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全部神様が悪い  作者: 無二エル
ピエトロ王国編
66/134

066 溶氷

道にはまだ雪が残っているが、俺達はヤーインに向かう

見つけた、これが足跡か

50cmくらいあるんじゃないだろうか・・・

人間の足をそのまま大きくした足跡だ

これをたどって行けばビックフットに出会うと思うのだが・・・


少し進んで壁にぶちあたった

俺が建てた雪崩避けの壁だ


「足跡が途切れてるな、壁の向こう側に行ったのかな?」

「20mくらいジャンプできるのでそうだと思います」


壁は10mほどだ

ビックフットなら苦も無く飛び越せるのか


「クリスティ、飛べるか?」

「無理です、斜面で雪面ですし・・・」

「平地だと10m飛べるのか?」

「はい、指輪の効果もあるのでいけると思います」

「そうか、じゃあいったん消すか」


俺は飛び越せるが、仕方ない

つか飛び越す場面を今は見せたくない気分だ

人間離れした行動を散々見せた

今更なかったことには出来ないが、不用意だったと思ってしまう


壁を横幅1m程だけ消す

帰りに戻しておけばいいや

壁を抜けると足跡が続いていた

やはり飛び越えたのか


山の斜面を上がって行く

冬だから木もやせ細っていて邪魔にはならないが、夏だと険しい山かも知れない


「クリスティ大丈夫か?こんな場所で襲われたら戦えるか?」

「・・・解りません、とにかくガードしてみます」


そうだな、戦うのが目的では無かった

山に追い返すのが目的だ

攻撃は極力避けよう


1時間ほど登り続けただろうか


「もう自分の住処に帰っちゃったのかな」

「そうかもしれませんね、だとしたら放っておいてよいのでは?」

「・・・そうだな、住処まで行こうもんなら追い詰める事になっちゃうしな」


・・・引き返そう

願わくば、もう里に下りてこないで欲しい

帰ろうと思い振り向いたその時


「右からなんか来る!クリスティ!気を付けろ!」


いきなり察知能力が働いた

早い!何かがこっちに一直線にむかって来る

黒い大きな塊

怒りに満ちた顔のビックフットだった

やばい、体勢が悪い

斜面で踏ん張りがきかないこの場所でどうしようか


すぐに5m手前まで来た

慌てて土の壁を出す

凄い勢いでビックフットがぶつか・・・らなかった

壁にぶつかった様子が無い

代わりに2回ほど柔らかい衝撃が来た

おそらく壁に突っ込む勢いをジャンプして壁に上りながら回避したのだろう


・・・気配が止まってるな

壁の横から様子を見て見る

15mほど先にビックフットが居た

こちらを睨み警戒している


「カベ・・・オマエガダシタノカ?」


ビックフットがしゃべった


「・・・見てただろ、俺が出した」

「コレジャナイ、フモトノ壁」


ああ、雪崩避けの壁か


「あれも俺が出した」

「ナゼ壁ヲツクッタ、山ノ生物トジコメルキカ」

「・・・ああ、雪崩対策だよ」

「ジャマ、コマッテル動物イル、ユルサナイ」


・・・そうか、人間の都合で建てた壁なんて他の生き物にとっては迷惑なだけか

しかしすこし遠回りすれば通れない事も無いはずだが


「まあ聞いてくれ、俺達は危害を加えに来たのではない、山の奥で大人しくしててほしいんだが」

「ウソツキ、人間ニ攻撃サレタ、ビックフット数ガヘッタ」

「360年前の話だな、何があったんだ?俺は他の国から来たから知らないんだが」

「ハナスコトナイ、人間ゼッタイニユルサナイ」


そう簡単に納得してくれるとは思ってなかったが

さてどうするか


「コロス、ゼッタイニユルサナイ」

「待ってくれ、もうちょっと話し合おう」

「ムダ、ダマサレナイ」

「・・・・・・」


空に向かって大きな火の玉を撃つ

直径20mくらいのが出たな

空の彼方へ消えていく

警戒を強めるビックフット


「こっちは攻撃しようと思えばいつでも出来るんだ、攻撃しないことが敵対心が無いと言う証拠にならないだろうか?」

「・・・・・・」

「人間を許せない気持ちは解るが、ここはお互いの為に矛を収めて欲しい」

「・・・ムリダ、ゼッタイニユルサナイ」


困ったな

まったく取り合って貰えない

種族を殺されたのだから無理も無い話だが


「壁には少し隙間を作るよ、それでどうだろうか?」

「オマエコロス、壁キエル」

「え?そうなるの?」

「術者が亡くなれば魔法の効果も消えます」

「へえ、知らなかった」

「魔法石などに閉じ込めた魔力は消えませんが」


そうだったのか

この状況で新事実


「時間ノムダ、ソロソロシネ」


ビックフットが向かって来た

早い、雪の上で斜面なのに

一気に間を詰められ、パンチを撃って来る

3mの身長からのパンチ

上から下に振り下ろすように

重そうなパンチだ

それを左手で受け止める


「グ!」

「やめときなって、俺は普通の人間とは違う」

「ダマレ!」


今度は逆の手でパンチを撃ってきた

エストックを捨て、それを右手で受け止める

コブシが大きすぎてつかめないな

攻撃を受け止められ、苦々しい顔をするビックフット

ビックフットは後ろにジャンプをし、距離をとった


「・・・ナニモノダ」

「さっきも言ったが俺は普通とは違うんだ、戦うのをやめてくれ」

「・・・ムリダ、デアッテシマッタイジョウムシハデキナイ」

「俺は絶対攻撃しないぞ、同じ事の繰り返しになるだけだ」

「・・・・・・」


うーむ、膠着状態になった

このまま我慢比べかな

いや、クリスティを狙って来た

クリスティに迫るビックフット

闘牛士のように落ち着いて交わすクリスティ

指輪の効果もあってか、何とか避けることが出来た


「まだやるのか?」

「ユルサナイ、ゼッタイニ」

「困ったな」


これは長丁場になりそうだ


にらみ合いが続いたまま日が暮れて来る

このまま、夜が来るとこっちが不利かも


「明かりを出させてもらうぞ」

「・・・・・・」


何も答えないが魔法の光を出す

ビックフットが夜目が効くのか分からないが俺達は効かない

クリスティがブルッと震えた

少し寒くなってきたもんな

これからどんどん寒くなって行く時間だ

体が冷えると動きが鈍る

ビックフットは毛皮に包まれているから平気だろう

クリスティに魔法で温風をあててやる


「タカネ様、私などに構わないでください」

「そうはいかん、足手まといになられても困るからな」

「きゅーん」


ビックフットは俺達が消耗するのを待っているのかもしれない

それは無駄だと解らせておかないと


夜が来る

今日は良い月夜だな

空気が澄んで月が明るい

これなら魔法の光は要らなかったかも


「ナゼダ」

「え?」

「ナゼ攻撃シテコナイ、オマエハスゴクツヨイノニ」

「最初に言ったはずだ、俺は攻撃しないよ」

「コロサレニキタノカ?」

「違う、危ないからお前がふもとに降りてこないよう説得しに来たんだ」

「ナゼ?」

「・・・なぜ、かな、たしかに味方する理由も無いのだが」


矛盾を説明できない

メアリーや自分に重ねてしまったと言うのが一番の理由だろうか

畏怖される存在への単純な同情


「サンザン迫害シテ、キマグレデタスケタイ?オカシナハナシダ」

「言う通りだ、信用出来なくて当たり前だな」

「ワカリアウノムリ、アキラメロ」

「信用しろとは言わないよ、ただお互いの為に距離を置けないだろうか?」

「・・・人間コロス、ニクシミシカナイ!」


ビックフットが足元の雪をすくいこちらに向かって放って来た

目くらましか

空中で粉々に散らばる雪の結晶

炎の魔法で蒸発させる

その隙に気配が横に動いたな

ビックフットが木を飛び回り、枝に積もってる雪が落ちる

後ろに回ったか、察知能力で解る

俺に向かって突っ込んで来る

振り向いて拳を受け止める

すぐにビックフットは後ろに飛び退ける


奇襲に失敗したビックフット

さて、次はどうする


「諦めて貰えないだろうか?」

「ムリダ!ビックフットノホコリニカケテアキラメルコトハデキナイ!人間コロス!ソレシカ頭ニナイ!」


憎しみに燃える目

厳しいな

自分が死んだとしても諦める事は無いような決意に満ちた目だ


その時山の下から明かりが近づいて来るのが分かった

誰かが登って来る

嫌な予感がする


「タカネー!どこにいるのー?」

「タカネー返事をしてください!」

「タカネ大丈夫らー?どこにいるらー?」


サテン、カオリ、メアリーだ

夜になって心配して来てしまったのか


ビックフットがサテン達に向かって走り出した

俺も慌てて走り出す

早い、追いつけるのか?

下り坂でスピードは乗るが雪の斜面で木の障害物が多い


すぐにサテン達が見えてくる

サテンは高速で迫りくるビックフットにびっくりする

光の魔法を使っているので土の壁は出せないかもしれない

カオリが前に出て構えるのが見えた

今日は盾を持っていない

突進する350kgの巨体をどうやって防ぐのか

メアリーが更にその前に出るのが見えた

両手を広げて2人をガードする

怖いのだろう、眼をつむってしまう


俺は更に加速する

枝が頬に当たるが構ってられない

追いつけるかどうかは微妙だ

それでも走らなければならない


ビックフットの拳が振り上げられる

スピードと体重が乗った重い一撃だ

あんなもの食らったらメアリーはひとたまりもないだろう


俺は更に加速して跳ぶ

ビックフットの背中をめがけて

両手でビックフットの振り上げた拳を羽交い絞めにする

突然の事にビックフットが体勢を崩しかける

いや、体勢を維持しようとして逆につんのめってしまった

足がもつれ転んでしまうビックフット

俺の体も斜面に投げ出される

下り坂を突っ込んで来た勢いもあいまって斜面を転がり続ける俺とビックフット

体の大きなビックフットが木をなぎ倒しながら落ちていく

俺の軽い体は何度かバウンドするが、雪に沈み込む事でブレーキになり、すぐに止まる事が出来た

木をなぎ倒しながら更に落ちていくビックフット

木にあたる衝撃で転がるスピードは落ちて来た

一際大きな木にぶつかりビックフットの体が仰向けの状態で止まった

一度顔を上げるがすぐに力なくうな垂れるビックフット

大丈夫か?


近付いてヒーリングをかけてやる

毛むくじゃらでどこが怪我してるのかも解りにくい

というか生きてるのか?

脈は・・・解らない

手首まで毛むくじゃらだ

心臓に耳を当てて確認する

・・・・・・体毛で心音が遠いが生きている

体の隅々に更にヒーリングをかける


不意にヒーリングの手を掴まれる

ビックフットの手が伸びて来た

・・・敵意は無い


「ナゼダ」

「・・・攻撃はしないって言っただろ、山奥で静かに生きて欲しい」

「チガウ、ナゼ回復スル」

「え?酷い怪我だぞ」

「・・・コロシテクレ」

「な!・・・なんでそんな事」

「モウ一人ナンダ、コロシテクレ」

「!!」


・・・最後の生き残りなのか


「サミシインダ、一人ハイヤダ」

「そ、そんな事・・・出来ない」

「ナゼダ!散々コロシタノニ、ナゼ今更タスケル!」

「・・・・・・」


言葉に詰まってしまう


「モウ、子孫モノコセナイ、ナニモナインダ」

「・・・・・・」

「イキテイル意味ガナイ」


ビックフットの瞳から大粒の涙が落ちる


「去年、母ガシンデシマッタ、一人ナンダ」

「・・・・・・」

「一人ハ嫌ダ、心ガアタタマラナイ」

「め・・・メアリーが一緒に住んであげるら」


メアリーが後ろに来ていた

涙目で震えながら、怯えながら

怖いであろうに当然そんな事を言い出した


「何を言い出すんだメアリー」

「一人は寂しいら、可哀そうら、見過ごせないら」

「・・・同情サレタクナイ、コロシテクレ」

「メアリーも500年水晶の中に閉じ込められてたら、ずっと一人だったら」

「・・・・・・」

「雪崩で村が無くなって一人になったら、寂しかったら」

「・・・ムワードノ村ノ人間か」


ムワード

500年前雪崩で無くなった村の名前だ

メアリーの生まれ故郷


「ムワードを知ってるのか」

「親カラキイタダケダ、俺ハマダ35歳ダ」

「・・・ビックフットはどれくらい生きれるんだ?」

「50年」


なんとか生きながらえ種族を残して来たのか

しかしそれも限界に来た


「ムワードノ人間ハイイヤツラダッタト」

「それが雪崩で無くなってしまったと」

「・・・ソノコロカラ人間トノ関係ガ徐々ニオカシクナッテイッタ」


緩衝材になっていてくれたのかな

ビックフットは見た目は怖いけど良い奴だとメアリーは言っていた

ムワードの人間はそう思っていたのだろう


「メアリーが一緒に住むら、お嫁さんになるら、子供をたくさん作るら、寂しくないら」

「・・・ドウシテ、ソコマデ」

「ビックフットは優しいら、メアリーは知ってるら」

「・・・・・・」


ビックフットの表情から険しさが消えていく


「折角のモウシデダガ遠慮サセテモラウ」

「め、メアリーじゃ嫌だったら?」

「人間トノ間ニ子供ガデキテモモウソレハビックフットデハナイ」

「そ、そうらけど」

「・・・マタ、不幸ナ種族ヲウンデシマウダケダ」


・・・その通りかも知れない

人間とは違うというだけで迫害される

畏怖される存在


「じゃあ友達のなってほしいら、時々会いに来るら」

「オマエニハ仲間ガイルジャナイカ」

「いつかタカネより強くなりたいら、友達なんだからメアリーの特訓のお手伝いをするら」

「・・・ハハハハハッ」


ビックフットが笑った

だがすぐに涙を流した


「ヒサシブリニワラッタ、コノキモチガナツカシイ」

「それも人間が奪ってしまった物なんだな」

「アア、俺達ハナニモカモウシナッタ」

「・・・人間を許せないかもしれないが、メアリーの事は信じてあげてくれないだろうか?」

「・・・・・・・・・・・・スグニハ信用デキナイ、ダガノコリの時間ヲツカッテミテモイイ」


人間とビックフット

互いの溝が塞がる事は無いだろう

ビックフットの時間が限られてしまっているのだから

だが願わずば、憎しみが少しでも小さくなって欲しい

最後の時を迎える時に、誰かを憎んだままでは悲しいじゃないか

報われないじゃないか

今は只、そう願わずにはいられなかった

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