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Episode122/日常?(8)

(175.)

 12月11日火曜日ーー。


 愛ちゃんの件に関しては、両親の居場所を見つけ次第、復讐しにいくのをサポートするということになった。

 この件に関しては、愛のある我が家は現地には行かないということになった。

 まあ、たしかに、現地に攻めてここが落とされるなんてことがあったら、私たちは何のためにここで暮らしているんだということになる。


「瑠衣、豊花、ありす、瑠奈、早く行くわよ」

「はーい」


 みんなそれぞれ寝起きのテンションで声を返す。

 学校の準備をしてーーだいたいは机の中に置いてきているがーー弁当を鞄に詰めて財布をポケットに入れる。


 ……このポケットには500万下ろせる銀行のキャッシュカードが閉まってあるからか、実際より重く感じてしまう。

 しかし、このお金は、数々の犯罪者側の仕事をして手に入れた汚いお金だ。そう考えると、あまり積極的に浪費しようとは考えられないのだ。

 沙鳥からは経済を回すという意味でも、もっと好きな物事にお金を使ったほうがいいとアドバイスをされたけど、正直、欲しいものとかあまりない。


「行って……らっしゃい……豊花さん……」

「うん。行ってくるよ」


 鏡子に不器用なお見送りをされて、私たちは異能力者保護団体から外へと出た。


「瑠衣ちゃーん、きょうは気持ちのよくなるあそこの触り方を……ぐべっ!」


 早速なにかを瑠衣に吹き込もうとした瑠奈が瑠璃に叩かれた。


「いい加減にしてよ……瑠衣が変な方向に目覚めたら責任取れるの、取れないでしょ?」


 いや~……お姉さん、すでに変な方向に向かっていると思いますよ……残念ですが。

 雑談しながら学校に行くための電車に向かう。


「責任? 取れるよ? わたしのハーレムに入れてあげるもん」

「もん、じゃないわよ! 瑠奈って本当にクレイジーサイコレズの異名に相応しいわよね」

「誰だー、そんな不名誉な異名をわたしに名付けたのはー」


 異能力者保護団体だよね、たしか……。

 でも、瑠奈がクレイジーサイコレズなのは私も身に染みて理解できている。

 これで男なら訴えられるだろうに、無駄に女……しかも飛びきりの美少女なのがなおさら質が悪い。

 これじゃ、騙される悪い子も中には出てきてしまうだろう。 


「お、おはようございます瑠奈様! みなさん!」


 ほらー、この子みたいに……。


「おはよう碧ちゃーん。瑠璃がいじめるんだ、わたしがおかしいって」

「いじめはよくないと思います」

「あのねぇ……はぁ。いじめていないわよ」


 蒼井 碧ーー私と同じクラスメートの女子に、瑠璃はやっていないと弁明する。

 碧もなー。こんな女専用ビッチにどうして惹かれるのやら……。


 そんな碧ちゃんが急にハッとした表情を浮かべると、鞄をゴソゴソ漁り出した。

 なんだなんだと見ていると、鞄からスポーツドリンクとーードラッグストアでも購入できる白色錠剤が沢山入った小瓶ーーせき止め薬ーーを取り出した。


「風邪なの?」

「いえ……その」


 碧は蓋を捻って開けると、そのまま口許に瓶の出口を付け、中に80錠くらい入っている白い楕円形のそこそこ大きめの錠剤を、ジャラジャラと一気に30錠ほど口内に流し込んだ。


 え?


 え?


 この子、なにやっているの?


 その錠剤をスポーツドリンクでグビグビ飲み干した。


「碧ちゃん、それはちょっといただけないなぁ。わたし舞香の例があるから薬中は嫌いなんだよね」

「すみません、すみません。でもこれないと私、気力が湧かなくって」

「あのさ? せき止め薬そんなに飲んでなにがしたいのよ? ほら、瓶には一回四錠までだって書かれているし」


 碧ちゃんはもじもじして説明しづらそうな態度になっている。


 瑠奈が空咳をし「仕方ない。わたしが解説しよう。一応ネタ運ぶ役やってるし、薬の知識はそこそこあるつもりだから」とみんなを見渡した。

 市販薬と舞香の覚醒剤依存症……なにか関係があるのだろうか?


「まずね、そのせき止め薬にジヒドロコデインとメチルエフェドリンっていう成分が含有されてるって書いてあるじゃん?」

「まあ、書いてあるけど……」


 空箱のほうを瑠璃が見上げて、含有成分の確認をしている。


「ジヒドロコデインは鎮咳にも用いられるけど、ジヒドロコデインって阿片から取られる、いわば麻薬なんだよね」だから、と瑠奈はつづける。「多量に飲むとモルヒネみたいな多幸感が発現するってわけ」

「それって……ま、麻薬じゃない! なんで市販薬として売られているのよ?」


 それは私も気になった。

 そんな危ないもの、なんで市販薬として販売されているのだろう?


「そりゃ、少量なら有効な咳止め作用があるからだよ」で、と瑠奈はさらにつづけた。「メチルエフェドリンはエフェドリンをメチル化ーーまあマイルドにした成分。というか咳止めに特化した成分だね」

「エフェドリン? ん……?」


 どこかで聞いたような……舞香さん辺りが昔ちょいと話していたような気がする。覚えておけばよかったかな?


「エフェドリンは密造方法によって変わるけど、メタンフェタミンーー要するに覚醒剤を密造できる薬剤なんだよねー。だからメチルエフェドリンも多量に飲むと賦活作用ーー眠気覚ましややる気を出したりする作用が働く。ま、舞香が言うにはメタンフェタミンとメチルエフェドリンじゃ雲泥の差があるらしいけどね」

「ちょっとちょっと、碧? っていうことは、貴女弱い覚醒剤と弱い麻薬をダブルで乱用しているってわけじゃない! 今すぐやめなさい!」

「む、無理なんです……やめると辛い日しかないし……それより瑠奈さん! どうして覚醒剤についても詳しいんですか!?」


 話を逸らそうとしてか、碧は瑠奈に気になる点を質問した。


「そりゃ、わたしがやっている仕事って、覚醒剤の密売だし。あ、内緒ね?」

「うわぁあ! すごい! あの……ぜひ、私も試してみたいんですけど」

「碧!? いい加減にしなさい! あんた自分がなに言ってるのかわからないの!? 犯罪なのよ犯罪! 咳止め薬はまだ犯罪じゃないから目を瞑ってても仕方ないけど、覚醒剤まで行ったら通報するからね!」


 激おこぷんぷん丸な瑠璃、瑠璃を無視し瑠奈に対してきらきらした瞳を向ける碧、嬉しそうながら困り顔の瑠奈ーーなんじゃこりゃ。


「あー……覚醒剤は絶対にやめといたほうがいいよ。身近に悪い見本がいて、そのひとや買っていく奴ら見てたらわかるけど、ぜったいろくでもない目に遭うよ……」

「もしやらせてくれるなら、私の体、瑠奈さんが好きなようにしていいですから!」

「ピクッ……」


 ピクッって、おい……。


「いや、やっぱりダメだよ。そもそも私、薬中って大嫌いなんだよね……碧ちゃんみたいにかわいい子がシャブ中になったら、私は私が許せなくなる。だからごめん」

「うう……じゃあ瑠奈様はどうなんですか? 売ってるってことはやっているんじゃ……」

「やらないやらない。テイスティングは別の奴が担当してるし、わたしの所属する組織ではやる奴いないよ……ひとりは昔やってた奴がいたけど、そのせいで依存症になり、リーダーから降りるはめになったから。未だにやめるのに苦労してるよ。……そういうダメな見本が周りにいるから、わたしは薬だけはぜったいダメだと思ってるんだよ」


 舞香……か。

 舞香は覚醒剤に依存し、いろいろ失ったと捉えられる台詞を言っていた。未だに思い出してしまい、思い出すと手が震えてしまうとも言っていた。


 いくら女の子が好きにしていいーーとまで言ってくれても、瑠奈でさえ覚醒剤はぜったいにやってはいけないと制止するレベル。

 危なかった。覚醒剤仕分けの際、ちょっとでも試してみたくなったとき、実際にはやらないでおいて……。


「だから覚醒剤は諦めて。成人すれば煙草も吸えるし、お酒も呑めるじゃん。咳止め薬も出来ればやめてほしいんだけど」

「……それは」ジャラジャラごくんっ。「無理です……こればかりはやめられません。でも、覚醒剤は今のところ諦めておきます。でも、チャンスがあったら試します」

「チャンスがあってもぜったいにやらないでよ? ぜったいに後悔するよ? なんなら、絶賛後悔中の元覚醒剤依存症者に会わせてあげよっか?」

「……まあ、それはそのときで。とにかく、私は咳止めだけはやめられませんから」


 意固地だな~。


 瑠奈様呼びするくらい瑠奈を崇拝しているわりには、薬物のことになると譲らない立場を示す。なにがここまでこの子をそうさせるのだか……。









(176.)

 学校に到着して、皆それぞれの教室へとバラバラになり向かう。

 教室のドアを開けると、みんながこちらに振り向き、「おー!」「やっと来た」だのいろいろ言われた。


「先生から、もしかしたらもう二度と学校に来れなくなるかもって言われたからなー」


 木下はしみじみ言う。


「豊花ちゃーん! なにか辛いことない? あったら言ってねー! うちら同じ女の子じゃん!」


 元は男子なんだが? 名も知らない女子生徒(クラスメート)よ。


「瑠奈様、きょうはお昼休み来てくれるのかな?」


 クラスメートの碧に声をかけられた。


「毎日は来てないらしいね……うーん、瑠奈が暇すぎたらやってくると思う」

「なんだなんだ? おまえら接点なかったのに、いつの間に仲良くなってるんだ?」


 宮下が碧と私におはようと手を軽く挙げながら声をかけてきた。


「瑠奈様が豊花ちゃんの知り合いだって言うから、そこ繋がりで」

「碧がそっち側の性癖だったとわびっくりしたなー。普段おとなしそうにしてたのに」


 宮下がからかうように言った。


「瑠奈様を見たらこの人だ! って一目惚れしちゃって……」


 碧はサラサラな黒髪を撫でて、照れながらそう答える。

 あれは怪物だぞ。

 見た目が美少女だからって騙されてはいけない。

 クレイジーサイコレズなうえ性欲には忠実だし女の子だったら誰彼いただきまーす! な男にいたら単なるヤリチン野郎だ。女という性別とかわいい見た目に騙されちゃあいけない。


「宮下くんは瑠奈様には惹かれなかったの?」

「たしかに美少女だけどよ、豊花ちゃんと同じく可愛い系じゃん? 美少女じゃん? 俺は美少女よりも美女派なんで。それにほら、あの子の胸見たか? どう見繕ってもAAカップだぞ……ボンキュッボンが好みなのさ」

「あー、瑠奈様が気にしてること言ったー。胸なんて飾りです。偉いひとにはそれがわからないんです」

「ははは……」


 なんだこの貧乳巨乳談義は。

 そういう私も貧乳だ。

 瑠奈よりはあるけど……。


 私の好みとして考えるとどうだろう?

 ……Cカップくらいか?

 瑠璃や瑠衣くらいのサイズが一番好みだ。


 瑠奈は顔はともかく、胸はスットーンと終わっている。それにチビ過ぎやしないか?

 身長145cmない、もしかしたら140cmに近いかもしれない。

 あれで27歳……詐欺だろう……。

 どう見れば20代に見えるんだよ。魔法でもかけているんじゃないか?


「はーい、みんな静かに。ホームルーム始めるわよ~」


 雪見先生の言葉により、みんなガヤガヤしつつも各々ちゃんと着席する。









(177.)

 授業が終わり昼休みになった。

 私は慣れた足取りで一年ーー瑠衣の教室へと向かーーおうとしたら、瑠衣とありすが教室の前に佇んでいた。


「なんか、教室に、いずらい。だから、豊花のクラスで、食べていい?」

「瑠衣ったら気にしすぎなんだってば。言いたいやつには言わせとけばいいじゃん。どうせ手出しできないあまちゃんなんだからさー」

「ま、まあいいんだけど、瑠璃は?」


 瑠衣のクラスに行っていないだろうか?


「やっぱりこっちにいた。仕方ない。豊花の教室で食べましょ? 席はどこ?」

「ああ、あそこ」


 私の席に一年の瑠衣と転入生(虚偽)のありす、隣のクラスの瑠璃がぞろぞろ入ってくることで、周りもなんだなんだと目を向けてくる。


「俺も一緒に食べていいかー?」

「べつにいいけど……宮下まで混ざると結構大人数に」


 そのとき教室の少し空いていた窓がガラガラと引かれ、瑠奈まで入ってきた。


「暇だから来たよん」


 わあー! と回りが沸き立つ。

 こっちの席に向かってくる。


「あ! 瑠奈様だ! 待ってください! 一緒にお昼食べましょーよー」


 それを追うように碧まで着いてきた。

 クラスメートの宮下、一年の瑠衣とありす、隣のクラスの瑠璃、外部からの侵入瑠奈、瑠奈が来たからと同じくクラスメート碧が集まる。


 私、宮下、碧、瑠璃、瑠衣、ありす、瑠奈と七つの席を合体させて食べることに……人数多すぎやしない?

 お誕生日席には瑠奈が真っ先に座った。


「わたしが一番~」とかなんとかほざきながら……。


 一気に教室が騒がしくなる。


「瑠奈様も弁当なんですね? ご自分で?」


 碧の問いに対して、「いや?」と首を振るうと瑠璃を見た。


「瑠璃ちゃんにつくってもらってるんだーえへへ。ラブラブだからね!」

「まあ! 瑠奈様のハーレムの一員だったんですね! 瑠璃ちゃん、同じハーレム人員同士、よろしく!」


 やめてくれ!

 瑠璃が瑠奈に浚われたら、いろいろやる仲になったら、私はもうトラウマで恋愛なんてできなくなる!


「違うわよ!」瑠奈は机をやや強く叩き否定した。「そいつのハーレムなんかにゃ死んでも入らないわよ! ただ瑠衣や豊花、ありすの分までつくってるんだし、ついでにそいつの分もママーーお母さんと作ってるだけだから、勘違いしないで」


 いま、ママをわざわざお母さんに言い直したよね?

 べつにママ呼びでもいいと思うのに。


「そういう碧はやたらと少食じゃねーか」


 宮下が突っ込みを入れた。たしかに、弁当箱が小さいしごはんの量も微量だ。ダイエットでもしているのだろうか?

 いや、それにしても少ない……。


「ああ、私はーー」せき止め薬を取り出し数錠じゃらじゃらと飲み込んだ。「これのせいで食欲湧かないんです」

「やめなさいよ、そんなの……麻薬と変わらないんでしょ?」


 瑠璃は瑠奈の方に顔を向ける。


「まっ、たしかにモルヒネよりは弱いけど、コデインの別名って知ってる? メチルモルヒネだからね。それを強化したのがジヒドロコデイン。肝臓で代謝された10%がモルヒネになるから、まんま麻薬だよん」

「ほれ見なさい。今すぐやめるべきよ!」

「やめるわけにはいかないんだな~。ね、瑠奈様! 違法じゃないですし、違法よりは安全ですよね?」


 碧は相変わらず瑠奈にベッタリ、一途な娘だ……相手があの瑠奈じゃなければ純粋に応援できるのに。


「いや? 舞香が言うには、体への害はイリーガル並み、物によってはイリーガル以上にからだに悪いらしいよ? 部分的には覚醒剤より質が悪いって言ってたもん」

「うぐ……瑠奈様、それならまだマシの覚醒剤を……」


「だからさー、覚醒剤は違法だし、別の部分は厄介なの。だから言ってるじゃん。覚醒剤に依存して抜けられなくなった挙げ句、愛のある我が家のリーダーを退くことになったシャブ中がいるって。組織のリーダーそのせいで沙鳥になったんだから。今度実際に会って話を聞いてみなよ?」


「ん? 組織? 愛のある我が家? 覚醒剤?」


 宮下は頭上にハテナマークを無数に浮かべている。

 余計なこと言いやがって、このサイコレズめ!


「いや、あまり気にしないで宮下。あはは……気にしない気にしない」

「ーーまあ、あんまり頭は突っ込まねぇけどよ。なにか大変な事があれば、遠慮なく相談してくれよな? 最近なんか連れないぜ?」

「う、うん。ありがとう」


 と、衣服がくいくいと引っ張られた。

 それは瑠衣の手ーー。


「なに?」

「会話、参加、できない……」

「あはは……無理に参加しなくてもいいと思うよ……」


 こんなディープな会話になんて、逆に参加しないでほしい。


「ところで碧ちゃんはプレイするときはなに使ってる? っていうか処女だよね? 他の醜い男女に破られていないよね? ね? あ痛い! なにすんのさ!?」


 瑠璃がわりと容赦なく頭をぶっ叩いた。

 うん。今のは致し方ないと思う。

 食事中に話す内容でもないし、誰かがいる場所で話す内容ですらない。

 そういうプライバシーに関わる話は、二人きりのときにしてもらいたいものだ。


「瑠奈様に捧げるために、もちろん……恥ずかしいですけど、私はまだ、初めてです。やさしくしてくださいね。瑠奈様」


 碧がそう言うのを耳にした瑠奈は、口元に笑みを浮かべ、やがて気味悪いほどに歪曲させた。


「えへへへ、興奮するなぁ……ああやさしくするよやさしくするよ~。浮気とかダメだからね。私専用になってくれなきゃダ・メ・だ・ぞ?」


 何股もかけてるクレイジーサイコレズがなにか仰っておられる。


「なあ、豊花ちゃん」


 宮下が耳元に口を近づけた。


「なに、宮下……」

「瑠奈ちゃんってさ、百合っていうか、レズっていうか、もう性欲隠さない変態野郎並みのくそレズじゃね? あの性欲への忠実さ、さすがについていけないんだが……」

「大丈夫。私もついていけないから……瑠奈は産まれる性別間違えたのかもしれない……」


「は? いま産まれる性別間違えたとか言わなかった?」


 瑠奈が地獄耳で会話に割り込んできた。


「いや~ははは……だって女の子があまりに好きすぎるから」

「男はばっちいの。私は男になんてぜったいになりたくないね。美少女として、美少女を侍らす。それだけが私の本望なんだから。イケメンは早く死ね! 私の未来のハーレム要員に手を出すな! イケメンほど世界から消えてほしいと願った相手はいないね。ふんっ」


 いやいや、べつに女の子はみんな瑠奈のものじゃないから。

 イケメンの彼女を見て、本当だったらあの子、私の彼女になる筈だった!

 ーーとか言い出しそうで怖いわ。


「どう、瑠衣ちゃんも私の彼女にならない?」

「いや。私には、豊花と、ありすが、いるから」


 思わず咳き込んでしまった。

 いつ、私が瑠衣の彼女になることになった!?


「瑠衣? 私はノンケだから女の子同士はちょっと……」

「私は、レズじゃない! でも、ありす、ちゅき」


 ちゅき……なんか背筋がゾワゾワッとしたんだけど。ちゅき……。


「レズじゃなくて略すならビアンだよ。レズは蔑称だからさ」


 瑠奈の豆知識はどうでもいいわい。

 そもそも、私の恋する相手は……瑠璃、ただひとり。

 瑠奈がレズとビアンの差を解説しているのを横目に瑠璃を見る。瑠璃は呆れ果てた顔をしながら皆を眺めていた。


 そんな瑠璃と私の視線が交わる。

 瑠璃は少し体をビクリと揺らしたかと思うと、いそいそと恥ずかしげに視線を逸らした。


 ん?


 なんだろう?


 振り向くが、背後には誰もいない。


 もしかして、嫌われることを知らず知らずのうちにやってしまった?

 いや、それならハッキリ言うはずだ。瑠璃の性格上、黙っているのは考えにくい。


 気のせいか……私は弁当を食べ始めた。


 ぎゃあぎゃあとーー主に瑠奈と碧がーー騒いでいたせいで、ほとんど弁当に手をつけられていないのだ。



 くだらない雑談をしながら、いつもよりほんの少し、ほんの少しだけ楽しかった昼休みは終わりを告げるのであった。

 



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