093 5番勝負
多くの兵士が見守る中
まずはメイファンとイゴール
俺達も端に寄り、見守る
メイファンはメイド服に鎖鎌
鎖鎌なんて使えるんだ
あの三又矛は使わないのか
対するイゴールは重装備
ロングソードに大盾とフルプレートアーマー
絶対に動きが鈍ると思う
本物のバカなんだな
「ふゅふゅふゅ、切り刻んでやるぞー」
「お前はやはりバカアル、全然進歩してないアル」
「五月蠅い五月蠅い!」
「魔法頼みのお前がそんな使った事も無い装備でどうするアル」
魔法頼みか
今回は剣技の勝負
メイファンはだから勝てると言ったのかな
「では、始めッ!!」
開始とともに思いっきり突進してくるイゴール
だが遅い
ルビーならもっと力がありそうなもんだが
イゴールの突きをひらりと交わすメイファン
すぐに後ろに回り込み、イゴールの兜に分銅をカーンと当てる
クラクラするイゴール
うーん、鎖鎌じゃあのフルプレートには・・・
イゴールが振り向いたところに兜の目の空いてる部分にもう一度分銅が飛んでいく
ガツーンと当たった
痛みに苦しむイゴール
メイファンが分銅を回転させ、勢いをつけ兜にガンガンぶつける
たまらず大盾を離してしまうイゴール
その大盾がイゴールの方に倒れて来てイゴールも倒れてしまう
大盾に挟まれたイゴールは動けずメイファンの恰好の標的だ
カーンカーンカーン
連続で分銅を頭にくらうイゴール
兵士たちも無様な戦いに顔をしかめる
なんとか大盾から這い出したイゴールがロングソードを構える
もう息も絶え絶え必死の形相だ
メイファンが分銅を放つ
ロングソードとイゴールの右手に分銅が絡まる
鎖をひっぱるメイファン
慌てて右手を引くイゴール
「剣の練習もしろと散々言ったアル」
「う、五月蠅い!五月蠅い!」
「お前は魔法しか無いアル、どうして勝てると思ったアル?」
「え、エメラルドがルビーに説教するな!」
ああ、余計な事言うなよバカ
スイッチだと言った挙句村を滅ぼしたんだろ?
その教訓はバカには生かされてないらしい
「魔法もイナズマはヘタクソだったアル」
「五月蠅い!五月蠅い!」
「何度味方に当たりそうになったか解らないアル」
「だ、黙れ!!」
「今もどうせヘタクソアル」
メイファンが鎖を引こうとする
ビクっとして身構えるイゴール
もう一度引こうとする
またまた身構えるイゴール
・・・フェイントにすべて引っかかるな
「イナズマを使ってみるアル」
「へ?こ、今回は剣技の勝負だぞ!」
「構わないから使ってみるアル、どうせ当たらないアル」
ああ、狙いが解ってしまった
だから鎖鎌なのか
真剣が良いって言ったのはこういう事か
しかしそんな単純な作戦に引っかかると言うのか?
・・・引っかかるんだろうな
メイファンには確信があるのだろう
「い、いいのか?つ、使うぞ」
「良いって言ってるアル、決断が遅いと散々言ったアル」
「う、五月蠅い!五月蠅い!後悔するなよ!」
イゴールが空いてる左手を差し出す
メイファンの頭上に光が出来始める
段々と大きくなり、バチバチ言い始める
メイファンはその光の中に鎌を投げた
「ぎゃあああああああああああああ!!!!」
鎌を通して電流が流れる
鎖から分銅、そしてイゴールの体へ
イゴールは小刻みに打ち震え、やがて煙を出しながらぶっ倒れた
戦闘不能だ
「・・・勝者、メイファン!」
兵士たちからやっぱりかとため息が漏れる
メイファンがこちらに戻って来た
手を掲げ迎える
メイファンは少し迷ったがその手にハイタッチした
20傑の4人はやれやれといったご様子
負けるの予測してたんだろうな
兵士たちがイゴールを片付ける
死んでないよな?
「イナズマがヘタクソだったのは本当アル、死ぬような威力を出せないはずある」
2年後も進歩して無かったか
調子に乗り始めると努力なんてしなくなるか
さて、次はピオリム王子と大陸20傑16位
王子はロングソードと盾
鎧は胸当てだけ
16位はキザな野郎だな
レイピアとハーフプレート
動きやすそうな革の軽いものだ
「君は美しくないから早く終わりたいよ」
「なんだとごらあああ!!」
「鼻息が荒くて嫌になっちゃうな、ヒュー」
始まる前から王子は前のめりすぎ
大丈夫かな
「では始めッ」
王子が突進
16位の頭に剣を振り落とす
直前に回転するように避け、そのまま横から王子のわき腹へ突きを連打
いきなり3発、闘技大会ならこれで終わりだ
王子のわき腹から血が噴き出す
「ぐぅ!!!」
「大丈夫か~い?」
痛みを堪え、対峙する王子
少し頭が冷えたか?
対する16位は余裕の笑み
軽くはずんでストレッチ
一度息を吐き、呼吸を整える王子
向こうからは来ない
カウンター狙いなのだろう
フェイントをかけながら王子が突きを放つ
それをまた回転しながら避ける16位
横から突きを打って来るがそれを王子がガード
16位が巻き戻しのように逆回転で元の位置へ
すかさず突きを打って来る
意表を突かれた王子はガードが遅れてしまう
1撃はガードしたが2発食らってしまった
更に体勢を崩したところへ追撃が来る
王子は防戦一方
盾でしのぎながら体勢を戻し、剣を構える
「王子、まだやるのかな?」
王子のわき腹には5つの穴
ユーメリアの王子の立場を心配してか将軍が声をかける
「やるわ!まだこれからよ!」
将軍がため息を吐き試合続行
王子が慎重に間合いを詰める
大きく踏み込み左から右へ薙ぎ払う
16位が左へ回転しながら避けた
完全にがら空きになった王子の左わき腹へレイピアが撃ち込まれる
王子の剣は右側へ
王子が不意に体を右に回転させる
レイピアが背中に突き刺さる
再度振りかぶって王子が剣を右に振る
背中を攻撃していたレイピアが止まる
王子の薙ぎ払いが届いてしまうと判断した16位はバックステップ
逃がしたくない王子はそこから右足を一歩相手側に踏み込む
王子のロングソードは16位の利き腕の指にかすった
籠手から血がにじむ16位
「野郎っ・・・!」
さて、王子は体中を突かれて満身創痍だが一撃あてた
それも利き腕の指だ
相手の攻撃力を裂いたと言っても良いだろう
籠手から血がしたたり落ちる
意外と深めに当たったのかな
籠手の中がグチャグチャして気持ち悪いはずだ
16位はレイピアを左手に持ち替えた
左手でも使えるのか?
・・・いや、明らかに威圧感が無くなった
右手程の攻撃力は期待できないだろう
王子は大丈夫だろうか?
体中を突かれて大きく肩で息をしているが・・・
王子が飛びこむ
それを回転しながら避ける16位
すぐに突きが来る
王子は盾でガード
そのまま盾を前に突っ込む
16位は予測して無かったらしくバックステップが遅れた
16位が浮かび上がる所に王子の盾が突っ込む
そのままタックル
背中から落ちる16位
その首筋に王子が剣を突き立てる
「ま・・・・・・参った」
「・・・勝負あり、勝者ピオリム王子!!」
パチパチと兵士たちがまばらな拍手
根性で勝ったな
王子の元に駆け寄りヒーリング
骨は大丈夫だよな?
しかし血が流れたな
肩を貸してやる
「あの女、ヒーラーだったのか」
「すごい速さで傷が治ったぞ」
外野がうるさいが仕方ない
怪我人が優先だ
「そっちも治そうか?」
「・・・いや、我が国のヒーラーに治させよう」
16位の指をヒーラーが手当てする
こうして見ると確かに時間かかってる
さて、次はクリスティと9位の女か
9位も後が無くなったせいか顔が真剣になったな
クリスティはサーベルとハーフプレートだけ
9位はムチか、トゲトゲの付いたムチ
7、8メートルはあるだろうか?
クリスティが大好きそう
「12位ねぇ、前回の大会では対決は無かったけど・・・」
「私はあれから強くなった」
「私だってそうよ、次の大会ではもっと上位を狙うわ」
「1位を狙うとは言わないんだな、この国の王も大変だ」
「何ですって?貧乳のクセに!」
ブチっ
クリスティの額に青筋が浮かぶ
9位だって胸はカオリ程度かそれより小さいくらいなのに
胸の大きさでこんなにも優位に立ちたがるもんかね
「では、始めッ!」
開幕からいきなりムチの旋風が巻き起こる
クリスティはバックステップで避ける
射程範囲が広い
これは近づくの骨だな
リズムよく時々トリッキ―に変化させ打ちだされるムチの旋風
地面に当たる度に土煙が上がり小石を弾き厄介だな
クリスティが土煙に片目を閉じた
チャンスと見て9位が一歩前に出て思い切りムチを放つ
バックステップが一歩遅れたクリスティの足首にムチが絡みつく
クリスティが顔をしかめ、ムチを切ろうとする
一瞬早くムチをほどく9位
すげえな、棘付きで引っかかりやすいであろうムチを一瞬でほどいたぞ
どんな技術なんだ?
クリスティのブーツからじんわり血が滲んで来る
棘は確実にクリスティに深手を負わせた
それでも怯まないクリスティが9位に向かってジャンプ
体を丸めながら飛び込む
ムチの攻撃なら多少当たっても良いと言う判断だろう
致命傷にはなりにくい
9位がその場で強く地面を鞭打つ
同時にバックステップ
なんと凄く後ろに飛んだ
逃げる時にも使うのか
クリスティが着地した地点には誰もおらずまたムチの旋風が飛んでくる
これはなかなか近づけさせてもらえないかな
9位がにじり寄って来る
少しずつ距離を詰めクリスティは後ずさり
兵士たちの輪で作った簡易闘技場
クリスティがチラリと後ろを気にした
9位が一歩踏み出す
クリスティは横に避けるがムチに捕まってしまう
クリスティの左手を強く締め上げる
サーベルで斬ろうとするとそれをさせまいと鞭を引っ張る
クリスティの体勢が崩れる
さらに鞭を引き寄せ、体勢を整えるのを邪魔する
引くたびに深くムチが食い込んでいく
やっとの思いでクリスティがムチを切ろうとすると離れて行った
じんわりと左手が赤く染まっていく
棘の一つ一つが大きいから深く食い込んだはずだ
左手をだらんとさせ、クリスティが構える
打つ手はあるのだろうか?
さらに続くムチの旋風
クリスティが集中する
9位がにじり寄って来る
タイミングをあわせ、クリスティがサーベルを薙ぎ払う
何かが飛んでいく
ムチの先端だ
1m程のムチの先端がクリスティに斬られ飛んで行った
動揺する9位
普通ならムチの軌道など見えないはずだ
更にクリスティが横に薙ぎ払う
1mのムチの切れ端が飛んでいく
確実にタイミングを読んでいる
すでに9位の攻撃を読み切ったのか
短くなってしまったムチを巧みに操りながら後ずさりする9位
クリスティはゆっくりと歩き続ける
9位が踏み出し攻撃して来た
それをサーベルで横に払うクリスティ
2m程のムチの欠片が飛んで行った
自慢のムチを半分の長さにされてしまった9位
こりゃもう勝負あったな
しかし9位は引き際を知らないみたいだ
短くなって威力の無くなったムチを振り続ける
軌道が滅茶苦茶だ
この長さは扱いなれてないのだろう
クリスティの顔近くに跳ねたムチをサーベルで薙ぎ払う
さらに鞭は半分になった
9位が2mになったムチを構えるがカッコが付かない
こんなのもうだれが見ても・・・
「・・・構わんぞ、負けを認めろ」
「し、しかし、私で3敗目・・・」
「もう勝負はついてる」
9位の体から力が抜けていく
がっくりと項垂れ、両膝をついた
「・・・負けって事で良いのか?」
「ああ、勝者はクリスティだ」
将軍に確認し、クリスティに駆け寄る
ヒーリングをかけ、よくやったと抱きしめる
「きゅーん・・・抱きしめられるのも・・・良いですね」
クリスティの腰に手を回し、仲間の所へ戻った
「さて、もう勝負はついたけど」
「じょ、冗談じゃねえ!このまま帰れるか!」
「・・・・・・」
3位は何も言わないが5位はやる気満々だ
どうする?ミヤビさん
「せっかく集まってくれたんだから相手してやるでござる」
「そだね、全力でしょ?」
「今日は全力で行くでござる」
「ねぇん、もうイゴールは拘束して良いかしらぁん?」
「・・・ああ、構わない」
王子がまだ気絶しているイゴールの元へ
鎧を剥がし、水晶の手枷をはめ、引きずって来た
さてさて消化試合だが次はミヤビさんと5位
ミヤビさんは小太刀と足にクナイ6本
やっぱりこれだけなのかな?
5位は大盾と斧
兜と肩当ても付けている
眼が血走っているな、大丈夫か
「くそう、あの女を今晩ヒィヒィ言わせる予定だったのによぉ!」
「タカネ殿の相手など生まれ変わっても無理でござる」
「なんだと!!」
「・・・準備はいいか?はじめるぞ?」
お互い構えて時を待つ
「・・・では始めッ」
いきなりミヤビさんがクナイを6本放つ
それを大盾で受け止める5位
・・・瞬時に後ろに回り込むミヤビさん
何かを投げた
「うがあああああああああああああああああ!!!!!!!」
5位の背中に刺さる無数の飛び道具
背中一面、50本は刺さってる
手裏剣、クナイ、良く解らん何か
5位が崩れ落ちていく
泡を吹きながら
「しょ、勝者、ミヤビ」
瞬殺とはね
いや、死んではないけど
あんなに武器を隠し持っていたのか
ミヤビさんが戻って来る
「重装備は忍びでは無いって言ってなかったっけ?」
「女は武器を隠すものでござる」
ウィンクされた
つええ
あんなの俺だって捌き切れるかどうか解らない
「・・・さて、どうする?」
「・・・やらせてもらう」
3位もやる様だ
仕方ない付き合ってやろう
俺はエストックのみ
3位は大剣、盾にもなるやつだ
防具は無し
「・・・では始めッ」
対峙する俺と3位
さて、俺は以前、元3位のミヤビさんに苦戦した
果たして現3位ならどうなのか?
・・・褐色のクルセイド人
恐らくスイッチでは無いだろう
右左にステップを踏み突きを入れる
それを大剣でいなす3位
後ろに回り込んでみる
動きに着いて来る3位
ミヤビさんは気配を消せて、俺の察知能力の効果を10分の一にまで縮小させた
強敵だった
俺は3位に向かって歩き出す
迷わず大剣を振り下ろして来る3位
スローモーション発動
後ろに回り込み、首にエストックを当てる
「ば・・・バカな・・・」
大剣を振り下ろしている途中に相手が瞬時に後ろに回り込み、首に剣を当てて来た
一体どういう気持ちなのだろう
絶望的な気分になると思う
対処方なんて見つからないだろう
スイッチでないなら敵では無い
大剣が3位の手から離れていく
地面に大きな音をたて、土煙を立たせる
呆然自失の3位
もっと手加減するべきだっただろうか
「しょ、勝者タカネ!!」
静まり返る中庭
誰も動けない
俺は仲間の元に戻り、1人1人とハイタッチをした
パチ パチ パチ パチ
王様が立ち上がって拍手をしている
強い力を持った目で俺を見ていた
「見事なり!」
王様に釣られて兵士たちも拍手を始める
次第に強く、大きくなる
称賛の拍手はしばらく続いた
「さてどうする?今からユーメリアに帰る?」
「夜になっちゃうわぁん、明日の朝飛び立ちましょ?」
「それまでこいつどうすんの?」
「手枷を付けたまま幽閉しておこう、明日の朝引き取りに来い」
「ご迷惑かけるわねぇん、グラハム将軍」
「ふうむ、20傑など宛にならんな、こんな猛者が居るとは」
「普段は可憐な乙女です」
「良く言うわねぇん、鬼よ、鬼」
「女は裏の顔があるでござる」
「・・・これでは次の大会が心配だな」
安心してくれ、俺は出ない
クリスティが頑張るはずだ
あとはカオリがどこまでいけるか
俺はVIP席からゆっくり見物する事にするよ