079 裏目
サテン達から預かったダイヤを2日ほどで魔法石にする
「カオリ、出来たよ」
「もう?ジルにはまだ魔法水晶12日で作ったって言ってないの?」
「言ってない」
「・・・じゃあこんなに早く出来上がったって言わない方が良いかな、こっそり組合で査定して貰って来るよ」
カオリは出掛けて行った
・・・言っても構わない気も
いや、もしかしたら嫉妬が生まれるかもしれない、言わないでおくか
王宮内政官のバルディさんが来た
「タカネ殿、大陸20傑を返上したと聞いたが」
「はい、目立つのが嫌になったので」
「ううむそうか、事情は分かるが女王が怒ってしまった」
「あー・・・」
大陸20傑は名誉だ
個人的にもそうだし、国に取っても多く輩出すれば軍事力の誇示にもなるんだっけ
「それで、以前送った勲章を取り上げて来いとだな」
「ああ、それは構いませんよ、」
そういや勲章貰ったっけ
これも名誉なのだろうが俺にとってはまったく必要の無い物だ
勲章を返した
「すいません、私の我儘でわざわざ足を運ばせて・・・」
「ううむ、タカネ殿にはいろいろ世話になってるから勲章くらいいくらでもくれてやっていいと思うのだが」
「いえ、これを返すくらいで済むのなら」
「・・・ううむ、それがだな」
なんだろ
なんか嫌な予感がする
「タカネ殿が一人で魔法水晶を作ったと言う噂はほぼ書き換えられたと言って良いだろう」
「はい、それがなにか?」
「しかし女王は疑ってるのだ、途中経過も無しに突然魔法水晶が出来上がったからな」
「・・・まあ当然と言えば当然ですね」
魔法研究所で作っていた魔法水晶は12段階中3段階までの物だった
そういう報告も受けていたかもしれない
それが突然出来上がりましたじゃ疑って当然かもな
「魔法研究所の者にも強く口止めをしたが、先日女王に呼ばれてな、直接聞かれて口ごもってしまったのだ」
「相手が女王なら嘘を告げる事を躊躇するのが当たり前だと思います」
「それに2つ目を作れないと言うのも女王は納得してない」
「・・・まあそうですよね、矛盾だらけですもんね」
穴だらけの計画だもんな
こうなるのも必然な気がして来た
「魔法研究所の職員には申し訳ない思いをさせてしまいましたね・・・」
「ううむ、ジェームスも女王に責められてほとほと参っていた」
魔法研究所の所長のジェームスさん
ああ、可哀そうな思いをさせちゃった
「まあ今の所抑えてはいるが、誤魔化しきれないかもしれん」
「うーん、まあ仕方ないでしょうね」
「・・・もし、女王様にバレてしまった場合、タカネ殿はどうするのだ?」
「バレてしまい、また作れと要求された場合は最悪・・・」
また、同じ事を繰り返してしまうのか
はあ、自分の愚かさが嫌になるな
「私は身を隠します、自分の事を誰も知らない場所でひっそり暮らします」
「ううむ、それだとピエトロはますます困った事になるな・・・」
なんか嫌だな
俺が居なくなると困るでしょ?だったら放っておいてって言ってるみたいな
子供みたいな解決方法しか思い浮かばない自分が嫌になる
はあ
俺なんか居ない方が絶対平和なんだろうな
ヘタにかき乱して去って行くとかどんな無責任野郎だよ
自分を棚に上げて考えてみるとそんな奴大嫌いだもの
だったら最初から何もするなよって思っちゃうもの
・・・良かれと思って行動したんだけどな
それが毎回報われない結果になってしまっている
なんなんだろ
異世界でやり直した結果がこれなのかよ
俺がすべて悪いのかよ・・・
「なんとかタカネ殿が一人で作ったとバレないよう働きかけてみるが、バレてしまった時はすまない、今はこれしか言えない」
「謝らなければいけないのはこっちです、自分の不用意な行動の責任を押し付けてしまって・・・」
「何度も言ってるがタカネ殿にはいろいろ助けてもらっている、タカネ殿を失っては国の損失だ、あまり気に病まないでくれ」
バルディさんは優しいな
俺なんかの為に・・・
「くれぐれも早まった行動は取らないで欲しい、もしバレたとしてもこれ以上タカネ殿に負担になるような事を女王に言わせないよう私が説得する」
「・・・バルディさんの立場が悪くなりませんか?」
「・・・気にしなくていい」
悪くなるだろうな
ただでさえ男が嫌いな女王だ
自分で自分の責任も取れないなんて、俺は何て無力なんだ
なにがダイヤのスイッチだよ
いっそ告白してしまおうか
俺が1人で作ったって
その上で今後絶対に作らないと公言してしまおうか
それでなんとかならないだろうか
答えが出ないうちにバルディさんは帰って行く
一人残される
正解が解らない
何かを直そうとしてもより状況が悪くなる結果を考えてしまう
「・・・タカネ様、元気を出すなの」
「エリーゼか」
「自分を責めちゃ駄目なの、女王様が我儘なの」
「そうかな?俺がバカなんじゃないだろうか」
軽い気持ちで6億儲けてやろうと思った結果だ
バカだよな
「本来タカネ様が一人で背負う事では無いの」
「でも、俺は一人で作れちゃうから調子に乗ったんだよ、なまじ力があるもんだから後さき考えず行動してしまうんだと思う」
「それが報われない結果になるのがおかしいの、タカネ様は何も悪い事をしてないの」
「・・・・・・」
「世の中がおかしいの、タカネ様は悪くないの」
ホメロスの時ははっきりそう思えた
今回だってお金の事もあったが街の暮らしが便利になったらという思いもあったはずだ
それなのにこうなってしまった
良くない事が続くと自分が悪いんじゃないか?と思ってしまう
「ありがとうエリーゼ、少し楽になったよ」
あまり心配させても仕方ない
今はこう言っておく
弱い姿を見せてしまった
本当に何がダイヤのスイッチだよ
高い能力があっても無力なもんだ
所詮は1人の人間だ
カオリが帰って来た
「タカネ、査定して来たよ」
「どうだった?」
力15倍、素早さ15倍、魔力30倍
防御大幅増加、魔法防御大幅増加
もう無茶苦茶だな
「察知能力はどんなもんなの?」
外に出て試してみる
魔法石を持ったカオリの後ろから練習用の矢を放つ
50mくらいで反応
「察知能力の効果範囲が俺と同じくらいだ」
「す、すごいね」
酷いチートだなあ
こんな魔法石装備した人間には流石に勝てない気がする
力15倍、素早さ15倍・・・
こんな物を扱える人間が居たらの話だが
「台座どうする?」
「うーん、まだ誰が使うか決まった訳じゃ無いし当分いいかな」
「そっか」
おそらく使うとしたらカオリだろう
スイッチ持ち以外に使いこなせるとは思えない
ジルはどうなのかな?
魔力が30倍になったところでオーバースペックだと思うが
そんな力で何を倒すと言うのか
「取りあえず金庫に入れておくか」
アダマンタイトや再生の杖、クリスティやジルの資産も金庫に入れてある
・・・魔法水晶も入ってる
ジルが作って扱いに困ってる魔法水晶
「うーん、この金庫にはすでに27億の資産と10億の財宝があるんだよね」
「・・・そっか、魔法水晶って6億だっけ」
「この魔法石は値段つかなかったけど」
「3カラットでも金額出なかったもんな」
「あ、組合には口止めして来たよ」
「そうだな、こんなもん持ってるってバレるとどうなるか・・・」
どうなるか・・・
また不安な気持ちが蘇って来る
「今日ここで寝ようかな」
「財宝に囲まれてか?寝心地は悪そうだけど」
「酸欠になりそうだしやめよ」
そうだな
翌日カオリが苦しんで死んでたとか絶対嫌だ
カオリを後ろから抱きしめる
「え?!た、タカネ、どうしたの?」
「ごめん、しばらくこうさせてくれないか?」
「い、いいけど・・・」
すがりたい
俺を助けて欲しい
俺は無力なんだ
俺なんて何もしない方が良いんだよ
「し、仕方ないなー、少しだけなら揉んでいいよ!」
「・・・・・・」
遠慮なく揉ませて貰った
悶え苦しみ死にそうになってた
カオリの犠牲もあって少し元気になった
カオリが時々女の目で俺を見て来るが気のせいだろうか
「タカネ、強い女の子は嫌い?」
「いや、こんな世界だから強いに越した事は無いよ」
「そ、そっか!じゃあ上に乗って!」
今日も俺を乗せ鍛錬に励むカオリ
毎日毎日頑張るなあ
「タカネも、サテンも、みんな、私が、守って、あげるからね」
「本当か?ありがとう」
「とり、あえず、大陸、20位、取ってやるんだから」
「・・・ああ、頑張ってな」
「・・・タカネ、ごめんね」
「ん?なにが?」
「タカネが諦めてしまった物を、カオリはどうしても欲しくって・・・」
「自分から手放した俺にどうこう権利はないよ」
「でも、好きで手放した訳じゃ無いでしょ?」
「・・・ああ」
「カオリがもしも・・・もしもだよ?もしも20位になれたらタカネは嫉妬する?」
「20位は俺も1度取った事があるからな、もっと上の順位をカオリが取ったら嫉妬するかもな」
「そっか・・・」
「でも、祝福するよ」
「ホントに?」
「ああ、カオリが大陸1位でも取ったら羨ましいとは思うだろうけど、同時に嬉しい事だよ」
「い、1位かぁ、まだ全然クリスティの方が強いからまだまだだけどね」
「そうだな、あとサテンだって俺の代わりに20位を目指してるんだからな」
「そうだね、サテンだって強くなってる、メアリーだってそのうち強くなってくると思う」
「メアリーも?」
「最初の頃から比べると見違えるようだよ、向上心もあるし」
「そうだな」
「数年後には、みんな大陸20傑に入ってるかもよ?」
「ははは、それはいいね」
「タカネ、喜んでくれる?」
「勿論だよ、羨ましいとは思うだろうけど・・・でもそうなれば誇らしいよ」
「そっか」
大陸20傑独占か
出来れば凄い事だ
身近にそんな人が居ると、目立って仕方ない気もするが
でも人にまで夢をあきらめろとは言えない
逆に俺には注目されなくなるような気もする
凄い人達に埋もれるかもしれない
人を隠れ蓑にするみたいな考え方は失礼かもしれないけど、安心できる場所が出来あがるかもしれない
なにより、皆が成長すれば単純に嬉しい
それを嫉妬するような俺なら自分をまた嫌いになる
「取りあえずこの冬は鍛錬に励むよ!」
「ああ、いくらでも手伝ってやるからな」
自分が諦めた物を人に託したいと言う気持ちもあるのかも知れない
皆が強くなるために俺はいくらでも協力するからな
ピエトロの冬は長い
3カ月は雪深い国となり、春を待ち焦がれる
来たるべき春に備えて、皆鍛錬に励むのだった