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Episode97/青海舞香

(139.)

 翌朝、そういえば鏡子と共に寝ていたのだと思いだし、鏡子から手を離し鏡子を揺さぶる。


「鏡子、朝だよ、朝」


 いくら愛のある我が家に泊まっているからとはいえ、きょうは平日ど真ん中、水曜日だ。学校を休むわけにはいかない。


「……おはよう……ございます……」

「おはよう。私は学校に行かなくちゃならないからさ。鏡子は愛のある我が家で活動するの?」

「……学校!」


 鏡子はなにかを思い出したかのように、ハッと口を開く。


「……私……中学生でした……でも……さつきちゃんがいない学校……行きたくない……」


 鏡子はさつき以外に友達がいなかったのだろう。

 だからだろうか?

 こうやって必要以上になつかれているのは……。

 瑠衣のときもそういえばそうだ。


 瑠衣と鏡子、多少なりとも心境が似ているのかもしれない。

 別の場所で出会えていたなら、もしかしたら、瑠衣と鏡子も友達になれたかもしれない。


 ……と少し二人が会話しているのを想像して首を左右に振った。

 無理だ。会話がつづかない。

 やっぱり人間にも相性というものがあるのだ。


 鏡子を引き連れ洗面台に立ち、顔を洗い歯を磨く。

 タオルで顔を拭くと、鏡子を連れて部屋を出た。

 そして、一応皆が集まる201号室に向かう。玄関の鍵を空け中に入ると、そこには既に沙鳥と舞香がいた。

 ゆきはソファーで眠ったままだ。


「おはようございます、豊花さん、鏡子さん」

「二人ともおはよう」


 二人が挨拶してくる。


「おはようございます」

「……おはよう……ございます……」


 それに対して返事をする。


「私はこれから学校に行ってきます。ここからだと時間が普段よりかかりますし、今から行かないと」

「わかりました。鏡子さんはどうするのでしょうか? 学校に行くのでしたら瑠奈さん辺りを連れ出しますが」


 鏡子はそれに首を振るう。


「……学校……行きたくない……」

「……わかりました。では、お仕事をしていてもらいましょう。豊花さんがいない間の代打は元からこの仕事をしていたゆきさんです」

「……」ゆきはまぶたを見開くと、眠そうに。「ん」と返した。

「行ってきます」

「行ってらっしゃい、豊花さん」


 普段と違う通学路を通り学校へと向かう。

 ここからだとかなり距離があるため、急がないと間に合わないかもしれない。

 と、いきなり路肩に車が止まり窓が空く。


「豊花ちゃんじゃねーか。今から学校行くなら送るぜ?」


 そこには、助手席に座っている赤羽さんがいた。


「えと……じゃあ、お願いします」


 と、後部座席の扉を開けて中に入る。

 運転席には、まえに見たヤクザのひとりらしきひとが座っている。


「おい、(にのまえ)、風守学校までさきに行ってくれ」

「分かりやした、オヤジ」


 そう合図すると、車が走り出す。

 ……ヤクザに学校まで送ってもらう女子高生って、端から見たらどうなんだろう?


「そういえば……大海さんは残念でしたね……」


 言い出してから、この話題はまずったか!

 と焦り出す。


「アニキが殺られたのは未だに腸にえくり返る思いだけどよ、怒りだけじゃ組は回らねぇ。二代目大海組の組長となったからには、余った大海組員たちを引き連れ回らなきゃならねーしな」


 どうやら赤羽さんは大海組の新たな組長になったらしい。


「オジキには恩を返しきれてねぇのに、ちくしょう……」


 一さんも悔しそうに声を溢す。

 あのやり取りーー赤羽さんをどついていた態度から、てっきり赤羽さんは大海さんを嫌っているんじゃないかと思っていたが、どうやら実態は全然違うらしい。

 本気で二人とも人相を変えて話している。


 思えば舞香の取り乱し方も凄かった。

 話に聞く限り、鏡子を愛のある我が家まで送り届けたあと、自室で泣いていたとのではないかという話も……。


 沙鳥は舞香に拾われた、つまり沙鳥は舞香になついており、自分より大切に思っているのがなんとなく伝わってくる。もちろん、信頼もしているけど。

 なら舞香は?


 舞香は大海組と繋がりがあり裏で仕事をしていたと言っていた。


「あの、こんなときに訊くのはあれなんですけど、舞香……青海舞香さんって、どうやって大海組と繋がりを持てたんですか?」


 車がちょうど信号機の赤で停車する。


「……最初はな、大海組の組員をひとりで三、四人のしちまったんだとよ。で報復がしたいと大海のアニキに舎弟が報告したんだよ。で、現場に大海のアニキと若い衆六人が集まった」

「で、舞香さんを倒したと?」

「いいや、大海のアニキは後ろで見てるだけで、見事な蹴り技と異能力のような力を見て、若い衆全員を倒したときに拍手しちまったんだとさ」


 話を訊くにこうだ。

 若い衆全員を倒したとき大海さんは拍手して『いや、恐れ入ったよ嬢ちゃん。でも、どうしてホームレスみたいな格好で、そうやって端金を巻き上げて生きてんだ? 俺に着いてこい。衣食住は揃うし、仕事も用意してやる』と言ってしまったんだとか。


「最初に倒された四人は猛反発さ。だがよ。アニキは『四人で女子高生ひとり倒せねー部下と若い衆六人相手にして倒しちまった小娘、どっちのほうが価値がある?』ってな」


 なるほど。そういう経緯で大海さんと繋がりを持てたのか。


「最初こそ大海のアニキも使える部下扱いしてたんだけどよ、どうやら愛着というのか愛情っていうのかねー。湧いちまって、舞香ちゃんだけは組のしきたりには関係させないことに決めたのさ」ふぅーと煙草を一息はくと赤羽さんはつづけた。「ま、結局愛のある我が家なんて組織立ち上げて大海組の傘下に入る、なんて言われちまったら、大海のアニキも退けなくなったんだろうぜ」


 大海さんが何故かホームレスしていた女子高生時代の舞香を救い、舞香が沙鳥を助け出して、そこに朱音と瑠奈が加わり愛のある我が家が結成した。

 話の点と点が繋がっていく。

 まだ繋がりきれてない箇所はあるけれど、だいたいの成り立ちは理解できた。


「愛のある我が家もしっかり総白会に上納金を納めているから組の看板だって使おうと思えば使えるのさ。強い組の印だけで並の半端者はぶるってひいちまう。だが、舞香ちゃんはそれをほとんど使わない。愛のある我が家の名前だけで今や相手が異能力犯罪関係者ならビビっちまうくらいに成長した。すごいやつだよ」


 車が風守学校の付近に停められた。


「じゃあ、またなにかあったら連絡すると沙鳥のお嬢ちゃんに伝えといてくれ」


 そういうと車の窓は閉まっていった。やがて車は走り去る。

 どんなところにも歴史あり。

 愛のある我が家もああしてつくられていったのか。

 と、少し、ほんの少しだけ、興味が湧いた。




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