Episode124/神奈川の地を離れて
(179.)
しばらく刻が経ち、再び土曜日がやってきた。
「悪いが、豊花、ありす、瑠璃、美夜の計四人は銚子まで行ってきてくれ。向こうの異能力者保護団体に通っている異能力者のステージが気になる」
色彩さんにそう促され、私たち四人は長旅といえるかはわからない電車に乗り込むことになった。
メインは美夜さん、補佐は瑠璃でわかる。
じゃあ私たちは?
「いざっていうときの護衛じゃない? あーだるいなー」
なるほど。ありすと私は護衛役か。
と、電車が出発寸前で、瑠奈が車内に乗り込んできた。
手にはお弁当やらお菓子を抱え込んでいる。
「銚子に行くんでしょ!? やっほ、わたしの聖地その一! 大丈夫大丈夫! 私も護衛するからー」
と、さっそくカシュッとビールを開けた。
あれ? 下戸じゃなかったっけ?
「いやいや味が嫌いだから下戸を装ってたけど、ジュースみたいなのもあるんだねー! びっくりしたよ」
こっちがびっくりするわ!
てか、車内が酒臭くなる。
わざわざ空いているのに私の隣に座らなくても……。
「そういえば、今から行くのって、どんな場所なんです?」
「東京の隣よ、習わなかった?」
瑠璃さん……そういう常識を訊いているわけじゃないんだよ……。
「千葉の最東端辺りに向かうんだ。ぼくだけが行ってもいいんだが、それは危険だから護衛を付けろとさ。ありすはともかく瑠璃以上には戦えるつもりはあるんだけどね」
「そういうこと言わないでくださいよ……戦えないつながりで、どうして豊花も?」
「も? ……って、一応、私も護衛役なんだけど」
電車が出発する。千葉の最東端か……長くかからないといいけど。
ガタンガタンとしばらくぼーっと揺れている。と、肩を叩かれた。
「乗り換えするから」
「やっぱりしなくちゃいけないのね……瑠奈、お菓子かたづけて」
「うーん! 銚子まだかなー?」
「こいつ、銚子になにか埋めてやしないか?」
美夜さんが瑠奈を訝しげに見る。
いや……単純に好きな地名だか大地だかなだけな気がする。
危ないという直感は働かない。
電車を乗り換えたはいいが、今度は瑠奈がむらむらしはじめた。
「瑠奈……どしたの?」
「た」
「た?」
「煙草が吸いたい」
「煙草はマナー違反レベルじゃないぞ? 吸うなら喫煙所に行け! 勝手についてきて文句ばかり言うな!」
いいぞー、美夜さん。言ってくれること全部代弁してくれた。
「ついてこなければよかったじゃーん。それか瑠奈もやめれば?」
ありすがやめろと提言する。
「そういえば、ありすって昔煙草吸ってたんだよね? どうしてやめたの?」
私は気になってありすに訊いた。
「……昔は」
「だから何度も言っているだろう! その技は緊急時だけにしておけと」
刀子師匠にナイフの切り札突撃をし、かわされ、簡単にいなされたときの話。
刀子師匠は訓練に付き合ったあと、必ず煙草を一本吸っていたんだ。
これがさー、格好よく見えちゃってさ……。
「どうした?」
「師匠ー、私にも一本くださいよ」
「はぁ……まあ殺し屋やってる時点で法律も糞もないか」
師匠は煙草を一本、格好よくスッと取り出し差し渡してきた。
「ありがとうございます」
それをスッと私も格好つけて取り出し、口に咥えた。
師匠が火を点けてくれ、なかなか火がつかないのをぼうっと見ていたら、早く吸うんだよ、とも教えてくれたっけな。
あの頃がら、訓練の後や、仕事の後、煙草に火を点けるのが癖になっていってね。
いつ頃からだったかな?
煙草をやめたのは……国にお金が貰える仕事に就いて、そのときに静夜からいつかはやめろよーーと言われていたのを思い出したからさ。
そう。
なんとなく、なんとなくやめたんだーー。
「へー、なんとなくで。なら、瑠奈だってなんとなくやめられるんじゃない?」
「やめない! あ、東京駅!」
乗り換え駅に着いたら、真っ先に喫煙所を探しに行ってしまった。
乗り換え間違えないようにありすもそれについていく。
「豊花ってさ、知らない間にいろんな人たちと仲良くなってるんだね……」
瑠璃はどこか寂しそうな表情を浮かべる。
「え、いや、ありすと瑠奈とはみんな仲良いし」
「私は弁当つくってるだけだもん……ううん、みんな仲良いのは良いこと。良いことだけど……その他大勢に私も含まれているのかなって」
「?」
瑠璃は、いったいなにを言いたいのだろう。
しばらくすると、満足げな瑠奈と疲れた顔をしたありすが戻ってきた。
「集まったならさっさと行くぞ。そっちに付いていけば煙草話だし、ここに残っちゃラブコメ空間で耐えられない」
ラブコメ空間?
よく意味はわからないが、とにもかくにも、予定通り+1で銚子に目指すのであった。




