090 計算外
あくる日
朝起こしに来たメイファンにドン引きされる
違うんだ、俺は変態じゃないんだ
隣に寝てたやつが変態なだけ
「貴方たちぃ、性癖は自由だとは思うけどぉ」
「おめーが言うな」
「んーだとぉらあ!!!表出ろやッ!!!」
朝から王子をぶっ飛ばす
「ぅう、ひどいわぁ、私はともかくメイド達におかしな物を見せないでちょうだい!」
「言われたくないけどもっともだ、反省してます」
ミヤビさんとクリスティのせいで俺が怒られた
この不条理な世の中
「さて、どうやってエステバンまで行く?」
「というかメンバーはこれだけでござるか?」
「メンバーはぁ、私とタカネちゃんミヤビちゃんクリスティちゃんとメイファンよぉ」
「メイファンもか、顔解かるのメイファンだけだし当然か」
「俺はムスタングに乗るとして・・・」
「馬車に4人乗れるでござるな」
「帰りは2人増えるんですよね?」
「私は愛馬で行くわぁ、帰りはメイファンと2人乗りよぉ」
愛馬?
おお、なんかごっついペガサス連れて来た
鞍付けてじかに乗るのか
「王子、変装するんじゃなかったの?」
「姫」
「もう面倒だからカオリみたいにピーちゃんでいいか?」
「いいわよぉ、どうせバレるから変装はやめにしたわぁ」
馬車と2頭が飛び立つ
ムスタングは負けずについて行く
まだ成鳥じゃないのに
ペガサスよりグリフォンの方が早いのかも知れない
2時間後、エステバンの首都のハンター組合前に降り立つ
ペガサスの馬車やらグリフォンやらでいきなり大騒ぎだ
あれ?王子が降りてこない
何かを探しているようだ
メイファンが馬車から降り立つ
それを見て群衆から離れる黒い影
もう解った、あいつがゾイゾイだ
黒人だからすごく目立つ
王子はこれを予想してたのか
王子がゾイゾイを空から追う
俺も群衆を飛び越え後を追う
どこ行った?土地勘が無いからさっぱりわからん
空を見て王子の位置を確認
路地裏に入ったのか?狭くて降りられないみたいだ
急いで王子の真下に行く
居た、姿が見えればこっちのもんだ
スピードを上げ、あっと言う間に追いつく
脚をかけ転ばせて、エストックを首にあてる
「動くなよエメラルド、俺は魔法も使えるからな」
「!・・・す、スイッチか?!」
「20傑の12位と20位と元3位も来てるからな、お前とホセを捕まえる為に」
「な、なんでそんな大げさな」
「113人殺しておいて何言ってんだ?」
「!!・・・そ・・・そんなに死んだのか」
ゾイゾイはすべてを理解した
逃げてしまったからその後村がどうなったか知らなかったようだ
「スイッチじゃないやつも来てるからな、余計な事は言うな」
「わ、解った」
「ホセはどこに居る?この街に居るんだろ?」
「い、居る事は居るが・・・」
「案内しろ」
「・・・・・・」
「おい、なんとか言え」
ミヤビさんが追いついて来た
「なんたる速さ、拙者が遅れを取るとは」
『ミヤビちゃ~ん』
ん?王子が空から何かを投げて来た
拘束具か?
もちろんクリスティが着てたのとは違うヤツ
ミヤビさんがゾイゾイを締め上げ拘束具を付けさせる
取りあえず馬車のところまで戻ろう
馬車に戻ると騎士が来てた
これはなんの騒ぎだとクリスティとメイファンに詰め寄っていた
「2年前にユーメリアで起こった事件の犯人を捕まえに来ただけだ」
「なんだお前は?」
「あんたこそ誰だよ」
「私はエステバンの騎士ゲルボーグだ、状況を説明して・・・あれはユーメリアの王子では無いか」
ピーちゃんが降りて来た
「これはどういう事だ?ユーメリアは永世中立国のはず、他国でこのような問題を起こすとは」
「エステバンに迷惑をかけるつもりは無いわぁ、でも犯罪者が逃げ込んだんだから仕方ないじゃなぁい」
「そうは言っても正規の手続きを取らずにこんな事をされたのでは」
「正規の手続きって本人に事実かどうか確認するでしょ?それじゃあ逃げられる可能性がある」
「だからと言って街の中でいきなり大捕り物か?非常識にもほどがあるだろう」
ううむ、退かないな
まあ言ってる事はもっともだ
「まあ、ぶっちゃけて言うとユーメリアとエステバンって仲悪いんでしょ?協力求めたところでさ」
「公の場でそんな事を言うとは・・・お前は何者なんだ?バカなのか?」
「建前で話してたら進まないでしょ?」
「ううむ、しかし我が国にもメンツがある、無視して勝手にこんな事をされて納得する訳にはいかん」
「そりゃそうかもしれないけど」
「取りあえず王宮まで来て貰う、事情を聴くまでは勝手な事はさせられん」
「もう一人捕まえたい奴が居るんだよ、王宮になんか行ってたら逃げられる」
「それはそっちの都合だ、我が国には我が国のやり方がある」
「身柄を確保してから一緒に王宮に行くと言うのはどうだろうか」
「駄目だ、事情聴取が先だ」
「ここで俺達が言う事聞かなかったらどうなるの?」
「公務執行妨害だ、ユーメリアとは国際問題になるかも知れん」
むむう、しかしこっちも引くわけにはいかん
「もう一人が逃げた場合は責任は取ってくれるのか?」
「我々が?我々は職務を全うするだけだ、そんな責任を背負わされるのはお門違いだ」
「事情聴取は受ける、しかしもう一人の身柄を確保してからだ、でないと我々はここを動かない」
「な、なんだと?逆らうと言うのか?」
「ああ、そっちの都合は私達の事情聴取だろ?それには協力すると言ってるんだ、そっちも条件を飲め」
「ここは私達の国エステバンだ、私達の常識が優先されるんだ、他国から来て自分達のやり方を通させろと言うのか?」
ぐぐ、正論すぎる
このゲルボーグさん常識人だな
それに引き換えこっちはオカマやらドMやらけっこ○仮面やら
自分達がおかしい気がしてくる
「ま、待ってくれ・・・ホセは・・・逃げない」
ゾイゾイがしゃべりだした
「なんでそんな事が言えるんだ?お前達はユーメリアから逃げ出しただろう」
「本当ならもっと遠くに逃げたかった、でもそれが出来なくなった」
「?・・・どういう事だ?」
「・・・ホセに家族が出来てしまった」
「家族?・・・結婚したのか?」
「子供が出来た、結婚した」
「幸せに暮らしているとでも言うのか?あんな事をしておいて」
「・・・毎日怯えて暮らしている、いつかこんな日が来ると思ってた」
「だったら何故自首しなかった」
「こ、怖くて・・・」
子供を作ってしまったか
犯罪者の子供
あんな事をして女に救いを求めたのだろうか
忘れようとしたのだろうか
「・・・もう一人は我々で身柄を確保しよう、お前達は王宮に来てくれ」
「相手はドラゴンを倒せる最上級ハンターだぞ?騎士団で確保できるのか?」
「我々はそんなにやわでは無い、さあいいから王宮まで来るんだ」
・・・仕方ないな
ゲルボーグの後に着いて行くか
ぞろぞろぞろぞろ
ムスタングやペガサスの馬車もぞろぞろと
「もっと慎重に行くべきでござった、いきなり強硬策では拙者が来た意味が無いでござる」
「タカネ様はメアリーさんにも慎重に行くよう言われてたじゃないですか」
「・・・言われてたな、え?俺のせいなの?」
「しょうがないわねえ、タカネちゃんたら」
「ピーちゃんが先に空から追いかけたんでしょ?」
「黙ってついて来てくれ、手荒な事はしたくない」
「手荒な事されて私達が黙ってると思わないでねぇん」
「俺ら無法者みたいだな」
「そこの女、頭巾を取れ」
「それは無理でござる」
「な、なんだと?」
「それは無理だから、無理強いするなら大人しく出来ない」
「なんと脅迫してくるとは」
「身元はデボネア国のミヤビでござる、これで勘弁するでござる」
「・・・なんと、元大陸3位の」
「言っちゃって良かったの?うーん、責任感じちゃうな」
「何も悪い事はしてないでござる、これで捕まるようなら我が国も黙ってないでござろう」
「デボネア国と事を構える気は無いが・・・」
「デボネアってどんな国?」
「世間話はじめようとするな」
王宮に着いた
取調室に連れてかれる
ムスタングとペガサスは外で待っててね
「・・・なるほど、ユーメリアでそのような事があったのか」
「私達の責任アル」
「・・・逃げてしまいましたが罪は認めます」
ゾイゾイがあっさり認めた
だったらなんで逃げたんだよ
お陰で大事になっただろうが
「ですがホセは勘弁してやって貰えないでしょうか?あいつは今家族を持って幸せに・・・」
「113人巻き込んで死なせておいて幸せに暮らしてますじゃあ浮かばれないよ」
「そ、そもそも俺達は混乱してて!村の方に逃げ出したのはイゴールで・・・」
「そうだ、イゴールはクルセイドに行ったのか?」
「おい、勝手にしゃべるな」
「・・・行った、俺達を見捨ててな」
「見捨てた?どういう事だ?」
「俺達はユーメリアから逃げながらエステバンに入った、首都まで辿り着きしばらくは拠点をエステバンに置いてこれからの事を話し合っていたのだが、ホセに子供が出来てしまった」
「ふむ・・・」
「身動きが取れなくなった俺達をイゴールは見限った、あいつのせいでこんな事になったのに」
「あいつのせいってのは責任転嫁じゃないか?メイファンは村で止まったんだ、お前達3人は止まらなかった」
「・・・確かに、だがイゴールはわざと村の方角に走ったんだ、村を犠牲にして逃げる為に」
「なんだと」
「俺達はパニックになっていた、だがイゴールはそうじゃなかった、ヒーラーが真っ先にやられ勝てないと判断したイゴールは冷静に決断したんだ、村を犠牲にすれば逃げ切れると」
「イゴールがそう言ったのか?」
「ああ、逃げ切って動揺している俺とホセの前で、どうだと言わんばかりの笑みを浮かべながらな」
狂ってたんだな
その時点でもうイゴールは呪われた力に取り込まれてしまっていた
「俺達はイゴールを責めたよ、だがイゴールは聞き入れようとはしなかった、『だったらお前達もメイファンのように立ち止まればよかったじゃないか』と言ってな」
「・・・最初から仲間も犠牲にするつもりだったんじゃないか?」
「そうかも知れない、だが一人で国を渡っていくのは無理だとイゴールも解っていたんだろう」
「だから3人で行動して、役に立たなくなったら捨てたと」
「しかし、そんな悪い奴なら見捨てるときに口封じをするような気もするでござるが」
「ああそうだよな、足が付かないようにするならそうするのが普通だ」
「イゴールははっきり言ってしまうとバカアル」
「え?」
「ヤツは村を犠牲にする方法しか思いつかなかったんだ、しかもそれをどうだと言ってしまうようなヤツなんだ」
ううむ、空気が読めない人だとは思うけど
しかし、後の事を考えないバカだからゾイゾイとホセは助かったと
「元々バカだったアル、簡単な事でもバカだったから説明がたくさん必要だったアル」
「物わかりが悪かったからな、良く使えない案を出して来たが自分が言った事の何が悪いのかも理解するのに時間がかかった」
ああ、いるよなそういう人
説明するこっちの労力も考えて欲しい
そういう奴に限って自分は頭が良いなんて思いこんじゃってるから余計タチが悪い
「それでも最初の方は聞き訳が良かったアル、でも次第に・・・」
「力を付けて我を通すようになってしまった」
「それでもなんとかなってたアル、あの日までは」
「キンバリーの力が大きかったんだよ、今ならわかる」
ホセが来た
「め、メイファン、い、生きていてくれたのか!」
大粒の涙を流し崩れ落ちるホセ
うーん、調子狂うな
「泣かないで欲しいアル、今日は2人を捕まえに来たアル」
「・・・解った、罪は償おう」
「ホセ、しかしお前は家族が・・・罪なら俺が一人で背負う!」
「そういう訳には行かんよゾイゾイ、お前を犠牲にして幸せになっても意味が無い」
あ、あれれ?
もっと極悪人を想像してたのに
拍子抜けだな・・・
「タカネちゃーん、これはイゴールを捕まえないと意味が無いわね」
「ああそうだな、そもそもの諸悪の根源がイゴールっぽいしな」
「・・・なあ、さっきから私を無視してだな」
「ああゴメン、事情聴取だっけ?協力するから早く終わらせてよ」
色々聞かれた
住所も聞かれちゃった
ピエトロに迷惑かける事にならなきゃいいけど
クリスティもごめんな
大陸12位なのに
でも尋問されるのが何故か嬉しそう
ニヤニヤしてしまうのを咎められてまた嬉しそう
もうゲルボーグさんに預けようかな
責めてもらえるのが嬉しくてたまらないみたいだ
「解った、今回は不問にしよう」
「いいの?ユーメリアに言いがかりつけるチャンスなんじゃないの?」
「タカネちゃんたら」
「上の人間にはそう思う者も居るだろうがクルセイドが関わって来るのではな、我が国は我関せずだ」
「そんなにめんどい国なんだ、クルセイドって」
「クルセイドを敵に回したい国なんて無いだろう」
力の国クルセイド
弱い者が悪いと言う非常な国
奴隷も居るんだっけ
ホセとゾイゾイに拘束具を付け馬車に乗せる
見張りはクリスティとミヤビさん
俺はムスタング、王子とメイファンは王子の愛馬に乗る
「ムスタングが2人乗せれるならメイファンこっちに乗せるのに」
「なによぉ?私の後ろに乗るのが不満だとでも言うのぉ」
「ふ、不満は無いアル」
「王族に嫌だとは言えないよな」
「てめえ!タカネ勝負しろコラッ!!」
王子をぶっ飛ばす
今のは完全に俺が悪いけど容赦なくぶっ飛ばした
「ううむ、20位を軽々とぶっとばすとは」
「ゲルボーグさん、迷惑かけてごめんなさい」ぺこり
「大人しくしてれば見目麗しい少女なのに」
「女には色々あるんですよ、裏の顔が」
「お、恐ろしいな」
なんの脈絡もない事を言って誤魔化した
グリフォンとペガサスが飛び上がる
「タカネ殿、待ってほしいでござる、ホセが最後に家族に別れを伝えたいと・・・」
「・・・拘束具は取れないからな」
ホセの家の前に降り立つ
こじんまりだが良い家だな
嫁さんの家なの?
転がり込んだのか
夫の姿を見つけ奥さんが飛び出して来た
何かを察した形相で
転がるように駆け寄り夫にしがみつき泣き叫ぶ
奥さんは聞いていたのだろうか
少しは聞いていたのかも知れない
訳が分からないと言う感じでは無い
「すまない、息子を頼んだぞ」
「解った、解ったよ、私が一人で・・・ううっ、守って見せるから心配しないで」
「こんな旦那ですまなかった」
「そ、そんな事、そんな事ない!私にとってはかけがえのない人だよ、かけがえのないただ一人の人だよ!」
・・・どこで間違えてしまったのか
一つ間違えただけでこんな結果になるんだな
他のすべてが完璧でも許されないのかな
「タカネちゃん、同情してる?」
「ああ、俺が始めた事なのに、変な話だな」
「イゴールは、純粋な悪であってほしいわ、出ないとやり切れないかも」
「・・・そうだな、敵に期待するのも変な話だけど、何か事情があったりしたらモヤモヤしたまま終わってしまう」
元々は善人ガチャに選ばれたイゴール
だが人間は力を持つと変わってしまう
本性が出てしまうのだろうか
誰にでもそうなる可能性はあると思う
「ホセ、そろそろ」
すがりつく奥さんを離し、馬車に促す
地面に崩れ落ち、嗚咽を漏らす奥さん
・・・こっちが悪い事してる気分だ
「イゴール次第ではホセにも情状酌量の余地があるわ」
「そうか、それが正しい事なのかも解らなくなって来た」
「タカネちゃん、ブレないでね、113人亡くなってるんだから」
ああ、情けない
元々はヘンリーに同情して始めた事だ
それが今はこれで良かったのかと迷いはじめている
「ヘンリーにとってはどいつも許せない奴に変わりは無いか」
「情状酌量なんて許せないかもしれないわねぇん」
「・・・今は被害者の事を最優先に考えよう」
「そうね、それが良いと思わ」
グリフォンとペガサスが飛び立つ
取りあえず2人を連れて帰り、ユーメリアで拘留して貰おう
ヘンリーに会わせるのは3人揃ってからだ