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第1話 出会った魔女はショタコン疑惑

 思えば苦労の連続だった。世界中で食の資源が枯渇し日本でも食料不足に拍車がかかり、配給食など味気ない食事に辟易して育った10代後半は生き甲斐の漫画アプリの更新が無ければ、即幕を閉じていたかもしれない。20代になって試行された軍の食事事情に惹かれて入隊しても、三度の飯と二次元は私の存在理由には欠かせないものだ。そんな現金な性格が良くも悪くも鳴切司【なきりつかさ】こと私を生かしていた。それしかないともいえたけど・・・


 配給率100%の国民健康食(通称満腹多幸丸(まんぷくたこうまる))はとにかくメシマズだけは死んでも嫌だとある種の信念を貫き通してきた日本が、本気で危機的状況に陥っていることを国民が切に感じるほどマズかったのだ。マズいというか兎に角味気ないのである。チューブから絞ったクリームは口の中で半固形化し咀嚼することで顎の弱体化を防ぎ、必須ビタミンやアミノ酸が濃縮されている。胃の中で膨らむので満腹にはなる。なるのだがそれだけである。だから私は人口肉などを食べることができ、三食食べることのできる軍に入隊するのに抵抗はなかった。母親には反対されたが食の道楽家であった亡き父譲りの食欲には勝てなかったよ。


「大丈夫、訓練過程は厳しいけど美味しいものが食べれるなら私は無敵だから!お母さんは心配しないで」


 そんな楽観的な思惑で入隊したのだが、期待は3日で消えてしまった。人工肉に人工魚肉は久々の食事をした欲求を満たされたのだが、人工は人工。新鮮(フレッシュ)には遠く及ばないミリ飯は飽きるのだ。しかし、贅沢は言えない。と、いうか言ったら上官から目を付けられる。また満腹丸に戻るのは御免だった。


 そんな不満を補ってくれたのが申し訳程度に配備された携帯デバイスにダウンロードできた漫画作品の数々だった。スマートフォンから発展した軍用デバイスに漫画をダウンロードするのは見つかった後が面倒だが、正直無いとやってられない。人間、衣・食・住だけで満足できるほど慎ましくはないのである。だからこそ食糧問題からの世界大戦なんて始めるのだ。近代兵器に戦略を駆使しても、大義名分が〈お腹いっぱい食べたい〉なのがなんとも間抜けだ。人間そんなものだろう。

それでも『美味しいものを食べるまで死なない』『次週のジャンプを見るまで生きる』という理由で2年もの大戦を生き残れた私も大概だと自負している。大陸へ派兵された日は死を覚悟した毎日ではあったけど、どんな些細な欲望でも生きる糧がある人間は簡単に死なないのがのが立証されたのだ。


 次週のhunter×hunterが待ち遠しい。


 

 夕飯の人工魚肉のムニエル(ぶっちゃけ竹輪のマーガリン焼き)は飽きたので、厨房の同僚に焼かないそのまま提供してくれと頼んだが苦笑いで断られた。そんな慎ましくも最低限の欲求を満たした日々のある日、所属していた隊が都市部の治安維持に駆り出される事になった。私としては非常に面倒くさい。だが働かざるものなんとやら。そこそこ真面目に警備をすれば三日間で終わるのだ。休憩時間に漫画を読めればそこそこ緩い任務である。まあ楽勝かなっというのが同期の感想だった。






 12月の寒さに晒されながら私は鉛色の空を見上げていた。より性格に言えば仰向けに倒れている。キーンと耳鳴りがして、四肢の感覚が無いことに気づくまで暫く状況を整理した。

 

 休憩時間に隊のテントで仮眠をする同期の横で今週のジャンプを読んでいると、近くで活動していたボランティア団体から差し入れがあるという連絡があった。各国で活動するその団体から差し入れられたのはなんと洋菓子である。伝手で手に入れたはいいがせっかくなのでお国の為に働く皆さんにもと、銀色の小袋に入ったクッキーをくれたのだ。上層部に内緒という条件でテントにいた全員に手渡された袋からは、甘く香ばしい焼き菓子の香りがする。素晴らしきかな国家勤務、こんなサプライズがたまにあるのなら軍属も悪くはない。

 

甘さは控え目で生地はボソボソしていたが久々の甘味は食糧問題のピークにある世界では最高級品に値する素晴らしいものだった。おまけに()()()も入れるなど手が込んでいる。ボランティア団体のわりにかなり優遇された扱いをされていたのか。などと間の抜けた考えを巡らせていた時だった。


 




 瞬間、目の前が真っ白に光り全身に激痛が走った。何が起こったか理解する前に私の意識は途切れ、そして現在に至る。テントがあったはずだが何故かない。私の体は両手が無い。何故無いのか知っている。乾燥剤が爆発したのだ。正しくは乾燥剤に似せた超小型の爆弾だである。小石程度ながら威力は旧型の対人地雷と同じ威力の高性能兵器であった。そんなものが目の前で爆発してもまだ息があるのだから我ながらしぶとい。

だが、ここまでだ。痛みなどすでに感じない。身体を起こす力も徐々に無くなり、息もしづらい。見なくても分かる。胸が爆発で抉れ、肺が破れているのだ。折れた骨が心臓に刺さっているのだろう。要するに私はもうじき死ぬ。


 嫌だなあ独りきりで死ぬのは。まだ今週のジャンプ最後まで読んでないし、差し入れのクッキーも全部食べてない。そのせいで死ぬのだけど。


 こんなにあっさり死ぬのなら、次に生まれてくるならーーーーーーーーーーーー


            ここではない何処か違う世界でお腹いっぱい食べたいな


               あと可愛い子がいたらなおよし


 

 ああ・・・そういえば明日誕生日だ・・・Happy Birthday.














ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー












「なんてこと。呪われた子が産まれるとはこの国に大災厄が訪れる前触れだ!こいつを殺して皆備えねば」

「下手に殺して呪いがこっちまできたらどうするんだい!それよりあの魔女の森に棄ててきた方が安全だよ!煮るなり喰うなりあの女が勝手にするだろうさ」

「可哀想なのはエミリィだよ。旦那も戦争に盗られて楽しみしていた子供を産んでそのまま死んじまった。こんな化け物見たら気が狂っちまっただろうが」


 寝起きに随分物騒な会話が耳に入ってくる。というか化け物とは私だろうか?恐る恐る目を開けると視界がぼやけた。どうやらまだ本調子ではないらしい。爆死したものと思っていたがどうやら生き残れたのだろうか。しかし憂鬱だ。確認はしていないが間違いなく両手は吹き飛んでいた。胸の傷も致命傷の深さだったのだからリハビリを考えたなら残りの人生は要介護のベッド生活だろう。実に実に実に先行き不安この上ない。


「やはり魔女の森に置いてこよう。あの魔女であれば何かあっても問題にならん。厄介払いもできるのだこの方法が最良であろうぞ皆の衆」


 しかし先ほどから口々に魔女だの単語が聞こえるがなんのことだろう。確かに私は準中二病の食い道楽家だが魔女とあだ名される覚えはない。むしろ隠れオタクとして生きてきたので魔女より腐女である。そこそこ死線も超えた私は後輩間で不死者の鳴切と噂されたとの情報もあるがやはり魔女ではない。ということは、今回の件で増えた称号かなと思い寝返りを打とうとして違和感に気づいた。

 

()()()()


 人間の感覚は敏感過ぎて、例えば足を切り落とした人が足があるように感じる場合がある。錯覚なのだがあると思ってしまい予期せぬ事故などを引き起こしてしまうこともあるのだ。

だがぼやける視界には自身の()()()両手が見える。思い通りに動くので間違いない。しかし、そこにも異常があった。随分小さくないか?まるで赤ん坊の手のようにふっくらとした手だ。


「見ろ!化け物が気づいたぞ!早く森に棄ててこよう」


 そう叫ぶやいなや周りから一斉に手が伸び、視界も塞がれた私は浮遊感と共に何処かへ運ばれていった。感覚から抱き抱えてではなく担架のような器具に乗せられているのがわかったが随分酷い扱いである。しかも体を動かせないことから縛られているようだ。怒鳴りつけたいが声も思うように出せない。

 

「いいぞそのまま置いてさっさと逃げよう!」


 ドサッと乱暴に放られたのが衝撃でわかった。幸い下が草なのかそこまで痛くないのが幸いだ。そして気づいたことがある。

 

どうやら鳴切司は生まれ変わったらしい。


 あの傷では流石に生還することはできなかったのだろう。あのまま死んで新たに産まれたのだろうか。しかし、どの国に産まれたのか知らないが酷いものだ。捨てていった奴らの言い分から察するに私は不吉な何かであるらしい。この地の風習的なものか所謂奇形児なのか。理由は知らないが新生児を捨てる奴らなどロクなものではない。

 さて困った。産まれたばかりで母もいなく助けてくれる者も近くになし。やだもう詰んでる。

せっかく前世の記憶があるニューゲーム状態なのにどうすることもできない。残念私の冒険は早くも終了してしまった。神様次回作は記憶の引き継ぎがありのまともな国に産まれさせて下さい。


「ふん、ゾロゾロと雁首揃えて向かってきたと思ったら人の敷地にゴミを棄てて帰るか。やはりクサリトマトを食べてるようなのは駄目だな」


 クサリトマト?腐ったトマトだろうか。確かに駄目そうな名前だ。いかにもマズそうなーーーー


「ほお、ゴミかと思ったら赤子か。もう自我があるとは珍しい。お前は誰か?」


 あら空気が変わった。声からして女性かな。


「左様。ワシはエクレール、村の者共は魔女と呼ぶが名はあるぞ。真名ではないがな」


 どうやら此方の考えを読んでいるらしい。ご丁寧に名前を名乗ってくれるあたり子供を捨てる連中よりはマシだろう。


『初めましてエクレール。私は鳴切司、尤も生前の名前だから今の名前じゃないの』

「ツカサ・ナキリか。自我があると思えば転生者とはな。そのままでは不便であろう。そら」


 一瞬光ったと思ったらどうやら拘束を解いてくれたらしい。同時にある程度見えるようになっていた目に飛び込んできたのは空を覆う木々だ。所々光りが差し込んで最低限の光源はあるがこれは不気味な雰囲気満点の森だろう。嫌いじゃない。


「なるほど。棄てていったのはそういうことか。つくづく臆病な種族よな。()()()()()()からと怯えるとは」

『ありがとう。産まれたばかりで自由がきかないけれど、縛られたままというのは落ち着かなかったの。良ければここがどこの国か教えてもらえると嬉しいな」

「ここはカイン王国グルーヴァ伯爵領のエアルーの森。サウジア大陸の端に位置しておる」


 んん?カイン王国?伯爵領?何だろう凄く聞き慣れない名前だし、これはもしやあれか。


『・・・あの、地球のどのあたりかってわかります?』

「チキュウ?はて、そのような土地があったろうか。最後に旅に出たのは50年前、であれば新たにできた国くらいワシの耳に入っているはずだが」 

『今日は西暦何年でしょう!?』

「セイレキ?暦のことなら水の月の2週だ」


 あぁこれは確定だ。鳴切司は異世界に転生した。イッツ!ミラクル!


「なにやら愉快そうな調子だがお前自分が赤子だと失念しているようだな。死ぬぞ転生者」


 ヒョイと持ち上げられようやくエクレールの姿を見ることができた。燃えるような赤い長髪の上から所謂魔女の帽子を被り、端正な顔に片眼鏡(モノクル)と超の付く美女だ。胸元も期待通りのけしからん景色に思わず釘付けになってしまった。享年29歳の喪女でこの感想である。この世界にこの美女の愛を勝ち取る者はまさしく絶頂を迎えるだろう。こんな美女に抱かれるなら棄ててくれてありがとう名も知らぬ村人達。幸先いいスタートをきれそうです。


「よくよく見ればお前、育てばワシ好みの童子(ショタ)になりそうだな。実験次第ではなかなかの拾いものだ」


 前言撤回、助けて村人!あ、てゆうか()()()たんだ私。


 

 こうして波乱万丈の予感の中スタートした異世界人生。果たしてチート能力はあるのか、ハーレム展開は?ショタコンにロックオンされた私はどうなるのか?


 私が終わって、私が始まった・・・これはそんな物語

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