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Episode107/再び来る怪物に備えてーー。

(151.)

 それは、鏡子が発した一言により事態は変わった。


「弥生さんの……視界が……ジャックできます!」

「え!?」


 弥生って、あの怪物を増産していた異能力者?

 誰も直接触れることはできなかったのに……。


 思考ーーもしかしたら、あの排出された化け物すべて、弥生の一部と認識されていたのかもしれない。そうだとすれば、僕はともかくゆきなんかは直接こぶしで殴り飛ばしていた。

 つまり、触れたーーということになる。


 急いで沙鳥に連絡を入れる。

 ちょうど近場の部屋にいたらしく、刀子さんを電話で呼びながら室内に入ってきた。


「本当に弥生さんの視界をジャックできるのですか?」

「はい……多分……皆さんも見てください……」


 刀子さんや他のメンバーも室内に入ってきた。

 鏡子は視界を室内にいる人間に分け与える。

 視界には、神無月が佇んでいた。


『だから言ったでしょう? あなたひとりでは身に余ると』

『想定外だったのよ! あのまま押しきればあたし一人でも勝てていたわ』

『やれやれ。あなたも捨て駒扱いされたいのですか? 皐月のように』

『彼女は関係ないでしょ? もう一度、今夜仕掛けるわ』


 どこかの路地裏、二人は言い争いをする。

 彼女ひとりで、また強襲をかける?


「神無月の心中を読むかぎり、既に弥生に関してはどうなってもいいと考えてる様子ですね。やはり、相手方は結束が弱い。そして弥生は本当に今夜やってくる気のようです」


 それは、いくらなんでも無茶だ。

 こちらには戦える戦力として、舞香は動けないとしても、僕やゆき、瑠奈だっている。ありすに静夜もーー正面戦闘は向かないにしてもーーいるし、刀子さんだっている。果てには切り札級の力を持つルーナエアウラさんまで滞在しているのだ。


 いくら化け物を召喚したって、相手に勝ち目は薄いだろう。


「仕方ない。そこまで言うなら卯月を共に行かせよう」

「卯月ちゃんね……たしかにいれば心強いわ。いい? きょうの夜、異能力者保護団体も愛のある我が家も潰すんだから。それで、さっさと教育部併設異能力者研究所を潰しにいくわよ」

「やれやれ、好戦的な子だな」


 二人は路地裏で会話を済ますと、それぞれべつの向きに歩みだした。

 鏡子が異能力を止める。室内には、既に沙鳥のほかにもメンバーが揃っていた。


「どうしても私たちを潰したいらしいな」


 刀子さんはため息混じりに呟く。


「卯月という異能力者の力がわかりませんね……下手をすれば苦戦するかもしれません」

「っていうか、やっぱり神奈川県に集中してるじゃん。旧暦の人たち」


 瑠奈は異能力の世界とはよばず、あえて旧暦の人たちと表現した。

 たしかに、異能力の世界というより旧暦の集まりのほうがしっくりくる。


「今度は私も出ることにする。化け物をたくさん召喚するなら、私の風の力は有効なはずだよ」


 ルーナエアウラさんは自ら表立つと宣言した。


「危機管理として豊花さん。力を持つゆきさん、刀子さん、ルーナエアウラさんで今回は迎え撃ちましょう」

「えー? わたしは?」


 瑠奈は不服そうにむくれる。


「瑠奈さんと静夜さん、ありすさんは、内部で舞香さんや鏡子さん、職員の方々を年のために守ってください。神無月の味方……部下に転移能力があるのが危険です」沙鳥はつづける。「神無月自身の能力が未だに読心してもいまいち理解できないのも不安ですが、今はそれについては置いておきましょう」

「地味な役回りだなぁ……まあ、別にいいけどさ」


 瑠奈は渋々ながら納得した。


 まあ、ルーナエアウラさんと一緒に共闘したら喧嘩がはじまるかもしれないし、ちょうどいいかもしれない。


「では、夕方まで休息を取り、夜になったら正面玄関で敵を待ちましょう。卯月の異能力が不明なのが不安ですが、多人数いればどうにか対処できるでしょう」


 沙鳥の言葉を聞き終えると、皆それぞれ自分の休むベッドのある部屋に戻っていった。

 自分も寝ることにしよう……。


 ベッドに横たわると、またしても鏡子が隣に潜り込んできた。


「……こっちのほうが……安心……できますから……」

「……うん、まあいいけどさ……」


 鈍感な自分でもわかってしまう。

 鏡子が私に対して好意を抱いていることが……。

 それも、友情としてではなく恋愛として、ということも。


 でも、私にはその期待に答えられない。


 なぜなら、私が好きな相手は既に瑠璃ひとりと決まっているからだ。


 一度振った相手だが、あれは、瑠璃が私を恋愛対象として対等な付き合いではないのに付き合っていたからーー私を危険な目に合わせまいと束縛するために付き合うことにしただけだったから、それが判明したショックで振ってしまったのだ。


 でも、未だに好意を抱いているのに相違はない。


 いつか、いずれは、きちんと対等な立場で瑠璃と恋人同士になりたい……。



 そう思いながら、私は浅い眠りに落ちていったーー。

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