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Episode104/対策会議

(147.)

 瑠奈が飛び立って数分が経った。

 未だに舞香は起きる気配がしない。それを、沙鳥は心配そうに近くで様子を見ている。


「大丈夫そうですが、念のため煌季さんに見せに行ったほうが良さそうですね」


 沙鳥は呟くように言うと、スマホを取りだし耳に当てる。

 澄と瑠奈と朱音は居らず、ゆきは無言。沙鳥は通話。舞香は疲弊した様子でぐったりしている。


「……本当に……大丈夫なんでしょうか……」


 鏡子は心配そうに呟く。

 無理もない。いきなりの襲撃に皆はくたくたのようだ。舞香がいなかったら全滅だったことを考えると、これでもまだいいほうだけど……。

 かくいう私も動悸が収まらない。一歩間違えれば死んでいた。

 …………私が死ぬとどうなるのだろう?

 ふと、気になった。ユタカや男の豊花も同時に死ぬのだろうか?


ーー試すなどと可笑しな事は言うなよ?ーー


 わかっている。

 そんな事はしないよ……。


「はい……はい。本当ですか……まさかそんな大事になるとは思っていませんでしたから、いえ、瑠奈さんが帰ってきたら運んでもらいます。では、またのちほど」

 沙鳥はスマホを耳から離すと、深刻そうな表情を浮かべた。

「ど、どうだった?」

「……さつきは皐月……暗闇黒は神無月……あの方も組織のトップではありません。私たちはどうやら勘違いをしていたらしいです……煌季さんも今は異能力者保護団体にいるらしいです。それで私たちもなるべくなら来てほしいと」

「さつきがさつき……神無月? 旧暦?」


 たしか神無月は十月のことだ。

 それならさつきは皐月になるということ。つまりは五月……。


「どうやら旧暦を元にした組織らしいです。いけませんね……あのクラスのリーダーが、まだ睦月から師走まで最低でも10人いることになります。さつきは捨て駒と言われてましたから、強弱のバランスはわかりませんが、少なくとも我々より遥かに組織の規模が大きい」

「ちょっ、ちょっと待って! 異能力者自体の母数が少ないのにそんな数の組織なんてあるの?」

「……初耳です……さつきさんが捨て駒ということにも……衝撃を受けましたが……そんな末端に……属していたなんて……」


 鏡子は冷や汗を流しながら怯えたように口にする。


「日本各地に散らばっていたようです。沖縄から北海道まで網羅している……。異能力者犯罪組織というのは、基本的に異能力者保護団体の敵です。ですが中には異能力者保護団体と裏で繋がりを持つ我々のような存在もいる。そういった組織の中でも私たちは特殊指定もされており危険性なら全国でトップクラス扱いを受けています」


 そういった組織が“異能力の世界”からすると、活動の大きな壁になる。だから潰しにかかってきたのではないか……と沙鳥は言う。

 そうなると、これからしばらく平穏な日常なんて望めないじゃないか。


「残念ですが、愛のある我が家のアジトの居場所は前面に出しすぎました。これでは朱音さんの以前使っていたアジトも見つけられているでしょう。これから我々はいったん異能力者保護団体に出向いて会議を行います。今回の件は神奈川県だけでは収まりません。日本全国が危機に曝されているのですから、異能力者保護団体側と異能力犯罪者側の戦いになりそうです」


 話が大きくなってきた。

 日本全国が異能力者に支配されようとしている……。

 と、沙鳥は再びスマホを取りだす。どうやら瑠奈から連絡が来たらしく、ホッとした表情を浮かべている。


「神奈川県支部の異能力者保護団体に出向くので、こちらに連れて戻ってきてください。私たちと共に異能力者保護団体に向かいます」


 そう言うと沙鳥は通話を切る。


「舞香さんは起きそうにありませんね……。これでなにかあれば、私は怒りで我を忘れてしまいそう」


 沙鳥の背筋が凍るほどの冷たい声に、思わずドキリとする。

 ……そうか。

 沙鳥から聞いた話から察するに、舞香は沙鳥に取っての命の恩人。他のメンバーとは異なり、愛のある我が家を創設した当初からのメンバー。いや、そもそも愛のある我が家の元リーダーが舞香なのだ。一番沙鳥との関係が深いはず……。

 翠月のときも怒っていたけど、我を忘れるレベルではない。


 リベリオンズだっけ?

 その組織は舞香に傷つけたから組織をまるごと粛清され、沙鳥自らリーダーの拷問にまで乗り出した。

 今回もかなり怒っているのだろう。


「…………そろそろ瑠奈さんが……来ます……」


 鏡子は瑠奈の視界を借りていたのだろう。

 上空を見渡すと、六人の人影が見えた。

 瑠奈と朱音、結愛と結弦の四人。あとは?

 瑠奈たちが地面に降り立ち、ようやくわかった。そういえばルーナエアウラさんも向かった筈だし、アリーシャもなかにはいたのだ


「皆さん無事のようですね」

「まあ、わたしが助け出せば……とは今回言えないや。残念ながらルーナエアウラに助けられたよ」


 沙鳥はルーナエアウラさんと瑠奈を見比べ、思考を読んだのかひとり頷き納得したような表情を浮かべる。

 瑠奈とルーナエアウラさんはかなり仲が悪いはず……。


「し、死ぬかと思った……」


 結弦は非常に恐怖したのか汗まみれで膝を落とす。


「……ねぇ、私たちはこれからどうすればいいの?」


 結愛は結弦を支えながら、沙鳥に顔を向ける。


「ぼくのアジトに行くかい? それとも異世界?」

「いえ、異能力者保護団体に一度向かいます。今回は正面から協力していかないと対処できません」

「私は早く寝たいです~……」


 アリーシャは死にかけた筈なのに、呑気にあくびする。

 襲撃に合わなかったのかと思いきや、頭にたんこぶのような出来物がある。多分、重力操作で倒れたときに頭をぶつけたな……。 


「結愛さんと結弦さんは自宅に隠れていたほうが安全かもしれません。私たちとの付き合いも浅いですし、正面同士争うことになった際、結弦さんは私と同じくらいなにもできません。ただ保証はできませんので、私たちに着いてきたほうが安全かもしれない。どちらか選んでください」

「……結弦になにかあれば私が守る。だから帰宅するわ。正直、こんな争い事がしょっちゅう起こる場所に結弦を置いておけないもん」


 結愛はそう言うと、結弦に肩を貸し公園から一足先に出ていってしまった。


「私のドリーミーも、拠点を構えないと本領発揮できないのですが……」


 アリーシャは眠そうに言う。


「アリス……朱音も……わたしが守れなくてごめん」

「いや、瑠奈が来てくれなければ、間に合わなかった。時間稼ぎをしてくれたおかげでルーナエアウラが来るまで凌げたんだ。だから謝ったりしないでくれよ」

「きょうの瑠奈は自信なさそうですね」


 朱音とアリーシャは瑠奈を励ます。


「では、異能力者保護団体に向かいましょう。運搬は瑠奈さん、飛びながら周囲の護衛はルーナエアウラさん、お願いします」






(148.)

 瑠奈の力で異能力者保護団体まで飛び、堂々と正面入り口に着地した。

 舞香だけ瑠奈の力で地面に当たらないよう運搬をつづけている。

 中に入ると、そこには刀子さんと色彩さん、煌季さんに美夜さんまで揃っていた。


「待っていたぞ。四階に会議室がある。そこで今後の活動をどうするか決める」


 刀子さんは私たちを見ながらそう口にした。


「待ってください。そのまえに煌季さん、舞香さんの様態を見てください」

「わかっているわ~そのために私はここに留まっているんだもの。様子を見せて」


 煌季さんは舞香に手を添える。が、少しして首を振る。


「どうしました?」

「舞香さんは異能力の成長でこうなったみたいね。私の異能力は異能力の使いすぎによる疲労は治せないの。ごめんなさい。でもしばらくすれば目を覚ますと思うわ~」

「そうですか……ありがとうございます」


 沙鳥はホッとしたような、残念そうな、微妙な反応をする。


「四階にはベッドがある部屋もある。そこに寝かせておけばいい。まったく、ボクは魔術の研究で忙しいというのに、異能力問題に集中しなくてはならないなんて……」


 美夜さんはぶつくさ文句を言いながら歩き出す。

 皆もそれにつづく。

 色彩さんだけ受付をつづけるためか、一階に残った。




 四階の会議室に入ると、既にありすと静夜まで座っていた。

 相変わらず静夜は表情からなにを考えているのかわからない。

 ありすは紙束を見ていたのか、それを立てて揃えている。

 結構広い……おそらく異能力者保護団体で私が入ったことのある部屋では一番というくらい広い。そこに即興でつくったようにテーブルが端に置かれ、それを囲むように椅子が置かれている。ちょうど人数分ありそうだ。

 そこに私たちは座っていく。自然と視界を貸し近場に来ていた鏡子が隣に座る。


「今回の会議は上に報告する。各県に所属する異能力犯罪死刑執行代理人には既に通知しているが、まだ組織全体はこの情報を知らない。知っているのは上層部だけだ」


 刀子さんはさきに断りを入れる。


「幸か不幸かわかないが、異能力者保護団体に申請したのに裏切った者の情報は既に何人か挙がっている。ただ、リーダーは旧暦に当てはめているという情報だけで、誰が何月に対応しているかは少人数しか判明していない。暗闇黒は神無月。小野寺さつきは名前のとおり皐月だ。全員が神奈川県に来ているとは考えづらいが、こいつを見てみろ」


 刀子さんはありすに顔を向ける。 

 ありすは紙を一枚、テーブルの中心に置いた。


「あ、こいつルーナエアウラの倒した野郎じゃん」


 そこには、あの重力操作をしてきた男の顔写真と、葉月という文字……葉月?

 否が応にも瑠璃や瑠衣を想起してしまう。名字が葉月ってだけなのに……。


「つまり既に排除したんだな?」


 刀子さんの問いにルーナエアウラさんは頷く。


「だが、睦月から師走までの三人が神奈川県に揃っているということは、他にも来ている可能性は高い。一応、残りの判明している奴の情報も見ておいたほうがいいだろう」


 テーブルに二枚の紙が並べられる。

 そこには、弥生(三月)水無月(六月)という名前と見知らぬ男女の顔写真。異能力の詳細が載っていた。


 弥生のほうには気弱そうな少女と日向(ひなた)やよい。異能力は存在干渉。イメージの生物の喚起と書かれている。


 水無月のほうは髭面の四十代ほどのスキンヘッドの男性の写真。名前は不明。異能力は精神干渉。異能力の強制暴走をおこす。補助役に徹しているとまで書かれている。


「弥生は異能力者保護団体に申請しているが、水無月のほうは各地から集めた情報でしか判明していないが、能力は判明している。二人とも異能力の世界の重鎮だ」


 皐月にしろ弥生にしろ、名前で人選しているのではないかと思ってしまう。


「イメージの生物の喚起はだいたい能力が予想できますが、異能力の暴走というのは?」

「ああ。水無月は感情を激しく揺さぶり異能力霊体侵食率をいっきに早め、異能力を暴走状態にしてステージFにする。それにより異能力が成長することがある。つまり、異能力の世界の異能力者は大抵異能力霊体に精神が奪われていると考えていいだろう」


ーー奪うのではなく融解するんだ。まだ勘違いをしているのかコイツらは。ーー


 まあまあ……。

 実際、愛のある我が家面々を見ていても、変わったようなひとを私は知らない。鏡子だって、異能力が覚醒してからも元の無口なままだ。

 それに関しては、ずいぶんまえから私の考えはユタカ寄りだった。


「そういうことですか……神奈川県内にはいますか?」

「それはわからない。念のためだ。普通、47都道府県の一県に十二人中三人も集まるか? 一応、理由はハッキリしないが半数は集まっていると考えていいだろう」


 半数のリーダー……なんのために神奈川県だけに集めているのやら。


ーー沙鳥の予想どおりなら、愛のある我が家を本格的に潰す気なのであろう。ーー


 そうだとするなら、本格的にまずいことになる。


「全国の異能力者保護団体の力を以て、私たちは異能力の世界を排除しなければならない。緊急事態だ。マリアには教育部併設異能力者研究所を防衛してもらい、ルーナエアウラには私たちと共に行動してもらう。おまえたち愛のある我が家はしばらくここに身を隠せ」

「わかりました。舞香さんが立ち直り、進化した異能力の内容を訊き、そのうえで私たちも対策を練ります。鏡子さんは異能力で相手の姿を探し出してもらいます」



 その後も会議はつづき、しばらくしてからようやく皆は立ち上がった。


 それぞれの役割に準じて、しばらくは学校には行かないまま、異能力の世界を打倒することを誓って……。


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