069 自立
「あんな服どこで買ったんだよ」
俺へのプレゼントにボンテージのエロコスを買ってきたクリスティ
おかげで昨日は人生最悪の日だった
「隣のリンフォード王国です、王様がドMなんです」
「恐ろしい国だな、絶対に行きたくない」
「向こうの王様はピエトロの女王が好きなんですがこっちは嫌っている複雑な関係です」
へ、へえ
まあどうでもいいか
「タカネ、あれどうするの?」
「一回着たからクリスティは結構満足したみたいだぞ」
「革はカビ生えやすいから手入れに気を付けてね」
カオリがいらないアドバイスをくれた
昨日呆れてたよな、変態のクセに
カオリに呆れられるのって結構来るもんがあった
「シオン、適当に手入れしといてよ」
丸投げした
「さて、20位返上してくるかな」
「・・・サテンも付き合います」
雪が降っている
皆、仕事は休みだ
俺とサテンはハンター組合に向かった
「本当にいいんですか?」
「勿体無いけど仕方ないよ、良い事が全然ないからね」
「タカネなら大陸1位になれるのに」
「それは解らないよ、俺もなりたかったけどさ」
「・・・・・・」
なにか、しんみりしてるな
雪が降るとどうしてこんなに静かなんだろう
世界の音が消えてしまったようだ
「タカネは私やメアリーに幸せになることを考えろと言いましたが、私はタカネにも幸せになって欲しいです」
「俺は皆と一緒に居ることが一番の幸せだよ、その為には強すぎる力が邪魔な時がある」
「でも、その力のおかげで皆と知り合う事が出来たのでは」
確かにな
俺が元の体ならもう死んでるかもしれない
男の姿なら警戒されて終わりだったかもしれない
「強すぎる力は嫉妬や妬みの対象になる、サテンにも迷惑かけたと思ってる」
「前のパーティの話ですか?それは気にしなくていいと言ったじゃないですか」
「・・・まったく気にするなと言われても無理だよ、そんな人間にはなれない」
「タカネ・・・」
サテンが俺の腕を組んでくる
「もっと自分の事を考えてください」
「さっきも言ったけど、俺の幸せはサテンや皆と居ることだ、その為には他のことは犠牲にしていい」
「・・・そうですか」
サテンは納得したとも諦めたとも取れない顔をした
そんな顔をしないでくれ
不安になってしまうじゃないか
ハンター組合についた
「そうですか、大陸20傑20位を返上したいと」
「はい、我儘言ってすみません」
「ピエトロとしては20傑が減ってしまうのは残念な事なんですが」
「・・・静かに暮らしたいんです、自分の幸せの為に返上させてください」
大陸大会で貰った20位の証である指輪を返還する
組合のお姉さんはそれ以上聞かなかった
迷惑かけるね
「20位の補充大会は冬の間は開かれないでしょう、春になってから行われると思います」
「地方大会もやるんですか?」
「解りません、それはそれぞれの国の判断もあると思います」
こないだの大会は期間が短かったから地方大会は行われなかった
春ならゆっくり準備して地方大会もやるんじゃないだろうか
まあ俺が心配するのはおこがましいか
ハンター組合を後にする
「私も代表を目指しますからね」
「ん・・・ああ、俺の代わりに頑張ってくれ」
「タカネの無念は私が晴らします」
「・・・そうか」
カオリの成長が凄いからなかなか厳しいと思う
でも俺がこの事に関して何か言うのは筋違いだ
俺はもう放棄した人間だからな
雪の中を家に帰った
団欒室に入るとメイドちゃん以外の皆が居た
「ふう、20位返上して来たよ」
「そっか、お疲れさまタカネ」
「雪が凄いですね、ピエトロの本格的な冬が来ました」
「そうか、ハンター業もしばらくはお休みかな」
冬は依頼がグッと減る
モンスターも冬眠し、活動が鈍くなる
「・・・メオラのダンジョン、行けないかな」
「ああ、行くなら今がチャンスなんだろうけど」
しかし今はジルも匿ってるし、魔法水晶を作ってしまったから身の回りに危険が及ぶかもしれない
だからメイドちゃん達を置いていけない
しかも、今日大陸20傑を返上しちゃったからペガサスの馬車も呼べなくなった
「クリスティに呼んで貰ってさ、全員で行く事は出来ないかな?」
「馬車は4人乗りだぞ?9人居るから3台必要になる」
「複数は呼べないのかな?」
クリスティに聞いてみた
呼べるらしい
「しかし、今ジルを外に出すの危険だ」
「どこか行くら?メアリーはビックフットに会いたいから長期の旅行はムリら」
「ジルやメアリーだけ置いて行く訳にも行かないよ」
「うーん」
悩むカオリ
俺だって行きたい気持ちはあるが難しいよ
せめてもうちょっと安心できる状態にならなければここを動けない
「むむむ、せめてカオリだけでも」
「お前インキュバスにすぐやられるじゃん」
「そ、そうだった」
インキュバスは幻術を使うから近づけさせちゃ駄目だ
遠距離で魔法か弓で処理してしまわないといけない
近距離攻撃のカオリでは相性が悪い
「馬車を呼ぶためにはクリスティが必要で夢魔をやっつける為にはタカネかサテンが必要・・・」
「その前にはコカトリスも居るんだぞ」
「・・・厳しいね」
厳しいよ
カオリ一人じゃ絶対に行かせない
「ホメロスですか、イシュタルから遠いので私は行ってみたいです」
「ジル本気で言ってるのか?自分の置かれている状況解ってるんだろうな?」
「はい、私もいつまでもお世話になり続ける訳にも行かないですし、新天地を探す為、世界を知る為の絶好の機会かも知れません」
「ううむ」
「冬ですしフードを深くかぶって行動すれば問題ないですよ」
うーん、そう言われるとそうなんだけどさ
確かにいつまでも外に出ず隠れ続ける訳にも行かないだろう
じゃあカオリとジルは行きたい派って事で
「ジルはダンジョンは潜る気あるのか?どんな魔法が使えるんだ?」
ジルの魔法リスト
火の魔法 とても大きな火の玉を飛ばせる
水の魔法 普通の威力の放水を出せる
風の魔法 なかなかの威力のカマイタチを出せる
土の魔法 なかなかの大きさの壁を出せる
光の魔法 なかなかの威力のイナズマを出せる
更に回復魔法も使えるらしい
「ふうむ、戦力としては十分だが」
「ハンターの資格は持ってませんが」
「依頼じゃないからいらないよ」
「そうですか、お金になるなら潜りたいです」
経験が不十分かと思ったが流浪の生活の中でミノタウロスやトロールまで倒した事があるらしい
強かったんだな、ジル
「サテンも行きたいですよ」
「そうか・・・」
「タカネが行かないなら行きませんけど」
サテンのマッピングだって必要不可欠だ
代わりにやる者がいるなら良いんだけど
「クリスティはどうだ?」
「タカネ様が行くのなら地の果てまでも」
「うーん、お前もか」
カオリとジルは行きたい派
サテンとクリスティは俺次第派
メアリーは居残りたい派
俺はと言えば状況によってだな
うーん、どうやってまとめよう
「カオリとジルは確定でしょ?メアリーは居残り確定と」
「うーんメアリーも心配だしカオリも心配だ」
「メアリーが残るなら誰かを残したいと」
そうだな、メイドちゃんも心配だし俺かクリスティ、どちらか1人は残したいところだ
「私とタカネ様は離れ離れになる運命ですか」ズーン
「いや、戦力を分けるならどうしたって・・・」
俺の次に強いのがクリスティだもの
いや、ひょっとしたらジルか?
ああ、ややこしくなってきた
「クリスティは眠りの笛も持ってる・・・うーん」
「だったらクリスティはダンジョン行った方が有効なのかな」
「・・・いっそ、タカネ抜きで私、カオリ、クリスティさん、ジルさんで行ったらどうなるのでしょう」
「ええ?」
サテンが驚きの提案をして来た
「サテンはタカネと一緒じゃ無きゃ嫌なんじゃないの?」
「さっきはそう言いましたが、タカネにばかり頼っているからタカネのしがらみが多くなるような気がして」
ああそうか、サテンは俺の肩の荷を軽くしようとしているのか
20傑を返上した俺を見たから
「今の私達には指輪もあります、眠りの笛がどこまで有効な物か知りませんが、かなり強いパーティだと思いますが」
「指輪使うのか?サテンが居る場合夢魔にやられる心配は無くなるけどコカトリスは心配だ」
「コカトリスはかなり数を減らしました、あれから3カ月くらい経っているので今はどうなっているのか解りませんが、それに眠りの笛も効くかもしれません」
うーん、それは不確定要素だ
「指輪で察知能力も手に入れました、正直前回ほどの怖さを感じません」
「そうだね、タカネにばかり頼っているとカオリも強くなれない気がする」
「な、なあ、話が進んじゃってるけど俺は心配だよ、何かあったらと思うと・・・」
「タカネは背負い過ぎです、私達もタカネ無しで成長していかないと」
「う、うーん」
確かにそうなんだけどさ
ハンター業で違うパーティに行かせてるのも同じ理由だけどさ
しかし遠い国の俺が居ない場所で皆が強敵と戦ってる姿を想像してしまうと、胸が締め付けられる気分になる
「えーっとクリスティはタカネ様が行かないなら行きたくないんですが」
「クリスティもタカネに負担かけ過ぎだよ、昨日もあんな事させて」
「え・・・す、すみません」
昨日の出来事は確かにキツかった
出来ればもう2度とやりたくない
「タカネは心配しないでピエトロでゆっくりしててよ」
「そうは言ってもなぁ・・・」
「カオリ達が大金持ちになるのを指を咥えて待っててよ」
「う、うーん」
説得するのは無理だろうか
なにより成長したいと言ってる人間の足を引っ張るのは本意では無い
・・・仕方ないのかな
「・・・・・・わ、解った、絶対に無理はしないと約束してくれるなら」
「うん、無理はしないよ」
「手紙は毎日ほしい、伝書隼で送ってくれ」
「解りました、私が毎日書きます」
「リーダーはパーティ戦を一番慣れてるサテンがやって欲しい、慎重だしカオリは暴走しないで言う事を聞く事」
「失礼ねー」
「指輪を使うなら体力の残りにも気を付けてくれよ?ダンジョンの奥底で体力切れとか・・・」
「解ってるよ、タカネは心配性なんだから」
「クリスティ、ジルに0.5カラットの指輪を貸してやってくれ、察知能力があれば・・・」
「あ、私が持ってる能力をまだ言ってませんでしたね」
ジルの能力か
そうだな、ルビーのスイッチなんだから能力を持ってるのか
「私は相手の動きを鈍くすることが出来ます、重力を変えると言えばいいでしょうか」
「なんだって?すごい能力じゃないか」
「あと見てください」
なにするんだ?
・・・ジルの体が浮いた
「少しですが浮くことが出来ます」
「・・・すごいけどそれは役に立つのか?」
「水の上を渡れます」
「ま、マジか!それはすごい!」
自分の体を50cmほど浮かしてゆっくり歩くことは出来るらしい
スイスイ飛び回るような事は出来ない
「すごいね!ちょっとカオリの動きを鈍くして見てよ」
「お、おい、カオリ」
「大丈夫ですよ、ではほいっと」
「う、うわあ、体が重い」
カオリが手をついてしまう
足だけでは自分の体を支えきれ無いようだ
ジルが合図するとカオリが重力から解放される
なんともないか?
「これはトレーニングにもなるかも」
「すげえな、俺にもかけて見てくれる?」
「やめてください、胸が垂れたらどうするんですか?」
「サテン、なんでカオリの時は止めなかったの?」
「ちょっとくらいなら大丈夫だよ、俺は丈夫な体だし」
ジルが俺に重力を追加する
おお、感じるわ
体がすごく重くなった
「腕の振りも鈍ってるな」
「・・・そうなのですか?いつもと変わらないような」
「タカネさんにはあまり効果がないんですね」
「ちょっと外に出て来る」
おわ、廊下を歩くだけでも自分の体が重くなってるのが解る
床が軋み、音を立てる
床が抜けないよう気を付けなきゃ
外に出て跳んでみる
うん、いつもより全然跳べない
走ってみる
かなり遅く感じる、能力を封じられてる実感が持てる
あ、体が軽くなった
ジルから離れ過ぎたからだろうか
「ただいま、すごいなジルの能力」
「全然苦にしてないように見えたけど」
「少しショックです、タカネさんには全然敵わないんですね、私の能力」
そんな事は無いと思うけど
でももしジルと戦う事になったとしても負ける気はしない
「これなら安心して4人を送り出せる・・・かな」
「カオリはちょっと過剰戦力な気がしてきたよ」
その辺はうまく調節すればいい
能力を使わなくてもいいし指輪だって・・・
そうなるとまた心配だが
「解った、メアリーと留守は守るよ、4人で頑張っておいで」
「タカネ、サテンは強くなって戻ってきますからね」
「ああ、でも絶対無理はしない事」
「解ってます」
サテンにギュっと抱きしめられる
「タカネ様と離れるのは辛いですがこれも焦らしプレイでしょうか」
「全然違うぞクリスティ」
「帰って来た暁には素足を舐めさせてください」
「・・・・・・」
うんとは絶対言わないからな
こうしてサテン達は俺抜きでホメロス王国メオラのダンジョンに行く事になった