075 打尽
ダンジョン地下5階 階段の部屋
「さて、行く?」
「取りあえず四方八方から敵が出て来るのを避けたいので何本か通路を塞ぎたいのですが」
「通路って何本ありました?」
「8本ですよ、階段の部屋を合わせると9本」
ハーピーが通れる通路は8本か
7本潰して一本にしようかな
渋滞起こしてくれた方が助かる
「私が階段の通路からまず何本か潰してみます」
まだ1つ目の部屋にハーピーはいなかった
ジルが安全地帯から壁を出して通路を塞いでいく
「4本は塞げました、奥の方の通路は遠くて難しいです」
「十分です、戻ってきてください」
一度階段の部屋へ戻る
再度確認しなおそう
「サテンとジルさんは残りの通路を3本潰します」
「残り1本にして待ち構えるんだね」
「残りの1本も狭くして出て来る数を制限出来ないでしょうか?」
「やってみます」
「カオリとクリスティさんには狭くした通路の前でハーピーを待ち受けて貰いますか」
「そうだね、後ろに逃さないように頑張るよ」
「多少は逃しても大丈夫です、私とジルさんで処理しますから」
「手に負えないほど出て来たらどうしますか?」
「いったん体勢を整えながら階段の部屋に戻りましょう」
昨日の会議の内容とはすこし変わってしまったが
現場に来てみて最適が解る物だ
多少の変更は受け入れよう
「では、私とジルさんが先頭で行きます!2人もすぐに付いて来て下さい!」
魔法を使える2人が階段の部屋の通路を抜け出し走り出す
後の2人は指輪の能力も上だ
すぐにサテン達に追いついて来る
あ、右の通路からハーピーが出てきてしまった
早い、弓を撃ちながら左の通路に向かう
いや、ジルの魔法の射程距離に入ったのか左の通路に壁が出来始める
ならば奥の通路へ向かうか
サテンは弓を撃ちながら奥へ
奥の通路も警戒、いつハーピが出て来るか解らない
カオリとクリスティは右の通路へ
大量に出て来るハーピーを処理している
まずいな、すでに処理しきれないくらい出ている
先に右の通路を塞ぐべきか
2人が後ろに逃したハーピーをサテンが弓で処理する
・・・追いつかない、早くも焦り始める
「奥の通路は任せてください!」
ジルが奥の2つの通路に向かって走り出す
あまり離れては駄目だ
サテンも弓を射りながらジルを追いかける
ジルが止まった、射程範囲に入ったのか
奥の2つの通路が塞がれていく
一瞬だがハーピーの影が見えた
ギリギリだったようだ
これで通路は1本になった
カオリとクリスティの方を振り返る
わ、苦戦してる
通路からは止めどなくハーピーが排出され処理しきれて無い
「じ、ジルさん、2人の援護に回りましょう」
「は、はい!」
サテンとジルが遠距離で攻撃しながら2人の元へ向かう
その時通路から排出されるハーピーの量が一気に加速した
「う、うわああ!」
「か、カオリ!」
まるで鉄砲水のようにハーピーの群れがカオリとクリスティに襲い掛かる
2人共吹っ飛ばされてしまう
だ、大丈夫だろうか?
クリスティは空中で体勢を整え見事に着地
次の瞬間にはハーピーを攻撃している
カオリは・・・大丈夫だ
吹っ飛ばされ転がり、片膝を突きながらだがハーピーを攻撃していた
すぐに援護に回る
カオリの回りにいるハーピーにサテンの矢とジルの氷の魔法が襲い掛かる
その時またもやハーピーの排出が増えた
もう無茶苦茶だ
あっと言う間に部屋中ハーピーだらけになる
サテンは絶望を感じた
「退きましょう!皆さん!いったん退いて!!」
「いたっ!は、早く階段の部屋に・・・」
「クリスティ!無理しないで退くよ!」
「はい!先に行ってください!」
・・・・・・・・・
「はあ、はあ、はあ」
「よ、4人共、ぶ、無事ですか?」
「さ、サテン!肩怪我してるよ!」
「ヒーリングを行います、傷を見せてください」
「クリスティさん、背中が・・・」
「これくらいなら平気です」
ジルが回復魔法をかけてくれる
4人共細かい傷だらけだ
深手を追わなかったのは奇跡的だ
さて、いったん落ち着くことが出来た
しかし、皆言葉が無い
「・・・何匹くらい居たのかな」
「解りません、あっと言う間に辺り一面ハーピーだらけでした」
「300は確実に居たかと」
「何匹くらいやっつけたかな?」
「30匹くらいだと思います」
30しか処理できなかったか
止めを刺す余裕が全然無かった
怪我をしているハーピーはもっと居るだろうが、気休めにもならない
「・・・いけるのかな」
「解りません、あまりに無謀だった気がしてきました」
「カオリさんも傷を出してください」
「あ、ありがとう、ジル」
「・・・ジルに一つ作戦があります」
「え?」
皆がジルの方を向く
「戻って来る途中、最後に残っていた通路を壁で塞ぎました、今ハーピー達は1つ目の部屋に閉じ込められている状態です」
「ええ?そんなことしたの?」
階段の部屋の通路を覗いてみる
・・・うわ、ウジャウジャ飛んでる
部屋が狭くなったようにウジャウジャ
「後は階段の部屋の通路を塞げば酸欠状態になるかと」
「・・・そんなに上手くいくかな?」
「隙間がまったくない状態になってると言う事でしょうか?」
どうなんだろ?
洞窟の通路をすべて塞いだとして隙間が0になるのだろうか?
「隙間があったとしても、あれだけ大量のハーピーが長く耐えられるだけの酸素は供給されないでしょう」
「酸素とは?」
「タカネもそんな事を言ってましたね、酸素とはなんなのですか?」
「ああ、サテン、クリスティ、空気の構成の一つだよ、それが無いと息が出来なくなるの」
「まあカオリ、難しい事を知っているのですね」
「ははは、見直してくれた?」
元の地球では当たり前の知識だ
ここではまだ元素が発見されていないのだろうか
スイッチがたくさん来てるのだから、知識として広まっていてもおかしくないのだが
証明する方法が確立されていないのかも知れない
「そして酸素が無いと火が燃えません、タカネさんは酸欠を恐れてダンジョン内で火の魔法は使わなかったはずです」
「確かに氷の魔法しか使ってませんでしたが」
「・・・今から1つ目の部屋に火の魔法を使います、ジルは火の魔法は得意なので一瞬で酸素が無くなるでしょう」
「そんな事してジルさんは大丈夫なのですか?」
「階段の部屋の通路から魔法を撃つだけです、少し息を止めれば大丈夫かと」
「は、はあ」
「私が戻ったらサテンさんはすぐに階段の部屋の通路も壁で塞いでください」
「わ、解りました、くれぐれも気を付けて」
「ハーピーに通路から引っ張り出されないようにねー」
ジルが通路を屈みながら進む
怖い、ハーピーがウジャウジャ居るのが見える
あ、気づかれたな
階段の通路に集まって来る
マズい、塞がれると厄介だ
通路の途中だが火の魔法を撃ってしまおう
最大火力で・・・
ジルが魔法を撃つ
熱い!せまい通路では熱の逃げる場所が無い!
失敗したな
でも我慢出来ないほどではない
念の為に魔法を更に撃ち続ける
ハーピーが燃え上がるのが見える
逃げ惑ってるな
更に火の玉を撃ち続ける
お、火の玉が小さくなって来た
ジルが疲れた訳ではない
酸素が無くなって来てるのだ
そろそろいいかな
念の為、あと2発ほど撃って通路を戻る
あ、やばい、ジルもクラクラする
酸欠だ
狭い通路の酸素は真っ先に無くなってしまった
這いつくばって戻ろうとする
「じ、ジル!大丈夫?」
「あ、ああすみません」
カオリが引きずって通路から出してくれた
「は、早く壁を」
「解りました!」
サテンが階段の通路を壁で塞いだ
「ぜえっ、ぜえっ、ぜえっ」
「ジルさん、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です、ここも危険かも知れません、地下4階に戻りましょう」
4人はジルを抱え、地下4階へ戻った
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「あー今頃サテン達何してるのかなー」
「何か美味しい物でも食べてるら」
「いいなあ」
タカネは団欒室でまったりしていた
「タカネ様、クーリエが作るお食事ではご不満ですか?」
「そんな事無いよ、でもその地域でしか食べれ無い物ってあるじゃん?」
「解るの、その土地の名物を食べて歩くのも夢なの」
エリーゼはお金貯めて旅して回るのが夢だっけ
「ムスタングが飛べるようになったからな、隣の国くらいなら日帰りで行けるんじゃないか?」
「寒いからまだいいの、暖かくなったら連れて行ってほしいの」
そうだな、1人で行かせるのは不安だし、2人乗れるようになってから連れて行ってやるか
「タカネ様、シオンも連れて行ってください、愛の逃避行」
「・・・・・・」
寝たふりをした
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2時間くらい経過した
「そろそろ大丈夫かな?」
「解りません、酸素が無くなってると良いのですが」
「いっそのこと、明日また来てみるとか」
「いえ、そろそろ大丈夫だと思います」
ジルは確信がある様だ
魔法が小さくなるのを見たから
確実に酸素が減るのを見たから
「これで駄目ならどこかから空気が入り込んでいるのだと思います」
「そ、そっか」
「気を付けて壁を解除してみましょう」
4人は地下5階へ戻る
空気は大丈夫か?
薄くなっている様子は無かった
「では、解除しますね」
サテンが階段の部屋に作った壁を解除する
通路を覗きこむ
・・・真っ暗だ
いや、何かが詰まってる
なんだ?
「明かりを付けてみましょう」
ジルが明かりをつけた
そのに浮かび合ったものは・・・
「ひ!ひぃ!」
「な!ハーピー?」
苦悶の表情を浮かべて息絶えているハーピー
こんなせまいところへ何故・・・
空気を求めて這いずり回って来たのか
「クリスティがどかして来ます」
「空気が少ないはずだから気を付けて」
息を止め、クリスティが通路に入る
蹴りを一撃
ハーピーが飛ばされる
後ろにもう2匹居たのか
一緒に飛んで行った
クリスティは見た
部屋一面に広がるハーピーの死体
地面を覆い隠す数の死体
400・・・500くらいあるかもしれない
おっと、空気が少ないのだ
いったん階段の部屋へ戻る
「はあ、はあ、ふう・・・」
「ど、どうだった?」
「死んでます、すごい死体の山です」
「そ、そっか」
さてどうしよう
ハーピーはやっつけたがまだ居るかもしれない
何より一つ目の部屋は酸素不足
死体の山で歩きづらい
「カオリが空気を送ってみるよ」
通路に向かって盾を上下に扇ぐカオリ
焼け石に水じゃないだろうか
「中の通路の壁をいくつか解除してみましょうか?空気が流れ込みます」
「・・・解りました、ですがハーピーがいるかも知れません、すぐに戻ってください」
ジルが通路を進む
・・・一面死体の山を見て立ちすくむ
これを自分がやってしまったのか
息が出来なくなるとこんな苦悶の表情になるのか
モンスターとは言え、罪悪感がジルを責める
「ジル?大丈夫?」
カオリに声を掛けられる
我に返るジル
そうだ、空気が無いんだった
早くしなくちゃ
階段の通路を出て部屋の通路を2か所解除
空気が入る場所、抜ける場所
2か所あれば空気は循環する
ハーピーは・・・出てこないな
一応怖いので階段の部屋に戻る
「2か所開けて来ました、ハーピーが出て来る気配はありませんでしたが・・・」
「全部集結してたの?」
「解りません、ですが一網打尽出来たかも」
「一応、気は抜かずに行きましょう」
5分ほど待ちさて出発
カオリを先頭にクリスティ、サテン、ジルと続く
階段の部屋の通路を出て改めて見渡す
・・・地獄のような光景だ
「・・・間違いなく死んでるね」
「や、やりすぎたような気がしてきました」
「ジルさん、落ちついてください」
「クリスティは最善の方法だったと思います」
クリスティの一言でジルは少し楽になる
やり方はどうあれどのみちやっつけるのだ
出来れば楽に殺してやりたいが、そうも行かない事もある
今回は余裕が無かった
「他の壁も解除してみますか?」
「・・・そうですね、ゆっくりお願いします」
ジルが一つずつ解除していく
ハーピーが出て来る気配がない
最後の壁を解除
最後までハーピーは出てこなかった
「やっぱりこれで全部だったのかな?」
「油断はしないでおきましょう、探索を始めますか?」
「そうだね、まだ多分昼頃だよ」
「では一番手前の通路から・・・」
その後、夜遅くまでかかって4人は地下5階を制覇する
宝箱4つ、罠を2つ見つけた
あと、地下6階への階段も見つけた
まだまだ先がある様だ
「ふう、遅くなりましたね、明日はどうしますか?」
「昼からにしようよ、地下6階を少しは見てみたいよ」
「ジルさん、大丈夫ですか?」
「は、はい!財宝4つで元気になりました!」
「クリスティさんは平気ですか?」
「はい、早く制覇してタカネ様にご褒美を頂きたいです」
疲れた
財宝の鑑定は明日にしよう
今は帰ってただひたすらに眠りたい