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新宿かすみ


主な登場人物

ヒロ•••JUKUに所属する暗殺者

かすみ•••ヒロの恋人

レイ•••かすみの娘

彩•••••ヒロの師匠

Mr.T•••JUKUの職員


 一通のメールが入る。いつものように、最低限の情報だけが書かれている。Mr.Tからのメールだ。一読して、頭に入れる。場所は八王子。今は午前3時。この時間なら、1時間もあれば着くだろう。ベッドでは、かすみが優しい寝息を立てている。最高の女だ。いつでも、俺を熱くさせる。俺は、慌てることなく、身支度を済ませ、ホテルの地下の駐車場に向かう。車のエンジン音が地下に響き渡る。地図は頭の中にある。ナビなど使わない。ゆっくりと車を発進させ、初めの角を曲がったところで、アクセルを全開にする。車は一気にトップスピードになり、夜のとばりを抜けていく。

 俺にとっては、今回も容易い仕事だ。目的の場所に着くと、Mr.Tの情報通り、裏の鍵が開いている。時計に目をやる。5分。この時間内に済ませねばならない。ドアを開け、中へと進む。目標を発見。音を立てずに、近づく。手が意思を持つが如く、動いていく。やはり、容易い。ターゲットは葬られた。俺は、Mr.Tにメールを入れる、、任務完了。

 長居は無用だ。車に乗り込み、時計を見る。まだ、かすみは眠っているだろう。早く会いたい。その汚れなき心に会いたい。この荒んだ心を癒せるのは、かすみの心と体だけだ。俺は、かすみの待つ新宿に車を走らせた。



 俺は猛烈に怒っている。身体中の血液が逆流するがごとく、体が熱くなっている。『許さねえ‼️』ひと言呟くと、ヒロは新宿を後にした。

 それは今朝のことである。いつものように仕事を終わらせ、新宿に戻った。部屋に入った瞬間、いつもと違う空気を感じた。あるべき物がない。いるべき人がいない。『しまった。拐われた。』テーブルの上に、メモが載っている。場所と時間が書かれている。今から8時間後、池袋と指定されている。俺の一番大切な人を拐われた。俺の唯一の弱点を知られたようだ。『かすみ、待ってろよ。必ず助け出す。』

 犯人の見当は付いている。横浜の詩織だ。今だに俺を恨んでいるのは知っている。恨みを晴らすため、敵対する組織の一員となったことも分かっている。そして何より気掛かりなのは、詩織は、冷淡で残酷な女であるということだ。かすみが心配だ。8時間も待ってはいられない。

 横浜の本牧に向かって、車を飛ばす。Mr.Tの情報によれば、第三埠頭の倉庫が敵のアジトだ。しかし、俺の第六感が違うと言っている。詩織は冷酷だが頭はきれる。そこには、かすみはいない。俺は車を反転させた。かすみは高円寺にいる。昔、俺と詩織が暮らしていた部屋に、かすみはいるはずだ。おそらく、俺にかすみを痛めつけるところを見せつける算段だ。詩織は池袋で俺を待っている。

 高円寺には手下が数名いるだろう。指定された時間に俺が行かなければ、間違いなく手下にかすみを殺させるはずだ。時間がない。俺は車のギアをトップにし、アクセルを思い切り踏んだ。

 車を降り、高円寺のマンションに近づく。やはり手下が見張りをしている。間違いない。ここにかすみがいる。建物前に1人、ドアの前に1人を確認した。部屋の中には、多くても3人だろう。俺は鞄の中から、弓矢を出した。矢を2本指にかけ、弓をしならせた。ギギギ、スパーン。二本の矢が同時に放たれ、同時に男が2人倒れた。俺は全力で走る。ドアを蹴破り、中の男3人を一瞬で始末した。部屋の奥にかすみがいた。震える体を抱き寄せ、くちびるを重ねた。

 今頃、池袋ではMr.Tの指令の元、詩織は確保されているだろう。可哀想な女だ。俺を両親の仇だと思い込んでいる。まあ、いい。俺を恨むことが彼女の生きる糧となるのであれば。しかし、つぎは容赦しない。かすみを傷つけるものは、何人たりとも許さない。なぜなら、かすみは、最高の女だからだ。



 隣でヒロが、寝息を立てている。何も疑うことなく、全くの無防備。愛されている、信頼されているのが、痛いほど分かる。

 私の名前はかすみ。優しい夫と、可愛い娘がいる普通の主婦。私は、弁護士、医師、税理士、気象予報士、消防士、看護師、保育士、、、あらゆる資格を持っている。しかし、誰にも言えない秘密の資格もある。『殺しのライセンス』。国から与えられた資格だ。普段の私は仮の姿。本当は、AGUという組織に属している。

『Aoyama Govemment of United』が正式名称だ。国の非公開の組織である。国の安全を脅かすあらゆる組織、人物を見張り、情報を収集するのが役目だ。必要があると判断すれば命を奪うこともある。しかし、罪に問われることはない。警察も手出しはできない。ライセンスがあるからだ。私は、武器などは使わない。なぜなら、武器以上のものを身につけているからだ。特殊能力。俗に言う超能力だ。私は『気』を操れる。気を集中させれば、指先一つで相手を抹殺することもできる。見つめるだけで、倒すことも可能だ。コードネイムは『angel』。皆は言う、天使の指先、天使の眼差しと。

 今の私の任務は、謎の組織『JUKU』の暗殺者ヒロを見張ること。そして、情報を得ること。敵なのか味方なのか、はっきりしない。国の利益にそぐわないと判断すれば、抹殺するよう命令されている。

 横で眠っているヒロ。私の指先が彼の額に触れるだけで、命を奪うことができる。『なんて、無防備なの。これが幻の暗殺者ヒロ。』得ている情報では、負け知らず。かすり傷一つ受けたことはない。あらゆる武道、格闘技を身につけ、その手の動きは銃弾より速いと言われている。しかし、私には、そんな気配は微塵も感じられない。私の前では、優しい人。甘えん坊の男。かわいい坊やである。かすみは、そんなヒロに心を惹かれているのを感じていた。指先から気を抜く。そして、その指をヒロの鼻に当て、軽く摩る。『ヒロ君、もう少し生かせてあげるわ』『悪い子にならないでね』

そこにいるのは、優しい瞳のかすみであった。

 ヒロは、全てを知っていた。知った上で、眠っている。

『かすみ、最高の女だ。』

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