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4 彼を求めて2


「は?」


 ファナの叫びを聞いて、男は素っ頓狂な声をあげて動揺を示す。先ほどの鋭い目つきが嘘のように大きく目を見開いて眉を上げる。


「……ふざけてんのか? 寝言は寝て言え」


 すぐに我に返った男は再びファナを睨みつける。


「ふざけてない」


 ドスの聞いた声に少しひるむが、この程度で引いていられない。


「私……その、今までずっと海賊に憧れてて……。だから、一緒に連れてって欲しいの!」


「無理だ。てめぇみたい小娘連れてっても邪魔になるだけだ」


「雑用係でも何でもいい。何でもする、だからっ」


 ファナは必死に男に縋りつく。

 きっと今の顔は涙で目が晴れ酷い顔になっているだろう。


「離せ」


「やだ。絶対に離さない」


 男がどこかに行ってしまわないように服を掴む。


「殺されたいのか」


 男が腰に挿している剣に手をかけた。

 一瞬身体が強張るが、それでもファナは手を離さなかった。


「一緒に連れてってくれるなら、殺されても構わない」


 震える声を必死に抑えながら、言葉を紡ぐ。

 ここで彼と別れてしまったら、ファナとして生きる目的を失ってしまう。それならば、彼に殺されるのも良いかもしれない。


「……」


 男はファナの言葉に呆れたのか、掴んでいる手を無理矢理払って歩きだす。


「待って」


「ふざけたこと言ってる暇があんならさっさと非難しな」


 ファナの背後には、すぐ側まで火の手が迫っていた。今立っている場所に火が来るのは時間の問題だろう。

 離れて行く男の後ろ姿に、ファナはもうなりふり構っていられないと走り出す。


「待ってっ、お願い。私を攫って、私を一緒に連れてって!」


 ファナはそう叫ぶと、男の背中に抱きつき、大きな背中に顔をうずめる。逃げて行かないように腕をまわしてしっかりと抱きしめた。

 ふと、彼に回した手に滑りを感じて手のひらを見る。


「お前、いい加減に……」


「うえっ」


 男が何か言いだそうとしたのを遮って、ファナは背中から顔を離すと彼の身体を押しのける。


「血なまぐさい……」


 暗くてよく見えなかったが、男の洋服には所々血が付着している。

 ファナは手のひらに付いた血を服で拭う。



「お前な……自分から抱きついといてそれはねーだろ」


 突然勢いよく背中を押された男は、少しよろけながら振り返る。


「それ、怪我じゃないよね……?」


「当たり前だろ。俺がそう簡単に怪我なんてしてたまるか」


 よほど自分の腕に自信があるのか、不敵に笑う。


「お前が海賊の何に憧れたのかなんて知らねぇが、血の匂いにひくようなお譲さまじゃ無理だ」


「私はお譲さまなんかじゃない。人を斬ったことはないけど、剣だって扱える。」


 ファナは着ていたワンピースの裾をたくし上げ、太ももに隠し持っていたナイフを取り出し、相手に切っ先を向ける。

 この物騒な世の中、自分の身は自分で守れるようにと、幼い頃から父に護身術や剣の稽古をつけて貰っていた。そこらにいる男共より強い自信はある。


「刃物を向けるってことは、俺に殺される覚悟はできてるんだろうな?」


 男の目がギラリと光り、彼のまとう雰囲気が一層険呑なものとなる。

 そして、ゆっくりとファナに近づくと腰に挿してある剣に手をかけ、一気に引き抜いた。


 カキンッ


 剣はファナの持っていたナイフに勢いよく当たり、ナイフが弾け飛ぶ。


「あっ」


 ファナが飛んでいったナイフに目が向けた隙に、男は更に一歩前に出ると彼女の足を引っ掛けて押し倒す。


「っつ」


 受身も取れずに背中から硬い地面に倒れ、肺の中の空気が一気に口から洩れる。

 むせているファナの身体に跨ると、顔面に剣先を向けて見下ろす。


「そんなに海賊の仲間になりたいのか?」


「なりたい」


 あっさりと負けてしまったショックと悔しさに唇をかみしめながら、それでもファナは答えた。

 海賊になって、彼の側にいたい。


「親はどうする。海賊になるなんて親不幸もいいとこだぞ」


「父さんと母さんは……許してくれないかもしれない。けど、私の人生は私が決める」


 例え両親に許されなくても、譲れないものはある。

 ファナはまっすぐ男の目を見つめた。


「お前、名前は?」 


「ファナ」


「ファナ……」と男は小さく呟くと、剣をしまってファナの上から退いた。


「明日、日の出前に俺の船に来い。連れてってやる」


「!!」


「親としっかりけじめつけてから来い」


 そう言って男はファナの返事を待たずに去って行った。

 ファナは地面に寝転んだままうずく待ったまま動かない。喜びと今更ながらに恐怖が襲ってきて、震えながら涙を流した。


 しばらく転がっていると、火の粉が目の前に落ち、バチバチと焼ける音が近づいてくる。

 ここももうすぐ焼けてしまう。

 起き上がって先ほど飛ばされたナイフを拾うと、親に何て説明しようかと頭を悩ませながら港に向かった。


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