067 放棄
「一人で行って来るら」
「うーん、大丈夫かな」
ビックフットとのいざこざがあってから数日
今日はみんな休み
メアリーがビックフットに会って来ると言い出した
あれから内政官バルディさんに説明し、最後の生き残りなんだからそっとしておけと説得した
「大丈夫ら、ビックフットも1人なんだからメアリーも1人ら」
「じゃあせめてムスタングを連れて行くか?」
「そうらな、友達だし紹介するら」
メアリーとムスタングは出掛けて行った
不安だ
いきなりビックフットをそこまで信用して良いものか
「大丈夫ですよ、ビックフットの目はとても穏やかになっていました」
「だがどうだろうか、メアリーの後を誰かがつけて他の人間連れて来やがったな、裏切ったなみたいな事にならないだろうか」
「タカネ、心配し過ぎでしょ」
うーむ、心配だ
自分で解決できない事は心配で仕方ない
「タカネはもっと自分の心配をしてください、いつも無茶な事して」
「そうだよ、こっちだって心配なんだからね」
「ああ、こないだは迎えに来てくれてありがとう」
「・・・結果、タカネに無理をさせてしまいました」
「いや、メアリーが来た事によって状況が変わったから良かったよ」
打つ手が無かった
相手は死のうとしてたからな
メアリーが来るまでそれに気付けなかった
「タカネ様!私は何もお役に立つことが出来ず何とぞ罰を!」
「そうかクリスティ、じゃあ俺の椅子になれ」
「きゅうううううん!どうぞお座りください」
四つん這いのクリスティの上に座る
やれやれ、相変わらずだ
これもトレーニングになるしいいか
「・・・カオリもよくタカネに乗って貰ってるけど、客観的に見るとこう見えるのかな」
「全然違うだろ、お前のは腕立てだし」
「だ、だよね、カオリは変態じゃないよね?」
「いや、変態ではあると思うけど」
何を今更
疑いようのない事実を確認してどうするのか
「お茶をお持ちしましたの」
エリーゼが紅茶を持って来てくれた
クリスティの分は床に置く
状況を受け入れすぎだろ、クリスティの上に乗ってる俺に対して何かを言って欲しかった
「あつっ!」
「クリスティ、犬のように紅茶を飲むのはどうだろうか」
「降りないでください!タカネ様を水平に保ったまま、首と舌を伸ばして飲んで見せます!」
「なんの訓練だよ」
ふうやれやれ
あ、ソファに手をつくつもりでクリスティの尻に手をついてしまった
お尻の割れ目に指が入ってしまいクリスティがビクッとしたな
・・・気まずい
「た、タカネ様?い、今のは・・・」
聞くなよ
「うるせえ!文句あんのか」バシーン
「ひいいいいいん!」
お尻を強く叩いて誤魔化した
「ジルは?」
「自室で本を読んでましたよ、今は錬金術の本だとか」
「錬金術って金を作るやつだっけ」
それが出来れば大金持ちじゃん
「古文書みたいなものです、実際に作られた事はありません」
「そうなのか」
「タカネなら作れるんじゃないの?」
「解らんけどこれ以上トラブル増やしたくない」
「そうだね、そんなの出来たら大変な事になるもんね」
金は十分あるしもういいだろう
今は山奥で隠居したい気分だ
「ふう、暖かい家に籠りっぱなしってのも良くないかな、少し外に出て来るか」
クリスティがついて来た
「クリスティ、0.5カラットの指輪に慣れたなら1カラットの指輪買ってやるよ」
「良いんですか?!」
「ああ、大きな宝石の方がどうも成長効率が良いみたいだからな」
3カラットの指輪をあげたカオリの成長が目覚ましい
能力も上がるけど負荷と考えても良いのかな
宝石店に行って1カラットのダイヤを選びすぐに土台を付けて貰った
外に出てすぐに魔力を注入
「ほれ出来上がりだ」
「付けてみても良いですか?」
「ああ」
クリスティが指輪を付けてジャンプしてみた
おお、15mくらい飛んだんじゃないか?
はた目から見ると人間とは思えないな
「ぐぅ!着地の衝撃がズシリと来ますね」
「この辺は石畳だしな」
「能力のアップは実感出来ました、慣れるまで時間がかかると思いますが」
「もし慣れたら次は2カラットで作ってやるよ」
「あ、ありがとうございます!」
察知能力も10mで働くようだ
0.5カラットが5m
1カラットが10m
3カラットが20mだったから、2カラットは15mくらいなのかな
その後ハンター組合で調べて貰ったらカ2倍、素早さ2倍、魔力4倍だと言われた
1カラットのダイヤで凄い効果らしい
サークレットはカ2倍、素早さ2倍、魔力2倍だけどもっと大きな宝石付いてたもんな
「今までつけてた0.5カラットはどうすんの?」
「タカネ様から貰ったものですから大事にとっておきたいんですが」
「使わないと勿体ない気もするけど」
上位互換が手に入ったんだからもう要らんような気もするが
まあいいか
「お、街燈建ててるな」
俺が作った魔法水晶でエネルギーを作り出し光らせるシステム
軍事利用せず日常生活に役立てられるみたい
良かった良かった
「タカネ様、貰ってばかりでは申し訳ないので私からも何かプレゼントしたいのですが」
「うーん、特にほしい物も無いけど」
「明日、ペガサスの馬車を呼び隣の国まで買い物に行ってきます」
「何を買うつもりなの?」
「秘密です」
クリスティも大陸20傑だからペガサスの馬車を呼べる
隣の国なら日帰りで行けるらしい
なんだろ?何をくれるつもりなんだろ
ハンター組合に寄り、クリスティがペガサスの馬車を依頼する
隼便でユーメリアに連絡して貰い、明日ペガサスが飛んでくる
「便利だよな、俺にはムスタングが居るから呼ぶ機会あるかなぁ」
ムスタングが嫉妬するからな
もうすぐ乗れるようになるし
さて家に帰るか
「ああ、メアリー大丈夫かなぁ」
「また心配して、それよりカオリの訓練に付き合ってよ」
「はいはい」
カオリの背中に乗っかり片手腕立て
肩車で腹筋、片足スクワット
それぞれ200回くらいこなす
「すごいな、また強くなったんじゃないの?」
「うん、もう重りがタカネだけじゃ物足りないかも」
俺の体じゃ物足りないだと?
俺の体重は50kgくらいだ
次は手に50kgの重りを持って重しになってあげようかな
「なあカオリ、俺はもう目立ちたくないから大陸20傑を返上しようかと思ってるんだよ」
「ええ!勿体ないよ!」
「勿体ないけどさ、静かに暮らす為には邪魔な肩書きになってきた」
大陸1位になりたかったけど・・・
今の現状を考えれば1位になっても良い事無いと思う
「大会にはもう出ない、そもそもダイヤのスイッチが出るのは反則だと思う」
「・・・それを言うならエメラルドだって」
「エメラルドはたくさんいるじゃん、ルビーのミヤビさんも制限かけてたしさ、俺と同じような考えなんだと思うよ」
「・・・そっか」
もう決めた
未練はあるけど諦める他無いと思う
俺がなにかを求めようとすれば必ず弊害が起こる
最近はそう考えるようになった
「タカネをケチョンケチョンにして大陸1位になるのが夢だったのに」
「あははw手あわせならいつでも付き合うよ」
ふう、また諦めなければならないのか
ホメロスの河川工事は終わったかな
メオラのダンジョンは攻略が進んでいるだろうか
大陸大会はその後20位を決める大会には出る事が出来たけど・・・
今はその地位を捨てようとしている
「ふう」
「タカネ、ため息をつくと幸せが逃げていきますよ」
「サテン、ちょっと抱きついても良いか?」
「ええ!い、良いですけど」
サテンをギュっと抱きしめる
大きな胸同士なので抱きつきにくいな
お互い仰け反るような形になってしまう
後ろから抱きしめるか
サテンの背中に回り、手で腰を抱く
相変わらず折れそうな細い腰だ
「タカネ、どうしたのですか?」
「ちょっとやりきれなくなってな」
「元気を出して・・・あっ!」
サテンの耳に息を吹きかけてみた
身悶えるサテン
可愛い
耳たぶを甘噛みしてみる
「ぅああ!た、タカネ!」
「なに?」ハムハム
「・・・・・・べ、ベットで」
「・・・・・・」
思わせぶりな態度を取ってしまったが、そこまでする気はない
切なそうな顔をするサテンを宥め、その場をやり過ごした
「タカネ様、良かったらシオンの事も抱きしめてください」
「はいはい」ギュ
「ああん!」
察知能力で気づいてたぞ
危険に反応するのに何故反応したのだろうか
腰砕けのシオンをその場に放っておいた
「タカネ様は罪な女なの」
「見てたのかエリーゼ」
エリーゼには気付かなかったな
危険は無いと言う事だ
「女を惑わす魔性の女なの」
「あはは、エリーゼも気を付けるんだぞ」
「エリーゼもお金を積まれると断れない気がするの、覚えて置いて欲しいの」
エリーゼも相変わらずだな
金の為なら我が身を差し出す事も辞さないのか
いや、冗談で言ってるのは解ってるけど
夕方
「ただいまらー」
「メアリー、大丈夫だったか?」
「うん、ビックフットとムスタングも仲良くなったら、みんなでお話ししながら鍛錬したら」
鍛錬か
もっと楽しい事したらいいのに
「そのうちビックフットを肩車して飛び回るら」
「あいつ350kgくらいあるらしいぞ」
まずは俺から始めて見たらいい
メアリーが後ろから俺の股ぐらに頭を突っ込む
「う・・・ぐぐ、持ち上がらないら」
「俺が重いみたいじゃないか」
「ぎ!こ、腰がパキって言ったら」
「お、おいおい、大丈夫か?」
ゆっくり強くなっていけば良いんだからな
あんまり無理するなよ
夜 寝室
俺は夢の中に居た
『20傑を返上するつもりなのかい?』
「・・・誰だ?」
『君は変わってるね、欲望のままに動くのが人間なのに』
「・・・ユンフェスか?」
自分の意識がはっきりしない
上も下も解らない
眼を開けているのかどうかも解らない
そんなおかしな感覚
俺の頭に呼びかけるのはこの世界の唯一神ユンフィスだろうか
もう声も忘れてしまっているが、感覚が似ている気がする
『君は何をしたいんだい?』
「それはこっちのセリフだよ、こんな大それた力を個人に与えてどうしたいんだ?」
『せっかく力を授けてあげたのに』
「持て余してるよ、一個人には大きすぎる力だ」
『贅沢な事を言うんだね、でもそれもまた人間か』
「なあ、人間に力を与えて転移させてどうしたいんだ?」
『妖精から説明を受けたはずだよ、この世界は成長が遅いから活性化させたいんだ』
「だったら知識だけで良かったんじゃないの?力を与える意味が良く解らない」
『それも説明したはず、厳しい世界だからすぐ死んでしまわないよう力を与えたんだ』
限度ってもんがあると思うが
その辺のさじ加減は上に立つ者には解らない物なのかもしれない
『せっかくやり直す機会を与えたんだから、力は有効に使って欲しいな』
「使った結果、不幸になった気がする」
『それは使い方が悪いからじゃないかな?』
「それはそうかもしれないけど・・・」
否定できないな
でも正解なんて解らないよ
その状況によっても正解なんて変わってくるんだ
答えの無い問題だってあるんだ・・・
「それでも力を持っていれば頼られてしまう、第三者によって自分の思いとは違う結果を求められる事もあるんだ」
『しがらみってやつだね』
「全てを円満に解決する事なんて無理だ、色んな思いがあるすべての人を納得させるなんて無理なんだ」
『だから肩書を捨てると?』
「・・・そうなるのかな」
『困ってる人が自分の元へ来ないようにしたいんだね』
「うーん、まあそうなのかな」
『困ってる人は困ったままになってしまうね』
「・・・・・・」
『自分以外の誰かが助けてあげるのを期待する?』
「・・・そうなるのかな」
『目の前に困ってる人が居ても?』
「それは助けちゃうかな」
『矛盾してるね』
「尺度の違いだよ、神様と俺とじゃ手の届く範囲が違うんだ、すべてを救うのは無理だと解ってる」
『ボクが直接何かを救う事は無いよ』
「どうして欲しいの?自分はやらない事を俺に求めてるの?」
『そんな事はないさ、どう転んでも自然の摂理だ』
自然の摂理なら放っておけばいいじゃないか
堂々巡りだな
「なあなんで俺の体を女にしたの?」
・・・・・・
「あれ?居ないの?」
・・・・・・
なんだよ、肝心な事聞けなかった
ああ、意識が遠のいていく
なにも考えられなくなっていく・・・
夢が終わる
俺は眠りについたまま
朝まで起きる事は無かった