080 春
3カ月経った
ピエトロに春が来た
「カオリ、いよいよ明日は大陸20位争奪のピエトロ予選大会だな」
「うん、強くなったから自信あるよ」
「サテンも負けませんからね」
「2人共頑張れよ」
気候が暖かくなってきて、雪が溶け始める
花が咲き始めるまではまだ少し早いが、大分過ごしやすくなって来た
「メアリーも次の大会には出たいら」
「まず最上級にならないとな」
冬の間ハンター業は休みなのでメアリーはまだ中級
だが3カ月の鍛錬でかなり逞しくなった
華奢な線の細さは相変わらずだが、引き締まった筋肉の筋がメアリーの成長を物語っている
「タカネ様、明日はどちらで観戦されるんですか?」
「選手関係者席だよクリスティ、返上した俺がそこに居るのも気まずいんだけどね」
「いいなあ、ジルも見学に行ければな・・・」
クリスティも冬場は鍛錬に明け暮れていた
空気椅子やら一日中生活をしながらでも鍛錬を怠らない
大陸12位なので予選大会は免除
ジルは相変わらず引きこもり生活
メオラのダンジョンに行った時以来、全然外に出ていない
筋力落ちないかと心配になるが、本人もダンジョンでは体力の無さを気にしたようで、自室で基礎的なトレーニングをするようになったらしい
「ムスタング、明日はお前も見に行くんだぞ」
「ケーン」
ムスタングも大きくなった
鳴き声もカッコ良くなって来た
今は220cmくらいだろうか
5mくらいまで育つらしいから、まだ半分も行ってないんだけど
鞍を一度取り換えた、このままスクスク育っていって欲しい
天気が良いので外に出てみる
冬の間出れない時期が続いたので今は外に出るだけで清々しい気分
体を伸ばし、春を喜ぶ
街燈を立て始めているな
冬の間止まってた工事が再開されたようだ
このへんは高級住宅街だから、次に立てるって話だったっけ
・・・あれから王宮は魔法水晶の事を何も言って来ない
バルディさんが頑張ってくれているのだろうか
その事を考えると、いつも胸が痛くなる
「タカネ、明日に向けて手あわせお願い」
「いいぞ、指輪はつけるの?」
「ううん、つけない、感覚に慣れておかないと」
カオリにあげた3カラットの魔法石
力と素早さが4倍、魔力が8倍になる優れものだが、カオリはすっかりその指輪に慣れてしまい、物足りなくなっていた
「今度は5カラットくらいで作ってよ」
「うーん、5カラットとなるとなかなか」
「宝石店に行ってもなかなか無いよね」
「金庫の中のは何カラットだっけ」
「11カラットらしいよ」
「大きすぎるんだよな、カオリまだ使っちゃ駄目だぞ」
「解ってるよ、ドーピングみたいな物なんだから、カオリだって無理はしないよ」
メオラのダンジョンで見つけたダイヤ
力と素早さが15倍、魔力が30倍以上にもなる超チート魔法石
「100kgの物を持てる人が1.5tの物を持てるようになるんだぞ?普通なら骨や筋組織がもたない」
「私達は丈夫な体でしょ?タカネは15tくらい引きずれるんだから」
「そうだけどさ」
「それに再生の杖もあるしさ」
「あれまだ使う機会が無いよね、本当に効くのかな」
サテン達4人がダンジョンで見つけた再生の杖
骨折治療まで出来ると言う優れもの
「サテンも仲間に入れてください」
「いいよ」
「また2人がかりで俺をやっつけようとする気でしょ」
サテンも0.5カラットに慣れたので今は1カラットの魔法石を着けている
元々はクリスティが着けていたものだ
そのクリスティは今は2カラットの魔法石を着けている
これだけ新たに買わされた
「カオリが優勝したら5カラット買ってよ」
「なあ、自分で買って魔力注入だけ俺に頼むと言う発想は無いのだろうか」
「無いです」
「そ、そうか」
「サテンはまだまだ1カラットで十分ですよ」
「ああ、ゆっくり慣れていけば良いからな」
サテンはスイッチ持ちじゃない
カオリみたいなデカい魔法石を使う事は無いだろう
クリスティも2カラットでは苦労した
力と素早さが3倍になったからな
ややこしいな、まあこんな感じ
カラット 力 素早さ 魔力
0.5 1.5倍 1.5倍 2倍
1 2倍 2倍 4倍
2 3倍 3倍 6倍
3 4倍 4倍 8倍
11 15倍 15倍 30倍
「まあいいよ、優勝したらムスタングで近隣の国へ行って5カラット探して来るよ」
「やったー」
「カオリ、勝てるとは思ってませんが簡単には負けませんからね」
「うぅ、サテン怖い顔しないでよ」
「タカネ様、リンフォード王国に行くなら私がプレゼントした衣装を着ていけば品物が安く手に入ると思います」
「行かないよクリスティ」
「なんら?みんなでタカネをやっつけるら?」
「またかよ、集まって来るんじゃ無い」
俺vs4人で手あわせした
みんなどんどん強くなってるから大変だ
「おっと」
「むむ、避けたか、カオリのデンジャラス皆殺し斬り」
「だせえ技の名前やめろ、カオリは直線的過ぎるよ、もっとフェイントとか緩急つけてみたら?」
「うーん解った」
「クリスティ、避けるのが上手になったな」
「本当は喰らいたいんですよ」
「そ、そうか、葛藤してるんだな」
「サテンは3本同時射的か、様になってきてるじゃないか」
「3本狙いどうり飛ぶようになったんですよ」
「すごいな」
「メアリーはいっつも後ろっから来るんだな」
「有効的な戦い方ら、タカネは察知能力使っちゃ駄目ら」
「俺のは外せないんだよ」
入り乱れて稽古に励む
サテンとカオリも明日はいいとこまで行くんじゃないだろうか
「皆様、お茶が入りましたわ、少し休憩をされてはどうですか?」
『はーい』
「カオリ様、エリーゼはカオリ様の優勝に10万賭けたの、絶対負けたら嫌なの」
「うう、プレッシャーが」
「ん?地方大会でも賭け事やってるの?」
「やってるの、カオリ様のオッズは8.2倍だったの」
へえ、良いのか悪いのか
ちなみにユーメリアの大会と一緒で一人10万までしか賭けれないらしい
「じゃあ俺はサテンとカオリに5万ずつ賭けるよ」
「タカネ、私に気を使わなくても大丈夫ですよ?」
「いや、カオリはおっちょこちょいだからさ、サテンにもチャンスあると思うよ」
「ぐぬぬ、絶対負けないからね」
「皆様の怪我が無いようクーリエはお祈りしておきます」
「なんかあったら困るし再生の杖持ってくか」
「うん、念の為持ってきてよ」
大会にはヒーラーが居るだろうが、骨折治療は出来ないからな
大怪我した時にはあったほうが便利だ
「・・・でも人前で使うのは嫌かな」
「タカネは随分慎重になったね」
「俺もホトホト懲りたんだよ」
自分の行動で散々嫌な目にあった
これからは慎重に生きていくんだ
「よーし、お茶も飲んだしまた手あわせお願い」
「少しは明日の備えて休めよ」
「うーん、そだね、必殺デンプシー斬りを試したかったんだけど」
「なんだそりゃ」
カオリは変な技の開発に凝っているらしい
そのうち技名を叫びながら技を出しそうな勢いだ
そうなったら他人のフリをしよ
「カッコいいですねカオリ、サテンの3本同時射的にも名前を付けてください」
「じゃあジェットストリームアタックとか」
「パクリだな」
「トライアングルアタックとか」
「それもパクリだ」
「ど、どちらもカッコいいです!」
「そうだろうか」
やれやれ、好きにしてくれ
翌日
闘技場へ行く
試合場の大きさは一律なんだな
どこも同じような大きさだ
客席はホメロスより少なかった
2000人くらいかな
大会の参加数は32人らしい
随分少ない
5回勝てば優勝か
優勝賞金は300万
20位の予選大会だからそんなもんか
選手控室へ
サテンとカオリは同じ部屋にして貰った
俺とメアリーとムスタングは付き添い
クリスティとジルとメイドちゃんはお留守番だ
留守中もクリスティがいるなら安心だ
大陸20傑は基本的に参加者に帯同できないみたい
俺が客席で見るならついて来たんだろうけど
「でもせまいな」
「ムスタングが大きくなりすぎなんでしょ」
「ケーン」
「そんな事言うなよ、お前だって喜んで乗りたがるクセに」
「カオリは余裕ですね、サテンは緊張しています」
「あ、賭けってどこでやってんの?」
「入り口近くに売り場がありましたよ」
買いに行くか
・・・あれかな?
なになに、カオリが8.0倍でサテンは25倍か
一番人気でも4.5倍、上位は結構競ってるな
ちなみにカオリは6番人気でした
10傑を差し置いて6番人気か・・・
いや、10傑も全員は参加してないみたい
今回は20位を決める大会の予選大会
本大会じゃないからスルーの人も多いのかな
10傑の順位に影響のない大会だしな
まあいいや、5万ずつ買う
『あれ、タカネじゃないか?20位を返上した』
『まったく・・・名誉な事なのに勿体ない』
少し雑音が聞こえる
でも言われても仕方ないか
国の威信もかかってるのに放りだしたんだから
さっさと二人の所へ戻ろう
「カオリが優勝で40万、サテンが優勝で125万か、サテン頑張れ」
「ちょっとー」
「ふふふ、頑張りますね」
「め、メアリーはカオリに賭けたら、サテンごめんら」
「良いですよ、妥当だと思います」
メアリーも1万だけ賭けたみたい
生まれて初めての賭け事で迷いに迷っていた
ガチャ「サテンさん、1試合目なので準備お願いします」
「は、はい!」
よしよし、じゃあ俺達は関係者用の立ち見席へ
客席は満員だ
長い冬が終わり、皆娯楽に飢えていたのかすごい熱気だな
げ、女王様がこっち睨んでる!
すみません、返上したのにこんなトコに居て
ムスタングの陰に隠れてやり過ごそう
こうして大陸20位争奪地方予選大会が始まった
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結果から言えばカオリの断トツ優勝だった
ほとんど瞬殺で、決勝で当たったピエトロ1位のグスタフさんも20秒くらいでやっつけた
「やった!!」
「おめでとうカオリ」パチパチパチ
「やったらー」
「サテンは残念だったな」
「もうちょっとだったんですが・・・」
サテンはベスト8で敗退
相手に2発攻撃を当てたが矢が切れて降参
相手は盾で凌ぎ逃げ切った
「まあ2人共怪我が無くて良かったよ」
「これで2週間後のユーメリアの大会に出れるよ」
「頑張って来るんだぞ」
「え?タカネ着いて来てくれないの?」
「うーん」
20位返上した奴がどの面さげて行けば良いのやら
「前回と同じメンバーも多いだろうし、俺に負けて涙を飲んだ人達に申し訳ないよ」
「・・・気まずいかもね」
「うん、だから付き添いはサテンとメアリーとメイドちゃん1人に頼むよ」
「むう、カオリは前回一生懸命応援したのに」
「そうだな、それなのに返上しちゃって申し訳無かった」
「それはいいんだけど・・・お陰でカオリにチャンスが来たわけだし」
俺だって見たいけどさ
「宿舎が嫌ならタカネはムスタングで来たら?街の宿に泊まって客席で応援してよ」
「うーーん」
「今から宿が取れますかね?人気のイベントなのでしょう?」
「そうだぞ、ムスタングと一緒だし宿探しもちょっと難しいと思う」
「チケットも売り切れてるのかな?」
「解らん」
「ハンター組合で聞いてみたらどうですか?」
闘技場を出てハンター組合へ
途中カオリが称賛の声を浴びてた
「20位を決める大会なので、高い宿のスィートルームならまだ空いてると思いますが」
「チケットは?」
「最高級VIP席なら取れると思いますよ、本大会では他国の王族が借りるような部屋型の席です、メイドも付きます」
「じゃあその席で応援してよ」
「え?もう俺が行くの決定なの?」
どちらも王族が確保するような宿とチケットらしい
20位を決める大会ではすべては埋まらない
「えーと、値段は?」
「宿は1泊50万、チケットは予選で10万、決勝トーナメントで20万くらいですね」
「・・・・・・」
「まあ、メオラの宿の10倍くらい取られるんですね」
「ユーメリアの首都は物価も高いですから」
えーっと、前日入りして予選2日、中休み、予選もう1日、決勝だっけ
6泊で300万、チケットが50万
合計350万かよ
・・・・・・
「グリフォンは泊めてもらえるかどうか・・・」
「そうだ、その問題があったな!」
「タカネ、なんで嬉しそうなの?カオリの応援したくないの?」
「そ、そんなことないよ!」
「伝書隼で聞いてみましょうか?」
「え?ああ、うーん」
「聞いてみてください!」
チキショウ
明日の夕方には返信来るって
「で、でもスィートルームに2m以上のグリフォンて」
「ムスタングちゃんは躾もキチンとしてあるし、まだ成獣の大きさでは無いですし、匂いも無いですし」
「その辺キチンと手紙でアピールしてください!」
「お、おい、カオリ」
お金が高すぎるだろうが
これから5カラットのダイヤも探さなきゃ行けないんだぞ?
それに懸念は他にもあるんだ
俺が動けばトラブルが起こる
出来るだけ引きこもって居たいんだよ
「カオリは金のかかる罪な女なのよ?」
「へえ、手がかかるうえに金もかかるのか、良いとこ無いな」
「なんですってー!」
どうか部屋もチケットも埋まってますように
神様に願ってみたけど神様ってユンフィスだっけ
あいつじゃ願いが届きそうもないな
俺はガックリと項垂れた