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1 プロローグ
「私を攫って下さい!!」
燃え盛る炎を背後に少女は目の前の男に縋る。
涙を流しながら、煤だらけになったボロボロの洋服をまとい、震える手で男の洋服の裾を掴んだ。
「離せ」
「やだ。絶対に離さない」
冷たく拒絶されるも、少女は一歩として引かない。男は困ったような、呆れたような顔をして頭をかきむしる。
「殺されたいのか」
「一緒に連れてってくれるなら、殺されても構わない」
脅したつもりが、訳のわからない答えが返ってきた。
これ以上何か言っても無駄だと判断した男は、掴んでいる手を無理矢理払うと、少女に背を向けて歩きだす。
「待って」
「ふざけたこと言ってる暇があんならさっさと非難しな」
火の手はすぐそばまで迫っている。じきに今立っている場所も炎に包まれるだろう。
どんどん離れて行く男に、焦ったように駆け寄って少女は手を伸ばす。
「待ってっ、お願い。私を攫って、私を一緒に連れてって!」
少女はそう叫ぶと、男の背中に抱きついた。
それは、何もかもを焼けつくすような日差しが照りつける8月のこと。
幾年もの時を超え、少女は再び彼に出会った――。




