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Episode129/瑠璃への想い

(185.)

 12月14日の月曜日。


 今までどおり屈強な面子で学校に着くと、それぞれ担当の場所、教室に散って向かうことにした。

 教室が一番近い瑠璃とは同じ方面になる。


 こうも寒いんだから、学校にもエアコンを用意すればいいのに……あるのは古代的なドラム状に近い徐々に放熱されていき、ゆっくり暖まるストーブが教室の前方に設置してある。


「相変わらず寒いわよね、この時期の学校って」

「……う、うん。そうだね」


 どうしても気まずく感じてしまう。

 瑠璃だって内心では引いているのかもしれない。

 言い訳したくもなってくる。

 しかし逆効果だろう。


 今しがたまで忘れていたが、瑠璃は他人の顔色や所作行いで人の精神条件を把握するチートみたいな技術が培われているのだ。

 いつもなら楽しい、唯一瑠璃と二人だけで歩ける区間。短いながらも瑠璃と一緒に話すには楽しい時間だった。


 だけど、いまは冷や汗を掻いてしまい、早く教室につくことばかりにしか頭がいかない。


「その、豊花? このまえはごめんなさい。別に嫌ったとか好きになったとかじゃなくて、純粋に嬉しかっただけ。助けに来てくれて……ありがとう……」

「い、いや、こっちも……なんかごめん」


 相変わらずギクシャクした関係はつづく。


 胸と背をキッと張りつめる。


「ハッキリ言うよ……瑠璃に完全に嫌われてしまう前に」


 なら、早めに言い出しておいたほうがいいだろう。


「嫌いに……? いったいなにを?」


 そう……これは初めて邂逅したときから変わらぬ想い。


「なにがあろうと、私は瑠璃が大好きなんだ」


 ついに、ついにその一言を口にしてしまった。


「……バカ言わないでよ。一度、ひとのことを振ったくせに……よくそんな言葉が口から飛び出してくるわね?」

「違う。私は瑠璃と対等な恋人になりたかったんだ。ただ一緒にいるだけなのが、恋人なの? 私(豊花)の考えを否定しつづけるだけなのが愛情なの!? そのうえ、あの独り言はなんなのさ! 一番……一番傷ついたんだ……!」


 思わず涙が流れそうになるのを必死で止めた。


 ーー愛のある我が家の仕事をするんじゃ、何のために恋人にまでなって止めたのか、意味がなくなるじゃないか。


「瑠璃はこれを遠回しに言ったんだよ……。これは、これを、恋愛とは、到底呼べない! 私は本当の意味で、瑠璃と恋人同士になりたかった! わからないかな? 一緒に水族館に行ったりプラネタリウムを見に行ったり、そういう普通の年相応な場所を一緒にデートしたかっただけなんだ!」


 ついつい熱が入ってしまい、廊下の生徒がガヤガヤ騒ぎ始める。


「ご……ごめん、ちょっと考えさせて……」


 瑠璃は動揺しているのを隠しもせずに教室に入っていった。

 その目は赤く染まっていた。

 私もすぐそばにある自身の教室に手を掛けた。

 ドアの前には宮下が佇んでいた。


「なんか悩みか?」

「知らなくていい」


 つっけんどんな返事をする。いまはそれよりも瑠璃についてだ。


「あの子と付き合いたかったけど、大方振られたってところだな。ドンマイ」

「……おはよう宮下」

 

 二人で近場の椅子に着席し、雪見先生が来るまで雑談に興じようと言い出した。


「べつに……最初は瑠璃から告白されて恋人になれたんだ」

「よかったじゃねーか。羨ましいやつめ」

「でもさーー」


 あれはひとのことを束縛するための罠だったし、実際しばらくはいいように命令されて、『恋人のお願いなら守るよね?』って、断れない状況を作り出していたのだろう。


 だが、やがて、これは違うなと理解できてしまった。


 お気に入りの玩具を他人に使われたくないから、自分の玩具だぞと周りに認識させて外堀から埋めていく。そして、私が誰かを助けにいこうとするたんびに、危険なのにどうしていくの? と言って制止する。自分の玩具を失いたくないから……。


『恋人の言うことが聞けないの!?』


 そこでガラガラと崩れ落ちた。


 少なくとも私が好きになった瑠璃は、いまの束縛女とは異なる。


 だからこそ、今度こそは、対等な彼氏彼女の関係になりたい。


 それくらい、思っている。


 どうして己が、そこまで瑠璃に惹かれるのか。そこをまだまだ理解したくて堪らない。


「はいはーい私物しまって。そろそろ冬休みだから雪には気を付けるんだぞ」


 間もなくして、普段どおりの授業をはじめることになった。



 ……ふと、瑠璃がいる教室にちょびっと思いを馳せた。

 


 そこには、普段どおり明るく活発な女の子がいるだろう。クラスメート全員と会話をしており、楽しさが溢れている明るい雰囲気の女の子ーー葉月瑠璃が馴染んでいる姿が頭に浮かんだ。

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