬にしか嗅ぐことのできない冬の匂いは、なんだか懐かしい感じがして、私には嫌いか好きかでいうと大好きな分類に入っている。
「あのさ、宮下? 内面は男のままな女の子ーー私が混じっていることを忘れていないかな」
「ぶぶー!」瑠奈がわざとらしく笑う。「宮下のハーレムじゃなくて、既に瑠奈様のハーレムでしたぁあびゃびゃびゃざんねーんべろべろ」
「おい、この瑠奈って子なぐってもいいか?」
「いいけど返り討ちに合う可能性が高いよ?」
宮下は『ならやめとくか……異能力は便利だよな。大の男とサシで戦っても勝てるんじゃないか?』とガックリする。
「いや、言いにくいんだけど、瑠奈は魔法使い」「精霊操術師!」「だから、異能力者とはまた別なんだよ。努力もきちんとしているらしいし」
宮下は瑠奈をチラツと見る。
「いや、やっぱいいや。こんな乳なし、いくら美少女でもなぁ」
「あはは、わかってんじゃん。おまえがわたしのハーレムに入ろうとしたら、男なんて要らないからさっさと島流しするわ」
「なんだとー!?」
喋り歩きに活気がついて、皆それぞれ思うことも口に出し始める。
ただ各面々、いまいちよくわからない話題で持ちきりになるため、話題についていけない話は頷くとしかできない。
周囲に似た気分の友達がいないかなぁと辺りをぐるりと見渡した。
そこには、隙を見るや否や、カバンから席止め錠を流し込むように飲み込みつづける自称“薬に依存していない碧ちゃん”の姿。
相変わらず過ぎる。
強い風が吹く。雨が降ってきたため、傘を差していない三葉に傘を貸してあげた。私には、置き傘が一本ちょうどある。
「な、なんで私に?」
チラチラと宮下を横目で見ていた三葉に傘を差し出した。
予備持っているしな。
「あ、ありがとう……」再びチラチラと宮下を見比べると「借りた傘なのにごめん」と宮下のもとに駆けていった。
宮下も傘を差していない。瑠璃や瑠衣はどちらの傘なのかわからないが、二人で共用している。
瑠奈は降る雨を器用に風の力なのか、当たる直前周囲に雨をばら蒔いている。もっとも、こちらには当たらないように配慮をしてくれている。
ありすは雨なんて気にならない、雨ごときで依頼は中止にできないもんねーーと手遅れ並みにびちゃびちゃだ。
それにしても、やっぱり好きなんだろうな……三葉は宮下のことが……。
瑠衣と瑠璃が会話している横から、雨を反射しながら会話に混ざっていく。
案の定だ。
瑠璃、瑠衣、瑠奈と横並びになり、瑠奈は瑠衣の隣に陣取った。
さあ、始まるぞ、くだらないクソビアン話がはじまるぞ。
「きょうは、攻めの女の子はどういうふうに興奮してるのか教えるね?」
「たしかに、女の子同士じゃ、攻めは感じないんじゃ……」
おや、おやおやおや?
いきなりぶっ飛ばし過ぎだぞ?
「瑠奈……へんなこと教えたらぶん殴るからね?」
瑠璃から警告が入る。
この時点でもうやめたほうがいい気がするんだけどね。
「攻めはね、好きな子を舐めたりやさしく触ったりしていき、敏感な部分へとちょっとずつつづける。それを繰り返すうちに、なんて説明したらいいかわからないけど、脳内で興奮し始めた。びっくり、攻めも性的興奮かつ欲求を満たせるの。ドライオーガニズムみたいにーーぃい!?」
今度は分厚い教科書で瑠奈は殴られた。というより教科書を叩き込まれた。
「これで瑠奈の知性とかがマシになるんだらいいんだけどねー」
相変わらず下品な会話を瑠衣に吹き込むな~。
見てみろよ、瑠璃の顔を。
傘があるから邪魔しにいけない代わりに、般若のような表情をしているよ。
「碧はどんなことでもウェルカムです」
「マジでー! じゃあ今夜うちに来てよ。気・持・ち・よ・く・さ・せ・て・あ・げ・る」
「気持ち良く? とりあえずどんなことでも瑠奈さまを信じてますから、やり遂げます」
「碧ちゃん! やっぱりわたしは碧ちゃん並の従順な子が大好きだよー! 今夜我が家ーーにーーああ……」
そう。なにを言い出すのかとおもえば、我々がしばらく帰宅するさきは異能力者保護団体なのである。
様々な理由と手続きがあり、異能力者でもなく、特筆した能力もない仲間を増やすわけにはいかなかった。
真っ先に死ぬタイプのナンバーワンだ。
「ごめんよ~。いつか、いつか借りれるようになったらじゃんじゃか呼ぶからね。今はがまんしといてね、ごめん」
「ま、まあ、人にはいろいろ事情がありますもんね」
「もう……碧はどうなってもしらない。自らビアンの魔境瑠奈ハーレムに志願したのだから……」
「ねえ」
と、いきなり話題をぶった斬ったのはありすだった。
「ねえ瑠衣……さっきのハサミの実演見ていて思ったんだけどさ、ある程度強い程度にナイフを鍛え直せない。これ地味に使いにくくてさ」
ありすは瑠衣に強化させてもらったナイフをこそこそ瑠衣に手渡す。瑠衣はナイフに指を日本当て、なにかを念じる。
「これくらい、でいい?」
ありすはナイフでそこらを切りつけ「うん、OK やっぱり慣れているほうが扱いやすいし、何でも切れると危険すぎるから誰かの手にわたっても危険だからさ。普通のナイフより圧倒的に強く、かつコンクリートはちょこっと傷を追うだけ。ナイス、ありがとう」
「どーいたしまして……」
「異能力って便利なんだなー」
宮下が背後から覗いていたのか、ついポツリと呟いてしまった。
「ま、まあ、異能力によって能力内容も違うけどね」
「へー。いろいろあるんだろうか? 俺も一度くらいなってみてーなー」
「これ以上異能力霊体を増やしかねない発言は控えてよ」
「はーい」
と、宮下はわりかし素直にナイフから目を離した。
三葉も宮下の隣から、明らかにナイフの刃がピカピカするのを見ていたらしい。
「あれほしいなー」
「なら瑠衣に頼んでみたら」
「……瑠衣には、その、ちょこっと……いやべつにいいです。そろそろ分かれ道ですね!」焦り口調で宮下の裾を引っ張った。「また帰れたら帰りましょー」
後輩ーー三葉は元気良く、なおかつ目立たないように片手を振った。
ん……やはり瑠衣に嫌悪感を抱くクラスメートも微かにいるんだなぁ。
宮下と三葉がお似合いとは思えないが(見た目の問題ではない)、性格さえ互いに詰めていけば、予想外にカップルが誕生するかもしれない。
そしたら、素直に応援できる気がするな~。
ーー宮下の露払いだ。豊花は三葉が許せなくて、そして……。ーー
変なナレーション流すのやめてもらっていいですかね?
「碧、この辺りが自宅なので、今日もありがとうございました! また一緒に帰りたいですね!」
なんていう神々しさ。純粋な女の子という気さえしてしまう。
「咳どめは減らすように、スルピリドや整腸薬があれば多少は離脱が収まるから、試してみな。じゃあね碧ちゃん」
バス停前、他のひとも歩いている最中だというのに、瑠奈は碧にガッチリと、見間違えることなく三秒間接吻を交わした。
閉まるバス、その中には、顔を赤らめた碧ちゃんがいた。
「うへへへ、かぁわぃい!」
碧ちゃん、碧!
騙されてはいけない!
コイツは単なる女の子を性欲としてしか思っていないサイコクズレズなんだ!
容姿と魔法に憧れたーーなんていうか、クラスメートの名前しら把握していなかった私は、まさかこの子がこんな子だとは思わなかった。
やがて、ついに残った面子は、みんなーー豊花、瑠衣、瑠璃、瑠奈、ありすの五人にまで数を減らした。
そして流れるように瑠璃は瑠奈をぶっ叩くのであった。
瑠衣をそっちの人間に影響されたらどうするんだーーこれが瑠璃の口癖でもあるんだが、もはや瑠衣は持っている本といい行動といい、レズビアンというにはまだ早いが、百合的な感情は芽生えていそうだよ?
「まったく、金輪際、瑠衣に変なこと教えたらぜったい許さないからね」
「そこは大丈夫。初めては好きな子にあげたかった。そんな夢を叶えるのが瑠奈ハーレム。みんな本命、適当なおっちゃんに援助交際するような話とは断然違う。わたしのハーレムはわたしの為のものなのーー理解できた?」
「いまいち……とにかく瑠奈、あんたのは単なるビアンじゃない。ビアン症。治療してきなさい。愛のある我が家だって手焼いているんでしょ」
という話を異能力者保護団体に入りながら交わしていた。
「ええ。よくおわかりですね。瑠璃さん」
げほっ、蒸せそうになった……。
沙鳥がソファーでぬべーっと仰向けに倒れている。
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫です。それより学校で異変はありませんでした」
「なら今日もおそらく問題ではないでしょう」
沙鳥が立ち上がり、自動販売機でお茶などを買って投げ渡してくる。
「お、お、お帰りなさい」
香織は挙動不審そうに犒いの言葉をかけてくる。
「香織さんは含みを考えすぎです。今のは単にコミュニケーション不足でどもっただけです」
「いや、こっちこそなんかごめん」
ふぅー。
新メンバーだけあって緊張してしまうなぁ……。
舞香、沙鳥、瑠奈、ゆき、香織、鏡子、そして私。
「さて、皆さん集まりましたか。これよりうじ虫みたく湧いてでてくる異能力の世界の壊滅会議をはじめましょうーー」
……。
…………。
……………か、壊滅会議!?




