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Episode114/女になったのだから……?

(160)

 翌日。

 早朝に目が覚め、隣で寝ている鏡子を起こして顔を洗っている最中、背後から声が聴こえた。


「ただいま帰ったぞ、沙鳥」

「おかえりなさい、澄さん。一応連絡したとおり、非常事態です」

「ふむ、だからここを拠点にしているんじゃな?」


 澄が帰ってきたのか。なんか安心感がスゴいな。


「澄さんには刀子さんと合流してもらいます」沙鳥は紅茶に口をつけ、しばらくしたら離した。「ここは既に無敵の要塞と化しています。わざわざこれ以上堅牢につくる必要性は薄いでしょう」


 澄がいてくれれば更なる強固な守りになるんだけどなぁ……。

 沙鳥はチラリとこちらを見る。


「たしかにここをさらに堅牢にするのもありかもしれませんが、そしたら相手はここ以外を攻めていくだけになってしまいます。ここ以外の保護団体も攻めるのは容易じゃないーーと敵対者に思わせることのほうが重要です」

「あい、わかった。なればわしは、関東地方をぐるりとまわることにしよう」

「ええ、お願いします」


 ああ、澄は行ってしまうのか……。

 昨日は戦闘訓練したし、きょうはなにを訓練するか……顔を拭きながら思考する。


 ーーそうだ。


 同性にも思わずかわいいと見惚れてしまうほどの美少女になれば、瑠璃たちも恋愛として意識してくれるかもしれない。


 と唐突に思い付いた。だって休日だし、やることないし。


 戦闘技術を磨けないなら女を磨くのもありかもしれない。

 が、化粧品としての知識は私にはない……そもそも未だにすっぴんってどうなんだ?


「おお、おはよう、豊花」

「え、あ、澄、おはよう……」


 ジーっ、と顔を見つめてみる。

 澄も化粧使っていないのかな?


「なんじゃ、気持ち悪い」

「き、キモい!? え、私の顔キモかったの!?」

「いや、見つめてくるのがキモいと言ったんじゃ。顔は美人じゃろうが」

「はー……よかった」


 行動を改めていけば美少女より上を目指せるんじゃないか?

 寝起きになにを考えているのやら、自分でもわからなくなっている。

 でも、今しがた夢の中でナンバー1アイドルになる夢を見たんだ。あの夢で、私は男女共に人気があった。なら、現実でも男女共に人気が勝ち取れるのではないか!?


 と、そこに美夜さんが歩いてきた。

 あれ……。


「おはようございます、美夜さん。美夜さんはここにはいないはずじゃ……」

「少し寄れと頼まれたんだ。未来の奴にな。言っておくが、おまえの侵食率はとっくにステージF末期だ。見る必要性はない。邪魔だ、瑠衣たちを見に行かないといけないんだからな、ボクは」


 美夜さんは怒り混じりに私を押し退けて道を歩いていく。

 それを追いかけ、美夜さんの横顔をジーっと眺める。

 これは……化粧を使っているのかな?

 そもそも化粧をつかった顔というのが私には判断できない。


「な、なんだ?」

「化粧とかって、使ってます?」

「バカにするのもいい加減にしろ! ボクは24だ! 化粧くらい普通にする! きみはボクを怒らせたいのか!?」


 す、すみません……。と脳裏で謝りつつそそくさと美夜さんから離れた。

 自室に入る。


「……なにを……してるんですか……?」

「杉井はなにがしたいのさ?」

「豊花、化粧、する?」


 同室のメンバー……ありすと鏡子と瑠衣に声をかけられた。

 心配そうにしている鏡子は、化粧はしたことなさそうだ。そりゃそうだろう。化粧するには他人の目を借りなければいけないんだ。つまり、誰かに毎回やってもらうなど大変だろう。それにまだまだ中三だ。化粧には早い。


 ありすは……ありすはどうなんだろう?


 瑠衣は瑠璃からいろいろ買ってもらってはいるものの、洗顔しかしていないというバカにした回答をして瑠璃から締められていた。


「あ、ありすって化粧とかする?」

「しないかな~。まだ小じわとか気にならないし、仕事には関係ないからね。ナチュラルにはするときあるけど、稀だね稀」

「豊花、化粧、する?」


 うわ~、瑠衣がいろいろ鞄から出してきた~。


ーー豊花は化粧よりこっちのほうが知りたいのではないか?ーー


 こっち?


ーーいや、なに。まずはやさしく撫でるんだ。回りからやさしく撫でていき慣れてきたら中心を弱く触り……。ーー


 あーはいはいはいはいそれはいいから!

 今はそれは置いといて!


ーー胸もな、小さいから刺激に弱いのだろう。何事も刺激を加える前はやさしく回りから徐々に中心に行く、やさしくちょろっと撫でてみて……。ーー


「私が、美少女を、美人に、するため、化粧を、する!」


 下品なほうは放置して、化粧についていい加減に瑠衣から学ぼう。

 こういうときでしか学べないはずだ。


「化粧水、乳液、下地、ファンデーション、フェイスパウダー、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ、リップ……」


 おいおいおーい。なんかいろいろテーブルに並べ始めたんだが、これ何時間かかるの?


「まずは、スキンケア、から。洗面所、行こ?」

「はい……」


 洗面所で洗顔して自室に戻る。

 瑠衣は私の顔に化粧水と乳液を塗り始めた。

 ぬ、塗りすぎじゃない……鑑がないからわからない。


「ファンデーション~フェイスパウダー……だっけ?」

「いいんじゃない?」


 いいんじゃない!?

 なんていい加減なんだこの二人組!

 私の初化粧がどうなるか二人にかかっているんだぞ!?


「ふふんふんふん、アイシャドウ~……うっ……アイシャドウ~」


 うっ……って今言わなかった?

 ねぇねぇ、うって言わなかった?


「アイライナー……塗り塗り……アイライナー引く~引く」


 え……塗りすぎじゃ……てか塗るって?

 引くものじゃ……。


「引く引く……アイブロウ~シェーディング~濃く~」

「ぶはっ!」


 ありすが噴き出しているんだけど、本当にこのひとに頼んで大丈夫だったのだろうか?


「あ、あの……大丈夫?」

「大丈夫~ハイライト入れて~チークチーク~マスカラ~」


 ぐりぐりと化粧品が下地の上に重ねられていく。

 なんか、絵の具のキャンパスになった気分だ。

 化粧品の違いがわからない私には、なんの抵抗もできない。


「リップ~口紅~」


 ぐいぐい塗り塗り……あ、ダメだこりゃ。唇からはみ出しておられる。


「ふぅ……傑作!」

「ぴ……ピカソの絵並みに美しいよ……ぷぷっ」

「…………」


 鏡のある洗面所までダッシュで向かった。

 途中、沙鳥と舞香とすれ違うと、瞼を大きく見開き、唖然としていた。


 鏡の前に立つ。


 そこに映っていたのは……ギャルなどを超越した存在。

 そう、モンスターと思わしき顔面が映りこんでいた。

 首と肌の色が妙に違う。殴られた跡みたいにも見える目のまわり。唇からはみ出た口紅は口裂け女の様相を呈している。めちゃくちゃ太いアイライン。まるで宝塚のよう……。

 美少女が跡形もなくなっていた。


 化粧って……これじゃ塗装だ!

 瑠衣は塗装をしてくださったんだ。

 ありがとう! ってなるか!


 私の顔に塗装されてしまった……!




 二度と瑠衣には頼まないと意志を固め、私はなかなか落ちない化粧を流水でひたすら落としていくのであった。

今回短くてすみません。

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