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Episode94/血vs氷

(132.)

「……既に機動隊が動き……羽咲さんを……囲んでいます……」

「くそ、犠牲者を増やすだけです!」


 鏡子の報せに沙鳥は机を叩く。


「ただいま。わしに向かっていってほしいところがあるんじゃろ?」


 ベランダから澄が家に突入してくる。


「澄さん……ええ、今すぐ羽咲を処分しに行ってください。ただし、油断しないように」


 先ほど朱音から聞いた情報が気がかりなのだろう。澄に注意するよう促した。

 澄もなにかを受け取ったのか、無言で頷き再びベランダから外へと飛び出した。

 なにもないでほしい。マリアを倒したときのような圧倒的な力を見せてほしい。


「わかった。今すぐ向かおう。なに、心配せずに待つことじゃ」







(133.)

 周囲の機動隊たちはカチコチに凍り、辺りには吹雪が舞っていた。


『さあ、ここが戦場ですええ戦場です。次なる挑戦者は?』


 大通りの左右の機動隊たちが凍り付けにされたことにより、奇しくもそこは闘技場のようになっていた。


『わしじゃ、外道』


 澄は建物の上空から飛び込み、大通りの中心に一気に飛び混む。


『詠唱はさせぬ』


 澄は一気に間合いを詰める。


()なさい フェンリル』


 しかし、それはもはや詠唱ではなかった。


 ただただ命じるだけで、羽咲の隣には白い人間よりも大きな犬が現れた。


 それを気にせす突きを放つが、氷の壁に阻まれ傷つかない。


『残念』


 羽咲は手を左右に振るう。

 きらきらした小さな結晶が辺りに舞うが、澄は下がりそれをすべて避けきる。


『……血界』

『ふふ……氷界』


 血の色が世界を覆うのと同時に、白いもやが周囲を覆う。それらは互いに拮抗し、互いに半分ずつしか世界を支配しない。


『へぇ、すごいですこと、すごいです』

『お主もな。この世界じゃわしがルールじゃ、つまり』


 澄は一瞬で羽咲の胸を突き刺そうとするが、寸でのところで氷の壁に阻まれる。


『何て脆い、ええ脆い世界』


『!?』


 澄は気づくと片足が凍り付けにされかけていることに気づいた。

 そのまま羽咲は澄の右手を氷の刃で切り裂く。


『まあ、切断できないなんて、できないなんて』

『ちっ!』


 澄は凍り付けの足を無理やり剥がし血潮を飛ばしながら数歩下がる。


『久しぶりに強い相手ね、ええ強い相手』


『血壊!』


 半分の赤赤がすべてーー羽咲の隣に現れた氷柱に集まり破裂した。


『危ない技をお持ちのようで』


 寸刻、羽咲は見えない速度で澄に接近。左手を切り飛ばし、腕が空を舞う。そのまま前蹴りをし地面に倒すと、素手で幾度も澄を殴り続ける。


『あはははは! 楽しい! 楽しいですこと!』

『ーー血界』


 再び赤い空が半分広がるが、これじゃどうにもならない!


「沙鳥!」


 映像を見ながら沙鳥に告げる。

「ーー澄さんに倒せない相手に、誰が行って対処できるというのですか?」

「くぅ!」


 でも、このままでは澄が殺されてしまう!


『仕方ない……本気を出すか……』


 死に体になりながら澄はボソリと呟いた。


 本気?

 本気だって?

 今のままじゃいつ死んだっておかしくないのに!


『なかなか死にませんねええ死にません。ならば刃でバラバラに』

『自己ーー』

『だから無駄なことを』

『血壊!』


 周囲の赤赤が今度は澄に集まり、澄の全身から血漿が吹き出し垂れ流れる。眼球も真っ赤に染まり、血が流れ出る。


『なにをーー!』


 澄が切られたはずの左腕が復活し、それで羽咲を突き飛ばす。氷の壁が貫通し、羽咲は隣のビルまで吹き飛ばされた。ビルにぶつかった羽咲の背後にクレーターができる。


『はぁはぁはぁはっはぁー!!』


 澄が息を切らし笑いながら羽咲を追って跳んだ。

 羽咲が対処するまえに羽咲を地面へと蹴り落とす。

 地面に大きなクレーターがつくられ、周囲にヒビが割れた。


『っ! 氷……解! フェンリルーー同一化!』


 氷界が消えて晴れていく。

 どうやらフェンリルが表にいないと使えない技らしい。


 羽咲の体が雪女のような衣装に変わる。

 向こうもまだ最終段階を残していたのか!


『バカがーー血界』


 辺りは再び赤い色に染まる。今度は白い煙もない完全な真っ赤に。


『な!』


 羽咲の姿が元に戻り、フェンリルも姿を消した。


『先ほどのままなら勝機があれど、今じゃお主はただの肉じゃ。死ね!』


 澄の口調が粗っぽい。

 澄は口からも血を滴らせている。


『血壊ーー』

『な、ああ、あああああ!』


 今度こそ、羽咲の肉体が膨張を始めた。


 ーー終わりだ。


 辺りに羽咲の血肉が吹き飛ぶ。いつもより、勢いよく。


『ああああぁああぁあ! はぁはぁはぁはぁ! 悪いな沙鳥! しばし暇をいただくぞ!』


 血塗れのままの澄は、凍り付けの機動隊を飛び越え、ただただ走る。森の中に入り、ひたすら山を目指し駆けている。


「映像を切ってください」

「は……はい……」


 沙鳥に言われて、映像は切られた。

 長いようで一瞬の戦いだった。


「澄は……」

「しばらく帰ってきません。……あの自己血壊は澄さんの奥の手。あれでも手加減していました」


 あれで!?


「澄が本気を出せば日本の地形が変わるって言ったじゃん」


 瑠奈がそう言う。

 たしかに、あれが本気じゃないのだとしたら、地形を変えるちからを持っているのかもしれない。


「澄さんは出しきれなかった力を静めるために暫し暇をいただくと言ったんです。さあ、ここからの処理がどうなるかでしょう」

「大変だよ。警察に機動隊、大量の市民まで殺害された。これを異能力のせいにされたら、すべて……僕のせいだ」


 朱音が拳を握りしめ呟く。


 異能力者の扱われ方が変わるだろう。

 大きくか小さくか、それは定かではないが……。


 

 

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