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Episode120/異能力者の塔(中)

(171.)

「プレイするかい?」と訊いてきた相手が、まさかの水無月本人だった……。

 どうしよう……いきなり刺し殺すか?

 でも直接攻撃されたわけじゃないから躊躇してしまう。


「……あなたは水無月ですよね?」

「……ご名答。ということは、きみは件の異能力者かな?」

「はい。だから馴れ合うつもりはありません」


 ふむ、と水無月は頷くと、ダンスゲームから降りた。


「私はね、少年であった神無月くんに惹かれたんだよ。あの純粋な疑問に答えたくなった」水無月は手首を鳴らすと、こちらの真正面に立った。「もうすっかりおっさんだが、大人ながら彼の理屈には同意以外の何者でもなかった」

「ちょっと失礼します……」私は携帯電話を取り出し、ありす宛にメールを素早く送る。「あなたは本当に異能力の世界の一員なんですか?」

「答えるまでもないだろう」


 その割には、敵対心をまだ見せていない。朗らかな笑みを浮かべているのだ。

 だが、腕を鳴らしたということはやる気満々だということだろう。


「愛ちゃん、下がってて」

「えー? なんでー?」

「ごめん。理由は後で説明する」


 愛ちゃんは渋々距離を取る。


「神無月くんはきみを味方に引き入れたいようだけど、味方にはなってくれないのかい? きみは恐ろしい異能力者のひとりだからね。気持ちはわかるよ」

「そんなの……いや、私はもう戦うと決めたんだ」


 恐ろしい異能力者?

 舞香やゆきのほうが恐ろしいと思うんだけど……。

 ナイフを取り出し構える。

 今までの相手ならどうにか勝てるはず……第一、水無月の異能力は精神の強制暴走。戦うのに向いているとは思えない。

 私は、昔殺したヤクザを相手にするように、決して油断せずにナイフを振るった。


「な!?」


 しかし、水無月はこちらの切り付けを意図も容易く避けてみせた。

 そのまま相手の拳が襲いかかる。

 まずい!

 直感で避ける位置を決める。顔面を下げ、肉体を後退させ腹部へのパンチをかすらせる。さらにバックステップで蹴り払いを避け……次が体に追い付かない!


「ぐっ!?」


 右腕を挙げ上段まわし蹴りを防ぐ。ビリビリと痛みが伝わり、思わず格闘ゲームの画面まで吹き飛ばされる。

 水無月は急いで向かってくる。すばやい!


「強い異能力を持つ奴は鍛えていないけれど、私は違うんだよ」


 相手の蹴りが穿たれるが、その瞬間、真横から飛んできたありすの攻撃。水無月はそれを避けるために蹴りをやめ背後に下がる。

 ありす……近くにいてよかった!


「杉井! ボーッとしない立て!」

「ふむ。代理人か」


 くいくい、と手を曲げると、すばやい動きでありすへ向かう。

 ありすは咄嗟にナイフを振るが、それを避け、また避け、拳を打ち込んだ。


「かはっ!?」


 それがありすにクリーンヒットする。

 水無月はありすの首を片手で握り挙げると、首締めをはじめる。


「ありす!」


 ダッシュで水無月に向かうが、水無月はありすを真横に勢いよくなげ、ありすはクレーンゲームにぶつかり、頭でガラスが割れてしまう。

 ありすがあんなに一瞬でやられるなんて!

 こいつはまだ異能力を使っていない。なのに、なんでここまで強いんだ!?

 私のナイフの連撃を軽々と避け、再び下がり水無月は体勢を立て直す。


「私は君たちの想像より鍛えているんだよ。易々と殺れると思わないでくれ。さて、そろそろ計画を始めよう」


 水無月は戦闘が始まっているのに、誰かに電話をかける。

 やらせない!

 勢いよく相手に飛び、ナイフの突きを放つ。


「もう手遅れだよ」

「なにをしたんだ!?」


 水無月はナイフを避けながら、愛ちゃんに近寄る。

 しまった!

 人質に取られる!

 そう思ったが、奴は片手で愛ちゃんの肩を掴むだけだ。


「あ、あー、あぁああああいやぁあああああああ!?」

「愛ちゃん!?」


 異能力だ。

 精神の強制暴走を使ったんだ!

 すると、愛ちゃんはピクリと止まったかと思うと、ゲームセンターの遊具が数個宙に浮いた。

 あんな重いものは操れなかったはず!

 寸刻ーーゲームセンターの遊具は辺りに吹き飛び回り滅茶苦茶に壊し始める。


「愛ちゃん、しっかりして!」


 それを避けながら愛ちゃんを説得する。


「ーー私に、こんな力が……あはは」愛ちゃんはニヤリと笑みを浮かべた。「これなら、あのくそ親どもをぶち殺せる! あはははは!」

「愛ちゃん……なにを言って?」

「真実だよ。異能力者は誰しも心に傷を負っている。それが表在かしただけさ」


 水無月もゲーセンの遊具を避けたあと、佇みながら冷静にそう口にした。

 ゲーセンの外が何やら騒がしい。

 しかし、今は目の前のコイツを倒さなければならない。


「きみはーー本当に仲間になるつもりはないのかい?」

「今さらなにを!」

「きみが本気を出していたら私などとっくに殺られている。でも殺られていない。敵対心が弱い証拠さ。きみはまだ心のどこかで迷っている」


 本気を出していたら殺している?

 いや、本気は出しているつもりだ!

 しかし、しかし水無月が言うことにも引っ掛かりを覚える。


「おじさん、ありがとう。これで、私は本土に戻れば復讐できる」


 愛ちゃんは場違いにも水無月に礼を言う。


「愛ちゃん……さっきからなにを言ってるんだよ? 両親への復讐だとか……」

「私ねー? 本当は、お父さんからは性的ないたずらを受けて、お母さんからは暴力を振るわれて、どこかへ逃げたいと思っていたら、ここへ呼ばれたの。だから最初は嬉しかったけど、このちからを手にしてわかったんだ。私は復讐するべきだって」

「な……!?」


 明るかった愛ちゃんは、無理をしていた?

 そんな中、水無月が異能力霊体侵食率をファイナルステージにした。異能力の強化だ。だから復讐に走る……と?


「お嬢さん、もうすぐ船が来る。本来は食料品とかを運ぶ船だけど、おじさんの強化した異能力者がこれからジャックするのさ。それに乗り込めば帰れるよ」

「な!?」


 さっきから外が騒がしいと思っていたのは、それ!?


「わーい! 復讐復讐!」


 愛ちゃんは小躍りして喜ぶ。

 異能力者の塔に来て、そんな仕込みをしていたなんて……!

 でも、まずは水無月をどうにかしないと。


「……!」


 ありす!

 ありすが起き上がり、地面を滑空するように水無月に走り寄る。

 頭から血を流しながら、それでも耐えて攻撃をしている。

 水無月はそれを避けるが、ありすは半回転しながら飛び込み、水無月の反対側に華麗に着地すると、再び水無月に同じように突進。


「ほう……やるね」


 水無月はそれを避け、ありすに打撃を食らわせようとするが、ナイフを避けたあとではありすが離れていて拳が当たらない。

 でも……このままだといずれありすがやられてしまう!

 ありすがやられたら……瑠衣が悲しむ。

 やっぱり、こんなこと間違っている!


「う……ぁあぁあああ!?」


 脳裏に水無月と戦う映像が並行的に沢山流れた。

 そのなかには攻撃が当たったものもある。


 ーー私はそのとおりに近寄り、ありすのナイフ突きに合わせて水無月に駆け寄る。


「む」


 水無月にナイフを振るう。

 避けるが、これは脳裏に流れた映像どおり。

 再びありすが体を捻りながら水無月の背後に着地。再びナイフを構えながら滑空する。

 それに合わせて再びナイフを振り、直後突きを穿つ。


「ぐっ!」

「ようやくか……」


 ナイフが水無月の片腕を切り裂き、血が一気に出血する。

 そこにありすが滑空するかのように滑り込み、肩に突きを放つ。それが命中し、ありすは長距離バックステップをした。


「本気を出したようだね……きみのそれは直感でも予知でもない。本来のちからは数ある未来から望みの未来を選ぶことができる、恐ろしい異能力だ……」


 水無月は言い捨てると、ゲーセンから出て逃走を始める。


「ありす! 大丈夫?」


 私は頭から血をどくどく流すありすに駆け寄る。


「大丈夫じゃないよ……水無月を逃さないで。ここから逃げ出す異能力者は橘先輩と私でどうにかするから」

「……わかった。愛ちゃんをおねがい」


 私は一足遅れてゲーセンから飛び出した。

 なぜか脳裏には相手の逃げた場所が浮かんでいた。

 途中まで血痕を追い、なくなっても走りつづける。

 そして、男子トイレまでたどり着くと、迷わず中へと入った。


「やはり……無駄か」

「悪いけど、とっくの昔に人は殺してる。だから、もう迷わない」

 

 ここまで事件を大事にした張本人だ。

 さすがの私も容赦するつもりはない。

 まっすぐ水無月へと走り寄る。水無月は最初こそ構えるが、「無駄か」と呟き抵抗せずにナイフを心臓で受け止めた。


「……神無月くんに悪いけど、さきに逝かせてもらうよ……ごぼっ」


 水無月は血を吐き、その場でたおれた。

 ここまで、予知した未来どおり。


ーー豊花、この力はいったい……。ーー


 わからない。

 けど、未来予知ではなかった。

 水無月に攻撃を仕掛けようとしたとき、脳裏に一斉にたくさんの未来が映り、そのなかで、こうなる映像と同じ行動を取っただけだ。


 私は、息絶えた水無月を後にし、ありすの元へと走った。 

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