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Episode119/異能力者の塔(前)

(168.)

 あれから数日後ーー。

 横須賀港から出て数時間。私は船のなかでありすと共に寛いでいた。

 やはりありすも召集をかけられたらしく、ちょうどいいからと、共に発つ船へと乗り込んだ。

 到着したら別行動だが、それまでは一緒だ。


 それにしても、転入してから数日でクラスとお別れなんて……なんたる悲しさよ。

 瑠衣は、私とありすが同時にいなくなるということで非常に悲しんでいた。

 無理もない。

 可哀想だけど、しばらく瑠璃と二人で行動していてもらおう。


 だが、登校時には瑠奈だけではなく、ゆきも付き添うことになったらしい。

 それはそうだろう。ありすと私がいなくなった分の穴埋めをしなければならないのだから……。 


 宛がわれた室内でペラペラの紙を天井に掲げる。

 まさか、まさか本当に我が家にも届いていたとは……瑠衣にはまだ届いていないのに。


『異能力者の塔 第二入居指名者 杉井豊花』と紙には書いてあり、下には船に乗り込んだときに推された大きな判子が着いている。


 もう一枚、チケットのような厚紙を渡された。


 あとは身分証明書や着替え、金銭やキャッシュカードの入った財布など必要不可欠な物を持ってきている。


 ふと今まで沙鳥に渡して番号を知らせてから特に見ていなかった通帳を更新したら、高校生ではとてもじゃないが稼げない金額が振り込まれていた。

 まだ数ヶ月も働いていないというのに、この現場に乗り込む経費と合わせて500万円。

 思わず頭が眩んでしまった。


 もう少し働けば父親の年収に届くのではないだろうか?

 だがすべて手持ちにあるのは不安なため、財布には二万円しか入れていない。小心者と笑うがいい。


「そろそろ着くんじゃないかなー」


 ありすは予想外に船酔いに弱いらしく、常にまだかまだかとぼやいている。

 こういうとき、瑠奈なら空を飛んでひとっ飛びで到着するのに……まあ、そしたら内部にめちゃくちゃ怪しまれるだろうけど。


 時計を見る。

 午後の六時前だ。


「たしかにもう八時間経ってるし、そろそろ着くでしょ」


 船出は10時ジャストだったから、そろそろ八時間は船上で過ごしていることになる。

 と、噂をしていればなんとやら。

 船が止まった。


『お乗りのお客様、異能力者の塔に到着いたしました。お降りのお客様はチケットをお見せして塔へとお入りください』


 船内放送が流れる。

 ありすはよっ、と立ち上がり、膝を叩く。


「じゃあ行こうかーー水無月を殴りに」

「うん……」


 水無月暗殺計画の実行者は一応私なんだけど……ありすは元々異能力犯罪死刑執行代理人として、中層エリアの見回り担当として呼び出されただけだ。

 とはいえ、異能力者保護団体も裏では異能力の世界と抗争中だ。いざとなったらありすやその他の異能力犯罪死刑執行代理人の力を借りてもいいだろう。


 船からはしごを伝い外に降りると、すぐ目の前に巨大な塔が現れた。真上から見下ろせば四角いビルのようだろう。とはいえ、ビルより広いのだが……。

 正面に『異能力者の塔 南方入口』と書かれた看板が釣り下がっており、真下を潜って建物内部に入る。

 横にいる女性職員にチケットを見せると、そのまま中に行けといわんばかりのジェスチャーをされる。


 中に入ると、真横にエレベーターがずらっと並んでいた。

 八、九、十機以上のエレベーターが設置されている。

 私以外にも勿論呼ばれた人たちは多々居り、ざっと数えて船から二百人もの人間が降りてきていた。


 老若男女さまざまだが、大半は二十歳未満、三十歳を越える人間は見たところひとりしかいない。男女は半々だ。老人は皆無、ひとりたりともいない。


「エレベーターに乗りますと十一階に到着します。降りて左右の通路を進むと生活エリア、真正面のエレベーターに乗りますと三十階以上に昇ります。そこからは3001号室から皆様の個室になります。二人でひとへやになりますので、くれぐれも相部屋の方とは喧嘩なさらぬようご注意ください」


 エレベーターの横に立つ男性職員がマイクで皆に語りかける。

 そのまま説明を始めるのか、パンフレットのような用紙を皆に配り始めた。

 私もそれを受け取る。

 見てみると、この塔の地図のような全体像が書かれてあった。


「下層エリア、10階までは職員のエリアになりますので、立ち入りは禁止させていただいております。11階から29階までの中層エリアは生活関係のエリアです。誰でも立ち入ることのできる階層です。スーパーやレストラン、病院や遊具施設、ATMなどもございます。30階から50階までの上層エリアは居住区になります。チケットに記載された部屋がお客様がこれから生活していく部屋となりますので、まずは自室に荷物を置きに行くことをおすすめいたします」


 チケットの裏をぺらっと見てみる。

 そこには5010号室と書かれていた。


「先客が居られる部屋もありますので、くれぐれも仲良く行動してください。その他、気になるご質問などございましたら、11階のご案内場までお越しください。当職員がご説明いたしますので、何分よろしくお願いいたします」


 ぞろぞろと皆はエレベーターの前に向かう。


「杉井、じゃあね」

「ありす?」


 ありすはなにか別の説明があるのか、先ほど説明してくれていた男性職員の方へと向かった。

 仕方ない。まずは自室に向かうとするか。

 もしも先客がいたら仲良くしないといけないしな。


 ……たとえすぐに出るとしても。







(169.)

 エレベーターでぎゅうぎゅうになりながら11階まで昇り、真正面にあるエレベーターに乗り込んだ。

 真正面のエレベーターではなく左右を覗くと、大型のショッピングモールのような広場が見えた。あの広さにさまざまな店があれば、たしかに生活には困らないだろう。


 エレベーターの50階のボタンを押そうとしたが、既に誰かが押したらしく点灯していた。

 それにしても、エレベーター。もう少し捌けて乗ったほうがいいんじゃないか?

 いや、これに乗っちゃった自分も自分だけど……だってこれだけ下にあってすぐに乗れるやつがこれだったんだもん。

 みんな我先に群がり乗り込むんだもんな。


 それに、ここにいるのは新規に来た異能力者だ。

 水無月はいない。水無月は一足先にここに来ているはずだ。


「わーい50階だー、てっぺんだー! きゃはは!」


 妙に明るい女の子がいた。

 髪はボサボサととんがっており、特徴的な癖毛が妙にかわいい。

 歳は……15歳くらいだろうか?

 死ぬまでここで暮らすハメになるかもしれないのに、こんなに明るい子もいるんだな。

 いや、逆になにも考えていないのかもしれない。

 だから明るくいられるのかも……。


 無駄な空想をいろいろしているうちに人々は途中途中で降りていき、ついにその子と二人きりになってしまった。


 エレベーターが50階に到着した。


 二人でエレベーターから降りる。


 並んで歩く。5007、5008、5009……5010号室。


「あった!」

「え?」


 5010号室とチケットを見比べながら、先ほどの妙にハイテンションな子が声をあげた。


「もしかして、5010号室?」

「んー? そだよー! あ、もしかしてあなたも?」

「う、うん。相部屋か……よろしく」


 まさかの相部屋相手。このテンションについていけるかな?


「わー! かわいい女の子だー! これからよろしくね! えっと……」

「杉井、杉井豊花だよ」

「豊花ちゃん!」


 なに!?

 ここでも豊花ちゃんだと!?


「き、きみの名前は?」

「愛! 杉浦(すぎうら) (あい)! 愛ちゃんって呼んでー! 今年15になるピチピチの中学生だよー?」

「よ、よろしくね、あ、愛ちゃん……」


 テンションに圧倒される。

 中学生かー。中学生からここに入れられるって、結構可哀想だよな……。


 政府は表立って説明をしていない。

 異能力者のいる家庭に、試験のため異能力者を異能力者の塔に集めるからあなたも来てくれ、との協力要請が書かれた手紙が送られてくる。

 それらについては半強制であり、同時に箝口令も敷かれる。


 我が家にも先日届いたばかりで、沙鳥に言われたあと帰宅したら手紙が届いていたのだ。

 それを読んだ家族は涙したが、心配しないでほしい。

 私の場合、沙鳥たちの手引きで本土に帰られるのだから……。


 でもーー。


「よろしく豊花ちゃーん! さっそく部屋の探索だー! おー、なかなか広い! 二部屋あるよー?」


 この子は帰らせてくれると政府は明言していない。


 あの手紙には、異能力による犯罪を減らすため、異能力者を異能力者の塔に集めて暮らさせるテストを実施する。その試験への参加対象に選ばれた為、○日○時○○までに訪れることーーとしか書かれていない。


 あとは必要な日用品などから金銭も持っていくことなどの細々とした情報しか示唆されていない。

 試験参加費用として毎月8万円が支給されるらしいが、要するに異能力者は死ぬまでここで暮らせというものだ。


 試験終了の期日が明記されていないのも、その証拠だ。


 これで喜ぶのは無職くらいなものだろう。


「私こっちの部屋つーかうー! 豊花ちゃんは右の部屋ね?」


 部屋に入ると、すぐにリビングになっており、部屋の奥には左右扉があり、それぞれ個室になっているようだ。個室に入る前の通路にはシャワーやトイレも完備されており、愛のある我が家の一室よりも豪華だと思えた。


 右の奥の扉に手をかける。開くと、八帖ほどの部屋があった。

 ベッドと机が置いてあり、奥には空が見える窓ガラスがある。

 だが、鍵がない。開かないようになっており不便だ。換気は換気用の穴があるから大丈夫だが、なぜ鍵がついていないのだろうか?


 こんな高層じゃ、逃亡だって不可能だろうに……。

 だいたい海上だ。逃げることはできまい。

 ……ああ。異能力者か。

 瑠奈を頭に思い浮かべて、空を飛べる異能力者なら逃走できると思い付いた。


「ねーねー豊花ちゃーん? これからなにするのー? 私、早く遊びにいきたーい」

「愛……ちゃんは元気だね」

「んー? だって最高じゃん!」

「最……高?」


 なにが最高だというんだろうか?


「私ね、この試験に参加できるって言われて、めちゃくちゃ嬉しかったの! うるさい親はいないしー、働かなくてもお金貰えるしー、遊び放題! 勉強しなくてもいい! 最高の楽園じゃん!」

「楽園……」


 見方によってはそうなるのだろうか?

 たしかに学生にとって、勉強しなくても怒るひとはいないし、一日中遊んでいても文句を言う輩はいない。さらに働かなくても給料が支払われる。たしかに、ニートにとっては楽園かもしれない。

 

 でも……それでも、なにかがおかしい。歪だ。


 まあいい。とりあえず、私は私の目的を果たすだけだ。


「ちょっと中層エリアに行ってくるよ」

「あー! 私も行く行く! 初めてだし、誰かと一緒のほうが安心できるもんね!」

「ん? ああ、まあ、そうだね」


 たしかに、まだまだ来たばかり。

 誰かと一緒に行動したほうが気は楽かもしれない。







(170.)

 そういうわけで、愛ちゃんと二人で11階まで降りてきた。

 50階にあるエレベーターは、50~31階と11階にしか降りることができず、12階~30階は11階ホールの別の場所に設置してあるエレベーターからしか行くことができない。

 11階に着いて、通路を少し歩き内装を一望すると、やはり巨大なショッピングモールのような様相を呈している。巨大なエスカレーターまである。


「あははー! 豊花ちゃんはまずなにがしたいの?」

「えっと……」私は水無月の居場所をまずは突き止めたい。「その辺りをぶらぶらしようかな~と。あはは……」

「ぶらぶらーぶらぶら。あはっ! いいかもね! それじゃ、しゅっぱーつ!」

「ああ、ちょっと」


 手を繋がれ、無理やり引っ張られてしまった。

 うう、水無月を探すという任務があるというのに。

 まだまだ異能力者は少ないはずなのに、けっこうホールはガヤガヤしている。

 店の店員や施設の職員は異能力者ではないにしても、一階だけでザッと百人はいそうである。一階だから多いのか、それとも予想以上に異能力者の数が多いのか。


 そういえばかなりまえに、梅沢(先生)は1000人に一人もいないと言っていた。

 最低が1000人に一人だと計算すると、10万人に100人、1000万人に1万人、一億人に十万人いることになる。

 そう考えると多いような気がする。

 異能力者は異能力を自発的に使わない良い子が多いだけで、道中を歩いているだけで異能力者とそれなりにすれ違っていたりするのかもしれない。

 まあ、1000人に1人もいない、だから実際にはもっと少ないんだろうけど。


 さて、そもそも水無月ってどういう外見をしていたっけ?

 暗かったから印象が薄くて、でも特徴的だったはず……写真を持ってくればよかった。


 記憶……思考……。


 ああ。そうだ。たしか髭面をした四十代ほどのスキンヘッドの男性だ。頭がテカテカしていて特徴的な外見をしているから、一度思い出せば容易には忘れないでいられるだろう。


「豊花ちゃん?」

「え? ああ、うん。行こうか」


 愛ちゃんと歩幅をあわせて歩き始める。

 それに船とこの広場を一望して把握したことがある。


 異能力者は若いひとが大半を占めるのだ。


 男女は半々だが、二十歳以上は少なくなり、三十代以上となると極端に見つからなくなる。つまり四十代の異能力者はかなり限定されるということ。それを意識すれば探すのも容易になる。


 なぜ若い人間に異能力者が多いのかーー思考。


 なぜ若者に異能力者が多いのかだが、異能力霊体いわゆる異霊体は、衰弱したり大きく傷ついた心の隙間に入り込み人間を異能力者にさせるという。


 そして、ひとは成長するにつれ心理的に強くなっていき物事に動じなくなっていく。逆にいえば精神が幼い子どもは、ちょっとしたことで心理的瑕疵を負い、場合によってはその瑕疵は誇大化する。


 大人なら少し経てば悩まなくなるような些細な事象も、時間が解決してくれるような問題も、幼い子どもにとっては思いつめてしまう場合が多々ある。


ーーそのとおり。だから憑依する人間に適しているのは二十歳未満が多い。稀に大人ながら幼心を持つ者がいて対象になったりするが、稀の例だ。大抵は思春期前後が多い。ーー


 私の場合もそうだ。

 裕璃に彼氏ができたという問題を、必要以上に大きく悩み、悩みに悩んで、結果ーー異能力者となったのだ。


「あっちにゲームコーナーがあるよ! 行ってみよーよ!」

「あ、うん……」


 愛ちゃんに手を引かれ、クレーンゲームに歩み寄る。

 どうやらここはゲームセンターらしい。

 そういえば愛ちゃんはどんな異能力を使えるんだろう。


 愛ちゃんは大きな犬のぬいぐるみの入ったクレーンゲームに二百円入れると、さっそくボタンを押し始めた。


「ねえ、愛ちゃん。訊いてもいいかな?」

「これをこーして……なーに?」

「愛ちゃんの異能力って、いったいどんなの?」

「豊花ちゃんは?」


 逆に聞き返されてしまった。

 まあ、人にものを尋ねるときはまず自分からという言葉もあるし。


「私は元は男……男子高校生だったんだ。それが答え」

「ええ!? じゃあ豊花ちゃん男の子だったの!?」


 ぬいぐるみにアームがかかるが、重さで落下。失敗に終わった。


「そう。それだけの異能力じゃないけど、それが本質」


ーー本質は直感・感覚・感情・思考を強化する精神干渉系の異能力な気もするが……まあ豊花がそう感じるならそうなんだろう。ーー


 愛ちゃんに手を差し伸べ、代わりに私が二百円を入れた。


 直感ーー。


 感覚ーー。


 思考ーー。


 クレーンの位置から計算して、この位置まで進めたら……このくらい回転する。よし、ちょうど首の位置にアームが刺さった。あとは持ち上げるだけだ。


「わー! すごいすごーい! えっとね、私の異能力は、つまらないものだよ?」

「つまらない?」


 犬のぬいぐるみはアームに挟まり持ち上がっていく。非常に精密に狙ったからか、アームががっちり掴んでいる。もう不意の落下はないだろう。

 異能力も使いものだなぁ……。


「私の異能力は」愛ちゃんはポケットから爪楊枝を三本取り出した。「こういうの」


 爪楊枝を上に向けて軽く放つと、爪楊枝がゆっくり空中を右往左往しはじめた。

 こ、これは……たしかに……。


「私の異能力は、軽いものを操る力。限界ギリギリの力まで出して爪楊枝三本が限度なんだ」

「あはは……そうなんだ」


 犬のぬいぐるみが落とし口に落ちた。

 取り出し口から取り出し、愛ちゃんに渡した。


「え? いいのー?」

「いいよ。欲しかったんでしょ?」

「わー! ありがとう豊花ちゃん!」


 本当に嬉しそうにするなぁ……他人を傷つける以外にも使い道がある異能力でよかった。ずるかもしれないけど、思考して状況を分析、感覚でアームを操作し、直感で掴める場所を決めた。その結果だった。


「はい、そこー」ピーっとホイッスルが聴こえてくる。「爪楊枝を操ってたでしょ? ダメだよ異能力のみだりな乱用はー。あれ?」


 そこに居たのはありすであった。


「ありす、なにしてんの?」

「そっちこそ。私はこの階層の警備を担当してるんだよ。異能力の不適切使用がないか、争い事が起きていないか、問題が発生していないか。大変だよ。まさかこんな雑用みたいなこと任されるなんてさー」

「あはは……」


 ありすもありすで大変そうだ。


「その子、知り合い?」


 ありすの後ろから、大学生ほどの歳に見える、黒髪ロングの大和撫子のような和風美人が現れた。


「あ、(たちばな)先輩。そうそう。異能力者なんだけど、私が異能力犯罪死刑執行代理人って知ってるの」

「ちょっと、一般人も隣にいるのだから安易に口にしないで……まあいいか」


 能天気にほわわ~とぬいぐるみに夢中な愛ちゃんを横目で見て、そう言い終えた。


「私は(たちばな) 由依(ゆい)。橘と呼んで」こそっと顔を近寄らせる。「一応、私も異能力犯罪死刑執行代理人」顔を離す。「あなたが水無月を追っていると知っている人間は、私たちのような一部の職員だけなの。あまり手荒な真似はしないでちょうだい」

「あ、はい……」


 橘さんは、なんだかパリッとしていてお堅いイメージがある。


「私は三ヶ月前から勤務しているから、ありすの先輩ってことになるわ」


 うおお……なんだか目付きが鋭いから、常に怒られている気分になってしまう。


「橘先輩厳しいんだから……もっと後輩を労ってよ」

「あなたが怠けすぎなの。いつどこで問題が発生しても、迅速に対応できるようにしなくてはならないわ」


 橘さんはそう言うと、カツカツ足音を立てて立ち去っていった。


「杉井は水無月探し頑張ってね。もし見つけたら私に連絡してくれさえすれば、私が暗殺してもいいよ」ありすはなにやらガラケーを渡してきた。「ここではスマホは繋がらないから。専用の携帯電話(それ)にかけて。んじゃね。橘先輩ー待ってくださいよー」


 ありすも橘さんの後を追いどこかへ消えてしまった。

 結局、なんだったんだ。


 とーーなぜか勘が働いた。


 このゲームセンターに、なにかがいるとーー。


「豊花ちゃん?」

「愛ちゃん、ごめん。ちょっと中に入るよ」


 ゲームセンターエリアの中側に入り込み、音楽ゲームのあるエリアに通る。


 そこにはさまざまな音ゲーが並んでおり、ドラムに模したもの、鍵盤に模したもの、ギターに模したものーーその内の、音楽にあわせてダンスをするゲーム。


 地面にある上下左右が書かれたマットを足踏みしてプレイするゲームを、スキンヘッドのおっさんが、荒れ狂うようにプレイしていた。


 ゲームが終わり、パーフェクトの文字が画面に映る。


 スキンヘッドの四十代の、ゲームをプレイしていた男性が振り向く。


 まさに、まさに写真でも見た通りの顔立ち。間違いないーー水無月だ。


 水無月と私の視線が交差する。



「……プレイするかい?」


「………………はい?」



 私と水無月は、こうして邂逅したのであったーー。 

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