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Episode109/これからの方針

(153.)

 建物内に瑠璃と瑠衣、瑠美さんが入ってきたのは、八時が回ったところだった。


「え? どうして瑠璃たちが……?」


 疑問を抱かずにはおれない。

 今ここは、もっとも危険な区域だからだ。


「豊花!」


 ガバッと瑠衣が抱きついてくる。

 う、義眼のはずの鏡子の視線が痛い……。


「どうしたの? はこっちの台詞よ。何日も無断で学校休んで。かといえば異能力者保護団体に引きこもってるって話じゃない」

「まえに会ったことがあるでしょ? 異能力の世界ーー彼らにどうやら、私を含めて愛のある我が家と異能力者保護団体職員の命が狙われているらしいんだ」

「ええ。豊花さんのおっしゃる通りです。だから私が瑠美さんたちを呼びました」


 状況に理解が追い付かない。

 エントランスには鏡子、私、沙鳥、瑠奈とアリーシャ、森山がソファーに座っている。そこに瑠璃と瑠衣、瑠美さんがやってきたわけだ。

 一気に騒がしくなる。


「だからといって、どうして危ない場所に瑠璃を呼んだの?」

「危ない場所以上に、異能力者保護団体に属している瑠璃さんが単独で行動されていては、人質に取られる可能性があるからですよ。もし人質を解放する条件が豊花さんを差し出すことだと言われたら、こちらにとっても損害が大きくなります」


 なにやら向こう側からしてみると、豊花さんが一番重要視されているようですからーーと沙鳥はつづけた。

 人質ーーそうか。今までその考えに至らなかった。


 もしも瑠璃や瑠衣がーー瑠衣は異能力者保護団体ではないから可能性は低いだろうけどーー人質に取られでもしたら、私は動けなくなる。

 最悪、命をなげうたなければならなくなっただろう。

 エントランスにありすが向かってくるのを見て、瑠衣は私から離れて今度はありすに駆け寄る。


「ありす!」


 と、そのまま抱きついた。


「……」瑠奈はアリーシャに視線を移し……。「アリス!」


 と、対抗心を燃やしたかのようにアリーシャに抱きついた。


「このまま停滞していたら、なにもできないんじゃない? こっちからもいい加減仕掛けないと」


 ありすは瑠衣に抱きつかれたまま、エントランスに電話をしながら歩いてきた色彩さんと刀子さん、静夜に問いかける。


「ここの入り口付近にはドリーミーの罠を仕掛けておきましたから、容易に侵入してきたら返り討ちにできますよ」


 アリーシャは末恐ろしいことを口にした。

 たしかアリーシャは予め拠点をつくり幻覚を設置する能力者だったな……。

 てことは、しばらくこのエリアは安全だということになる。


 そこにぞろぞろと、舞香とルーナエアウラさん、ゆきや美夜さん、朱音まで現れた。

 これで現在異能力者保護団体にいる主要メンバーは全員エントランスに集合したことになる。


 私、沙鳥、舞香、瑠奈、朱音、ゆき、鏡子、刀子さん、静夜、ありす、色彩さん、森山、そして瑠璃に瑠衣、瑠美さん。総勢15人もの異能力者や異能力特殊捜査官、異能力犯罪死刑執行代理人、殺し屋が揃ったのである。

 人数が人数なだけあり、皆が好き勝手に喋り賑やかになる。


「いま一番重要なのは森山だな。異能力者相手に対して切り札になる強力なカードだ」

「豊花さんも危機管理能力保持者として代わりがいない重要なポジションにいます」

「ああ。というより、大半のメンバーに代えはいないだろう」


 ゆきや舞香、瑠奈にルーナエアウラさんは能力によって武力制圧の役割を担っている。


 異能力者ではないながらも異能力犯罪死刑執行代理人としての仕事を担っている刀子さんやありすも異能力者にとっては驚異だ。


 私はどうやら危機察知能力として重宝され……沙鳥も読心が使えることから並の人間以上に危機管理能力はあるだろう。


 鏡子は探索に欠かせない存在だし、沙鳥と協力すれば異能力が二倍以上便利にあつかえる。


 静夜はいまだに恐ろしさが理解できていないが、ありすが認めるほどの力を持っていることに相違ない。


 色彩さんは異能力調査第二班のリーダーだ。


 そして、森山は一番重要な切り札と呼べる存在。


 朱音に関しても、殺されてしまえば覚醒剤の密造場所を失うし、ルーナエアウラさんやマリアさんが帰れなくなる。さらにいえば、裕璃にも二度と会えなくなる。そう考えると、朱音さんにはなるべく一番安全な場所でジッとしていてほしい。


 ……そこまで踏まえると、尚更、瑠璃や瑠衣、瑠美さんの登場がプラスに働く未来が見えない。


「なんか失礼なこと考えてるでしょ?」

「うっ……いや、こんな危険な場所にわざわざ来るなんて、危ないと思わなかったのかなって……」

「それはこっちの台詞よ! だから愛のある我が家なんて危険な組織と関わるなって言ったじゃない。深入りするからこんなことになるのよ? わかる!?」


 瑠璃に説教を受けてしまった。

 いまとなってはもっともだ。言い返す言葉が見当たらない。


「姉さん、豊花、いじめないで」

「瑠衣……別に、いじめているわけじゃなくて……」

「もう、過ぎたこと。ぐちぐちいっても、仕方ない。でしょ?」


 瑠衣は私に顔を向ける。

 少し逡巡しながらも、私は正直に頷いた。


「で? 私たちはなにをすればいいの?」

「それなんだが、君たちは普段どおり学校に登校してもらいたい」

「はぁ!?」


 理解が及ばず、すっとんきょうな自分らしくない叫声をあげてしまった。


「私が理由を説明しようか」刀子さんは軽く手を挙げこちら側のソファーに座った。「このまま相手を待ち構えていても、さすがに相手はこの要塞みたいになった保護団体に突撃はしてこないだろう」

「それは……わかりますけど」


 こんな大人数ーーしかも異能力者の異能力を指定した対象だけ無効にできる異能力者も待機している危険区域に、わざわざ入ってこないだろう。


「しかし、だ。我々もいつまでもここに引きこもっているわけにはいかない。ほかの仕事をほったらかして来ているメンバーも多人数いるんだ」


 刀子さんはルーナエアウラさんや森山、ありすに視線を一瞬移す。


「だからと言って、普通に登校してなにかメリットはあるんですか?」

「ああ。デメリットもあるが、そこはおまえの危機察知能力で対処してくれ」


 まさかの重役だった。

 背負いきれそうにない。


「瑠璃、瑠衣、ありす、そしておまえの四人で登校しろ。そして遠距離から瑠奈、ルーナエアウラ、おまえらは辺りを別々の場所から見渡し、怪しい奴が近づいてこないか察知しろ」


 ルーナエアウラは素直に頷く。


「はいはーい。見逃したらめんごめんご」


 瑠奈はおちゃらけて返事する。

 めんごめんごで済む話じゃない!


「こちらが掴んでいる敵の情報は、既にほとんどないんだ。その場で倒しきらなくても、異能力の中身が知れるだけで十分だ。つまり、おまえらには囮になってもらうんだ。さすがに学内で襲われることはないだろうから、登下校に気を付けろ。で、しばらく自宅は三人ともここだ。仲良くやってくれ」

「はぁ……なんだか、本当にとんでもない事態に巻き込まれているのね? あとできちんと説明しなさいよ、豊花」

「うん、瑠衣と瑠璃にはちゃんと説明する。あれからなにがあったのか。相手の目的はなんなのかーー今回ばかりは事細かに知っておいてもらいたいし」


 異能力者保護団体も狙われている。つまり、瑠璃も他人事ではないのだ。

 こればかりはしっかりと説明しなければならないだろう。


「以上だ。各自気を付けつつ五階の部屋を好きに使え」

「じゃあ私、豊花と、同じ部屋、にする」


 と瑠衣が再び抱きついてくると同時にハッと思い出す。


「ごめん、瑠璃、瑠衣。私の部屋、鏡子と共用になっていから、その部屋まで来てくれない? 長くなると思うけど、現状を説明するから」

「鏡子……? 鏡子!? 豊花! 豊花は私の! 鏡子、違う!」


 急に瑠衣は怒声をあげた。


「ちょ、ちょっと瑠衣? 落ち着きなさいって」

「いきなりどうしたんだよ、瑠衣……」


 私と瑠璃で瑠衣を宥める。


「……どうして……豊花さんが……貴女のもの……なんですか? ……豊花さんから……そんな話……聞いたおぼえ……ありません」鏡子も鏡子で、なぜか瑠衣に対しては意固地になっている。そのままなぜか私の衣服を掴んだ。「それなら……豊花さんは……私の………………です……から……豊花さんから……離れてください……」

「いやだよ、べー。そんなにおかしな、しゃべり方する奴に、豊花は、渡さない」


 いやいやいやいや?

 瑠衣もだいぶ可笑しな口調しているからね?


「……修羅場ね。よかったじゃない。両手に花で」


 瑠璃はおちょくるようにそう口にした。


 違う。私が好きなのは瑠璃なのに!


 瑠璃からは呆れたような目線しか向けられない。それがいっそう悲壮感を抱かせる。


 だいたい、両手に花でも、こんな暴れる肉食植物のような花を両手に抱えきれるわけないじゃないか!

 割りと無口な二人なのに、どうしてこうも、この二人は相性が悪いんだ?


「いいから! さっさと五階に行くよ! 囮作戦についても話し合わなきゃいけないんだし!」


 翌日から命を賭けるほど重大な任務をこなすのだ。

 こんな下らないことで騒いでいる暇はない。


 私は抱きつき離れない二人を引き摺るようにして、エレベーターへと向かうのであった。

   

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